angel observerⅣ 夢幻未来

蒼上愛三(あおうえあいみ)

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夢幻都市

彼方より来訪せし者

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 ふむ、どうやら死んでしまった私は、その過程において道に迷ってしまったらしい。眼前に広がる摩天楼は一体どこの街なのか。それを思い出そうとするだけで、この光景は見たことがないと即断できてしまう。
「ほえー、すごい数の電光掲示板」
 無数に煌く灯りは、夜だというのに街の隅々を照らし出している。それに加えて、空を浮遊する謎の液晶モニターは上空何台か浮かび、ふわふわと摩天楼を周回している。
 そんな私が座り込んでいるのはこの街の塔のような場所である。その証拠に私の頭上には巨大な鐘が一つ街を見下ろすように備え付けてある。
「目が覚めましたかな」
 声がする。こんな場所で。いやいやそんなはずはないだろう。
「もし。聞こえていると思うのだが」
「聞こえてるけど、降り方もわかんない場所に人なんて」
「いやあなたの後ろにいますよ」
 そう言われて振り返ると本当にいた。けれど見覚えのある人物。
「あなたはあの時の」
「はい、そうですが、そうではないとも言えます。誠に恐縮なのですが、貴殿を見込んでこの世界に転移させていただきました」
 は?
 何言ってるのこの人、ちょっとどころかさっぱり意味がわからないわ。
「あの、それはどういう」
「そうですね。確かにwhyとお想いになるのは無理からぬこと、経緯をお話しするのが先でしたな。では頭からお話しいたしましょう」
 紳士は襟元を正し、一つ咳払いをして語り出す。
 ここは、私が死んで1000年ちょっと経った地球。太陽の膨張が始まりだし、日照時間が延び平均気温が少し上昇したためこのようにカサと呼ばれる外壁を造り太陽光を遮っているのだとか。赤道付近の砂漠は拡大し熱帯雨林は砂漠に侵食されつつあるらしい。しかし恩恵も少なからずあり、太陽光発電が盛んになり技術革新により耐熱処理の進歩と称し、宇宙に大規模な太陽光発電施設を建設した。地球と施設とを繋ぐ天を突くように伸びる軌道エレベーターは『SUNBABEL』と呼ばれ、人々のエネルギー源となっているそうだ。
 紳士によれば、ここで私にやらせたいことがあると言う。
「すまないが私には時間がない」
 スッと手を差し出された紳士の掌は徐々に透けていく。
「私も君と同じようなものだがね。信仰力はこの世界にはほぼ残っていない」
「ちょっと待って、急すぎで何が何かよく理解できないわ」
「要は、信仰力の外にある君の体と神たらんとするその力が必要なのだ。勝手な話だということはわかっている。だがどうか、神々を救ってくれ」
 紳士は最後に端末を取り出し私に渡した。「必要なことはコレに記されている。この時代の情報網にパスが通っている端末だ。持っていると君の助けになるだろう。電源ボタンは横のスイッチだ」
「ちょっ、ちょっ待って、まだ聞きたいことが・・・・・・ある」
 出逢ってまもないにも関わらず、私は見知らぬ世界に取り残されてしまった。
 さてどうしたものかと、私はおもむろに端末のスイッチを押し電源を入れる。ブンと画面が宙に浮き出て、「ようこそ」という文字が浮かび上がる。そして、先ほど消えてしまった紳士が映し出された。
「〈あー。コレを見ているということは端末を起動させたようだ。もし早い段階でこの端末を使っているならきっと・・・、私は伝えるべきことを伝えずに消えてしまったということになる〉」
 自虐的だが、あながち間違いではない。どこまでが伝えるべきことだったのかは知らないが、少なくとも私が情報不足を感じていることは正しい。
「〈きっと私は適当に押し付けて、消えたのではないだろうか〉」
「確かに」
 思わず声が出てしまう。おそらく録画であろうこの映像に文句を言っても仕方ないのだろうとわかってはいるのだけれど・・・。
「〈神々を救えと言っても具体的に何をすればいいかわからないだろう。だが案ずることはない、人探しをしてほしい。そして守り抜いてほしい。期限は三ヶ月、保護対象は星連詩姫音ほづりしきね、13歳、治療と称して研究所に軟禁状態で家族や親族には既に死亡通知が送られており、現在の戸籍なし。秘匿され現在も研究所の地下施設にて生存を確認〉」
