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3章
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「短期間の仕事があるかは分かりませんが、妃殿下の話し相手であれば伯爵夫人のような身分の女性は重宝されます」
ユリシーズは、子爵家で隠されて育った私に伯爵夫人という位をくれた。
それはどうやら妃殿下の話し相手を務められる身分らしい。
「住み込みでしょう? あなたは耳と尻尾をどうするのよ」
「黒魔術を使うか、あるいは……」
ユリシーズはにこりと笑う。
「軍服に隠します」
「無理よ。不自然に膨らむわ。それに寝る時はどうするつもり?」
「夫婦の寝室を用意してもらえばいいのでは?」
「客人じゃないのだから……」
「皇室の上級使用人は家すら与えられることも珍しくないのですよ?」
私は上級貴族や皇室の事情には詳しくない。
ユリシーズは伯爵様なので、皇室で働くとしてもその辺の使用人のような待遇にはならないということ?
「そんな簡単に採用されるかしら?」
「私たち夫婦は公爵家出身のクリスティーナ様と、戦争で名を上げた死神伯です。皇室も門前払いはできないはず。なんとかならなければ、また別の作戦を考えればいいだけです」
妃殿下に会いたいと言ったのは私だけれど、そんな風に近くに行けるとは全く思っていなかった。
ユリシーズって、ディエスもノクスも作戦が大胆ね。
「あなたはどんな仕事を?」
「護衛でしたら、実績で採用されるでしょうね。要人警護がいいかもしれません」
「それって危険なんじゃ……」
「公爵家から手を出される心配がなくなるのですから、かえって安全ですよ」
「皇族の周りにも公爵家の息がかかった人がいるはずだもの」
要人警護中に危険な目に遭ったりするかもしれない。それに、このお屋敷なら人狼がいっぱいいるから安全ということもあるし。
「いや、考えてみると昼間にアイリーンといちゃつくのが難しくなりますね。美味しい思いをするのがノクスだけになるので止めましょう」
「……そこが引っかかるのね」
「スポットで入れる仕事を探すしかないですね」
相変わらず私情が過ぎるわ。
理由が私と昼間にいちゃつけないからって……まあ……そういうところ好きだし嬉しいけれど……。
「鷹匠にはなれませんが、猟犬の育成なら犬語が分かるんですが」
「猟犬!? 私も猟犬と戯れたい」
「……だめです。浮気は許しません」
「犬が相手でも浮気になるの?」
ディエス、私が犬扱いしているのを完全に受け入れているじゃないの。
でも、犬が相手でも浮気っていうのはいただけないわね。こっちを見て触って欲しそうな眼をしてくる犬を見たら、どうしたって自分を止められないのに。
私がしているのは浮気じゃなくてコミュニケーションだと思うのだけれど。
「アイリーンが夢中になる犬のポジションは、全て私がいただきます」
「……もう」
かわいい。
ああもう。それどころじゃないのだけれど。かわいいから許しちゃう。
私の犬ポジションを独占すると宣言したディエス。そういうなら……と顎を撫でてみる。
ソファでくっついて座っていたから、上に向かって撫でる形になった。
「あの、くすぐったいのですが」
「やあねえ、あなたは私の犬なのでしょう?」
「……良いですね。ぐっときました」
私の手に顎を乗せたディエスがうっとりし始めた。世の中の夫婦ってこういう感じなのかしら。なんかちょっと違う気が……。
「で、よ。妃殿下のところにはスポットの仕事を探すとして。公爵家の方はどうするの?」
