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大地の章
小さな戦場
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武器も様々で剣のように前時代的な武器から、ハンドガンみたいな近代的な銃火器を持っているものもいる。
「寄せ集めでも、出来ることはある」
「吹き飛べ」
エキドゥナの強烈な尻尾の殴打で何人かが吹き飛ぶ。その隙を突いて上から一直線に剣を振り下ろした。しかしさすがと言わざるおえないが、彼女は爪で剣を押しとどめている。
「あなたアフリカにいたはずでしょ。なのになんでここにいるのよ。それに学校の人たちはどうしたの」
「御託が多いぞ小娘が」
地中からの尻尾による攻撃を後方に回転し回避した。二度も同じ攻撃を喰らうわけにはいかない。それに今は飛んでいるので避けるだけなら容易だった。
「まあよい。これからの食おうというのだ心残りは味を悪くする。答えてやろうとも。私は一つであって一人ではないというだけのこと。そして人間は邪魔だったのでな、あの広い部屋に眠らせて詰め込んでおいた。イレギュラーが一人いたみたいだが、一人くらいならば問題ない。それに奴も眠っておることだろうさ。醒めぬ夢を溶けるまで見て、じきに行くだろうよ」
広い部屋・・・・・。体育館かな。それでイレギュラーはきっと水季のことだ。私と話していて学校に来るのが少し遅かったからか。
「爆ぜろ」
私の体くらいの大きさの手で襲いかかって来る。
「ちょこまかと」
「避けるに決まってるでしょ。やられるわけにはいかないの」
砂埃を巻き上げて私はごろごろと危なげではあるが、彼女の攻撃を回避していた。しかしエキドゥナが放った尻尾の叩き落としでさらに三人脱落する。
「あははは、やられちゃた」
「ごめんなさい」
「・・・・・停止」
私を含めると残り四人かなり減らされた。ただ闇雲に戦っても消耗するだけだ。残っている天使の武装は、メイスが一人、アサルトライフルが一人、ブーメランが一人。なんとまあバラエティ豊かなことで、と悪態づいていても敵は向かってくるから、のんびりと策を練るわけにもいかない。
さてどうしよう。ブーメラン、ブーメランか・・・それしかないか。
作戦は決まった。あとは行動あるのみだ。
「それじゃあ、準備はいい。ゴー」
メイスの天使とアサルトライフルの天使、そして私が進行方向左手に全速力で走り出す。
「まずは貴様らか。いいだろう粉砕してやる」
ライフルで注意を引きつけ、その隙にブーメランを投げさせる。メイスはライフルの守りに徹している。そして私はというと、帰ってくるブーメランをエキドゥナが躱すのを見て一気に飛び上がり、ブーメランを掴んで彼女の胸元にブーメランの刃を突き立てる。
「何っ、小娘がああああ」
すかさずブーメランを持っている手とは逆の手に持つ聖剣をさらにエキドゥナの胸部に突き刺してトドメを刺す。無我夢中で正直なところこの時、私の泥と返り血だらけであることは後で知ることになる。
「ぐあああ、よくも私を、この借り・・・・・覚えておくがよい」
エキドゥナは霧散した。彼女を倒した、いや正しくは退去させただけである。
今日は帰ろう。確か擬態が得意な天使がいたはず。その天使に事後処理を任せることにしよう。
「主人よ、まずはお疲れ様でしたと、申し上げさせて頂きます」
「ありがとう。それでちょっと後のこと任せてもいいかしら。みんなを解放して救急車を呼んでね」
「かしこまりました。お任せください」
「頼んだわね。私らしくない言動は控えるようにお願い。ちょっと寝に帰る。ふわぁ」
眠い。早起きは特になるということわざがあるというけど、私には面倒ごとしか撒き散らさなかったな。早起きは控えようかしら。
私は学校を出ると家に戻ろうと踵を返し歩き出そうと踏み出した時だ。若が血相を変えて走ってきた。
