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3章
なりゆき旅行
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ユリシーズと一緒に準備をしている。
と言っても、私の分はエイミーが荷造りをしてくれていて、それを確認しているだけ。
ユリシーズは既に誰かによって荷造りが完了していて、私の準備が終わるまで本を読んでいるつもりらしい。
本当は公爵家への対策を二人で話したかったのだけれど、公爵家と繋がりのあるエイミーが聞いているところでするのはまずい。
「今回の旅ですが、侍女にはエイミーさんではなくシンシアを連れて行くつもりです」
ユリシーズの言葉にエイミーの開いた口が塞がらなくなっていた。
これまではエイミーが付いてくるのが当然だったから、急にシンシアという名前が出てくるとは思わなかったに違いない。
何より、シンシアは侍女ではなくメイドだもの。
「今回は、身の回りの世話よりも安全の方が大事です。シンシアであれば男性よりも強いので、警護面も考慮をして彼女を連れて行きます」
「……かしこまりました」
明らかに落ち込んでいるエイミー。侍女としての自覚はあるのでしょうし、公爵家の方々が一緒に移動する中で置いて行かれるのは不本意でしょうね。
「エイミー。いつも助かっているわ。今回は男所帯で領地を周ることになったから、あなたは安全なお屋敷で待っていて頂戴。私、公爵家の護衛は信用していないの。襲われそうになったことがあったから」
「えっ?!」
エイミーが驚きの声を上げて、ユリシーズが本をどさりと床に落とした。どうやら足の指は無事らしい。
「……初耳なのですが??」
ユリシーズが怒りに震えだしている。まずい。この話、ユリシーズにはしないでおくつもりだったのに。
「あ、でも襲われたというか……接吻をされただけです……」
「はあああああ???!!」
私が知っている中で一番大きな声を上げ、ユリシーズは怒りに震えていた。
「今日来ている護衛の中に、その者はおりましたか?」
「いいえ」
「特徴を教えてください。今から私が葬りに行きます」
ユリシーズの目的が完全に変わってしまった。
ローレンスをいかに領地に留めておくかということを考えていたのに、私を襲いかけた男を始末するという物騒な目的が優先順位のトップに昇格している。
「そんなことをしたら、今度こそ公爵様につかまって牢屋に入れられてしまうわ。それに、その男のことはすっぱりと忘れたの。あなたが……ユリシーズが毎日一緒にいてくださるから……」
「アイリーン……」
私のところに駆け寄ってきたユリシーズが、そっと抱きしめてくれる。
「もう二度と、そんな目に遭わせません……」
「本当に嫌な経験だったの。もう二度とごめんだわ」
「これからは誰かにアイリーンが攫われるような隙は作りません。人狼は生涯の伴侶を一生愛し抜きます。この先はずっと私のアイリーンでいてください」
なんとなくユリシーズがわざとらしい台詞を言っている。これ、恐らくエイミーに聞かせるためね。本当にエイミーは料理人の子といい仲になっているのかしら。
「あのうー……ご主人様。みなさん待っておりますが……」
扉の外でシンシアの声がする。
分かっていたけれど、私たちがこんなところでいちゃついている場合ではない。
ユリシーズの馬車が先頭になり、ローレンスの馬車が続く。その後ろには護衛の方々が馬に乗って付いてきていた。
列が長くなってしまい、一体何事かと思うほど。
護衛の先頭は獅子の紋章が入った旗を掲げていて、道行く人たちはこれが公爵家一行の集団だというのが一目で分かる。
仰々しい旗を掲げることで賊に襲われる心配はなくなりそうだけれど、道行く人はこんな集団を見たら頭でも下げないと不敬で処分されると思うでしょうね。
ユリシーズの馬車には、執事のバートレット、そしてシンシアが同乗している。
「奥様とご主人様のお供は初めてです。ドキドキしちゃいますー」
シンシアは目の前に座って楽しそうにしている。ユリシーズは、彼女に護衛の件も伝えているはずだけれど……あまり怖がっている様子もない。
「シンシア、ご主人様と奥様に迷惑をかけてはなりませんよ」
「はい、バートレット様!」
「返事だけはよろしい」
シンシアの隣に座っている執事のバートレットは、いつもより心なしか穏やかな雰囲気がする。なぜかしら。
