angel observerⅣ 夢幻未来

蒼上愛三(あおうえあいみ)

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夢幻都市

混沌の中で

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 ホバーバイクは盛大に砂を撒き散らしながら、砂上を走行すること数時間。やっと次のドームがはっきり見えてくる。傘の上部が開かれて日光を取り入れている。
 出てきた時と同じ容量でドームの外壁を進む。中腹あたりに通用門があったので、そこからこっそりと入った。バイクは通用門のすぐ近くにある地下駐車場に押し込んで、サッと私たちは着ていた砂漠用のジャケットを脱ぎ、普段着に着替え壁内の様子を双眼鏡などで覗き見た。
「キラキラしてる」
「そう・・・ね。それに前のところより外出してる人が多いわ」
 先日までいたドームは真ん中にエレベーターがあったけれど、このドームは真ん中に大樹がありドーナツ状の湖が広がっている。
 全体的に緑の多いドームで、鉄とコンクリートだらけだった前のドームより落ち着く感じがする。
「あの人たちは何してるの」
「ああ、あれはピクニックじゃないかしら。お弁当を持ってお出かけするのよ」
「ふーん」
 人が多いということは、それだけ人目につくということだ。それ故に警戒しなければならないが、あの紳士のメッセージがこのドームにあるとは思えないけれど、あのいけすかない紳士のことだ。何かしらの方法でこちらにヒントのようなものを残しているかもしれない。
 まずは雑踏に紛れるとしよう。端末を手に取り地図を開く。
「端末さん、この辺りに身を潜められそうな場所ってあるかしら」
「お待ち下さい。検索結果、三件。その他、一件」
 端末さんが表示したのは、湖畔の大樹の真下、それからドーム付近の建物、歓楽街のど真ん中。これは多分地下だろう。そして湖畔のほとり。
「この湖畔の近くがその他の案なのね」
「はい、キャンピング客に紛れる案です。費用はかかりませんが、寝込みを襲われる可能性があります」
「うーん。却下ね、詩姫音の体力が持たないわ。食事も大事だけど、あの子には落ち着ける場所が必要よ」
 私は残りの三件について端末さんに教えてもらう。どこもそれなりにリスクはある。大樹の真下は確かに人の出入りは少ないが、こちらも容易には脱出できない。ドーム付近の建物は無人だが、数時間おきに見回りのドローンが飛んでいるという。地下は攻め込まれたら逃げ場がない。
「さて、どうしたものか」
「お嬢様、新たな信号を受信。歓楽街の方からです」
「紳士の置き土産か何かかしら」
 私たちは早速、人と人の間を脱いながら歓楽街の入り口に足を踏み入れた。昼間だからか、看板は電気がついていない。けれどもそれなりに人がいるので、詩姫音は物珍しそうに行き交う人に目配せしている。
「ココね」
 鉄のドアのノブをひねり押し開けると、金具がキィと錆の擦れる音を出す。ドアの先は地下へと降りていく。
 端末さんが示していた場所は、潜伏地候補の地下部屋だった。折角、ここまで来たわけだ、もうここに身を潜めようか。
 階段を降り切るとコンクリートの部屋があり、真ん中に絨毯とソファ。それから部屋の端にキッチンと冷蔵庫。そして奥にバスルームがあり、いかにも準備した感がある部屋がそこにある。
「データ、ロード開始・・・完了。お嬢様メッセージが一件ありますが、開きますか」
「お願い」
「かしこまりました。再生します」
 ザザと端末さんの画面が切り替わり、あの紳士が帽子を目深く被っている姿が映る。