ディエスは私の手の上に顎を乗せたまま「そうですねえ」と朗らかに微笑む。
手乗り人狼……いえ、乗っているのは顎ね。それなりに重いけれど。
「公爵家の弟さんが来たら、人質として家に滞在させましょうか?」
「人質?!」
「次期公爵のお兄さんを滞在させるのはちょっと嫌ですし、オルガさんは人質にならなそうですが、弟さんなら人質の価値があるのではないでしょうか?」
「ええー……」
公爵家の王子様を家に滞在させるのも、それを人質とするのもなんだか気が進まない。
報復されそうで怖いし、公爵様を怒らせるのもまずい気がする。
「勿論、普通に人質に取ってしまったら大変まずいことになりますが、弟さんが自らここに滞在したら話は変わってまいりますよね」
「まあ、そうね」
「ですから、この屋敷に留まりたくなるようにおもてなしするのはいかがでしょう?」
「……人狼たちで? バレるかもしれないのに?」
あの弟は、頭が良さそうな子だった。
多分年齢は14~15歳で、子どもとも大人ともいえない難しい年ごろだから、そんなに簡単に懐いてくれるとは思えない。
「そんなにうまくいくとは思えないわ。その『弟』だけど、公爵様よりも難しそうだもの」
「どんな風に難しそうだったのですか?」
「好奇心は無さそうだったし、醒めた感じの子ね」
私に対しても無関心だったし、話も全然弾まなかった。
ちょっと生意気なところもあるから、かわいくも思えなかったし。
「なるほど。そういう『弟』なのですね」
手が疲れてきたから、ディエスの顎から手を外す。頭ががくんと落ちて、バランスを崩していたけれど、じっとこっちを見ている。
そして、私の肩に頭を乗せた。
よしよしと頭を撫でると「もっとお願いします」と言われてしまう。
犬を許容したディエスがどんどんプライドを無くしていくけれど、私のせいかしら。
わしゃわしゃと髪の毛をかき混ぜながら撫でたら見事にボサボサになってしまった。
これ、伯爵様なのに。
「はい、お手」
手のひらを広げて見せると、ボサボサ頭のディエスは素直に私の手の上に自分の手を乗せた。
「おかわり」
今度は反対の手を乗せて来る。見かねてボサボサの髪を撫でて整える。
せっかく綺麗な顔をしているのに、髪がボサボサなだけで情けなく見えるのね。
「アイリーン、お手とおかわりが出来たら、ご褒美をくれないのですか?」
「……犬のおやつ?」
「違います」
食い気味に言って不本意そうに眉間に皺を寄せた後、ディエスはおかわりで置いた手を私の手に絡ませてキスをせがむように顔を近づけてくる。
そっと触れるように唇を当てると、ディエスは私をそのままソファに押し倒して貪るように口の中を探った。
犬も、口を舐めたがるけれどこんな風にはならない。
ディエスは、こういうことを昼間にしたくて外に働きに行きたくないわけで。
……仕方ないわね。構ってあげないと不貞腐れそうだわ。
ユリシーズは、子爵家で隠されて育った私に伯爵夫人という位をくれた。
それはどうやら妃殿下の話し相手を務められる身分らしい。
「住み込みでしょう? あなたは耳と尻尾をどうするのよ」
「黒魔術を使うか、あるいは……」
ユリシーズはにこりと笑う。
「軍服に隠します」
「無理よ。不自然に膨らむわ。それに寝る時はどうするつもり?」
「夫婦の寝室を用意してもらえばいいのでは?」
「客人じゃないのだから……」
「皇室の上級使用人は家すら与えられることも珍しくないのですよ?」
私は上級貴族や皇室の事情には詳しくない。
ユリシーズは伯爵様なので、皇室で働くとしてもその辺の使用人のような待遇にはならないということ?