「たった、大変だよ・・・・・大変、はあ」
「若、少し落ち着きなさいよ」
「そう、そうだね。たはあ。お嬢さん大変だ各地でコールが並大抵の数じゃない。後もう一つ悪いニュースだよ。エジプト、アラブ、ロシア西部も大災害に見舞われたみたいだ」
「それって、まさか」
「そうだ。そのまさかだと思う」
そして私はそれに思い当たる節がある。エキドゥナの言葉だ。
彼女は一人であって一人でないという風なことを言っていたが、あれはどういう意味なのだろう。
オケアノスに聞くのも悪くないかもしれない。
「そうだ、若。一番被害が起こって時間が経ってない場所はどこかわかる」
「うーん、そうだなロシア西部かな。幸いにも死傷者は出てないって聞いているけど。とりあえず事務所はダメか。学校だもんな」
その時、けたたましいサイレンの音が近づいてくるのを私たちは感じて、私はそわそわする若を引っ張って電柱の影に隠れた。
「どういうことだいお嬢さん」
「シッ、後でちゃんと説明するから」
二台、三台と次々と救急車が学校へ入って行く。私は私に扮した天使が駆けつけた救急隊員を誘導する姿と、任せておいた水季のことを見届けると、若に「行きましょう」と静かに告げて事務所へ向かう。
事務所にやって来るとプルトがブラインドの隙間から私たちを覗いていた。
若田製作事務所と書かれた親しみ深い扉のノブを回し中に入ると、やたらとスパイシーな香りが部屋の中に充満しているようだ。
「あらおかえりなさい。早かったわね」
「ただいま、プルトさん。新しい香辛料の方は順調みたいだね」
「おかげさまで」
「それでこのニオイ・・・・・ハクチッ」
鼻がムズムズするくしゃみがまた出そう。
「胡椒が舞っているのね。換気扇、換気扇と。これで大丈夫ね」
若はソファの上に散在している資料をファイルに詰めて部屋を少し綺麗にしていた。
ローテーブルの下に一枚の資料がひらりと落ちてきたので拾うと『香辛料大全』と書かれたサイトのコピーだった。
「ありがとうお嬢さん。もらうよ」
「でもなんでまた、いきなりスパイスなんか作り始めたのよ。一儲けでもするの」
「いやあ、依頼があったんだよ。先日から商店街に開店したカフェでカレーライスを出すからそのスパイスを開発してほしいってね」
製作所の意味がもう変わってきてる気がするのは私だけなのかな。
「それより、降臨のことはいいのトシちゃん」
トシちゃんって呼ばれているんだ。案外仲良いのね。プルトもプルトで仕事手伝っているみたいだし溶け込んでいるのは間違いないか。
「あっ忘れてた。お嬢さん大変なんだよ」
「さっき聞いたわよ。その続きを教えてよね」
「そうだね。えっと、じゃあ改めてコールが起こったのは三つの地区だ国をまたいでの反応なので今までで一番の規模も見て間違いない。このソフトが誰から届けられたものかはわからないが、今日までのデータからまず間違いない情報として考えてくれるといいよ」
エジプト近郊、アラブ等の西アジア諸国、最後にロシア西部モスクワ周辺地域。おそらくガイアの手先であることは確定したようなものだろうが、やはりエキドゥナなのだろうか。
「行くのは賛成よでも、最初にやることは戦力の確保じゃないかしらお二人さん」
「戦力」
「あらぁ、あなた今回エキドゥナに天使十人で立ち向かって半数以上が撤退したんですって、なのにまた一人で突っ込む気なのかしら。オホホホホ」
そう言われればそうだ。一人では流石にキツイと思う。それに天使では少々力不足であることを今回、身をもって知ることができた。しかし戦力と言ってもどこにそんな余裕があろうか。
「それがあるのよ。さっトシ、クライアントに品を届けに行くわよ」
「ああ、いいけど梱包は」
「もうすんだわ。急ぐわよ」
「ちょっとプルト話がまだ途中なんだけど」
「んもう、行けばわかるわよ行・け・ば。ね」
文句の一つは言いたい気分だが行けばわかるというのでとりあえずは、プルトについて行くのが得策であろう。