「やあ、このメッセージを見ているということは、順調にここまで来れたと見ていいのかな。僭越ながら、生活環境を整えておいたから、存分に活用して欲しい。キッチンにコンロはないから、サバイバルキットのコンロを使ってくれ。あと申し訳ないがベッドは手配できなかった。だからか、寝袋で寝るかソファで寝るか君たちに任せる。それから、絨毯の下に穴を開けておいたから、逃げる際はそれも活用してくれて構わない。次の行き先は端末君にでも聞いてくれ、この動画は録画だから質問についてはまた次の機会に、では頑張ってくれ」
 頑張ってくれ、ね。気楽に言ってくれるものだ。ここに来るまでに、鋼機とかいうロボットを何機か街中で見た。ここに居続けるのもそう簡単なことではない。
 そういえば、絨毯の下に通路があるみたいだから、確かめておくとしよう。いざという時に使えなくては意味がない。
「詩姫音、ちょっと下の通路を見てくるから、適当にくつろいでて」
「うん、いってらっしゃい」
 詩姫音に端末さんを渡して私は一人、地下のさらに地下に進む。
 通路は人一人が通れるくらいの広さだが、私たちはどちらかといえば、小さい方なので無理をすれば、ギリギリ二人通れなくもないだろう。
 薄暗い通路を進むと、籠型のエレベーターがありレバーを引いて上昇するようだ。どこに出るかだけでも見ておきたい。
 私はレバーを引きエレベーターを動かす。次第に明るくなると外には、ドーナツ状の湖がよく見える。かなり高い所まで来たものだ。ここは歓楽街の電波塔か。展望室などない、ただの送受信用の電波塔。こんなとこに出ても今の私は飛べないのだが、エレベーターは停止し、頂上よりも少し低い位置の作業場のような場所で降りる。鉄板の床は格子状になっているため、地上が丸見えだ。エレベーターの横には避難用の梯子があり、おそらくコレで下りろというわけなのだろうが、詩姫音は高い所大丈夫なのかな。
「飛べれば楽なのに。はぁあ」
 私は地下部屋に戻ってきた。詩姫音はコンロを出してお湯を沸かしている。通気口もたくさんあるし、ガスの心配はないが何を作るつもりなのか私は尋ねてみた。
「お湯で何するの」
「お茶を入れるの、お姉ちゃんも飲む」
「いただくわ。もういいんじゃない、沸騰してるわよ」
 茶葉か。どこから持ってきたのだろう。ふとそんな疑問を抱き、再び詩姫音に尋ねる。
「茶葉はどこから」
「前のおウチ」
「そう、前の家か」
 気がつかなかった。それならわざわざ、買いに行ったり、ろ過機で水作ったりしなかったのに。
「はい、できたよ」
「ありがと」
 若の家にあったきゅうすは今持っていないので、詩姫音は水筒に茶葉ごと湯を入れ、携帯ろ過機を水筒の口に取り付けお茶を入れる。
 美味しい、程よく温かいお茶が、地下の底冷えを和らげてくれる。2、3週間はバレずに済むとは思うが、扉だけでは心許ない。
「端末さん。なんかこう、侵入をいち早くわかるようになる装置とかはないかしら」
「残念ながら、現状では資材不足でカメラ一つ組むことはできません。ですが、部屋の家具でバリケードを築くことは、現状では最適と思われます」
「冷蔵庫とソファくらいしか役に立たないわね」
 やれやれと、お茶を啜る。実に苦い状況である。端末さんの感知範囲をなんとかフル活用して過ごすほかない。それでもドア付近まで接近を許してしまうのは仕方のないことであろう。
 その時、バチんと何かが弾ける音が室内に響き、コンクリートの空間は闇に包まれた。
「ひゃう」
 詩姫音が小さな悲鳴を上げる。端末さんの画面だけが煌々を輝き、私の顔を照らし出す。
「ブレーカーのヒューズが飛びました」
「了解。詩姫音、すぐに戻すからちょっと待っててね」
 冷蔵庫のすぐ上にあるブレーカーを元に戻すと室内は再び明かりを取り戻す。
「よし、着いた、着いた。さて、端末さん次の行き先を教えてちょうだい。詩姫音も一応聞いておいてね」
