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3章
魅力的ですか?
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「おはようございます」
ディエスと一緒に食堂に入ると、既にオルガさんは席に着いていた。
朝ごはんが遅くなってしまったから、何か言われるんじゃないかとドキドキしている。
ディエスはにこやかで優しい表情を浮かべているけれど、お腹の音がかなり大きくて、近くで動物が唸っているんじゃないかしらと思うくらい。
「クリスティーナ様、わたくしは支度をしたら帰りますが、何かお手伝いできることはございませんか?」
「手伝い、ですか?」
席に着くと急な提案をされて首を傾げる。
オルガさんにお願いしたいことってなにかあったかしら。
立場上、公爵家の情報をこちらに書いて寄越したりはできないだろうし……。
「それでは、『アイリーン』の近況を。オルガだからこそ聞けることがあるはずだから、それをわたくしにも教えてくださる?」
「かしこまりました。それでは、妃殿下の近況が分かりましたらお伝えします。クリスティーナ様からも妃殿下にお手紙を書かれてみては?」
「ええ、そうしてみるけれど……育ててくださった恩のある乳母からならともかく、伯爵夫人からの手紙がそのままの形で本人に届くかというのは難しいような気がして」
私は公爵家の出身で現在は伯爵夫人ということになっているけれど、皇室には身代わりが伝わっているはず。
だから、私からの手紙が元の形で伝わるのかを疑っている。
「彼女は、あなたからの手紙を喜ぶと思います」
オルガさんに言われてハッとした。
確かに、クリスティーナ妃は私を片割れだと言ってくれた。私が彼女を心配しているように、彼女も心配してくれているのかしら。
オルガさんが乗った公爵家の馬車が発車した。
私とディエスは並んで見送りをして、遠くなる馬車を一緒に見ている。
「公爵家の乳母を務めるくらいの方ですから、本来は気高くて優しい方なのでしょう」
ディエスは馬車を見たまま言った。
お兄様も公爵家にいた時よりも我が家に来た時の方が気さくな印象だったから、あの家の中というのは自分を出せない場所なのかもしれない。
「でも、クリスティーナ姫は最初からずっと優しかったわ。妃殿下になってからも、変わっていないと思う」
「私のクリスティーナ様の印象は、公爵家の操り人形といった風情でしたが」
「求婚しておいて、随分な印象ね」
呆れてため息をつきながら腕組みをすると、ディエスは素早く私の瞼にキスをした。
「政略結婚と恋愛結婚の違いです」
「私がここにいるのは政略結婚でしょ」
「いいえ」
組んだ腕をほぐされて、手を繋がれた。
そのまま屋敷に向かってディエスは歩く。
「あなたを娶ったことで有利になりたいと思ったことはありません。だからこれは恋愛結婚です」
後付けでしょ? と言いたくなったけれど、ユリシーズが本気で私を想ってくれているのは確かだ。
「分かったわよ。それでは、公爵家への対策と妃殿下と会う方法を考えましょう」
ディエスがにこりと笑う。
この人と、未来を切り拓いていきたい――。
屋敷に戻り、私はディエスと隣り合ってソファで話をしている。
相変わらず隣にべったりとくっついているディエス。距離感がおかしいけれど、まあ犬ってそういうところあるわね。
「次に私に接触してくるのは、紹介された『弟』だと思うの」
「他のきょうだいは公爵家を出ているのでしたっけ?」
「お姉さんは他国に嫁いでいらっしゃると聞いたわ。どこの王家だったか忘れたのだけれど。この間のお兄様は既婚者で後継者だから家にいるのでしょうし、他の方は家を出ているのではないかしら」
私は社交界にも顔を出していなかったから、こういうことには疎い。
ユリシーズはその気になれば上流階級のネットワークで情報を取ることができるらしいのだけれど、あまりそういうことはしたくないらしい。
最近は夫婦で別行動をしないようにしているから、誰かと会う時は私も同行することになるわけで……恐らく、他の男性の目に私を触れさせるのが嫌なのだと思う。
自分の領地で使用人や領民に「妻」を紹介するのは好きみたいだけれど、立場が同等の方たちは人妻に不適切な視線を送る方が出てくるかもしれない。そういう意味では私を守ってくれていると思うことにする。
