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大地の章
和泉のほとりで
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頭がズキズキと痛む。覚醒が近いと体が動き出そうとして、筋肉に力を入れようするが、まず腕を上げたはずなのに全く上がらない。
「あっあっ・・・」
「目を覚ましたのね。よく眠れたかしらゼウス」
優しい声のする方に目線をやると、そこにはテテュスが私の隣に座ってこちらの顔色を伺っていた。
首と瞼と目が少し動く程度で体は全く思う通りに動かないでいた。そればかりか、ついこの前のオケアノスのように私も和泉の中に放り込まれていた。服は着ていなかった。
ちょっと恥ずかしい。
「あなたはコイオスとクリオスに運ばれて来たのよ。あの子達に感謝なさいな。本当に愚かなことをしたものだわ」
「・・・・・」
テテュス、もしかして怒っているのかな。
「あら、よくわかっているじゃないですか。私は怒っています。もちろんあなたに、そして私にも」
しかしながら相変わらず微笑みを向けてくる。その圧はとてもじゃないが顔を背けたくなる。
オケアノスが以前、テテュスをあまり怒らせたくないと言っていた意味がわかった。というより今も身に染みて理解しているのだけれど・・・。
それはそうとここはエデンだここでの時間経過は相当早い。確かエデンでの一年は人間界の十分程度だったはずだが、私は一体どれほど眠り続けたのだろうか。
とにかく聞いてみよう。
「い・・・」
「んっ、何ですか。もう一度お願いしますわ」
「い・・・つ・・・・・」
「ああ、そうでしたね。それをお教えしないと。あなたは一年と半年ほど眠ってましたよ。安らかな眠りでしたか」
安らかな眠りって、まだ死んだわけじゃないと思うが、うん。でも夢も見なかったしそういう意味では安らかな眠りだったと思う。それよりも一年半ということは十五分くらいかもう少し治療が必要なようだし、というか体動かないし。家を出たのが昨晩で二時間くらい砂漠にいて、戦って、運良く助かって、それから十五分か。
今頃は日本は朝日が昇る頃だろうな。あと二時間で治るかな。人間界で二時間だとエデンでは・・・・・二十四年。いやいや幾ら何でも治るだろそれは。
あれやこれや考えているとテテュスがグラスを取り出した。
「さっ薬の時間ですよ。とっても苦いので身体に良いはずです。うふ」
あー。終わった、これはマズイ今命の危機が迫りつつある。しかし私はこんなにも無力かつ無抵抗なのだ。
グラスが唇に触れる。薄気味悪い色の液体が身体に流し込まれていくのを、液体が舌を撫でて行くたびに痛感する。
「ムグッウグッ」
「あらまあ、大変もうあと三種ほどお薬があるのを忘れてましたわ。取りに行って参りますね」
何だと。こんなに不味くて胃を掻き乱されるような薬があと三種もあるというのか、彼女の言う通り苦いとにかく苦い。色からの情報どおりの味だった。
すると私の頭の方で人の気配がする。誰だろうか。ここに敵はいないので警戒は必要ないだろうけど。
「ざまあ。と開口一番に言っておこうか」
「・・・・・」
「そうだったな。口はきけないのだったな。それにしても過信か慢心か油断していると次は死が待っている。我々の場合は消滅だがな」
意外なことにやって来たのはクロノスだった。見舞いに来たのではなく嫌味を言いに来たらしいが、それは不器用の裏返しである彼なりの、父なりの優しさだと私は思う。
以前から父さんは不器用なことを認めていた。母さんに気持ちを伝えるのも苦労したとか言っていたっけ。
「うむ、だからこそ生きていて良かったな。今度ばかりは俺も干渉する羽目になる。一連の騒動には何らかの因果関係が潜んでいる。俺が一人称を『俺』と言ったり『私』と、かしこまったりするように事象には意味がある。怪我が治ったら、まず戦いではなくその意味を突き止めるがいい。それがゆくゆくは敵の急所になるやもしれん」
なるほど、言い方は違ってもウェスタやプルト達が言っていたことと同じことだ。
「・・・・・私は、間違ったのかな」
