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4章
覚悟の
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皇子殿下は、私の3メートルほど先にいる。
5段分の段差を設けて玉座が設置されていて、立っているこちらよりも頭が高くなる作りだ。
私たちは対等ではない。
皇室……特に、皇帝陛下の血を引く皇子様の血統は、この帝国では特に尊いとされている。
だから、クリスティーナの感情に配慮しなくても、誰も皇子殿下に文句は言えない。
責められてしまうのはクリスティーナだけだ。皇子殿下に気に入られなかった妃として。
「恐れながら申し上げます。妃殿下に仕えるわたくしより、皇子殿下にお願いがあって参りました。どうか、妃殿下がこれ以上お心を痛めぬよう、ご厚情を賜れませんでしょうか」
「……余が、妃に慈悲の心を持たぬとでも?」
「そういうわけではございません。ただ、このままですと妃殿下はどんどん衰弱してしまいます」
これじゃあまるで、クリスティーナに対して皇子殿下が非情な態度を取っているみたいだわ。
だからと言って、なんて言えば……。
「まるで脅しだな、オルブライト伯爵夫人。衰弱と言うが、数日前に会った妃は健康そのものに見えた。その時は、夫人も一緒だったと記憶しているが、間違いだろうか?」
「申し訳ございません。わたくしも妃殿下の不調に気づいたのは本日のことです。わたくしが夫の話をしたところ、『羨ましい』とおっしゃいまして」
正確には、ユリシーズのことを羨ましいと言っていたけれど、この際その部分は置いておく。
「このような窮屈な場所で暮らすよりも、景勝豊かなオルブライト伯爵領で伸び伸びと過ごした方が幸せだという意味ではないのか?」
「いいえ。妃殿下は家族に憧れをお持ちのようです」
その時、一瞬皇子殿下がピクリとしたのが分かった。
ようやく、私が何を伝えに来たのかを理解したのだと思う。
「……それで? オルブライト伯爵夫人は余にどうしろと?」
「もう少し、家族として妃殿下との時間をお持ちいただけないでしょうか?」
「……」
踏み込んだことまでは言っていない。ただ、クリスティーナとの時間を持つことで、彼女の気持ちが少しは分かるんじゃないかしらと思うから。
「オルブライト伯爵夫人は、誰を相手にそんなことを申している?」
――え?
私のすぐ近くに甲冑を身に着けた兵士が迫って来ていた。
その兵士と私の間にウィルが立ちふさがり、兵士を威嚇するように睨みつけている。
「反応速度がいい。オルブライト伯爵のところの若者だと聞いたが、料理人が身体を張るのか?」
「……料理人ですが、日頃からご主人様と一緒に走り回っております」
そうだった。ウィルもバートレットやユリシーズと一緒にボールを取り合っていたわね。
「手荒な真似はしたくない。オルブライト伯爵夫人をこれ以上自由にするのは危険だと判断した。一時的に皇族牢に連れていけ」
「申し訳ございません! 奥様をお許しください!」
ウィルは、膝をついて私の代わりに謝っている。
「ごめんなさい、ウィル。わたくしなら大丈夫だから、あなたはエイミーのところに戻ってくれる?」
ウィルにそっと声を掛けてから、皇子殿下と甲冑の兵士を見渡す。
「皇族牢でもなんでも参ります。暴れる気はありませんので、連れて行ってください」
「奥様!」
「平気よ、ウィル。いつもありがとう」
残念だけれど、私は閉じ込められた経験が豊富だ。
その皇族牢とやらに入って生き残る道を考えるしかなさそう。
……果たして、生き残れるものなのかしら。
私は甲冑の兵士二人に両脇を掴まれて、玉座の後ろの扉から外に出る。
無言で歩く兵士に「処刑されるのですか?」と尋ねたけれど、反応はない。
廊下を歩いて階段を上ると、陽の光が眩しい部屋に案内された。
「こちらです」
牢というには豪華な……私が泊まっている部屋よりも全ての物に高級感がある。家具の装飾が細かかったり、布が高価なものだったり、宝石が埋められた金の花瓶があったり。
ボーっとその様子を見て驚いていると、外から鍵をかけられた。
ええと……ここが牢? 壁一面が書棚になっているし、ベッドは大きいし、窓は大きいし、花は飾られているし、開放的な雰囲気が漂っている。
デスクを見つけてそちらまで歩いて行くと、正面になる壁に女性の肖像画が飾られていた。
……昔の王妃様とか、そんな雰囲気。頭にティアラが付いていて、青みがかった銀色の髪を持ち、豪奢なドレスを着ている。
とりあえずデスクの椅子に腰かけて、引き出しの中を漁ってみた。
なんか書類がいっぱいあるから触らない方がよさそう……と引き出しは素直に閉める。
いや、ここに閉じ込められたということは書類を読んでも構わないってことかしら。
もう一度引き出しを引いて書類を一枚手に取ってみた。
ええと、『補修工事に関する稟議』か。これは、稟議書ってやつ?
牢屋に置くのには向いていない書類ね。通った稟議を罪人に見せても意味がないのでは。
書類はあまり面白くなさそうだから、本でも読んで過ごしていればいいのかしら。
書棚のほうに行こう。
ああ、天気が良いわね。窓から広大な土地や広い青空が見えて綺麗。
実家で閉じられた屋根裏部屋はただ暗いだけだったから、やっぱりここはそんなに悪いところではない。
私、このまま殺されてしまうのかしら。
せめてユリシーズに手紙の返事を出してからだったらよかった……でも、私が死んだらユリシーズも後を追ってきてしまう。
結局私たち、公爵様の犠牲者にしかなれなかったの?