「エイミーが公爵家になにかしらの連絡をしているはずだから、刺客があなたには通用しないのは伝わっているでしょうね」
「人狼のことは伝わっていないのでしょうか?」
「……言っても信じてもらえないと思っているのではないかしら」
公爵家に通じているエイミーは、この屋敷に人狼がいることも、ユリシーズが人狼だということも知っている。ペトラも公爵様の命令で動いていたけれど、自分の立場が悪くなるようなことを言わないだろうからペトラがわざわざ人狼のことを告げるとは思えない。
「いや、恐らく……」
「?」
「最近、エイミーさんに浮いた話があるのはご存じですか?」
「えっ? いえ、私が知るわけないでしょ」
「すいません、私の地獄耳で仕入れた情報なのですが、どうやら彼女は料理人といい仲のようで……」
料理人……って、ザッカリーの下で働いている若い男の子がいたわね。
「自分の想い人が人狼なのですから、人狼の立場が悪くなるようなことはしない……とか?」
「一応聞いておくけれど、エイミーをはめたとかではないわよね?」
「さあ? でもまあ、人狼は人間の女性にとって魅力的だと聞きます」
「そうね」
ユリシーズほど昼と夜がハッキリわかれる人はいないけれど、それでも昼と夜は雰囲気が変わる。気のせいかもしれないけれど、人狼は見た目も麗しい人が多いような気がするのよね。
料理長のザッカリーだって普段は渋いのにボールを一生懸命追いかけてしまうから、ギャップ萌えみたいなものすらある。
料理人の男の子も、かわいい感じだったけれど。
……エイミー、でも未成年はまずくないかしら。下手したら彼は5つくらい年下なんじゃないの?
「人間の女性にとって、人狼の男性は魅力的なのですか?」
「……私に聞いているの?」
「一応その辺は聞いておかなければと思いまして」
「……魅力的だと思うわよ……」
隣にべったりとくっついているディエスから迫るように聞かれて、渋々白状しているみたいになってしまった。
「あの、アイリーン……」
「だから、あなたは魅力的だって言ってるでしょ!」
遠くの部屋で鳴き声がした気がする。……しっかり聞かれているじゃないの。
「あ、二度も言っていただけるんですか」
「え?」
何この反応。ユリシーズが魅力的かどうかを改めて聞かれたわけではないの?
「宮廷に潜入してみましょうか?」
「えっ?」
宮廷に潜入? それって、クリスティーナ妃の近くに行くということ?
ディエスと一緒に食堂に入ると、既にオルガさんは席に着いていた。
朝ごはんが遅くなってしまったから、何か言われるんじゃないかとドキドキしている。
ディエスはにこやかで優しい表情を浮かべているけれど、お腹の音がかなり大きくて、近くで動物が唸っているんじゃないかしらと思うくらい。
「クリスティーナ様、わたくしは支度をしたら帰りますが、何かお手伝いできることはございませんか?」
「手伝い、ですか?」
席に着くと急な提案をされて首を傾げる。
オルガさんにお願いしたいことってなにかあったかしら。
立場上、公爵家の情報をこちらに書いて寄越したりはできないだろうし……。
「それでは、『アイリーン』の近況を。オルガだからこそ聞けることがあるはずだから、それをわたくしにも教えてくださる?」
「かしこまりました。それでは、妃殿下の近況が分かりましたらお伝えします。クリスティーナ様からも妃殿下にお手紙を書かれてみては?」
「ええ、そうしてみるけれど……育ててくださった恩のある乳母からならともかく、伯爵夫人からの手紙がそのままの形で本人に届くかというのは難しいような気がして」
私は公爵家の出身で現在は伯爵夫人ということになっているけれど、皇室には身代わりが伝わっているはず。
だから、私からの手紙が元の形で伝わるのかを疑っている。
「彼女は、あなたからの手紙を喜ぶと思います」
オルガさんに言われてハッとした。
確かに、クリスティーナ妃は私を片割れだと言ってくれた。私が彼女を心配しているように、彼女も心配してくれているのかしら。
オルガさんが乗った公爵家の馬車が発車した。
私とディエスは並んで見送りをして、遠くなる馬車を一緒に見ている。
「公爵家の乳母を務めるくらいの方ですから、本来は気高くて優しい方なのでしょう」
ディエスは馬車を見たまま言った。
お兄様も公爵家にいた時よりも我が家に来た時の方が気さくな印象だったから、あの家の中というのは自分を出せない場所なのかもしれない。
「でも、クリスティーナ姫は最初からずっと優しかったわ。妃殿下になってからも、変わっていないと思う」