思わず言葉が漏れ出た。いや、その前に私話せるようになっていないか。喜んでいいのかな、ううん。喜んでいいんだよね。
「やったー、話せる。いててて、腰が」
とはいってもこんな唐突に容体が良くなるものなのか。
これが和泉の力なのか。すごいな。
「大分良くなったみたいだな。なら俺は行く。またどこかでな」
「あっちょっと待っ」
クロノスは私が話せるとなるといなくなってしまった。と表すより消えたという方がいいかもしれない。
「もう、また勝手にいなくなるんだから」
話せるようになったことと同時に神経系も繋がったのか痛みを感じるようになった。
「お薬をお持ちしましたよ。あらどなたかいらしたのではないのですか。お声が聞こえましたのに」
「クロノスだよ。すぐにいなくなっちゃたけど、さっきまではいたんだ・・・ここに」
「そうでしたか。あの子ももう罪は許されているというのに。それが彼の背負うべき業なのでしょうね。男の方はよくわかりませんわ」
「そうだね。意地とか、仁義とか。そういった恩義に答えるみたいなスタンスは私にもよくわからないけど、父さんの自分を許せない気持ちは分かる気がする」
テテュスは柔らかく微笑み「・・・そうですか」と呟いた。
私も時折どうしようもなく自分が許せなくなる。この非力で未熟な自分自身が嫌になる。
それでも、弱くてもいいのだと言ってくれる人たちがいる。だから私もそれでいいのだと思っていた。けれどやはり私は弱いままだ。
「調子はどうかね」
「あら、あなた。まだ休んでなくていいの」
「ああ、問題ない日常生活には支障はないだろう。戦闘は無理だがね」
「オケアノス・・・・・」
私の思考を遮って現れたのはオケアノスだった。見舞いに来た風ではなさそうだ。
「単刀直入に聞くが誰にやられた」
「誰って、そうね」
確か身体は普通に人のそれだったけど脚はなくて代わりに蛇の体をしていて、羽根がコウモリものに似ていたような。
「砂塵と吹雪でよくは見えなかったわ。シルエットと、間合いを詰めた時に少しだけ見えたくらいね」
「うむ・・・・・やつ、か」
「誰かわかったの、アイタタタ」
声を大きく出してしまい傷が痛む。
「そいつは女だったか」
「ええ、そうよ」
「そうか」
「もう焦らさないで、さっさと教えてよ」
「エキドゥナ。ウラノスの血池から作り出されたガイアの恨みの化身。怨念の塊だとされている。まさか奴が地上に現れようとはな」
エキドゥナ。それが私をいともたやすく倒した相手の名前らしい。
「強い相手なの」
「ガイアの尖兵としては優秀な方だろうな。フッしかしなんともまあ」
むっ、オケアノスがまた私を馬鹿にしたような笑い顔を浮かべている。
「いけませんわよ。オケアノス、女の子を虐めては」
テテュスが私の代わりにオケアノスの耳を引っ張り抗議する。
「アイタ。わかった、いやわかりました」
「まったく。あなたも凝りませんわね」
「いやなに、彼女がよくも生きていたなと思うとついね」
「どういう意味よ」
「言葉の通りだよ。それよりだいぶ治ったはずだ。立つのは無理だが座るくらいはできると思うが」
オケアノスに言われて、腕に力を入れ身体を起こすと確かに和泉の淵に持たれる形で座れるようになっていた。上半身が久方ぶりの外気に触れるた気がした。
「オケアノス、その悪いんだけどはずしてくれないかしら」
「ああ、そうですわね。あなたは出て行ってくださいな」
やはり顔見知りでも素肌を異性に見られるのは恥ずかしいのだ。
私も一応は女子だし。
「なぜだね、まだ話が・・・あっちょっちょっ、ドワァ」
テテュスがオケアノスをぐいぐいと茂みに押しやって戻って来た。
「待っててくださいまし、今着るものをお持ちしますね」
テテュスはそう言うと少しの間席を外して戻ってくると手にはしい布と私の制服を持っていた。
「それ私の制服」
「クリオスが置いて行きましたわ。せめてこの役目くらいは果たしたいと泣いていたのですよ」
「そう、あの二人にも迷惑かけちゃたな。戻ったら謝らないと」
そう呟くと、テテュスは首を横に振って
