angel observer

蒼上愛三(あおうえあいみ)

文字の大きさ
1 / 29
observer

プロローグ

しおりを挟む
   ここは、アーバンデクライン。人という人は、進化と退化に分岐しそれぞれの道を辿りはじめた。進化した者たちは皆、個人の中に持つ欲を探究心に転換し、また退化した者たちは、本能的欲求を開放し動物的な生物と化し、人とは呼べなくなっていた。
   私はそのもの達をこう呼んでいる、<新人と旧人>と、この世界は既に破壊の限りが尽くされているため、荒廃している。遅かれ早かれ人類は2、3年と経たずに絶滅することは、誰から見ても分かりきったことであるが、私には関係がないとつい先日までそう思っていたのだが、私にとってもこの状況はいささかまずいのだ。
   私は少なくとも人ではない。ただ人を模した偶像の産物、人の中から生まれる<恨み>、<傷み>、<嫉み>と言った概念こそが私を形成する元となるのだ。
 そう私は、「悪魔だ」とは言っても、私を意識する人間が減ってきている。いや、ほぼ0に近しいかもしれない。
 ただ毎日を無駄に過ごしているうちに、いつしか自分の存在が危うくなっていたのに気づいたのは、最近のことである。
「はぁー。やることもない、人もいないどうしたらいいの」
 1人荒廃した街を歩いて、かつて都市だったと思われるその街は、高層ビルが半分から上が崩れていたり、商店の鉄製のシャッターは錆びで覆われ赤褐色になっているのが、時代の消滅を象徴しているようである。もとより、舗装された道路などはない、道という道はすでに砂漠化しているというありさまだ。
「あれ、こんな建物あったっけ」
 その建物は前時代のスタジアムのようなシルエットをしている。知識として知っていたが、実際お目にかかるのは、初めてだ。
「結構広いのね」
 薄暗い中を歩くこと数分、視界の開けた所に辿りついた。
「何で真ん中には天井がないんだろう。んっ」
 建物の中は以外にも広い。そして何故か、その中央に洋ドアが設置されている。
「これドアよね」
 私は、ドアノブに手をかけドアを開けた。
 ドアならば開けなければならないのだ。それに、どうせ吹き抜けで向こう側には、崩れたスタジアムの景色があるのだろうと思っていた。だが、予想はハズレ、ドアの向こうにあるのは、また別の建物の中で、スタジアムとはうって変わって狭そうだ。しかし、中々に生活感があり誰かがいる気配がするため、足を踏み入れるのが躊躇われる。
「ごめんください」
 ゆっくり中に入ると洋ドアは消えてなくなり、代わりに鉄製のドアがある。おそらくこちらが本当のドアなのだろう。
   部屋には夕日が小さい窓から差し込み、ソファーと机を認識出来る程だけ照らし出している。すると何処からか、「ガァー」と音が聞こえると思ったやさきなにやら寝言も、
「んっ、天使を観測してくれって、あれ夢か」
 窓の方で何かが飛び跳ねたが、こちらからはちょうど逆光の位置で、それは、シルエットしかわからない。
「やあ。お客さんかなぁ。とりあえずそこに座りなよ」
「その前に一つ聞きたいことがあるんだけど」
 その声と背丈から、男だと思われる人物は、仕事用のデスクの椅子に再び座りなおして言う、
「別に構わないよ。なんなりと聞いてくれ、気が済むまで聞いてくれ」
「それじゃあ、ここは何処だ」
 私は、なんとなく見慣れない風景に困惑し、案外普通の問いをした。男は、快くその問いに答える、
「ここは地球の日本って言う国の、東京という都市で、この部屋は僕の仕事場」
「いや、地球ということくらい分かる。地球以外に人が住んでいるものか」
 男は、首を傾げて訝しむ。
「でも、君の格好は、少なくとも僕は見たことないからなぁ。もしかしたら、別の惑星から来たのかもしれない。という可能性を考慮してのことさ」
 確かに、私の格好は少し変わっているかもしれない。
 いやいやそんなことはないはずだ。
「うん、やっぱり他の惑星から来た。は、言い過ぎたかな」
「あたりま・・・」
 私の言葉を遮って男は、話し続ける。
「よくよく見たら、なんだか古代ローマ人の服装だねぇ」
 言われてみれば、そう見えなくもない。ああ、だんだん古代ローマ人の服装にしか感じられない。今まで、そんなに気にしていなかったので、私の服装の露出度が気になり始め、少し気恥ずかしくなってきてしまった。
「あっそうそう、まだ名前言ってなかったね。僕の名前は、若田利彦。設計士をしてる。企業から依頼が来たり、自分で設計図を売り込みに行ったりして暮らしてる」
 そう言われても仕事に関してあまり興味がないため「ふぅん」と素っ気ない態度をとった私に若田は少し困った顔して言う、
「仕事の話しても面白くないな。うん、じゃあさ君の名前教えてくれないか」
 今度は私が困った顔になる。私には名前がない。呼ばれたこともないし名付けられた記憶もない。
「ごめん」
「どうして君が謝るんだい」
「私には名前がない」
 若田は素っ頓狂な顔をして、それから溜め息を吐く。
「そいつはなんとも、不便な話だね。今はこうしよう。君の名前はこれから<ヒルデ>と、名乗るといいよ」
「ヒルデ」
 彼は私の名前を勝手に名付けた。
 私は少し嬉しくもあり恥ずかしさもあった。その名前の響きは悪くなく、むしろ好みに近い名である。
「それでさぁお嬢さん、一つ頼まれて欲しいんだけど」
「うむ、名付けてもらった分なら頼まれてやろう」
「僕と一緒に天使を観測してくれないか」
 私にはその言葉を理解出来なかった。ただ、開いた口が塞がらず、やっとの思いで発することが出来た返答は、「はい?」の一言で、困惑と理解不能を意味する何とも情け無い返事をした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

