<完結> βの俺が運命の番に適うわけがない

燈坂 もと

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< 本編 >

25.入学式でキミと(2)

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「すまない。状況を承知はしていたが、ここまでとは思わなかったんだ。以後、気を付けよう。」

教授はニッコリ笑うと俺の肩に置いていた手をスッと下げ、マイクに向かって口を開いた。

「今、登壇したのは今年度、生徒会長を務めてもらう2年1組、黒木圭介くんです。」

圭介先輩が会長だと発表された瞬間、会場がざわついた。
そこには、「えっ、2年生で会長なんて異例すぎる……!」「すごい、黒木くんカッコいい……!」「黒木、去年凄かったしなあ。当たり前だよな」という賛成的な声と「黒木が会長……?マジかよ」という批判的な声と……いろんな声が入り乱れている。

「静粛に。この後、役員を紹介しますが……その前に。β枠の統括を担ってもらう生徒を紹介します。β枠はこの学院始まって以来、初の制度のためβがどれほど仕事が出来るか未知のものです。統括担当はβ枠の生徒と顧問の僕のサポートをしてもらうポジションになります」

β枠統括……チームリーダー的役職って、こと、かな。
情報を密に取れる人だといいけど……

「β枠統括担当、1年3組、鷲宮咲耶。壇上へ」

ザワッと会場が騒めき、生徒の視線が咲耶へ注がれた。
咲耶が、統括担当……連携は取れそうだけど、圭介先輩との相性、どう、なんだろ……。

登壇した咲耶が俺を見て「しろう」と口パクしながら手を振ってくれたので振り返そうとしたら、圭介先輩が俺の目の前に立ち塞がった。
前が……見えないんだが。
俺、先輩の背中でこんなにすっぽり隠れちゃうんだな……小さすぎん?

「……士郎くんが凄い……!後で話聞かせてほしい……!」

小声で祥くんが俺に耳打ちしてきたので何が凄いか分からないけど俺も小声で、後でね。と返事をした。

そして、比良坂教授は生徒会役員の紹介を始めた。
副会長の総兄、会計、書記、広報が読み上げられる。
みんな名前を呼ばれて続々と登壇する。

会計は総兄と圭介先輩と同学年の真木先輩。
書記は3年生の真木先輩。……あれ?会計の人と同じ名前だ。たまたまかな。
広報は同じく3年生の綾瀬先輩という面々だった。

「生徒会長の黒木くん、代表して歓迎の言葉をよろしくお願いします。」

壇上に立つ先輩を後ろから見ながら、この人は本当に遠い人なんだな、と改めて感じた。
俺なんかが、近くにいるのも烏滸がましい。
たまたま俺が先輩の病気緩和の一助になってるだけ……なんだ、って考えてたら胸の辺りがムカムカしてきた。

お弁当のおかず、腐ってたんだろうか。
後でふたりに確認しとこう。
俺のせいで、お腹壊したら、ごめん。ふたりとも。

生徒会長としての圭介先輩の存在感は、えげつなかった。
ザワザワしてた会場が、先輩が演台に立った瞬間に静かになる。
今まで、見てきた先輩が、偽物のようだった。

「新入生の諸君、入学おめでとう。今年度、生徒会長を拝命した2年、黒木圭介だ。」

こんな天才の集まるの学校で、2年で生徒会長をすること自体が凄い事なのだ。
そんな人と共に仕事ができるんだ。胸を張りたい。

「大方の諸君らが問題なくパスをし、我が校の生徒になれただろうが、中には入学するために、必死に頑張ってくれた諸君らもいるだろう」

あ、ヤバい。

「全ての新入生の諸君らが我が校を選び、試験にパスし、入学してくれたこと、大変嬉しく思う。」

めっちゃ頑張ってたあの時期がフラッシュバックして、色々思い出してるところに入学してくれて嬉しい、なんて言われて鼻がツンてしてきた。
さっきの比良坂教授との再会で緩んでた涙腺が更に緩む。

「最後になるが、我が校は2/3がα、残りがβの構成となっている。乗り越えなければならない壁も山ほどあるだろうが、共に力を合わせて行きたい。」

この人は、凄く、遠い人だ。

「これから同じ学び舎で、共に学び、共に成長していきたい所存だ。よろしく頼む。以上だ。」

俺には、手の、届かない、遠い存在の、人。

俺なんかが

あの人の横にいる事を

望んじゃ、いけない。


「士、郎……?!」
「……へ……?」

挨拶を終え、後ろを振り返った圭介先輩は俺を見て、驚いていた。
俺の目から大粒の涙が溢れ落ちていたから、だろう。
こんな壇上で、恥ずかしすぎる……!

「す、すみません、ちょっと、体調が悪いのかも……!奥に引っ込みま、す?!」
「心配だ。休ませる。」

俺を抱き上げ、横抱きにした圭介先輩は演台のマイクを取り、声を出した。

「俺の補佐が体調を崩したようだ。式の途中で申し訳ないが、離席させていただく」

会場はザワザワしていた。
そんな中を先輩は俺を抱えながら颯爽と舞台から降り、凄いスピードで体育館をあとにした。

「ちょ、先輩、大丈夫ですよ……っ」
「心配だ。大丈夫かどうかは、俺が判断する。手は俺の首に。危ないから、しっかり捕まっていてくれ。お前を振り落としたくはない。頼む。」

言われて、胸がギュッとなった。
これは……本気で、ヤバい、やつだ。

保健室の先生が、いってらっしゃーいと手を振っている。
えっこれって職務放棄じゃないの???
遠くから「先生より黒木の方が判断能力高いしなあ」とか意味の分からない言葉が聞こえてきた。
先輩って、……何者???


感情が昂って、涙が出たからなのか。
入学式で緊張してて、前日あまり寝れてなかったせいなのか。
それとも、先輩の匂いに安心したから、なのか。

原因は分からないけど、先輩に運ばれている途中で、俺の意識が途切れてしまった。


気付いた時には、寮の自分の部屋のベッドの上だった。





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