「いえ、彼女もあなたのように無力だと嘆いていました。故に妹たちにも、力は力でしかないと伝えてあげてくださいな。あなたたちにはあなたたちにしか出来ないことがあると伝えてやって欲しい。お願いしますね」
「うん、ちゃんと伝えるね」
テテュスは和泉に入って私に布を巻きつけて服のようにしてくれた。あとは治ったら帰っていいと言い残して茂みの中に去って行ってしまった。
歩けるほどには回復したので、和泉を出て制服に着替える。そしてゼロの扉から学校へと思ったが一度、家に寄ってから行こうと思った。
「真理亜の朝ごはんは食べなきゃ損よね」
私の部屋に戻ってくるとコイオスとクリオスがこちらを見ていた。
「姉様」
「ネーダマー」
二人は泣きながら抱きついて来た。クリオスに至ってはもうちゃんと言えてない。
「ただいま。ほらもう泣くのはやめて、朝ご飯にしよ。真理亜なら起きてる時間だし」
「「はい」」
私たちは二階の自室から下の居間に降りると、茶碗にはご飯そしてその隣に味噌汁、漬物それから鰆の西京焼き。大皿には肉じゃががすでに三人分、机に用意されていた。
「おかえりなさい。ヒルデさん、なにをして来たのかは聞きませんがおなか空いてると思ってたくさん作りましたよ。叔父さんは多分まだ起きてこないので三人で食べちゃってください」
「えっと、うん。ありがとう。真理亜には敵わないな」
「いいえそれほどでも。起きた時ヒルデさんの部屋の扉が開いてたので、中をのぞいたらみんないないし、それで気づいたんです」
「そう・・・なんだ」
初めから私はミスしていたわけだ。うん、そう上手くは行かないみたいだな。
でも私はやらなくては、真理亜は学校へ一足先に行ってしまった。ご飯を食べた後の片付けはコイオスに任せ、私も学校へ行く支度をする。
「さてと、私もそろそろ行くわ。あとよろしくね」
「はい、なのです」
「いってらっしゃいませ。姉様」
ガラッと玄関のドアを開け、学校へ向かう。ここから学校までは河川敷を通り、都市部の手前まで行くのだが、その河川敷を通り切り、都市部方面に向かう時に左手の痣が久しく疼いた。
「イッ。なに」
見ると脈打つように痣が浮き沈みしている。それも一瞬で次第に痛みも収まり、痣は元の状態に戻った。
「あのう。何をしているんですか」
「わっ、ああ、水季か」
「何ですか。私だったら残念なんですか。私、悲しいです」
「違う違う。水季で良かったと思った。むしろ水季じゃないと嫌だな」
「いやあ。照れますねぇ」
何というか。調子がいいのかどうなのか。一年前とは比べるべくもなく、水季は明るくなったと思う。
「なんか変わったね」
「そうですか。だとしたら嬉しいです」
いつものように学校の門をくぐる。すると、不意に違和感を感じ、あたりを見回す。
「どうしたんですか」
「いや、ちょっと何かが」
私はすかさず運動場の方へ走り出した。「先輩」と水季が呼び止める声が後ろから小さく聞こえた。
何かが潜んでいる。そう私の頭が告げ、体がその何者かの場所へ連れて行く。花壇の陰に隠れて運動場をそっと覗くと、奴はいた。
「エキドゥナ」
なんであいつがここに、さっきまでアフリカの砂漠の中だったはずなのに。
アフリカにいた時のように砂塵も吹雪も纏っていなかった。外見はオケアノスが話していた通りの姿だ。そしてギロリと鋭い眼光がこちらを凝視する。身をかがめたが、少し遅かった。鋭利な爪を振って斬撃を飛ばしてくる。それを私は殺気として感じとり、間一髪それを避けることができた。けれども、私はまんまと敵の視界に姿を晒す結果となった。
「これはこれは。わたしは運がいい、今度こその体食ろうてやるわ」
げえ、まだ諦めていないの、恐怖とは別の感情がまさに今生まれようとしている。
倒すことは無理でも、追い出すくらいはできるはず。視界もいい、それに次は一人で戦わない。
私は腰のホルダーに入れているレコードを取り出し適当なページを開き、天使を召喚する。
「ゼウスの名において集え、天に使えし我が友よ。その名はangel」
レコードは熱と光を放ってひとりでに浮遊し、天使を次々と召喚していった。その数は十数人。回復に富むものや筋力に富むもの様々である。
「みんな、私に力を貸して」
「有象無象が集まろうとも塵に返してやろう」