「そんな簡単に採用されるかしら?」
「私たち夫婦は公爵家出身のクリスティーナ様と、戦争で名を上げた死神伯です。皇室も門前払いはできないはず。なんとかならなければ、また別の作戦を考えればいいだけです」
妃殿下に会いたいと言ったのは私だけれど、そんな風に近くに行けるとは全く思っていなかった。
ユリシーズって、ディエスもノクスも作戦が大胆ね。
「あなたはどんな仕事を?」
「護衛でしたら、実績で採用されるでしょうね。要人警護がいいかもしれません」
「それって危険なんじゃ……」
「公爵家から手を出される心配がなくなるのですから、かえって安全ですよ」
「皇族の周りにも公爵家の息がかかった人がいるはずだもの」
要人警護中に危険な目に遭ったりするかもしれない。それに、このお屋敷なら人狼がいっぱいいるから安全ということもあるし。
「いや、考えてみると昼間にアイリーンといちゃつくのが難しくなりますね。美味しい思いをするのがノクスだけになるので止めましょう」
「……そこが引っかかるのね」
「スポットで入れる仕事を探すしかないですね」
相変わらず私情が過ぎるわ。
理由が私と昼間にいちゃつけないからって……まあ……そういうところ好きだし嬉しいけれど……。
「鷹匠にはなれませんが、猟犬の育成なら犬語が分かるんですが」
「猟犬!? 私も猟犬と戯れたい」
「……だめです。浮気は許しません」
「犬が相手でも浮気になるの?」
ディエス、私が犬扱いしているのを完全に受け入れているじゃないの。
でも、犬が相手でも浮気っていうのはいただけないわね。こっちを見て触って欲しそうな眼をしてくる犬を見たら、どうしたって自分を止められないのに。
私がしているのは浮気じゃなくてコミュニケーションだと思うのだけれど。
「アイリーンが夢中になる犬のポジションは、全て私がいただきます」
「……もう」
かわいい。
ああもう。それどころじゃないのだけれど。かわいいから許しちゃう。
私の犬ポジションを独占すると宣言したディエス。そういうなら……と顎を撫でてみる。
ソファでくっついて座っていたから、上に向かって撫でる形になった。
「あの、くすぐったいのですが」
「やあねえ、あなたは私の犬なのでしょう?」
「……良いですね。ぐっときました」
私の手に顎を乗せたディエスがうっとりし始めた。世の中の夫婦ってこういう感じなのかしら。なんかちょっと違う気が……。
「で、よ。妃殿下のところにはスポットの仕事を探すとして。公爵家の方はどうするの?」
ディエスは私の手の上に顎を乗せたまま「そうですねえ」と朗らかに微笑む。
手乗り人狼……いえ、乗っているのは顎ね。それなりに重いけれど。
「公爵家の弟さんが来たら、人質として家に滞在させましょうか?」
「人質?!」
「次期公爵のお兄さんを滞在させるのはちょっと嫌ですし、オルガさんは人質にならなそうですが、弟さんなら人質の価値があるのではないでしょうか?」
「ええー……」
公爵家の王子様を家に滞在させるのも、それを人質とするのもなんだか気が進まない。
報復されそうで怖いし、公爵様を怒らせるのもまずい気がする。
「勿論、普通に人質に取ってしまったら大変まずいことになりますが、弟さんが自らここに滞在したら話は変わってまいりますよね」
「まあ、そうね」
「ですから、この屋敷に留まりたくなるようにおもてなしするのはいかがでしょう?」
「……人狼たちで? バレるかもしれないのに?」
あの弟は、頭が良さそうな子だった。
多分年齢は14~15歳で、子どもとも大人ともいえない難しい年ごろだから、そんなに簡単に懐いてくれるとは思えない。
「そんなにうまくいくとは思えないわ。その『弟』だけど、公爵様よりも難しそうだもの」
「どんな風に難しそうだったのですか?」
「好奇心は無さそうだったし、醒めた感じの子ね」
私に対しても無関心だったし、話も全然弾まなかった。
ちょっと生意気なところもあるから、かわいくも思えなかったし。
「なるほど。そういう『弟』なのですね」
手が疲れてきたから、ディエスの顎から手を外す。頭ががくんと落ちて、バランスを崩していたけれど、じっとこっちを見ている。
そして、私の肩に頭を乗せた。
よしよしと頭を撫でると「もっとお願いします」と言われてしまう。
犬を許容したディエスがどんどんプライドを無くしていくけれど、私のせいかしら。
わしゃわしゃと髪の毛をかき混ぜながら撫でたら見事にボサボサになってしまった。
これ、伯爵様なのに。
「はい、お手」
手のひらを広げて見せると、ボサボサ頭のディエスは素直に私の手の上に自分の手を乗せた。
「おかわり」
今度は反対の手を乗せて来る。見かねてボサボサの髪を撫でて整える。
せっかく綺麗な顔をしているのに、髪がボサボサなだけで情けなく見えるのね。
「アイリーン、お手とおかわりが出来たら、ご褒美をくれないのですか?」
「……犬のおやつ?」
「違います」
食い気味に言って不本意そうに眉間に皺を寄せた後、ディエスはおかわりで置いた手を私の手に絡ませてキスをせがむように顔を近づけてくる。
そっと触れるように唇を当てると、ディエスは私をそのままソファに押し倒して貪るように口の中を探った。
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