事務所を出て都内を少し行くと都内と市街地の境の交差点をそのまま真っ直ぐに行く。そしてかれこれ三、四十分かけてやってきたのはウェスタが新しく開いた店だった。
「ウェスタのお店」
「やだあ、知ってたのぉ。もう、驚かそうと思ったのに」
プルトはそう言いながら若の背中をバシバシ叩いていた。
「あいた、理不尽な暴力が・・・」
私はご苦労さまという表情をして若のその姿を見ていた。
「さっ、入りましょ。ウェスタお邪魔するわよ」
「んっウチ忙しいさかい、邪魔せんとってくへんか」
「何言ってんのよ。そう意味じゃないでしょ。頼んでたスパイスの素も持ってきてあげたんだから」
ウェスタはため息をつくとやれやれというふうにカウンター席に私たちを座らせた。
「あんた来るとうるそうてかなわんわ。ゼウスはいつでも歓迎したるからな。あとお兄さんも。でもプルトあんたは、なんやちゃうな」
「何がよ私だって、いいじゃない」
ウェスタはそういうとコーヒーを淹れ、肘をカウンターの机に乗せて「何や用があるんやろ」と言ってプルトに話を切り出した。
「私たちオリュンポスは今やギリシャから追い立てられてこの通り、留まって抵抗しているのはユーノだけよ」
「初めはあんたとこに現れたガイアの尖兵が冥界の死霊、亡者、亡霊を根こそぎ奪い取って、あんたを追い出した。そんで地上に攻め込んでこのザマや」
「ええ、そうよ。私の脇が甘かったのは認めるは」
「でもガイアは強いわ」
私は出されたコーヒーカップをすすって受け皿にカップをコトっと置く。そのせいか私の呟きは妙に誇張されてしまった。
「それは確かやな。そいでお兄さんも一緒なんは、なんか起きからなんやろ」
若はノートパソコンをカウンターテーブルに乗せて画面をウェスタに見せた。
「この赤い丸が天使や神様の影響を受けている場所を示しているんだけど」
「ふーん。コレお兄さんもが作ったんか」
「えっ、いやあある日突然このパソコンにインストールされててさ、それで開いてみたら『天使を観測せよ』ってウィンドウが一瞬でて、そしたらお嬢さんが僕の事務所にやってきたって流れなんだけど」
「けったいなこともあるんやな。コレ相当な神代の技術、神秘に近いもんが使われとるで」
「嘘、あらホント」
三人でカウンターに座っているが、向かいのウェスタと私の両隣の若とプルトがパソコンの画面を見て、キャッキャッと騒がしく盛り上がっている。
暑苦しい。私はくるりと椅子を回してコーヒーをまた口に運んだ。
若のノートパソコンに天使の降臨の位置が特定できるソフトがインストールされたのは私が心象に囚われている時からだったから、かなり前から若は天使の存在を知ってはいたみたいだ。けれど彼自身は天使をじかに見たことはない。いるとは理解していても、実像が彼の中ではあやふやなものである。
今私や、ウェスタ、プルトの姿が見えているのは単に私たちが人にも見える状態になっているだけだ。難しく言えば、私たちの神格がより人に近い値になっているという。
オケアノスからの説明はこんな感じだったか。よくは私も理解していないのわけだが、今はこうして私たちは人間にも見えるということは事実なのだ。
「戻ったぜっておいおいプルトじゃねぇか。何やってんだ」
「やれやれなご挨拶ね。昔からそういうとこ治らないのかしら」
「海の男はこんなもんだ。狙って、獲って、食う。そんでまた狙う。これの繰り返しだ。地上でもそうだろうがよ」
「ごめんなさい。私、地下生活が長いもので」
「けっ、そうかよ」
この二人が面と向かって会っている姿を見るのは初めてだ。仲が悪いのだろうか。
「二人ともやめ。お客の前なんやけどな」
ウェスタが一喝すると「冗談だよ」「あらやだ、私としたことが」などと二人は口々に言ってネプトゥヌスは、私たちが座っている真後ろのテーブル席にどかっと腰を下ろした。
「話を戻そか。正直なとこウチは戦力にはならへんで。見たまんまこの通りや。しがないカフェの女バリスタが今のウチやさかいな」