 そう言うと、詩姫音ちょこちょここちらにやってきて私の懐に収まって端末さんを見ている。詩姫音が落ち着くと言うのなら仕方ないけれど、私はちょっと画面が見えづらいので、詩姫音の横から失礼して端末さんの画面をのぞいた。
「端末さん地図も一緒出して説明お願いできる」
「かしこまりました。準備完了、マップを展開。次の目的地の説明に入ります」
 机と水平に置いた画面から、ホログラムの地形図が室内に広がる。照明は少し暗くしてあるので青白いホログラムもよく見える。
「現在がこのドーム、検索の結果駐屯する敵勢力は、少数と思われこのドームは比較的発見されにくいと言えます。しかし、長期の滞在は危険であり、そのため移動しなければなりません。そこで、次の目的地として、私は二つ先のドームまで移動することを推奨します」
「二つ先か、どれくらいの距離なの」
「前回のドームから現在のドームまでの距離の十五倍ほどの距離になります。約五週間ほどの旅となる恐れあり」
 詩姫音がひょいと地図を指差して、端末さんに話しかける。
「この線はなんなの」
 三つ目のドームと四つ目のドームの間にギザギザとした線が引かれている。確かに私も気になる。
「この線は海岸線です。四つ目のドームは海上に存在しています。敵の侵入には時間がかかるかと」
「ホバーバイクなら移動できるってことね」
「その通りです。しかし、港口以外に侵入路はなく、ここの突破が最大の難所です」
 今のところ、詩姫音は元気そうにしているが、五週間となると彼女の体力も気がかりだ。なんといってもがなければ外の世界に影などない。昼は熱砂が襲い、夜は底冷えが体力を奪うのだ。
 けれど、一つ助かったことは詩姫音が病原菌の類いにしっかりと免疫を持っていたことは、私の心配ごとが減るのでありがたい。無菌室のような場所にいたため、気になってはいたが、どうやら杞憂だったようだ。
 今日でそろそろ2ヶ月目の折り返し、後の半分を乗り越えればあの紳士はまた現れてくれるのだろうか。その点に関しては何にも説明がない。みんなどうしてるかな。
「端末さん、警備が手薄になるのは何時頃かわかる」
「申し訳ありません。警備の態勢や配置はプロテクトが強固で取得不可能なデータです」
「そっか」
 期待していたわけではないが、行き当たりばったりで行けるほど楽じゃないと思う。侵入口が港だけとなると、カサを乗り越えるのに燃料が相当必要だし、海に入ってしまえば止まることはできないから、そこまで燃料が持つか。いや無理だろうな。
「あー、飛べればなぁ」
 何度も何度も言いたくなる。飛べないことがこれ程に障害となりうるとは、なんとういことだ。今の私はちょっと頑丈な人間でしかない。
 その時、詩姫音が海上ドームの一つ前のドーム付近の一角を指差す。
「これがどうかしたの」
「翔べるよ、お姉ちゃん」
「なるほど、それは失念してました。訂正し、詩姫音様のプランを再算出。完了」
 端末さんが改めて表示したのは、旧市街地のにある軍事基地で、そこには短距離弾頭発射装置があるのだとか。むしろなんでこんなとこに。
「罠っぽくない」
「衛星写真で確認したところ、無人と思われます」
 1ヶ月以上も砂漠を彷徨うよりはマシなのかな。私は加速に耐えれても、詩姫音は耐えられない気がするが。
「それにおいてはお任せを明後日までになんとかしてみます」
 そうなると少し時間が開くわけか。詩姫音を外に連れて行ってあげたいけど見られるわけにはいかない。フードを被せて出歩くしかないかな。
 明日の予定は明日立てることにしよう。そう思い、今日は休む準備をして早々に休むことにした。詩姫音もちょうど大きなあくびをしていた頃合いだから、その方が良いだろう。そして私たちは新居で久しく安心して眠りについた。
 

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