彼の巨大な体に覆われ、満たされ、貪られた——一晩中

桜井ベアトリクス
恋愛
妹を救出するため、一ヶ月かけて死の山脈を越え、影の沼地を泳ぎ、マンティコアとポーカー勝負までした私、ローズ。 やっと辿り着いた先で見たのは——フェイ王の膝の上で甘える妹の姿。 「助けなんていらないわよ?」 は? しかも運命の光が私と巨漢戦士マキシマスの間で光って、「お前は俺のものだ」宣言。 「片手だけなら……」そう妥協したのに、ワイン一杯で理性が飛んだ。 彼の心臓の音を聞いた瞬間、私から飛びついて、その夜、彼のベッドで戦士のものになった。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
私は、夫にも子供にも選ばれなかった。 その事実だけを抱え、離縁を突きつけ、家を出た。 そこで待っていたのは、最悪の出来事―― けれど同時に、人生の扉がひらく瞬間でもあった。 夫は愛人と共に好きに生きればいい。 今さら「本当に愛していたのは君だ」と言われても、裏切ったあなたを許すことはできない。 でも、子供たちの心だけは、必ず取り戻す。 妻にも母にもなれなかった伯爵夫人イネス。 過去を悔いながらも、愛を手に入れることを決めた彼女が辿り着いた先には――

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

ゲーム未登場の性格最悪な悪役令嬢に転生したら推しの妻だったので、人生の恩人である推しには離婚して私以外と結婚してもらいます!

クナリ
ファンタジー
江藤樹里は、かつて画家になることを夢見ていた二十七歳の女性。 ある日気がつくと、彼女は大好きな乙女ゲームであるハイグランド・シンフォニーの世界へ転生していた。 しかし彼女が転生したのは、ヘビーユーザーであるはずの自分さえ知らない、ユーフィニアという女性。 ユーフィニアがどこの誰なのかが分からないまま戸惑う樹里の前に、ユーフィニアに仕えているメイドや、樹里がゲーム内で最も推しているキャラであり、どん底にいたときの自分の心を救ってくれたリルベオラスらが現れる。 そして樹里は、絶世の美貌を持ちながらもハイグラの世界では稀代の悪女とされているユーフィニアの実情を知っていく。 国政にまで影響をもたらすほどの悪名を持つユーフィニアを、最愛の恩人であるリルベオラスの妻でいさせるわけにはいかない。 樹里は、ゲーム未登場ながら圧倒的なアクの強さを持つユーフィニアをリルベオラスから引き離すべく、離婚を目指して動き始めた。

処理中です...