「おお、おお。なんの話だ」
「どうやってガイアの尖兵エキドゥナを倒すかの話よ。この子が今日戦って初めて勝ったの」
プルトがポンッと私の肩に手を置いた。私はそれに頷く。
「プルトの言う通りエキドゥナの分身・・・みたいなのと戦って今日は勝った。エキドゥナ自身はたくさんいて、全て本体だけど意識はどこかに一つしかないって言っていたわ」
「それは本当よ。体は無尽蔵に湧いてくるのに意識はどこかに一つしかない。まったくやっかいなものだわ」
「でも逆に考えれば、その一つの意識に辿り着きゃ、身体の方を一網打尽にできるってわけだ」
「意識が見つかればの話やけどな」
そう問題はそこだ。どこに意識があるのか。
「とりあえず今は、破壊を食い止めた方がいいのかな」
「それしかねぇな」
「そういうことになるわね」
「よっしゃ、んじゃまあ、早いとこ片付けに行こうぜ俺とプルトとゼウス。神が三人いりゃなんとかなるだろ」
ネプトゥヌスは意気揚々と立ち上がりカフェのドアノブに手をかけたところで、「僕も行くよ」と若が声を上げた。
「若」
「何が起こっているのかはデータからしかわからないけど、バックアップくらいはできるよ。君たちは強いかもしれない。けれどデータを見れば一つのサークルにはおそらく数万規模の反応がある。やっぱり連絡ぐらいは取れる方がいいと思う」
「私たちは頑丈だけどあなたは触れられただけでどうなるかわからないわよ」
「大丈夫さ。後方で情報処理と通信機器の調整をするだけだよ」
私は反対だ。私でさえ昨日の今日で勝てたのは運が良かったからだ。また悪天候で視界不良にでもなってしまったら、私たちも無事にすむかどうかわからない。
「私は反対。若はもともと運動とか得意じゃないし、いざという時逃げれないし」
「運動神経は知識でカバーするよ」
「いいんじゃねぇの。現代テクノロジーだがなんだか、俺たちにはさっぱりだ。使えるもんは使って損はないと思うぜ」
「でも・・・」
私はそれ以上の反論を用意できなかった。戦いが始まったら若を守りながらはきっと戦えない。だからせめて天使をたくさん守護につけておこうと私は思った。
「寄せ集めでも、出来ることはある」
「吹き飛べ」
エキドゥナの強烈な尻尾の殴打で何人かが吹き飛ぶ。その隙を突いて上から一直線に剣を振り下ろした。しかしさすがと言わざるおえないが、彼女は爪で剣を押しとどめている。
「あなたアフリカにいたはずでしょ。なのになんでここにいるのよ。それに学校の人たちはどうしたの」
「御託が多いぞ小娘が」
地中からの尻尾による攻撃を後方に回転し回避した。二度も同じ攻撃を喰らうわけにはいかない。それに今は飛んでいるので避けるだけなら容易だった。
「まあよい。これからの食おうというのだ心残りは味を悪くする。答えてやろうとも。私は一つであって一人ではないというだけのこと。そして人間は邪魔だったのでな、あの広い部屋に眠らせて詰め込んでおいた。イレギュラーが一人いたみたいだが、一人くらいならば問題ない。それに奴も眠っておることだろうさ。醒めぬ夢を溶けるまで見て、じきに行くだろうよ」
広い部屋・・・・・。体育館かな。それでイレギュラーはきっと水季のことだ。私と話していて学校に来るのが少し遅かったからか。
「爆ぜろ」
私の体くらいの大きさの手で襲いかかって来る。
「ちょこまかと」
「避けるに決まってるでしょ。やられるわけにはいかないの」
砂埃を巻き上げて私はごろごろと危なげではあるが、彼女の攻撃を回避していた。しかしエキドゥナが放った尻尾の叩き落としでさらに三人脱落する。
「あははは、やられちゃた」
「ごめんなさい」
「・・・・・停止」
私を含めると残り四人かなり減らされた。ただ闇雲に戦っても消耗するだけだ。残っている天使の武装は、メイスが一人、アサルトライフルが一人、ブーメランが一人。なんとまあバラエティ豊かなことで、と悪態づいていても敵は向かってくるから、のんびりと策を練るわけにもいかない。
