冴え渡った天が泣いたから、きっと彼女は哂っている

碧井夢夏

文字の大きさ
2 / 4

淡雪

しおりを挟む
 雨の日に現れた男が、義理の父になった。

 中学生の頃に母に憧れていたらしく、同窓会でも何度か再会していたらしい。
 母は社会人になってすぐ結婚して私を生み、すぐに未亡人になった人だ。
 仕事と育児をひとりで担って、無理が祟ったのかある日倒れた。私が小学6年生の時だ。
 そこで初めて、母が自分の家族と折り合いが悪かったのだと知った。

 親戚づきあいらしいものが無いまま、母は病気が進行していく最中さなかに新しい男と籍を入れた。

「ただいま。現場近くで焼き鳥買ってきた」

 新しい父は、母や私の負担を気にして毎日何かを買ってくる。
 食べるものと言っても、こういったお酒のつまみになるようなものばかりだけれど。
 病人に焼き鳥って……と最初は呆れた私も、母が美味しそうに頬張るのを見て考えを改めた。

「雪の日も現場ってあるんだ」

 父の黒い毛先が水を含んでいた。

「ああ、家具なら室内で作れるからね」
「家具……」

 この人、家具も作れるのか。そうか、大工さんってそういうのも作るのか。
 私のクローゼットなんかも作ってくれたり?
 そう思ったけれど、なんとなく貸しを作りたくなくて言えなかった。

「そうやって毎日出来合いのものを買ってたら、お金が無くなるんじゃない?」
「大丈夫、お父さんみたいな腕のいい大工はどこの現場でも引っ張りだこだ。それに、子どもがお金の心配をするんじゃない」
「でも……」
「それより、学校はどうなんだ? お母さんがお前くらいの時は彼氏もいたぞ?」
「関係ないでしょ」

 お節介な父は、私が学校生活をはみ出さずに過ごせているのかを気にしている。
 学校が終わると寄り道もせずに帰ってくる私は、父にとっては不健全らしい。

 ***

 父がお風呂に入っている間、足の爪を切りながら母に尋ねた。

「お父さんの仕事って、儲かるの?」

 パチン、と爪が高い音を立てて切れる。母は居間でテレビを眺めていた。

「なあに? ほんとに食費を心配してたの??」
「だって、お金持ってるように見えないんだけど」
「失礼なこと言わないの。あの人、1週間でその辺の人の月給くらい稼ぐわ」
「え?!」
「雨で仕事がなくなれば、その日はお金が入ってこなかったりするから不安定なところはあるけどね。大工って人手不足で、技術職だから技術が高い人は本当に貴重なんですって。まあ、下積み時代は相当大変だったみたいだけど」
「そうなんだ……びっくり」

 人は見かけによらないというのだろうか、それとも大工という職業を知らなすぎるのか。
 スーツを着て働く人の方が、いい暮らしをしているのかと思っていた。
 父は水筒を抱えて早朝に出かけていくけれど、あのゴツゴツとした大きな手でどんなものを作っているのだろう。

「なんでそんなに稼ぐ人がずっと独身だったわけ?」
「一度社会人になってから、お義父さんのやっている工務店を継がなくちゃいけなくなって大工の道に入ったの。会社員だった分だけ職人になるタイミングも遅かったし、苦労してるのよ」
「ふうん……」

 よく分からないけれど、女の人と結婚できなかったくらいに何か問題があったんじゃないだろうか。
 私の中で、40代の独身男性というのは「結婚できなかった人」という印象になってしまうけれど、偏見だろうか。
 
 別に見た目も悪くないし、性格だって優しいと思うけれど。
 病気の母と結婚してしまうくらいに、判断力には問題があるのだから。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。

石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。 自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。 そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。 好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。 この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

嘘をつく唇に優しいキスを

松本ユミ
恋愛
いつだって私は本音を隠して嘘をつくーーー。 桜井麻里奈は優しい同期の新庄湊に恋をした。 だけど、湊には学生時代から付き合っている彼女がいることを知りショックを受ける。 麻里奈はこの恋心が叶わないなら自分の気持ちに嘘をつくからせめて同期として隣で笑い合うことだけは許してほしいと密かに思っていた。 そんなある日、湊が『結婚する』という話を聞いてしまい……。

私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない

文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。 使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。 優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。 婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。 「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。 優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。 父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。 嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの? 優月は父親をも信頼できなくなる。 婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

靴屋の娘と三人のお兄様

こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!? ※小説家になろうにも投稿しています。

好きなあいつの嫉妬がすごい

カムカム
BL
新しいクラスで新しい友達ができることを楽しみにしていたが、特に気になる存在がいた。それは幼馴染のランだった。 ランはいつもクールで落ち着いていて、どこか遠くを見ているような眼差しが印象的だった。レンとは対照的に、内向的で多くの人と打ち解けることが少なかった。しかし、レンだけは違った。ランはレンに対してだけ心を開き、笑顔を見せることが多かった。 教室に入ると、運命的にレンとランは隣同士の席になった。レンは心の中でガッツポーズをしながら、ランに話しかけた。 「ラン、おはよう!今年も一緒のクラスだね。」 ランは少し驚いた表情を見せたが、すぐに微笑み返した。「おはよう、レン。そうだね、今年もよろしく。」

10年前に戻れたら…

かのん
恋愛
10年前にあなたから大切な人を奪った

思い出さなければ良かったのに

田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。 大事なことを忘れたまま。 *本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

処理中です...