私は剣を引き抜き、猛るように声を上げる。
「戦闘開始」
一斉に敵に向かって駆け出した。
「あっあっ・・・」
「目を覚ましたのね。よく眠れたかしらゼウス」
優しい声のする方に目線をやると、そこにはテテュスが私の隣に座ってこちらの顔色を伺っていた。
首と瞼と目が少し動く程度で体は全く思う通りに動かないでいた。そればかりか、ついこの前のオケアノスのように私も和泉の中に放り込まれていた。服は着ていなかった。
ちょっと恥ずかしい。
「あなたはコイオスとクリオスに運ばれて来たのよ。あの子達に感謝なさいな。本当に愚かなことをしたものだわ」
「・・・・・」
テテュス、もしかして怒っているのかな。
「あら、よくわかっているじゃないですか。私は怒っています。もちろんあなたに、そして私にも」
しかしながら相変わらず微笑みを向けてくる。その圧はとてもじゃないが顔を背けたくなる。
オケアノスが以前、テテュスをあまり怒らせたくないと言っていた意味がわかった。というより今も身に染みて理解しているのだけれど・・・。
それはそうとここはエデンだここでの時間経過は相当早い。確かエデンでの一年は人間界の十分程度だったはずだが、私は一体どれほど眠り続けたのだろうか。
とにかく聞いてみよう。
「い・・・」
「んっ、何ですか。もう一度お願いしますわ」
「い・・・つ・・・・・」
「ああ、そうでしたね。それをお教えしないと。あなたは一年と半年ほど眠ってましたよ。安らかな眠りでしたか」
安らかな眠りって、まだ死んだわけじゃないと思うが、うん。でも夢も見なかったしそういう意味では安らかな眠りだったと思う。それよりも一年半ということは十五分くらいかもう少し治療が必要なようだし、というか体動かないし。家を出たのが昨晩で二時間くらい砂漠にいて、戦って、運良く助かって、それから十五分か。
今頃は日本は朝日が昇る頃だろうな。あと二時間で治るかな。人間界で二時間だとエデンでは・・・・・二十四年。いやいや幾ら何でも治るだろそれは。
あれやこれや考えているとテテュスがグラスを取り出した。
「さっ薬の時間ですよ。とっても苦いので身体に良いはずです。うふ」
あー。終わった、これはマズイ今命の危機が迫りつつある。しかし私はこんなにも無力かつ無抵抗なのだ。
グラスが唇に触れる。薄気味悪い色の液体が身体に流し込まれていくのを、液体が舌を撫でて行くたびに痛感する。
「ムグッウグッ」
「あらまあ、大変もうあと三種ほどお薬があるのを忘れてましたわ。取りに行って参りますね」
何だと。こんなに不味くて胃を掻き乱されるような薬があと三種もあるというのか、彼女の言う通り苦いとにかく苦い。色からの情報どおりの味だった。
すると私の頭の方で人の気配がする。誰だろうか。ここに敵はいないので警戒は必要ないだろうけど。
「ざまあ。と開口一番に言っておこうか」
「・・・・・」
「そうだったな。口はきけないのだったな。それにしても過信か慢心か油断していると次は死が待っている。我々の場合は消滅だがな」
意外なことにやって来たのはクロノスだった。見舞いに来たのではなく嫌味を言いに来たらしいが、それは不器用の裏返しである彼なりの、父なりの優しさだと私は思う。
以前から父さんは不器用なことを認めていた。母さんに気持ちを伝えるのも苦労したとか言っていたっけ。
「うむ、だからこそ生きていて良かったな。今度ばかりは俺も干渉する羽目になる。一連の騒動には何らかの因果関係が潜んでいる。俺が一人称を『俺』と言ったり『私』と、かしこまったりするように事象には意味がある。怪我が治ったら、まず戦いではなくその意味を突き止めるがいい。それがゆくゆくは敵の急所になるやもしれん」
なるほど、言い方は違ってもウェスタやプルト達が言っていたことと同じことだ。
「・・・・・私は、間違ったのかな」
思わず言葉が漏れ出た。いや、その前に私話せるようになっていないか。喜んでいいのかな、ううん。喜んでいいんだよね。
「やったー、話せる。いててて、腰が」
とはいってもこんな唐突に容体が良くなるものなのか。
これが和泉の力なのか。すごいな。