さてどうしよう。ブーメラン、ブーメランか・・・それしかないか。
作戦は決まった。あとは行動あるのみだ。
「それじゃあ、準備はいい。ゴー」
メイスの天使とアサルトライフルの天使、そして私が進行方向左手に全速力で走り出す。
「まずは貴様らか。いいだろう粉砕してやる」
ライフルで注意を引きつけ、その隙にブーメランを投げさせる。メイスはライフルの守りに徹している。そして私はというと、帰ってくるブーメランをエキドゥナが躱すのを見て一気に飛び上がり、ブーメランを掴んで彼女の胸元にブーメランの刃を突き立てる。
「何っ、小娘がああああ」
すかさずブーメランを持っている手とは逆の手に持つ聖剣をさらにエキドゥナの胸部に突き刺してトドメを刺す。無我夢中で正直なところこの時、私の泥と返り血だらけであることは後で知ることになる。
「ぐあああ、よくも私を、この借り・・・・・覚えておくがよい」
エキドゥナは霧散した。彼女を倒した、いや正しくは退去させただけである。
今日は帰ろう。確か擬態が得意な天使がいたはず。その天使に事後処理を任せることにしよう。
「主人よ、まずはお疲れ様でしたと、申し上げさせて頂きます」
「ありがとう。それでちょっと後のこと任せてもいいかしら。みんなを解放して救急車を呼んでね」
「かしこまりました。お任せください」
「頼んだわね。私らしくない言動は控えるようにお願い。ちょっと寝に帰る。ふわぁ」
眠い。早起きは特になるということわざがあるというけど、私には面倒ごとしか撒き散らさなかったな。早起きは控えようかしら。
私は学校を出ると家に戻ろうと踵を返し歩き出そうと踏み出した時だ。若が血相を変えて走ってきた。
「たった、大変だよ・・・・・大変、はあ」
「若、少し落ち着きなさいよ」
「そう、そうだね。たはあ。お嬢さん大変だ各地でコールが並大抵の数じゃない。後もう一つ悪いニュースだよ。エジプト、アラブ、ロシア西部も大災害に見舞われたみたいだ」
「それって、まさか」
「そうだ。そのまさかだと思う」
そして私はそれに思い当たる節がある。エキドゥナの言葉だ。
彼女は一人であって一人でないという風なことを言っていたが、あれはどういう意味なのだろう。
オケアノスに聞くのも悪くないかもしれない。
「そうだ、若。一番被害が起こって時間が経ってない場所はどこかわかる」
「うーん、そうだなロシア西部かな。幸いにも死傷者は出てないって聞いているけど。とりあえず事務所はダメか。学校だもんな」
その時、けたたましいサイレンの音が近づいてくるのを私たちは感じて、私はそわそわする若を引っ張って電柱の影に隠れた。
「どういうことだいお嬢さん」
「シッ、後でちゃんと説明するから」
二台、三台と次々と救急車が学校へ入って行く。私は私に扮した天使が駆けつけた救急隊員を誘導する姿と、任せておいた水季のことを見届けると、若に「行きましょう」と静かに告げて事務所へ向かう。
事務所にやって来るとプルトがブラインドの隙間から私たちを覗いていた。
若田製作事務所と書かれた親しみ深い扉のノブを回し中に入ると、やたらとスパイシーな香りが部屋の中に充満しているようだ。
「あらおかえりなさい。早かったわね」
「ただいま、プルトさん。新しい香辛料の方は順調みたいだね」
「おかげさまで」
「それでこのニオイ・・・・・ハクチッ」
鼻がムズムズするくしゃみがまた出そう。
「胡椒が舞っているのね。換気扇、換気扇と。これで大丈夫ね」
若はソファの上に散在している資料をファイルに詰めて部屋を少し綺麗にしていた。
ローテーブルの下に一枚の資料がひらりと落ちてきたので拾うと『香辛料大全』と書かれたサイトのコピーだった。
「ありがとうお嬢さん。もらうよ」
「でもなんでまた、いきなりスパイスなんか作り始めたのよ。一儲けでもするの」
