元魔王の俺が今世、人間に転生した理由

燈坂 もと

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7.魔塔主様と元魔王。

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「じゃあ、オウミ、食事は今からココに持ってこさせるから。その後、オウミ専属の従者を数名指名しているから、その者が部屋にきたら、湯浴みを頼んでくれるかな。オウミへの魔力調査諸々は、明日の朝、行う。今日は異世界から時空を超えて移動してきてるから、間違いなく疲れている筈。……だから、今夜はここでゆっくり休んで。」

結局、あの後アヤメは陛下とカイル様と共に王宮に残り、オウミは僕と爺ちゃんと共に魔塔へ移動した。
アヤメとオウミを引き離してしまって申し訳ないけれど、一晩だけな筈だからどうか許してほしい。
きっとふたりは、俗にいう『友達以上恋人未満』な関係なのだろう。

100年前、聖女アヤメと剣士ルークもそんな関係だったことを思い出す。
僕はルークと仲が良くて。
ルークは、とても身長が高くて、黒髪の短髪で……恐ろしく顔が整っていて。当時の討伐パーティの中でも勇者と1、2を争う程の人気者。
……ああ、そうだ。似てる人がひとり。陛下の側近のカイル様。まさにカイル様のような見目の剣士だった。

そんなカイル様は、陛下に負けず劣らずモテまくっている。確か年齢は陛下よりふたつ年上の31歳。陛下よりも少しだけ大人な雰囲気に打ちのめされるご令嬢が後を絶たない。

アステルフォード王国の国王陛下といえば歴代(と言っても35代目からだけど)しっかり大恋愛をされた後、婚姻という流れが常だ。

昨年即位されたレオニス国王陛下は、それはそれは美しく、優雅で、逞しい。
陛下は魔塔に所属している女性職員のみならず、男性職員にも人気がある。

きっと、国民の殆ど……中でも、貴族の方たちの人気も凄いだろう。
僕は魔塔から出られないため、魔塔の人間の情報しか持ち合わせていない。
その旨は了承して欲しい。

そんな陛下だからこそ、既に将来を約束した恋人がいるだろうと、僕は勝手に思い込んでいたのだけれど……今現在、婚約者はおろか恋人もいないらしい。

その事を先月、陛下の健康調査の際に陛下からの発言で僕は窺い知ったのだった。



「え、僕はてっきり……陛下には既に恋人がいるのかと、思っておりました。」

まさかのお話に、吃驚した僕は思わずそんな発言をしてしまったのだけど。
陛下はそんな僕を見て、慌てた様子で否定をされた。

「……っ!そのような方は……私には、おりません。私は今まで騎士として、即位する直前までこの国の為に戦場に出てばかりでしたから……こんな野蛮な私のもとになど、来たいと思う方など……!」
「……そ、う……ですか?陛下ほど、美しく、逞しく、優しく……アステルフォード王国に献身的な想いをお持ちの方は、他にいらっしゃらないですよ……?きっと、貴方の事を慕っている方が、必ずいらっしゃると、そして……陛下がいつか、その方と想いを通わせて、アステルフォードをもっとより良くしてくださると、僕は思っていますよ。」
「……ッ!!!」
「……ん?あれ、陛下、心拍が異常な動きを。頬も紅潮している……?ちょ、せ、精密検査、しましょう?どこかお加減が悪いのやも……!熱は……。」
「だ、大丈夫、ですから……!」

熱でも上がったのかと、陛下のおでこに僕の手を当てると、頬が紅潮している証に、やはり何処となく体温も上昇している様で心配になる。

僕が薬を処方した方がいいだろうか?と考えあぐねていると、陛下の大きく骨ばった手が僕の手を、陛下のおでこから剥がした。

その掴まれた手に少し力が入っているのを感じながら、状況の不思議さを脳みそで整理をしていると、少し陛下に引っ張られて、顔の距離が近付いてしまった。

おでこに触ったのが、不敬だっただろうか。
100年以上も歳を食っていると、立場の位が上の方でも、かわいい子供を見ている様で。

距離感の加減がわからなくなるのが、僕のダメなところだ。

近付いたついでに陛下の瞳を観察していると、少し潤んでいるのが分かって。
安静にしていてもらおうと、陛下の肩に空いている手を置いたら、逆サイドも掴まれてしまった。
ん?どういう状況???

「……っ、……魔塔主、様……っ」
「ええと、陛下?お加減が悪いやも。このまま放置すると危険かもしれません。少しお休みをされた方が、いいのでは……えと、これは、どういう……状況、でしょうか……」
「……加減が、悪い訳ではなく、……っ、私は、貴方をお慕」
「魔塔主様。本日はこの辺で。……これ以上は……危険すぎます。本当に危ないのは、貴方様です。」

陛下の手をス、っと僕の手から離してくれたのは、ルークにそっくりな、側に控えていたカイル様だった。
本当に危険なのは僕、という発言に殊更意味が分からない。
僕が毒でも盛ると思ったのだろうか……結構、誠心誠意、往診しているつもりなのだけど。
というか、陛下に薬って効くのだろうか。

