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3章
視察 2
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ユリシーズが案内してくれたのは、統一されたピンクベージュ色の外壁が柔らかな印象の町だった。
屋根はオレンジ色で、形はバラバラなのに色が統一されている。
「ここには何があるのですか?」
ローレンスは馬車から降りると周囲を見回してユリシーズに尋ねる。
最初に立ち寄った農村に比べると、ここはお店や宿といった民家とは違う建物がたくさん並んでいる。
後ろには自然豊かな森と山があって、綺麗なところね。
「ここは観光業が一番の産業ですね」
「観光業……帝国内からの旅行者が多いのですか?」
「はい。でも戦争が終わってからは外国からも人が来ますよ。ここは主要な街道沿いですから」
なるほど、宿場町というものね。
ユリシーズの説明に、ローレンスと私とシンシアは静かにうなずいて聞いていた。
街道かあ。商人が行き交ったりするのかしら。外国からも人が来るということは、馬だけでなく、ラクダが歩いていたりもするのよね?
いいなあ、ラクダって馬とどう違うのかしら。
「貴女は農村よりもこういった町の方が好きですか?」
「わたくし?? ええと……そうね。農村も羊がいっぱいいて素敵だったわ。牧羊犬と一緒に暮らすのも楽しそう」
「なるほど……」
「ご主人様、なにがなるほどなのですか? 引っ越しはしませんよ??」
執事のバートレットが私の農村話にうなずくユリシーズに釘をさしている。
急に引っ越すとか言い出しそうな人だから、私も全力で止めさせていただくわ。
「ユリシーズ、わたくしは今のお屋敷に満足しているから変なことを考えないでね」
「はっ……そうなのですね??」
「伯爵は姉上のことになると盲目になるのですね」
「ああ……そうなのでしょうね」
ローレンスは出会って初日にユリシーズを把握している。私は出会ってから暫くユリシーズのことがよく分からなかったというのに。
「実は私も、妻と出会ってから知らなかった自分自身を知っているところなのです」
「えっ?」
ユリシーズはこちらに向かってほほ笑むと、そのまま町を歩き始めた。
「バートレットは本日の宿をとってきてください。私はみなさんを案内します」
「かしこまりました」
バートレットは私たちとは別行動でユリシーズの向かう方向とは別、向かって右を曲がっていく。
私たちは町中を歩いた。大勢の護衛が目立つらしく、道行く人にじろじろと見られている。
「観光客ばかりで領民の姿がありませんが、店の中や住宅内にいるのが領民です」
「?」
「もしかして、オルブライト伯爵は領民の顔を覚えているのですか?」
「まあ、顔っていいますか……」
匂いなんでしょうね。
ユリシーズは匂いを嗅いで過去に会った人かどうかが分かるんだわ。犬に詳しい私にはお見通しなのよ。
「それは、いい領主様だ……」
ローレンスがユリシーズに圧倒されている。いい領主様だから領民を覚えているんじゃなく、種族的なものだから感心していいのか分からない。
「オルブライト伯爵、本日の宿泊、ローレンス様の護衛は5名体制で入らせていただきたいのですが」
「……シフトの問題ですか」
敵側も行動を起こして来たわね。これはひと騒動起きるかしら。
***
ローレンスの従者らしき護衛の男が夜の護衛に5名体制で入りたいと言い出したので、無事に宿が取れたと言って私たちに合流したバートレットがまた宿に向かう羽目になっていた。
ものすごく舌打ちをしたそうな顔になっていたけれど、相手が公爵家ということもあって一生懸命堪えていた。あとで褒めてあげようと思う。