「いやあ、依頼があったんだよ。先日から商店街に開店したカフェでカレーライスを出すからそのスパイスを開発してほしいってね」
製作所の意味がもう変わってきてる気がするのは私だけなのかな。
「それより、降臨のことはいいのトシちゃん」
トシちゃんって呼ばれているんだ。案外仲良いのね。プルトもプルトで仕事手伝っているみたいだし溶け込んでいるのは間違いないか。
「あっ忘れてた。お嬢さん大変なんだよ」
「さっき聞いたわよ。その続きを教えてよね」
「そうだね。えっと、じゃあ改めてコールが起こったのは三つの地区だ国をまたいでの反応なので今までで一番の規模も見て間違いない。このソフトが誰から届けられたものかはわからないが、今日までのデータからまず間違いない情報として考えてくれるといいよ」
エジプト近郊、アラブ等の西アジア諸国、最後にロシア西部モスクワ周辺地域。おそらくガイアの手先であることは確定したようなものだろうが、やはりエキドゥナなのだろうか。
「行くのは賛成よでも、最初にやることは戦力の確保じゃないかしらお二人さん」
「戦力」
「あらぁ、あなた今回エキドゥナに天使十人で立ち向かって半数以上が撤退したんですって、なのにまた一人で突っ込む気なのかしら。オホホホホ」
そう言われればそうだ。一人では流石にキツイと思う。それに天使では少々力不足であることを今回、身をもって知ることができた。しかし戦力と言ってもどこにそんな余裕があろうか。
「それがあるのよ。さっトシ、クライアントに品を届けに行くわよ」
「ああ、いいけど梱包は」
「もうすんだわ。急ぐわよ」
「ちょっとプルト話がまだ途中なんだけど」
「んもう、行けばわかるわよ行・け・ば。ね」
文句の一つは言いたい気分だが行けばわかるというのでとりあえずは、プルトについて行くのが得策であろう。
事務所を出て都内を少し行くと都内と市街地の境の交差点をそのまま真っ直ぐに行く。そしてかれこれ三、四十分かけてやってきたのはウェスタが新しく開いた店だった。
「ウェスタのお店」
「やだあ、知ってたのぉ。もう、驚かそうと思ったのに」
プルトはそう言いながら若の背中をバシバシ叩いていた。
「あいた、理不尽な暴力が・・・」
私はご苦労さまという表情をして若のその姿を見ていた。
「さっ、入りましょ。ウェスタお邪魔するわよ」
「んっウチ忙しいさかい、邪魔せんとってくへんか」
「何言ってんのよ。そう意味じゃないでしょ。頼んでたスパイスの素も持ってきてあげたんだから」
ウェスタはため息をつくとやれやれというふうにカウンター席に私たちを座らせた。
「あんた来るとうるそうてかなわんわ。ゼウスはいつでも歓迎したるからな。あとお兄さんも。でもプルトあんたは、なんやちゃうな」
「何がよ私だって、いいじゃない」
ウェスタはそういうとコーヒーを淹れ、肘をカウンターの机に乗せて「何や用があるんやろ」と言ってプルトに話を切り出した。
「私たちオリュンポスは今やギリシャから追い立てられてこの通り、留まって抵抗しているのはユーノだけよ」
「初めはあんたとこに現れたガイアの尖兵が冥界の死霊、亡者、亡霊を根こそぎ奪い取って、あんたを追い出した。そんで地上に攻め込んでこのザマや」
「ええ、そうよ。私の脇が甘かったのは認めるは」
「でもガイアは強いわ」
私は出されたコーヒーカップをすすって受け皿にカップをコトっと置く。そのせいか私の呟きは妙に誇張されてしまった。
「それは確かやな。そいでお兄さんも一緒なんは、なんか起きからなんやろ」
若はノートパソコンをカウンターテーブルに乗せて画面をウェスタに見せた。
「この赤い丸が天使や神様の影響を受けている場所を示しているんだけど」
「ふーん。コレお兄さんもが作ったんか」
「えっ、いやあある日突然このパソコンにインストールされててさ、それで開いてみたら『天使を観測せよ』ってウィンドウが一瞬でて、そしたらお嬢さんが僕の事務所にやってきたって流れなんだけど」
