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10.魔塔主様と闇の魔力。
「じゃ、オウミ。危ないからソコにいてね。爺ちゃん、オウミをよろしく。」
「うむ。承知した。」
魔塔の最上階、祈りの間。
僕がずっと闇の魔力を注いでいた部屋だ。
今から少しだけ戻った闇の魔力を扱う。
20年間扱っていなかったため、感覚が戻るか不安もあり、爺ちゃんに同席してもらった。
この部屋は月の明かりが浴びることができる様に、天井はガラス張りになっている。
光の魔力が太陽の光で増幅するのに反して、闇の魔力は月の光で増幅する。
僕に宿った闇の魔力がどれ程の力を流せるか不明だったから、念のため、その原理を利用するために80年前、この天井を改築したのだ。
闇の魔力が暴走して以来使っていない力。当時に比べると遥かに魔力量は少ないけど、それでも僕と闇の魔力の相性は相当よかったから、暴発しないとは言い切れない。
暴発した魔力がオウミに当たりでもしたら一大事のため、爺ちゃんに横についてもらって、オウミには少し離れた場所から見学してもらう事になった。
結局、オウミが闇の魔力を見たい、と僕にお願いをした後。
魔力確認の前に摂る食事を彼が、僕と一緒がいい、と要求してきたのだ。
それくらいは、まあいいか、と、ふたりで魔塔の食堂へ向かったのだった。
「……魔国の、食事も……あるのか……!」
食事のメニューを見たオウミが、吃驚した様な表情で口を開いた。
魔塔には色んな種族がいる。だから食事メニューも多種多様に取り揃えられている。
これは、現国王陛下、レオニス様が即位されてすぐ、魔塔の現状把握にお見えになった際に「食事が美味しくない」と陛下に直接陳情した魔族を思い遣ってくださり、即時に魔塔の食事メニュー改善に着手してくださった結果だ。
食事が美味しくなったお陰か、魔塔職員のモチベーションも格段に上がり、残業ばかりだった一昨年に比べると、仕事を定時で済ませ直帰する者が増えている。
この件の礼状は既に書簡にて送付済だけど、改めて陛下に進物をお送りしなければ。
その事は、爺ちゃんに後で相談しよう。
そうそう。魔塔の食堂は常時開放していて民間人も利用可能なため、食事だけの目的で訪れる者も少なくない。
ここでの費用は全て国庫から出ているから、利用者は無料で食事が出来る。
いくら他国に比べて治安がいいと言われているアステルフォード王国であっても、少なからず貧困層は存在する。
そんな貧困層の食事の介助ために、これもレオニス陛下が提案なさった政策だ。本当に彼には頭が上がらない。
レオニス陛下は、僕が120年近くこの王国を見てきた中でも1,2を争う程の敏腕な方だ。
彼ほどこの国を慮り、憂いている国王陛下はいないだろう。
僕はレオニス陛下をとても……尊敬、している。
オウミが見ていたのは『本日のメニュー』と書かれたディナーメニューだった。
異世界人の子の口に何が合うか不明だったため、メニューを彼に選んでもらおうと、食事内容を見てもらっていたのだ。
ふと、オウミの口から魔国の名前が出て疑問符が浮かぶ。
……魔国の事、話していたっけ……?
あ。でも、そうか。僕らが到着する前に、陛下が王宮で話をしてくれていたのかもしれない。
「魔国のメニューがあるのは、魔族も魔塔にいるからなんだ。100年前、魔王がいなくなってから……魔族の統制をアステルフォード王国でしているからね。100年前は全く交流がなかったけど、今は一緒に働くまでになった。魔塔には、魔族の他にも、獣族や竜族……それ以外にも数え切れない程の種族がいる。異形の見た目をしている子も中にはいるけど、皆いい子ばかりだよ。」
そんな話をしていたらオウミから「何故魔族がいるのに、リオしか闇の魔力を流せないんだ……?」と疑問が飛んできた。魔族が闇の魔力持ちなのも、きっと陛下から聞いていたんだろう。
そっか。その説明、必要だよね。
「……僕の中にある闇の魔力は、100年前にいなくなった魔王のモノだからね。魔塔で働いてもらうようになった魔族にも試しに流してもらったんだけど、均衡を保つための濃さには満たなかったんだ。試した結果、僕の魔力が、遥かに適合する事が分かって。魔力暴走を起こす20年前までの80年間、僕が流していたんだよ。」
僕の台詞に、彼は僕を見ながら目を見開いて固まってしまった。
食堂に到着した時、席は満席で。通されたのがカウンターだったから横並びで座っている。
固まった彼の顔を横から、じ、と見やると不思議な感覚に陥った。
やっぱり、雰囲気が……似てる。
魔王には適わないけれど、目の前の彼も……とても綺麗な顔立ちをしている。
その大きな骨ばった細い手で、優しく抱きしめて。その綺麗な口唇で、聖女の器に愛を囁くのだろう。
それは、僕の記憶。
脳裏に焼き付いて離れない彼が、目を閉じると現れる。
未だに、この気持ちは……燻っていて。
色褪せることなく、僕の心に灯り続けている。
僕には、もう……彼にそれをしてもらう事は、叶わない、けれど。
すると、オウミのその手が、僕の両頬を包んで。
僕が突然の事に吃驚して固まっていると、オウミのおでこが僕のおでこにコツンと当たる。
瞬間、心臓が……跳ねた。
「……お前に、負担を課してしまっていたんだな……すまない。」
─────── 何故……?