「大分良くなったみたいだな。なら俺は行く。またどこかでな」
「あっちょっと待っ」
クロノスは私が話せるとなるといなくなってしまった。と表すより消えたという方がいいかもしれない。
「もう、また勝手にいなくなるんだから」
話せるようになったことと同時に神経系も繋がったのか痛みを感じるようになった。
「お薬をお持ちしましたよ。あらどなたかいらしたのではないのですか。お声が聞こえましたのに」
「クロノスだよ。すぐにいなくなっちゃたけど、さっきまではいたんだ・・・ここに」
「そうでしたか。あの子ももう罪は許されているというのに。それが彼の背負うべき業なのでしょうね。男の方はよくわかりませんわ」
「そうだね。意地とか、仁義とか。そういった恩義に答えるみたいなスタンスは私にもよくわからないけど、父さんの自分を許せない気持ちは分かる気がする」
テテュスは柔らかく微笑み「・・・そうですか」と呟いた。
私も時折どうしようもなく自分が許せなくなる。この非力で未熟な自分自身が嫌になる。
それでも、弱くてもいいのだと言ってくれる人たちがいる。だから私もそれでいいのだと思っていた。けれどやはり私は弱いままだ。
「調子はどうかね」
「あら、あなた。まだ休んでなくていいの」
「ああ、問題ない日常生活には支障はないだろう。戦闘は無理だがね」
「オケアノス・・・・・」
私の思考を遮って現れたのはオケアノスだった。見舞いに来た風ではなさそうだ。
「単刀直入に聞くが誰にやられた」
「誰って、そうね」
確か身体は普通に人のそれだったけど脚はなくて代わりに蛇の体をしていて、羽根がコウモリものに似ていたような。
「砂塵と吹雪でよくは見えなかったわ。シルエットと、間合いを詰めた時に少しだけ見えたくらいね」
「うむ・・・・・やつ、か」
「誰かわかったの、アイタタタ」
声を大きく出してしまい傷が痛む。
「そいつは女だったか」
「ええ、そうよ」
「そうか」
「もう焦らさないで、さっさと教えてよ」
「エキドゥナ。ウラノスの血池から作り出されたガイアの恨みの化身。怨念の塊だとされている。まさか奴が地上に現れようとはな」
エキドゥナ。それが私をいともたやすく倒した相手の名前らしい。
「強い相手なの」
「ガイアの尖兵としては優秀な方だろうな。フッしかしなんともまあ」
むっ、オケアノスがまた私を馬鹿にしたような笑い顔を浮かべている。
「いけませんわよ。オケアノス、女の子を虐めては」
テテュスが私の代わりにオケアノスの耳を引っ張り抗議する。
「アイタ。わかった、いやわかりました」
「まったく。あなたも凝りませんわね」
「いやなに、彼女がよくも生きていたなと思うとついね」
「どういう意味よ」
「言葉の通りだよ。それよりだいぶ治ったはずだ。立つのは無理だが座るくらいはできると思うが」
オケアノスに言われて、腕に力を入れ身体を起こすと確かに和泉の淵に持たれる形で座れるようになっていた。上半身が久方ぶりの外気に触れるた気がした。
「オケアノス、その悪いんだけどはずしてくれないかしら」
「ああ、そうですわね。あなたは出て行ってくださいな」
やはり顔見知りでも素肌を異性に見られるのは恥ずかしいのだ。
私も一応は女子だし。
「なぜだね、まだ話が・・・あっちょっちょっ、ドワァ」
テテュスがオケアノスをぐいぐいと茂みに押しやって戻って来た。
「待っててくださいまし、今着るものをお持ちしますね」
テテュスはそう言うと少しの間席を外して戻ってくると手にはしい布と私の制服を持っていた。
「それ私の制服」
「クリオスが置いて行きましたわ。せめてこの役目くらいは果たしたいと泣いていたのですよ」
「そう、あの二人にも迷惑かけちゃたな。戻ったら謝らないと」
そう呟くと、テテュスは首を横に振って
「いえ、彼女もあなたのように無力だと嘆いていました。故に妹たちにも、力は力でしかないと伝えてあげてくださいな。あなたたちにはあなたたちにしか出来ないことがあると伝えてやって欲しい。お願いしますね」
「うん、ちゃんと伝えるね」
テテュスは和泉に入って私に布を巻きつけて服のようにしてくれた。あとは治ったら帰っていいと言い残して茂みの中に去って行ってしまった。