「私のクリスティーナ様の印象は、公爵家の操り人形といった風情でしたが」
「求婚しておいて、随分な印象ね」
呆れてため息をつきながら腕組みをすると、ディエスは素早く私の瞼にキスをした。
「政略結婚と恋愛結婚の違いです」
「私がここにいるのは政略結婚でしょ」
「いいえ」
組んだ腕をほぐされて、手を繋がれた。
そのまま屋敷に向かってディエスは歩く。
「あなたを娶ったことで有利になりたいと思ったことはありません。だからこれは恋愛結婚です」
後付けでしょ? と言いたくなったけれど、ユリシーズが本気で私を想ってくれているのは確かだ。
「分かったわよ。それでは、公爵家への対策と妃殿下と会う方法を考えましょう」
ディエスがにこりと笑う。
この人と、未来を切り拓いていきたい――。
屋敷に戻り、私はディエスと隣り合ってソファで話をしている。
相変わらず隣にべったりとくっついているディエス。距離感がおかしいけれど、まあ犬ってそういうところあるわね。
「次に私に接触してくるのは、紹介された『弟』だと思うの」
「他のきょうだいは公爵家を出ているのでしたっけ?」
「お姉さんは他国に嫁いでいらっしゃると聞いたわ。どこの王家だったか忘れたのだけれど。この間のお兄様は既婚者で後継者だから家にいるのでしょうし、他の方は家を出ているのではないかしら」
私は社交界にも顔を出していなかったから、こういうことには疎い。
ユリシーズはその気になれば上流階級のネットワークで情報を取ることができるらしいのだけれど、あまりそういうことはしたくないらしい。
最近は夫婦で別行動をしないようにしているから、誰かと会う時は私も同行することになるわけで……恐らく、他の男性の目に私を触れさせるのが嫌なのだと思う。
自分の領地で使用人や領民に「妻」を紹介するのは好きみたいだけれど、立場が同等の方たちは人妻に不適切な視線を送る方が出てくるかもしれない。そういう意味では私を守ってくれていると思うことにする。
「エイミーが公爵家になにかしらの連絡をしているはずだから、刺客があなたには通用しないのは伝わっているでしょうね」
「人狼のことは伝わっていないのでしょうか?」
「……言っても信じてもらえないと思っているのではないかしら」
公爵家に通じているエイミーは、この屋敷に人狼がいることも、ユリシーズが人狼だということも知っている。ペトラも公爵様の命令で動いていたけれど、自分の立場が悪くなるようなことを言わないだろうからペトラがわざわざ人狼のことを告げるとは思えない。
「いや、恐らく……」
「?」
「最近、エイミーさんに浮いた話があるのはご存じですか?」
「えっ? いえ、私が知るわけないでしょ」
「すいません、私の地獄耳で仕入れた情報なのですが、どうやら彼女は料理人といい仲のようで……」
料理人……って、ザッカリーの下で働いている若い男の子がいたわね。
「自分の想い人が人狼なのですから、人狼の立場が悪くなるようなことはしない……とか?」
「一応聞いておくけれど、エイミーをはめたとかではないわよね?」
「さあ? でもまあ、人狼は人間の女性にとって魅力的だと聞きます」
「そうね」
ユリシーズほど昼と夜がハッキリわかれる人はいないけれど、それでも昼と夜は雰囲気が変わる。気のせいかもしれないけれど、人狼は見た目も麗しい人が多いような気がするのよね。
料理長のザッカリーだって普段は渋いのにボールを一生懸命追いかけてしまうから、ギャップ萌えみたいなものすらある。
料理人の男の子も、かわいい感じだったけれど。
……エイミー、でも未成年はまずくないかしら。下手したら彼は5つくらい年下なんじゃないの?
「人間の女性にとって、人狼の男性は魅力的なのですか?」
「……私に聞いているの?」
「一応その辺は聞いておかなければと思いまして」
「……魅力的だと思うわよ……」
隣にべったりとくっついているディエスから迫るように聞かれて、渋々白状しているみたいになってしまった。
「あの、アイリーン……」
「だから、あなたは魅力的だって言ってるでしょ!」
遠くの部屋で鳴き声がした気がする。……しっかり聞かれているじゃないの。
「あ、二度も言っていただけるんですか」
「え?」
何この反応。ユリシーズが魅力的かどうかを改めて聞かれたわけではないの?
「宮廷に潜入してみましょうか?」
「えっ?」
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