バートレットが私たちと難なく合流できたのは、匂いをたどってきたのだと思う。行き先も告げていないユリシーズに対するバートレットの行動は、普通に考えたらおかしいのだけれど、ローレンスは気付いていなかった。
「オルブライト伯爵……申し訳ございません。護衛の数が多く……」
それよりも、ローレンスは従者の要望に謝罪をした。恐らく従者は上級貴族の出身で、護衛の指揮を執っているのだろう。王子様の命令で護衛の数が減らせるような仕組みだと、それはそれで問題があるというのも納得はできる。
「まあ、バートレットが往復しなければならなくなっただけですから」
「そうね、ユリシーズは何もしていないわね」
とはいえ、ただ護衛するためだけだと思えないから困るのだけれど。
宿の中でなにか起きたら犯人が分かりやすいから、あまり派手な行動はとらないかしら。
「いい宿ね。やっぱり領主様だから??」
帝都で泊まった宿も高級宿らしく綺麗だったけれど、ここは派手さがないものの窓の外には森が見える。素朴だけどアンティーク家具らしいインテリアに歴史を感じるし、とても素敵なところ。
「領主だからというより、アイリーンを泊まらせるのに変なところは取りませんよ」
「そうなの? バートレットに何も指示していなかったじゃない」
「バートレットとは付き合いが長いので以心伝心です」
それは以心伝心ではなく、あなたが分かりやすいと思われているだけよ。
「ローレンスの護衛は何か仕掛けてくるかしら?」
今のこの部屋は広い二人部屋で、両隣にバートレットの部屋とシンシアの部屋を取っているらしい。ローレンスの部屋は向かいで護衛の人たちと同部屋になっている。
向かいの部屋の作りは知らないけれど、護衛の人たちには私たちの寝るベッドのような豪華な寝床は用意されていないのだろう。
「移動中にコソコソと話し合っているのが聞こえました。他の宿に泊まっている護衛が窓からこっそり侵入する方法を探すらしいのと、夕食に私を誘うことでその道中で暴漢に襲わせる計画もあります」
「用意周到な上に、護衛が考える策じゃないわね」
「まあ、夕食の場に現れるのはノクスですからね。ノクスがローレンスに怪しまれないかの方がよほど問題でしょう」
「今回は無理ね。絶対無理」
オルガさんの時は仮装パーティ風に乗り切ったけれど、あれは相手が乳母の方で侍女という名目の怪しい暗殺者と二人だったからというのもある。
ローレンスがノクスと話したら言葉遣いの悪さに驚いてしまうだろうし、人狼だとバレなかったとしても「二重人格でした」って公爵様に報告されてしまうでしょうから、あまり好ましい展開にはならない。
「本日の夜は部屋の中から出ないようにしましょうか」
「どうするの?」
「まあ、ノクスに任せますよ」
「また??」
ディエスって、ノクスのこと信頼しているのか、それともただの意地悪なのか分からない。
屋根はオレンジ色で、形はバラバラなのに色が統一されている。
「ここには何があるのですか?」
ローレンスは馬車から降りると周囲を見回してユリシーズに尋ねる。
最初に立ち寄った農村に比べると、ここはお店や宿といった民家とは違う建物がたくさん並んでいる。
後ろには自然豊かな森と山があって、綺麗なところね。
「ここは観光業が一番の産業ですね」
「観光業……帝国内からの旅行者が多いのですか?」
「はい。でも戦争が終わってからは外国からも人が来ますよ。ここは主要な街道沿いですから」
なるほど、宿場町というものね。
ユリシーズの説明に、ローレンスと私とシンシアは静かにうなずいて聞いていた。
街道かあ。商人が行き交ったりするのかしら。外国からも人が来るということは、馬だけでなく、ラクダが歩いていたりもするのよね?