――ウィルは、あのあとエイミーに報告しながら泣いたのかしら。
悪いことしちゃった。
私が呼ばなければ、勝手にひとりで捕まって終わりだったのに。
5段分の段差を設けて玉座が設置されていて、立っているこちらよりも頭が高くなる作りだ。
私たちは対等ではない。
皇室……特に、皇帝陛下の血を引く皇子様の血統は、この帝国では特に尊いとされている。
だから、クリスティーナの感情に配慮しなくても、誰も皇子殿下に文句は言えない。
責められてしまうのはクリスティーナだけだ。皇子殿下に気に入られなかった妃として。
「恐れながら申し上げます。妃殿下に仕えるわたくしより、皇子殿下にお願いがあって参りました。どうか、妃殿下がこれ以上お心を痛めぬよう、ご厚情を賜れませんでしょうか」
「……余が、妃に慈悲の心を持たぬとでも?」
「そういうわけではございません。ただ、このままですと妃殿下はどんどん衰弱してしまいます」
これじゃあまるで、クリスティーナに対して皇子殿下が非情な態度を取っているみたいだわ。
だからと言って、なんて言えば……。
「まるで脅しだな、オルブライト伯爵夫人。衰弱と言うが、数日前に会った妃は健康そのものに見えた。その時は、夫人も一緒だったと記憶しているが、間違いだろうか?」
「申し訳ございません。わたくしも妃殿下の不調に気づいたのは本日のことです。わたくしが夫の話をしたところ、『羨ましい』とおっしゃいまして」
正確には、ユリシーズのことを羨ましいと言っていたけれど、この際その部分は置いておく。
「このような窮屈な場所で暮らすよりも、景勝豊かなオルブライト伯爵領で伸び伸びと過ごした方が幸せだという意味ではないのか?」
「いいえ。妃殿下は家族に憧れをお持ちのようです」
その時、一瞬皇子殿下がピクリとしたのが分かった。
ようやく、私が何を伝えに来たのかを理解したのだと思う。
「……それで? オルブライト伯爵夫人は余にどうしろと?」
「もう少し、家族として妃殿下との時間をお持ちいただけないでしょうか?」
「……」
踏み込んだことまでは言っていない。ただ、クリスティーナとの時間を持つことで、彼女の気持ちが少しは分かるんじゃないかしらと思うから。
「オルブライト伯爵夫人は、誰を相手にそんなことを申している?」
――え?
私のすぐ近くに甲冑を身に着けた兵士が迫って来ていた。
その兵士と私の間にウィルが立ちふさがり、兵士を威嚇するように睨みつけている。
「反応速度がいい。オルブライト伯爵のところの若者だと聞いたが、料理人が身体を張るのか?」
「……料理人ですが、日頃からご主人様と一緒に走り回っております」
そうだった。ウィルもバートレットやユリシーズと一緒にボールを取り合っていたわね。
「手荒な真似はしたくない。オルブライト伯爵夫人をこれ以上自由にするのは危険だと判断した。一時的に皇族牢に連れていけ」
「申し訳ございません! 奥様をお許しください!」
ウィルは、膝をついて私の代わりに謝っている。
「ごめんなさい、ウィル。わたくしなら大丈夫だから、あなたはエイミーのところに戻ってくれる?」
ウィルにそっと声を掛けてから、皇子殿下と甲冑の兵士を見渡す。
「皇族牢でもなんでも参ります。暴れる気はありませんので、連れて行ってください」
「奥様!」
「平気よ、ウィル。いつもありがとう」
残念だけれど、私は閉じ込められた経験が豊富だ。
その皇族牢とやらに入って生き残る道を考えるしかなさそう。
……果たして、生き残れるものなのかしら。
私は甲冑の兵士二人に両脇を掴まれて、玉座の後ろの扉から外に出る。
無言で歩く兵士に「処刑されるのですか?」と尋ねたけれど、反応はない。
廊下を歩いて階段を上ると、陽の光が眩しい部屋に案内された。
「こちらです」
牢というには豪華な……私が泊まっている部屋よりも全ての物に高級感がある。家具の装飾が細かかったり、布が高価なものだったり、宝石が埋められた金の花瓶があったり。
ボーっとその様子を見て驚いていると、外から鍵をかけられた。
ええと……ここが牢? 壁一面が書棚になっているし、ベッドは大きいし、窓は大きいし、花は飾られているし、開放的な雰囲気が漂っている。
デスクを見つけてそちらまで歩いて行くと、正面になる壁に女性の肖像画が飾られていた。
……昔の王妃様とか、そんな雰囲気。頭にティアラが付いていて、青みがかった銀色の髪を持ち、豪奢なドレスを着ている。
とりあえずデスクの椅子に腰かけて、引き出しの中を漁ってみた。
なんか書類がいっぱいあるから触らない方がよさそう……と引き出しは素直に閉める。
いや、ここに閉じ込められたということは書類を読んでも構わないってことかしら。
もう一度引き出しを引いて書類を一枚手に取ってみた。
ええと、『補修工事に関する稟議』か。これは、稟議書ってやつ?
牢屋に置くのには向いていない書類ね。通った稟議を罪人に見せても意味がないのでは。
書類はあまり面白くなさそうだから、本でも読んで過ごしていればいいのかしら。
書棚のほうに行こう。
ああ、天気が良いわね。窓から広大な土地や広い青空が見えて綺麗。
実家で閉じられた屋根裏部屋はただ暗いだけだったから、やっぱりここはそんなに悪いところではない。
私、このまま殺されてしまうのかしら。
せめてユリシーズに手紙の返事を出してからだったらよかった……でも、私が死んだらユリシーズも後を追ってきてしまう。
結局私たち、公爵様の犠牲者にしかなれなかったの?
――ウィルは、あのあとエイミーに報告しながら泣いたのかしら。
悪いことしちゃった。
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