何故、こんなにも悲しそうな顔を……この子はするんだろうか。
オウミは、異世界人の子で。初めてこの国にやって来た筈なのに。
思い込みだと、蓋をした筈のモノがこの子の言動で何度も開きそうになる。
そんな筈は、絶対に、ないのに。
触れた手に、おでこに、熱を感じて……そわそわ、する。
「オウミ……君は……」
「リオ。……今日は、この魔国のメニューにする。頼んでいいだろうか。」
「え、あ、う、うん。……口に合うと、いいね。」
パ、っと顔と手が離れた事に少しだけ寂しさを覚えて……自分で自分に、驚いてしまった。
きっと、ずっと魔王に触れていないから、雰囲気が似ている異世界人の子に一瞬でも彼を感じてしまったんだろう。
そんな気持ち、絶対に持ってはいけないモノだ。彼は、アヤメの大事な人なのだから。
100年前、お互いに想い合っていたのに、気持ちを伝えられなかった彼女と彼。
僕は、今回こそはアヤメの想いを成就させたい。
100年前の聖女と現代の聖女の器を重ねて見てしまっている。
それ程、ふたりは雰囲気も印象も見た目も……全てが似ていて。
だから……僕は、このふたりの応援を、したい。
僕には、魔王だけが居れば、それでいいから。
彼を思い出したくて、魔国のメニューを僕も頼んだ。
久し振りに食べたその味に、懐かしさを覚える。
それ程、最近では魔国のメニューを頼まなくなっていた事に今更になって気付いて自己嫌悪に陥った。
彼が魂の継承もなく、復活する事もなく……ただの伝承としてしか存在しないこの世界で。
唯一、彼の熱の籠った瞳を、熱を、愛しさを覚えているのは僕しかいない。
僕の中で、魔王が居なくなる事は、絶対に許されない。
忘れられない。忘れたくない。
─────── 魔王だけが、僕の生きる証だから。
「 ─────── じゃあ、いくよ。」
祈りの間の魔力充填機に手を翳して、少しだけ戻った魔力の居所を探る。
ぼわ、と黒ずんだ紫色の光が僕を纏って、20年振りの闇の魔力にゾクゾクした。
今日は、満月。闇の魔力が増幅できる絶好の日。
上手くいけば、全ての魔力を取り戻せるかもしれない。
と、突然。紫色の光が、真っ黒に変わり僕の身体に電流が走る。
「……いッ!」
頭が、くらくらして、ふわふわ、する。
魔導士という仕事をしてきて、こんな事、生れて始めてだ。
「いかん!これ以上続けては、あやつの身体が……!……?!オウミ殿、待たれよ!危ない!」
痛みに耐えきれず、意識を飛ばしそうになった瞬間。
オウミが僕を後ろから包んだ。
「……っ、……オウ、ミ……!?」
「リオ、そのままだ。そのまま静かに、手を俺に。」
震える両手を、僕の腰に回った彼の腕に当てる。
不思議と、僕の痛みが少しずつ引いていく感じがした。
「そのまま、そのままゆっくり……そうだ。いい子だ。多分、俺から離れると……痛みが増幅する。今は離れるなよ。」
「……っ、な、に……?ど、なって……?」
何故か、オウミに触れると、痛みが治まっている。
治まっているけど、次は、気持ちが、悪い。熱い。くらくら、する。
「……きっと、魔力酔いを起こしている。大公殿。魔力酔いを治める薬は。」
「……ここは魔塔じゃ。魔力酔いを起こさぬ者しかおらん。薬は薬局にはあるじゃろうが、空間移動で移動出来るほど近い距離にない。……今すぐにとなると、魔力を吸える者が魔力を吸うしかないじゃろう。……しかし、それには……」
「……了解した。……大公殿、リオの部屋へ案内してくれ。……そこで、俺が、魔力を吸う。」
「……!オ、ウミ様……やはり、お主……!……っ。……承知、した。緊急事態じゃ。急ごう。」
ふたりの会話が耳には入って来たけど、脳みそが熱でふわふわしていて、よく理解が出来ない。
熱に浮かされながら、僕はオウミに抱き抱えられて。
そこで、意識が、途絶えた。
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