いいなあ、ラクダって馬とどう違うのかしら。
「貴女は農村よりもこういった町の方が好きですか?」
「わたくし?? ええと……そうね。農村も羊がいっぱいいて素敵だったわ。牧羊犬と一緒に暮らすのも楽しそう」
「なるほど……」
「ご主人様、なにがなるほどなのですか? 引っ越しはしませんよ??」
執事のバートレットが私の農村話にうなずくユリシーズに釘をさしている。
急に引っ越すとか言い出しそうな人だから、私も全力で止めさせていただくわ。
「ユリシーズ、わたくしは今のお屋敷に満足しているから変なことを考えないでね」
「はっ……そうなのですね??」
「伯爵は姉上のことになると盲目になるのですね」
「ああ……そうなのでしょうね」
ローレンスは出会って初日にユリシーズを把握している。私は出会ってから暫くユリシーズのことがよく分からなかったというのに。
「実は私も、妻と出会ってから知らなかった自分自身を知っているところなのです」
「えっ?」
ユリシーズはこちらに向かってほほ笑むと、そのまま町を歩き始めた。
「バートレットは本日の宿をとってきてください。私はみなさんを案内します」
「かしこまりました」
バートレットは私たちとは別行動でユリシーズの向かう方向とは別、向かって右を曲がっていく。
私たちは町中を歩いた。大勢の護衛が目立つらしく、道行く人にじろじろと見られている。
「観光客ばかりで領民の姿がありませんが、店の中や住宅内にいるのが領民です」
「?」
「もしかして、オルブライト伯爵は領民の顔を覚えているのですか?」
「まあ、顔っていいますか……」
匂いなんでしょうね。
ユリシーズは匂いを嗅いで過去に会った人かどうかが分かるんだわ。犬に詳しい私にはお見通しなのよ。
「それは、いい領主様だ……」
ローレンスがユリシーズに圧倒されている。いい領主様だから領民を覚えているんじゃなく、種族的なものだから感心していいのか分からない。
「オルブライト伯爵、本日の宿泊、ローレンス様の護衛は5名体制で入らせていただきたいのですが」
「……シフトの問題ですか」
敵側も行動を起こして来たわね。これはひと騒動起きるかしら。
***
ローレンスの従者らしき護衛の男が夜の護衛に5名体制で入りたいと言い出したので、無事に宿が取れたと言って私たちに合流したバートレットがまた宿に向かう羽目になっていた。
ものすごく舌打ちをしたそうな顔になっていたけれど、相手が公爵家ということもあって一生懸命堪えていた。あとで褒めてあげようと思う。
バートレットが私たちと難なく合流できたのは、匂いをたどってきたのだと思う。行き先も告げていないユリシーズに対するバートレットの行動は、普通に考えたらおかしいのだけれど、ローレンスは気付いていなかった。
「オルブライト伯爵……申し訳ございません。護衛の数が多く……」
それよりも、ローレンスは従者の要望に謝罪をした。恐らく従者は上級貴族の出身で、護衛の指揮を執っているのだろう。王子様の命令で護衛の数が減らせるような仕組みだと、それはそれで問題があるというのも納得はできる。
「まあ、バートレットが往復しなければならなくなっただけですから」
「そうね、ユリシーズは何もしていないわね」
とはいえ、ただ護衛するためだけだと思えないから困るのだけれど。
宿の中でなにか起きたら犯人が分かりやすいから、あまり派手な行動はとらないかしら。
「いい宿ね。やっぱり領主様だから??」
帝都で泊まった宿も高級宿らしく綺麗だったけれど、ここは派手さがないものの窓の外には森が見える。素朴だけどアンティーク家具らしいインテリアに歴史を感じるし、とても素敵なところ。
「領主だからというより、アイリーンを泊まらせるのに変なところは取りませんよ」
「そうなの? バートレットに何も指示していなかったじゃない」
「バートレットとは付き合いが長いので以心伝心です」
それは以心伝心ではなく、あなたが分かりやすいと思われているだけよ。
「ローレンスの護衛は何か仕掛けてくるかしら?」
今のこの部屋は広い二人部屋で、両隣にバートレットの部屋とシンシアの部屋を取っているらしい。ローレンスの部屋は向かいで護衛の人たちと同部屋になっている。
向かいの部屋の作りは知らないけれど、護衛の人たちには私たちの寝るベッドのような豪華な寝床は用意されていないのだろう。
「移動中にコソコソと話し合っているのが聞こえました。他の宿に泊まっている護衛が窓からこっそり侵入する方法を探すらしいのと、夕食に私を誘うことでその道中で暴漢に襲わせる計画もあります」
「用意周到な上に、護衛が考える策じゃないわね」
「まあ、夕食の場に現れるのはノクスですからね。ノクスがローレンスに怪しまれないかの方がよほど問題でしょう」
「今回は無理ね。絶対無理」
オルガさんの時は仮装パーティ風に乗り切ったけれど、あれは相手が乳母の方で侍女という名目の怪しい暗殺者と二人だったからというのもある。
ローレンスがノクスと話したら言葉遣いの悪さに驚いてしまうだろうし、人狼だとバレなかったとしても「二重人格でした」って公爵様に報告されてしまうでしょうから、あまり好ましい展開にはならない。
「本日の夜は部屋の中から出ないようにしましょうか」
「どうするの?」
「まあ、ノクスに任せますよ」
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