「けったいなこともあるんやな。コレ相当な神代の技術、神秘に近いもんが使われとるで」
「嘘、あらホント」
三人でカウンターに座っているが、向かいのウェスタと私の両隣の若とプルトがパソコンの画面を見て、キャッキャッと騒がしく盛り上がっている。
暑苦しい。私はくるりと椅子を回してコーヒーをまた口に運んだ。
若のノートパソコンに天使の降臨の位置が特定できるソフトがインストールされたのは私が心象に囚われている時からだったから、かなり前から若は天使の存在を知ってはいたみたいだ。けれど彼自身は天使をじかに見たことはない。いるとは理解していても、実像が彼の中ではあやふやなものである。
今私や、ウェスタ、プルトの姿が見えているのは単に私たちが人にも見える状態になっているだけだ。難しく言えば、私たちの神格がより人に近い値になっているという。
オケアノスからの説明はこんな感じだったか。よくは私も理解していないのわけだが、今はこうして私たちは人間にも見えるということは事実なのだ。
「戻ったぜっておいおいプルトじゃねぇか。何やってんだ」
「やれやれなご挨拶ね。昔からそういうとこ治らないのかしら」
「海の男はこんなもんだ。狙って、獲って、食う。そんでまた狙う。これの繰り返しだ。地上でもそうだろうがよ」
「ごめんなさい。私、地下生活が長いもので」
「けっ、そうかよ」
この二人が面と向かって会っている姿を見るのは初めてだ。仲が悪いのだろうか。
「二人ともやめ。お客の前なんやけどな」
ウェスタが一喝すると「冗談だよ」「あらやだ、私としたことが」などと二人は口々に言ってネプトゥヌスは、私たちが座っている真後ろのテーブル席にどかっと腰を下ろした。
「話を戻そか。正直なとこウチは戦力にはならへんで。見たまんまこの通りや。しがないカフェの女バリスタが今のウチやさかいな」
「おお、おお。なんの話だ」
「どうやってガイアの尖兵エキドゥナを倒すかの話よ。この子が今日戦って初めて勝ったの」
プルトがポンッと私の肩に手を置いた。私はそれに頷く。
「プルトの言う通りエキドゥナの分身・・・みたいなのと戦って今日は勝った。エキドゥナ自身はたくさんいて、全て本体だけど意識はどこかに一つしかないって言っていたわ」
「それは本当よ。体は無尽蔵に湧いてくるのに意識はどこかに一つしかない。まったくやっかいなものだわ」
「でも逆に考えれば、その一つの意識に辿り着きゃ、身体の方を一網打尽にできるってわけだ」
「意識が見つかればの話やけどな」
そう問題はそこだ。どこに意識があるのか。
「とりあえず今は、破壊を食い止めた方がいいのかな」
「それしかねぇな」
「そういうことになるわね」
「よっしゃ、んじゃまあ、早いとこ片付けに行こうぜ俺とプルトとゼウス。神が三人いりゃなんとかなるだろ」
ネプトゥヌスは意気揚々と立ち上がりカフェのドアノブに手をかけたところで、「僕も行くよ」と若が声を上げた。
「若」
「何が起こっているのかはデータからしかわからないけど、バックアップくらいはできるよ。君たちは強いかもしれない。けれどデータを見れば一つのサークルにはおそらく数万規模の反応がある。やっぱり連絡ぐらいは取れる方がいいと思う」
「私たちは頑丈だけどあなたは触れられただけでどうなるかわからないわよ」
「大丈夫さ。後方で情報処理と通信機器の調整をするだけだよ」
私は反対だ。私でさえ昨日の今日で勝てたのは運が良かったからだ。また悪天候で視界不良にでもなってしまったら、私たちも無事にすむかどうかわからない。
「私は反対。若はもともと運動とか得意じゃないし、いざという時逃げれないし」
「運動神経は知識でカバーするよ」
「いいんじゃねぇの。現代テクノロジーだがなんだか、俺たちにはさっぱりだ。使えるもんは使って損はないと思うぜ」
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