歩けるほどには回復したので、和泉を出て制服に着替える。そしてゼロの扉から学校へと思ったが一度、家に寄ってから行こうと思った。
「真理亜の朝ごはんは食べなきゃ損よね」
私の部屋に戻ってくるとコイオスとクリオスがこちらを見ていた。
「姉様」
「ネーダマー」
二人は泣きながら抱きついて来た。クリオスに至ってはもうちゃんと言えてない。
「ただいま。ほらもう泣くのはやめて、朝ご飯にしよ。真理亜なら起きてる時間だし」
「「はい」」
私たちは二階の自室から下の居間に降りると、茶碗にはご飯そしてその隣に味噌汁、漬物それから鰆の西京焼き。大皿には肉じゃががすでに三人分、机に用意されていた。
「おかえりなさい。ヒルデさん、なにをして来たのかは聞きませんがおなか空いてると思ってたくさん作りましたよ。叔父さんは多分まだ起きてこないので三人で食べちゃってください」
「えっと、うん。ありがとう。真理亜には敵わないな」
「いいえそれほどでも。起きた時ヒルデさんの部屋の扉が開いてたので、中をのぞいたらみんないないし、それで気づいたんです」
「そう・・・なんだ」
初めから私はミスしていたわけだ。うん、そう上手くは行かないみたいだな。
でも私はやらなくては、真理亜は学校へ一足先に行ってしまった。ご飯を食べた後の片付けはコイオスに任せ、私も学校へ行く支度をする。
「さてと、私もそろそろ行くわ。あとよろしくね」
「はい、なのです」
「いってらっしゃいませ。姉様」
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「イッ。なに」
見ると脈打つように痣が浮き沈みしている。それも一瞬で次第に痛みも収まり、痣は元の状態に戻った。
「あのう。何をしているんですか」
「わっ、ああ、水季か」
「何ですか。私だったら残念なんですか。私、悲しいです」
「違う違う。水季で良かったと思った。むしろ水季じゃないと嫌だな」
「いやあ。照れますねぇ」
何というか。調子がいいのかどうなのか。一年前とは比べるべくもなく、水季は明るくなったと思う。
「なんか変わったね」
「そうですか。だとしたら嬉しいです」
いつものように学校の門をくぐる。すると、不意に違和感を感じ、あたりを見回す。
「どうしたんですか」
「いや、ちょっと何かが」
私はすかさず運動場の方へ走り出した。「先輩」と水季が呼び止める声が後ろから小さく聞こえた。
何かが潜んでいる。そう私の頭が告げ、体がその何者かの場所へ連れて行く。花壇の陰に隠れて運動場をそっと覗くと、奴はいた。
「エキドゥナ」
なんであいつがここに、さっきまでアフリカの砂漠の中だったはずなのに。
アフリカにいた時のように砂塵も吹雪も纏っていなかった。外見はオケアノスが話していた通りの姿だ。そしてギロリと鋭い眼光がこちらを凝視する。身をかがめたが、少し遅かった。鋭利な爪を振って斬撃を飛ばしてくる。それを私は殺気として感じとり、間一髪それを避けることができた。けれども、私はまんまと敵の視界に姿を晒す結果となった。
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げえ、まだ諦めていないの、恐怖とは別の感情がまさに今生まれようとしている。
倒すことは無理でも、追い出すくらいはできるはず。視界もいい、それに次は一人で戦わない。
私は腰のホルダーに入れているレコードを取り出し適当なページを開き、天使を召喚する。
「ゼウスの名において集え、天に使えし我が友よ。その名はangel」
レコードは熱と光を放ってひとりでに浮遊し、天使を次々と召喚していった。その数は十数人。回復に富むものや筋力に富むもの様々である。
「みんな、私に力を貸して」
「有象無象が集まろうとも塵に返してやろう」
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「戦闘開始」
一斉に敵に向かって駆け出した。
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