「ふーん、でこの子を探して保護しろと」
「〈最後に大事なことがある。彼女の保護にあたり君には最低限の資源と物資が必要なはずだ。この世界では君の半身ともよべる『ハーキー・ジィアン』は残念ながら持ち込めなかった。そのためこちらで用意した武装で、事態の収集をお願いしたい。端末のマップに物資等はビーコンで表示されるはずだ。ここからは君一人だが私は頼むしかない。しつこいようだが、どうかお願いするよ」
 プツッと動画は消えて、端末のホーム画面に、〈一つのメモリーが削除されました〉と表示されている。動画は後から見られないようになっている。
 とりわけするべきことがあるだけまだましだろう。何もすることがなければそれこそ、精神衛生的に悪そうだし。
 端末のマップを開きビーコンの位置を確認する。かなり沢山用意してくれているようで、この街だけでもざっと三十ヶ所ほどあるみたいだ。
「用意周到なのか、心配性なのか。一番近いのは、あれ、ここの建物にあるのか」
 私の現在地の建物の内部に、どうも紳士からのギフトがあると思われる。私は屋上から階下へと繋がる階段を降りて建物の内部へと入っていった。
 中は何もない空きビルだった。そんな空きビルに似つかわしくない金庫のようなものが、隅の方に太々しく鎮座している。近くに寄ってみると「紳士からの贈り物18」と書かれた貼り紙が施されていた。
「雑な貼り紙ね。よくばれなかったものね」
 蓋は簡単に外れ中からは、服と鍵が入っていた。
 この服は、テレビで見た気がする。なんだったかな。うーん、忘れた。この鍵は、金庫とか部屋の鍵ではなさそうね。なんの鍵なんだろう。
 とりあえず着替えよう。私の服は先ほどのままで、腹部が貫通していて周りには酷く飛び散った鮮血が、乾燥して錆色になっている。もちろんのこと私の体に傷は一つもない。
 へぇー、結構ピッタリとする服なのね。それでいて不快感はない。動きやすいし、伸縮性も抜群で何より守られている感じは、よく伝わってくる。コレは服というより防具の一種のようである。
 それにしても、一人きりになるとこうも静かなものだとは・・・・・。随分と私も寂しがり屋になってしまったものだ。気づけば、確かにここ数年は誰かが隣にいてそれが当たり前だと思っていた。でも今は違う。
 解かれた髪をいま一度後ろで束ねて、片方しかない髪留めで一本にまとめる。お手洗いの洗面台にある鏡の前に立ち顔を洗い流し私はペシッと頬を叩き気持ちを入れ直す。
「大丈夫よ、一人だけど絶対に帰る。昔とは違う。私には帰りを待つみんながいるもの」
 お手洗いを出て次の物資回収に向かう。かの紳士が隠した物資や資源は、要するに見つかったらまずいものかあるいは、この世界では何かしらの影響力を持つものだということは推測できる。
 しかし、敵・・・がいるのかどうかはさておいたとしても、少女探しには何よりも足が欲しい。この鍵が私の予想通りなら自動車か自転車かどちらかの鍵であってくれることを願うばかりだ。
 そういえば渡された端末に色々あると紳士は言っていた。なら、この鍵が何か書かれているかもしれない。
 端末を適当にいじってみたがそれらしい説明も明言された文章も出てこない出てくるのはこの服の機能と、マップとくだんの少女の詳細のみだ。
 ふと、思う。この格好は昼間だと相当目立つのではないだろうか。そうなると昼間の行動は極力避けたい。
「なら、即行動ね」
 急ぎ足で数キロメートル離れた次の地点に向かう。幸いにもこの服にはイカロスの劣化版が搭載されているらしく、滞空時間はほとんどないが跳躍力はあり、そのおかげかビルとビルの屋上を飛んで渡れるのは、人目を気にしなくて良いのでありがたい。
 目的地に近づいたが私はあたりに同じマークがあるのが気になった。獅子の頭に魚か爬虫類かのような鱗のある尻尾の奇妙な動物のマーク。
 何処かで見たことがあるけれど、どこだったかな。そんな気分になるが、実際に見たのかどうかはとても曖昧である。
 とっこの高速道路の高架下の倉庫が次の地点であった。早速入ってみよう。役に立つものならいいけど。重い扉を押し開けて中に入ると、埃の被ったカバーの中に一台のオフロードバイクがあった。その燃料タンクにはまたしても、雑に貼られた紙がありそれには『鍵はちゃんと持ってきたかな』と書かれていた。