「ご主人様がようやく領地を周ってくださるというので、わたくしめは嬉しゅうてなりません。戦地から戻って初めてではないでしょうか」
ああ。そうか、そっちの感慨があるわけね。ユリシーズは沈黙を貫いているけれど。
車内が静かになってしまったところで、ようやくユリシーズが口を開く。
「バートレットもシンシアも、ここで私がアイリーンの膝枕を求めても気にはしないな?」
相変わらず私情だらけね。バートレットの感慨をどこにやったのよ。
「勝手になさってください」
バートレットは呆れ気味に返事をして、シンシアは私から視線を外した。
ユリシーズはそんな二人の目の前で私の膝に頭を乗せ、幸せそうに微笑んでいる。
もう少し働いている方たちに気を遣った方がいいのではないかしら……。
「移動がだるいなと思いましたが、こうしていられるなら外出も悪くないですね」
「わたくしは重いのですけれど?」
ユリシーズの頭が乗っていると、それなりに重い。
そしてユリシーズは聞こえないふりをしていた。遠くの会話を聞けるほど耳が良いくせに。
「バートレット様、公爵家の方々に領内を視察させて大丈夫なのでしょうか?」
「公爵家の護衛が一般市民を傷つけるような行動はとらないでしょう。やましいことはないのですから、堂々としていればいいのです」
シンシアは心配そうにバートレットに尋ねていた。
考えてみたら、道中に彼らがコソコソ話をしていても、ここにいる人狼の三人には内容が聞けてしまうのかしら。
「奥様に領地を知っていただくいい機会になりました。ちなみに、ご主人様は戦争で功績を上げた方でいらっしゃるため領地の方々に神格化されておりまして……こんなみっともない姿を見せるわけにはいかないのです」
「妻の膝枕がみっともないとは、失礼だな」
「そこじゃないわよ、ユリシーズ。あなたがそうやってデレデレしているのが見られでもしたら『ここの領主大丈夫かな、戦争以外は頼れないかもしれないな』って思われてしまうということよ」
「ふふ、奥様は歯切れがいいですねえ」
私がここまで言っても頑なに膝の上を離れようとしないし、完全に無視を決め込んでいる。
頑固な犬だというのはとっくに知っているから驚かないけれど、この調子で人前に出ていきそうで心配になるわね。
と言っても、私の分はエイミーが荷造りをしてくれていて、それを確認しているだけ。
ユリシーズは既に誰かによって荷造りが完了していて、私の準備が終わるまで本を読んでいるつもりらしい。
本当は公爵家への対策を二人で話したかったのだけれど、公爵家と繋がりのあるエイミーが聞いているところでするのはまずい。
「今回の旅ですが、侍女にはエイミーさんではなくシンシアを連れて行くつもりです」
ユリシーズの言葉にエイミーの開いた口が塞がらなくなっていた。
これまではエイミーが付いてくるのが当然だったから、急にシンシアという名前が出てくるとは思わなかったに違いない。
何より、シンシアは侍女ではなくメイドだもの。
「今回は、身の回りの世話よりも安全の方が大事です。シンシアであれば男性よりも強いので、警護面も考慮をして彼女を連れて行きます」
「……かしこまりました」
明らかに落ち込んでいるエイミー。侍女としての自覚はあるのでしょうし、公爵家の方々が一緒に移動する中で置いて行かれるのは不本意でしょうね。
「エイミー。いつも助かっているわ。今回は男所帯で領地を周ることになったから、あなたは安全なお屋敷で待っていて頂戴。私、公爵家の護衛は信用していないの。襲われそうになったことがあったから」
「えっ?!」
エイミーが驚きの声を上げて、ユリシーズが本をどさりと床に落とした。どうやら足の指は無事らしい。
「……初耳なのですが??」
ユリシーズが怒りに震えだしている。まずい。この話、ユリシーズにはしないでおくつもりだったのに。
「あ、でも襲われたというか……接吻をされただけです……」
「はあああああ???!!」
私が知っている中で一番大きな声を上げ、ユリシーズは怒りに震えていた。
「今日来ている護衛の中に、その者はおりましたか?」
「いいえ」
「特徴を教えてください。今から私が葬りに行きます」
ユリシーズの目的が完全に変わってしまった。
ローレンスをいかに領地に留めておくかということを考えていたのに、私を襲いかけた男を始末するという物騒な目的が優先順位のトップに昇格している。
