angel observer

蒼上愛三(あおうえあいみ)

文字の大きさ
2 / 29
observer

2年後

しおりを挟む
   <あと500メートルを左に、2つ目の建物の屋上から見えるはずだ>
「了解」
 私がこの世界に来て2年が経とうとしていた。
 今となっては、この通り若田利彦の足となり目となるべく天使の観測ポイントへとひた走る。
   目的地の屋上から町は一望出来るけど、毎回同じ場所での観測ではない、天使に気づかれない位置を若田が選びガイドする。それから天使の観測に入る。
<北西の方にタワーがあるだろ。その右どなりの建物の屋上に何か見えないか>
 私は目を凝らし言われた方を見る。いた。しかし会社員風の中年の男が隣にいる。するとその男は、屋上の柵を越え端に立って、今にも飛び降りようとする。
「ねぇ、若、緊急事態よ。あれを使うわ」
<待ってお嬢さんあれはまだ調整不足で>
「じゃあ何のために持たせたのよ。こういう時に使うためでしょ」
少しの沈黙の後、「仕方ないか」と、若が溜め息を吐く。
<装着の仕方を説明する>
「そう来なくっちゃ」
<背面の真ん中のボタンを押す。それから出てきた2本のベルトを肩に巻いて、背中の装置に付ける>
「んっ、翼が生えないぞ」
<そんなはずはない>
 その時、体が急上昇を始めある程度の高さで停止した。背中を見ると、黒く光る翼が生え装置は上手く作動してくれたようだ。
「若、作動した。安定してるからこのまま現場に向かう」
<試運転だし、気おつけてくれ>
「わかっているわ。任せなさいな」
 私は、空を飛んだ事は今までなかったが、思ったより思い通りに動ける。加えて何故だか懐かしいような気がしている。
「行ける」
   屋上の端にいる男はすでに柵から手を離していて、いつでも飛び降りれる体制に入っていた。
 翼は私の意志を理解したかのように速度は増し目標へと向かう。あと少し、
「あら、珍しいお客さんだこと」
「何をしている」
 男は落ち着きなく、私と天使を交互に見ている。「もちろん、迷える子羊を導いていましたのよ」
「何処へ導くというの?」
 私は足音を鳴らしながら男の前に立ち、告げる。
「お前、幸せって何か知っている?」
「そりゃあ、金持ちで、家族がいて」
 男は俯きながら、ボソボソと言う。
「はぁー。全然わかってないな。いいか、幸せというのは、己が生きていること自体が奇跡に近しい幸せなことなんだ。それをお前は、自ら不幸になろうとしているんだぞ」
 天使が割って話し出す。
「そんな情け、この男には必要無いのだわ。死ぬことがこの者の願い。なら無理に引き止めるのは酷な話でなくて」
 私は、怒りをこらえて聞いていたが、そろそろ限界の様だ。
 命の重みを知らない者の言いそうなこどだと、無視出来るほど私は、臨機応変に出来ていない。
「それが、それが天使の言葉なのか。やはりただの人形か」
「なぁに、私にたてつく気なのかしら。いいわ、今に見てなさい。天界に住まう者に逆らうことは、どういうことか」
 静かにしていた男が、いきなり立ち上がり、再びビルの端に立っていた。
 今度は何のためらいもなく飛び降りたが、私は見逃さなかった。
 男の口元が落ちる瞬間に、「タスケテ」と震えながら、私に伝えようとしたのを見過ごしはしない。
    私は背中に付けっぱなしだった飛行用擬似翼の翼を広げ、ビルを飛び降りた。ビルの高さは、50階相当。男はだいたい68Kgほど。だから、だから、だから、アァもう、間に合うなら何でもいい、間に合えぇぇぇ。
「おい、何か降って来るぞ」
「あれ、人じゃね」
「キャアア、人が落ちてくるわ」
「あれ、消えた」
 下にいる民衆は、上空で起こっている出来事を口々に驚嘆の言葉を連ねる。
 どうにか間に合った。
 男は気絶しているだけで、心臓は生きようとしていたのを確認した後、私はビルの屋上に戻って来るなり、天使が驚愕の眼差しを私に向ける。
「どうして、どうしてあなたが人間を助けるの」
「私は自分のしたことが、正しいとか間違ってるとかはどうでもいい。でも自分にしか出来ないことがあるのなら、私は自分の行いに誇りを持って心のままに行動する。それだけのことよ」
 天使はその場にへたり込んでいる。
 何はともあれ大惨事にならなくて良かった。
「angel No.7observe complete」
 天使の頭上に雷の閃光が走り、天使の体を砂に変えてしまう。この光景はこれで7度目。
 どうも慣れない。
 可哀想とか痛そうというのとは、ちょっと違ってただ散るのは、一瞬で儚いものだと毎度のこと思うのである。