 そして倉庫の管理室のような場所が二階にあり階段を上り何かないか探ると端末に着信があった。
 画面の『開くのボタン』を押すと、紳士がまた画面に映った。私も吊られて文句を言ってしまいそうになるが、これも録画だろうし私のやろうとしていることには意味はない。
「〈この管理室に何かあると思うのが普通なのだが、それは間違いだ。正解はバイクの横にあるドラム缶三つが正しい。それぞれ、食料、衣服、キャンプ道具が入っている。この倉庫は明日取り壊されることになっている。この動画を見ているということは、無事物資を確保できたようだ。ああ、一つ言い忘れていたが、動画は回収地点に行けば開示されるようにしている。寂しくなったら回収地点を訪ねるといい。同じ動画だが、気晴らしにはなることだろう。では健闘を祈る〉」
 プツリと動画は終わり動画ファイルは削除された。
 まあ、内容を忘れたら回収地点に戻ってくるのはアリかもしれない。けれどどうせなら、もうちょっと役立ちそうなこと教えてくれればいいのに。
 ドラム缶には確かに衣服と食料とキャンプ道具、あともう一つカードが入っていた。『東峰第九製薬株式会社社員パス、ランク研究員A A』と書かれており、コレがきっと星連詩姫音がいる研究所のカードキーというものなのだろう。無くさないように服の袖にあるポケットに入れて、私はそれぞれの道具をバイクのサイド、シートボックスに収納する。ご丁寧なことに端末の情報開示も物資回収の動画同様、ビーコンの地点に来ると開示されるようになっているようだ。
 いわば、物資回収地点はチェックポイントを兼ねているということになるのだろうか。
「さてと、準備終わり。行きますか」
 鍵穴に鍵を挿し、景気良く鍵をひねる。バイクもそれに応じてブロロロンと嘶く。エンジン音は重く骨に直接響くようだが、アクセルのほうは少し軽い音がする。
「ヘルメットをしなくちゃいけないよね。あれー、どこだ」
 ドラム缶の中にはない、また他の場所にもないが、バイクにかかっていたシートの裏に別の貼り紙を見つけた。『ヘルメット用意するの忘れてた。ゴメンねー』という一節がそこにはあった。
「ハハハ、・・・・・嘘でしょ」
 苦笑と絶句が同時に来た。明日にはこの倉庫は取り壊される。バイクと物資を失うのは惜しい。残された道は・・・・・。
 私はバイクにまたがり、アクセルを入れ走り出した。初めて乗るけれど割と簡単なものだ。私はもともと免許もないしもうヘルメットなしでも一緒かと半ば諦めつつ、夜道を駆け出した。
 このバイクには色々と機能がついている。速度メーターの下にもらった端末を嵌め込められたり、ハンドルが武器になったり。後で端末の説明を見ながらゆっくりと使いたいものだ。しかしそうもいかない私は次のポイントに向かう。この街は見かけより大分広いようで、狭く見えるのはドームと高層ビルのせいなのだろう。
 そのまま、ハイウェイに侵入しギアを変えてさらに加速させる。体が後ろに持っていかれそうになるが、なんとか耐えてハイウェイを爆走する。ゴーグルはなかったが、お情け程度のバイザーがシートボックスに入っていたので、間に合わせでそれをつけているが、きっと繁華街なんかに行ったら目立ち過ぎてしまうだろうななどと考えながら走っている。
 あと十五分程で研究所に着くが、すんなり入れてはくれないと思うし、下見だけして行くことにしよう。ただでさえ初めての場所なのだ。計画は緻密に組み上げても悪くないだろう。
 私はハイウェイの脇道にそれハイウェイから降りていく、研究所と次のポイントはかなり近いので、うまくこのチェックポイントを活用していきたい。
「私って、結構働き者よね。でもほとんどただ働きだと思うのは私だけかしら」
 今回のことに対しての報酬が元の時間に戻れるということならば、それは釣り合わない気がする。きっとこの時間の世界の結末には何か大きなことがある。私にとってかなりのプラスとなる何かが。
 それを見極めなくては、ゼロの扉も開けられない状況ならば、大人しくあの紳士に従うのが良策であろう。
 私はハンドルを引きスライドさせて、ブレーキをかける。停止したその先にある冷たい色の建物を見据え私は、キャンプ道具の中に入っていた双眼鏡を片手に様子を伺い、私は再びアクセルを入れて走り出した。
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