結構威力が強くないと効かない気がする……うーん。

「……っ!カイル……!人を獣の様に……!」
「獣でしょう、実際。目が……怖すぎます。どうどう。落ち着いてください。このまま突き進んでも、良い結果にはなりません。相手方の気持ちも同じくらいまで押し上げねば。……はあ。戦場では采配の神と謳われた貴方様がこの手の事にここまでポンコツだとは……嘆かわしい。」
「カイル……!頼む、これ以上、口を開かないでくれ……!伝わってしまう恐れが」
「きっと、大丈夫。伝わらないですよ。お相手は相当鈍くていらっしゃる。……ああ、今も……何か別の事を考えていらっしゃる。……陛下、ファイト。応援しております。」
「……な、何だかカイルに馬鹿にされている気分だが……しかし。思案されてるお姿も……愛らしい……。」
「……ははっ。陛下がここまで他人に夢中になっているのを見るのは……幼少の頃からお傍に控えさせていただいてますが、初めて、ですね。本当に……冗談抜きで、成就される事を願っております。」

「精密検査までは、必要ないかな……、取り敢えず薬を調合して……既存の材料だと、うーん。」



先月のそんなやり取りを思い出して。
カイル様が現れてからは、薬の調合を思案していたからおふたりの会話はイマイチ頭に入ってこなかったけど、きっとカイル様が陛下のお加減の確認をされていたんだろう。

そして、今日の陛下の体調に思いを巡らせる。うーん。よくよく思い出すと、先月から陛下、お加減良くなさそうではあったなあ。
強めに調合した薬の効きがあまり良くなかったんだろうか。
早めに今月の健康調査の予定を入れよう。うん。

……あれ。えーと、なんだったっけ……ああ、そうだ。ルークの事。
僕は意識が逸れに逸れて、元々考えていた事が何だったか忘れちゃうのを気を付けないといけない。僕の悪い癖だ。


剣士ルークは物静かで優秀。
彼の剣捌きは長年色んな剣士を見てきた爺ちゃんもうっとりするほどだ。
(爺ちゃんがルークのファンクラブにこっそり入っていたのには、さすがに引いたけど)
(ルークとカイル様似てるよねって最近爺ちゃんに言ったら、比べもんにならんわいと怒られてしまった。熱狂的ファンにする質問ではなかったと後から反省しました)


そんなルークは聖女アヤメに想いを寄せていた。
でもルークは基本的には硬派だったから、自分から声を掛けに、とかそんなことが出来るわけもなく。

だから僕は、ルークからの相談(というかひたすら延々とアヤメの可愛さや素敵なところを聞かされる)に色々と乗っていた。

実はそれとは別に。
聖女アヤメからもルークの話(ひたすら延々とルークのかっこいいところや素敵な以下略)を聞かされていて……もう早くお互いに気持ちを言ってしまえばいいのに。って呆れていたっけ。

ふたりの気持ちは知っていたけど、僕から伝える事じゃないから……言っていなかった。
これはふたりが勇気を出していう事だと思ったから。

でも僕の魔力の暴走で、あんなことになって。

今となっては……僕がもう少しふたりの背中を押してさえいれば、ふたりにはもっと違う未来があったんじゃないだろうか。

たられば、を言い出したらキリがないけれど。




「……リオは、この後……どうするんだ……?」

過去の事を考えていて、ぼぉっとしていた僕に、オウミの低い声が部屋に響いた。
この部屋は客室だから、外に何重にもかけられている防御壁が手厚い仕様になっているため、声がよく響く。

「僕はこの後、食事を軽く取って……その後は……少し戻った闇の魔力をどれくらいまで使いこなせるか、確認しに行くよ。」

僕に戻った闇の魔力。
20年前までは使えていたけど、制御がかかってから一切使うことが出来なくなった。

魔術も、使わなくなると訛る。
少しずつ慣らしていって、昔ほどではなくても使えるようになれば、少しは世界の魔力の調整に役立てるんじゃないかと爺ちゃんと魔塔への帰り道に話していた。

闇の魔力で、彼を少なからず感じれるかもしれないという喜びが、胸の奥から溢れてきているのを、感情が欠落している僕でも感じる。

僕の中には……いつまで経っても、彼しかいない。

「……そうか。……では、魔力の確認……俺も同席していいだろうか。」

オウミが、僕にそんな事を言って。
突然の事に色んな考えが巡っていた僕はぽかんとしてしまった。

「え。何で……あ、魔法を……見たい、とか?」
「……ああ。そう、だな。日本では魔法なんて、ゲームや、漫画や、映画や、アニメの世界でしか存在しない。さっき、リオが何もない所から現れたり、何もない所から道具を出して見せたり……興味深いものばかりだった。……もう一度、近くで見てみたい。」
「僕は別に……構わないけど、オウミは、疲れて……ない?」

大丈夫だ。と頷いた彼は、年相応(多分20歳前後だと思っているんだけど、合っているか改めて明日確認しようと思っている)の反応に、何だか安心してしまった。

さっきまでの彼は、もっとずっと、僕よりも遥かに年上に感じていて。
きっとそれは、彼と重なる部分が多かったから。

でも、それもきっとただの思い過ごし。
僕の名前を彼と同じ様に呼ぶのも、彼と名前が同じなのもきっと偶然が重なった結果なのだと思い込むことにした。


魔王この子異世界人の子が同一人物なんて、絶対にあり得ないのだ。



マスターソードは、魂の輪廻を断ち切るための、特別な魔法が付与された武器なのだから。



彼は、その武器で輪廻をするためには残っていないといけない心の臓を勇者の手によって射抜かれているのを、僕自身がハッキリと見ている。




再生や、転生は……絶対にあり得ないのだ。






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