   「おかえり」
 私は若の待つ事務所へと戻って来た。
 時刻はすでに夕方の6時半、こちらの世界に来たのもこの時間帯だった。                
 そろそろ若と出会って2年になる。
 つくづく時が経つのは早いものだ。たが、この光景は全く変わり映えしない。
   そもそもことの始まりは、2年前に若の使っているパソコンに差出人不明、日付け無しのメールが不定期に届くようになったという。そして私と出会い、天使を観測することになるわけだが、その天使の位置も謎のメールで送られてくる。
 ただし今回は特殊なことに、郵送で私の使っていた飛行用擬似翼の設計図とパーツが1週間ごとに届いた。
 誰が何のためにこんなことをするのかは未だによくわかってないし、若自身調べるつもりもないらしい。
「いやぁ、誰だかわからないけど、こんな設計図を送ってくれるなんて、こいつは高く売れそうだ。なっ、お嬢さん」
「え、ああ、お金には私、あまり興味ないわ」
私としては、早く飛行用擬似翼の調整をして万全の態勢で次に備えたいのだけれど・・・。
 若は、昼寝してばっかりで毎日コツコツと私がこの装備を組んだのだ。しかし、どういうわけかこの事務所の資金は上向きで、私たちはそれとなく贅沢な昼食を取っていた。
 まぁ、それはおいといて。
 次に天使が現れるのはいつなのか、ただ待つことしか出来ないのは、なんとももどかしい。
「そんな難しい顔してもすぐには終わらないさ。コール(降臨)通知のメールを待つことしか、今は出来ないんだから」
それもそうだが、そのコール(降臨)通知も今のところ正確だからいいものの、誤差が生じればどうなることか。
「そのメールによると、霊感の無い、言わば普通の人間には自然災害に感じるのでしょう。それに私がこの眼で確認しなければ、天使は活動し続けるときた。なら少しは焦りもするわ」
 若は真面目な顔をして言う。
「いや、ここは焦った方の負けだよ。可能性はいくつも分岐している。
 例えば、観測しても活動し続ける天使や、実力行使で戦わなくちゃいけない天使が今後コール(降臨)するかもしない」
 そんなことわかってる。と言いたくなるが私は口を紡ぐ。
 いつかそういう時がくるかもしれないことは。でも私は人間じゃない
 天使でもない。
 若は、「君がなんであれ、心がちゃんとあるんならそれでいいじゃないか」と言ってくれたが、私は悪魔と呼ばれてきたことに変わりはない。
 人が願うから天使はコール(降臨)される。なら私はやはり、その願いを破壊する悪魔でしかないのかもしれない。
 この世界に来てから天使を観測するようになって、私はこの類いの自問自答を幾度となく繰り返すようになっていた。
「まぁ、じっくり腰を据えて待とう、風林火山の心意気でね」
「そうだな。それはそうと少しは、こっちも手伝え」
 私は装備を示して悪態をつく。
「ごめん、ごめん。それ<イカロス>って言う名前みたいだよ」
「その名前、縁起悪そうね」
「擬似的な翼だからじゃないかな。おっと、そろそろ時間だ」
 若はそう言うと、慌てて帰宅する準備を整えてこの部屋を出ていった。
「鍵は掛けといくれ。調整はちゃんと済ませておくから、じゃあまた明日」
 若には両親を早くに亡くした中学生の姪がいるのだとか。
「家族か」
 ここにいてもすることが無いため、夜の街に繰り出そうとドアを開け外に出た。
「冷えるな」
 そろそろ秋を告げる夜風に吹かれ、私はまだまだ寝静まらない街へと歩き出した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

彼の巨大な体に覆われ、満たされ、貪られた——一晩中

桜井ベアトリクス
恋愛
妹を救出するため、一ヶ月かけて死の山脈を越え、影の沼地を泳ぎ、マンティコアとポーカー勝負までした私、ローズ。 やっと辿り着いた先で見たのは——フェイ王の膝の上で甘える妹の姿。 「助けなんていらないわよ?」 は? しかも運命の光が私と巨漢戦士マキシマスの間で光って、「お前は俺のものだ」宣言。 「片手だけなら……」そう妥協したのに、ワイン一杯で理性が飛んだ。 彼の心臓の音を聞いた瞬間、私から飛びついて、その夜、彼のベッドで戦士のものになった。

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
私は、夫にも子供にも選ばれなかった。 その事実だけを抱え、離縁を突きつけ、家を出た。 そこで待っていたのは、最悪の出来事―― けれど同時に、人生の扉がひらく瞬間でもあった。 夫は愛人と共に好きに生きればいい。 今さら「本当に愛していたのは君だ」と言われても、裏切ったあなたを許すことはできない。 でも、子供たちの心だけは、必ず取り戻す。 妻にも母にもなれなかった伯爵夫人イネス。 過去を悔いながらも、愛を手に入れることを決めた彼女が辿り着いた先には――

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

ゲーム未登場の性格最悪な悪役令嬢に転生したら推しの妻だったので、人生の恩人である推しには離婚して私以外と結婚してもらいます!

クナリ
ファンタジー
江藤樹里は、かつて画家になることを夢見ていた二十七歳の女性。 ある日気がつくと、彼女は大好きな乙女ゲームであるハイグランド・シンフォニーの世界へ転生していた。 しかし彼女が転生したのは、ヘビーユーザーであるはずの自分さえ知らない、ユーフィニアという女性。 ユーフィニアがどこの誰なのかが分からないまま戸惑う樹里の前に、ユーフィニアに仕えているメイドや、樹里がゲーム内で最も推しているキャラであり、どん底にいたときの自分の心を救ってくれたリルベオラスらが現れる。 そして樹里は、絶世の美貌を持ちながらもハイグラの世界では稀代の悪女とされているユーフィニアの実情を知っていく。 国政にまで影響をもたらすほどの悪名を持つユーフィニアを、最愛の恩人であるリルベオラスの妻でいさせるわけにはいかない。 樹里は、ゲーム未登場ながら圧倒的なアクの強さを持つユーフィニアをリルベオラスから引き離すべく、離婚を目指して動き始めた。

処理中です...