「そんなことをしたら、今度こそ公爵様につかまって牢屋に入れられてしまうわ。それに、その男のことはすっぱりと忘れたの。あなたが……ユリシーズが毎日一緒にいてくださるから……」
「アイリーン……」
私のところに駆け寄ってきたユリシーズが、そっと抱きしめてくれる。
「もう二度と、そんな目に遭わせません……」
「本当に嫌な経験だったの。もう二度とごめんだわ」
「これからは誰かにアイリーンが攫われるような隙は作りません。人狼は生涯の伴侶を一生愛し抜きます。この先はずっと私のアイリーンでいてください」
なんとなくユリシーズがわざとらしい台詞を言っている。これ、恐らくエイミーに聞かせるためね。本当にエイミーは料理人の子といい仲になっているのかしら。
「あのうー……ご主人様。みなさん待っておりますが……」
扉の外でシンシアの声がする。
分かっていたけれど、私たちがこんなところでいちゃついている場合ではない。
ユリシーズの馬車が先頭になり、ローレンスの馬車が続く。その後ろには護衛の方々が馬に乗って付いてきていた。
列が長くなってしまい、一体何事かと思うほど。
護衛の先頭は獅子の紋章が入った旗を掲げていて、道行く人たちはこれが公爵家一行の集団だというのが一目で分かる。
仰々しい旗を掲げることで賊に襲われる心配はなくなりそうだけれど、道行く人はこんな集団を見たら頭でも下げないと不敬で処分されると思うでしょうね。
ユリシーズの馬車には、執事のバートレット、そしてシンシアが同乗している。
「奥様とご主人様のお供は初めてです。ドキドキしちゃいますー」
シンシアは目の前に座って楽しそうにしている。ユリシーズは、彼女に護衛の件も伝えているはずだけれど……あまり怖がっている様子もない。
「シンシア、ご主人様と奥様に迷惑をかけてはなりませんよ」
「はい、バートレット様!」
「返事だけはよろしい」
シンシアの隣に座っている執事のバートレットは、いつもより心なしか穏やかな雰囲気がする。なぜかしら。
「ご主人様がようやく領地を周ってくださるというので、わたくしめは嬉しゅうてなりません。戦地から戻って初めてではないでしょうか」
ああ。そうか、そっちの感慨があるわけね。ユリシーズは沈黙を貫いているけれど。
車内が静かになってしまったところで、ようやくユリシーズが口を開く。
「バートレットもシンシアも、ここで私がアイリーンの膝枕を求めても気にはしないな?」
相変わらず私情だらけね。バートレットの感慨をどこにやったのよ。
「勝手になさってください」
バートレットは呆れ気味に返事をして、シンシアは私から視線を外した。
ユリシーズはそんな二人の目の前で私の膝に頭を乗せ、幸せそうに微笑んでいる。
もう少し働いている方たちに気を遣った方がいいのではないかしら……。
「移動がだるいなと思いましたが、こうしていられるなら外出も悪くないですね」
「わたくしは重いのですけれど?」
ユリシーズの頭が乗っていると、それなりに重い。
そしてユリシーズは聞こえないふりをしていた。遠くの会話を聞けるほど耳が良いくせに。
「バートレット様、公爵家の方々に領内を視察させて大丈夫なのでしょうか?」
「公爵家の護衛が一般市民を傷つけるような行動はとらないでしょう。やましいことはないのですから、堂々としていればいいのです」
シンシアは心配そうにバートレットに尋ねていた。
考えてみたら、道中に彼らがコソコソ話をしていても、ここにいる人狼の三人には内容が聞けてしまうのかしら。
「奥様に領地を知っていただくいい機会になりました。ちなみに、ご主人様は戦争で功績を上げた方でいらっしゃるため領地の方々に神格化されておりまして……こんなみっともない姿を見せるわけにはいかないのです」
「妻の膝枕がみっともないとは、失礼だな」
「そこじゃないわよ、ユリシーズ。あなたがそうやってデレデレしているのが見られでもしたら『ここの領主大丈夫かな、戦争以外は頼れないかもしれないな』って思われてしまうということよ」
「ふふ、奥様は歯切れがいいですねえ」
私がここまで言っても頑なに膝の上を離れようとしないし、完全に無視を決め込んでいる。
頑固な犬だというのはとっくに知っているから驚かないけれど、この調子で人前に出ていきそうで心配になるわね。
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