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一人より
特異技能〜ギフト〜
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大アルカナ帝国鋭衛剣姫隊は、蒼空の下今日も今日とて稽古に励んでいる。隊員は皆若い女性剣士で構成され、その中核をなす隊長のジュリーネ・レオドルは、他の隊員の追随を許さない程一線を画す存在であった。彼女が一度戦場を駆けようものなら、その後に残るものなしと言われている。そして人々はその功績を称え、彼女を『颯奏の流れ星』と呼ぶ。
「最近、楽しそうねアヤハ。何かいいことでもあったのかしら」
「そうだな。あったと言えばあったな」
「変な言い回しね」
「いやなに、いいことというよりは、最近面白い子に出会ったんだよ」
ジュリーネは、剣を鞘に納めて隊員を集めると、あれやこれやと指示を出し隊員を解散させた。
「今日は終わりか」
「厳しいだけでは、良い戦姫は育たない。たまにはアメが必要なのよ」
「なるほどね」
「それで、面白い子というのはどんな子なんだい」
アヤハは、ダイラ平原の合戦での出来事を、噛み砕いて説明した。ジュリーネはそれに相槌を打つ。
そして彼女は、会話を中断させる。
「ちょっと、いいかい」
「ええ」
「その娘、カノンだったかしら。カノンが詩うのはわかったでも、なぜ詩人が傭人なんてやっているのか聞いたの」
「言われてみれば、少し変ね。あの若さで詩人なのに小金を稼ぐために傭人をやっている風でもなさそうだし」
「それに、吟遊詩人は私たちより稼ぎがいいはずよ。なるのには相応の技術と見識がなければならないから。一度、詩えばそれなりの稼ぎが得られるわ」
吟遊詩人とは国から国へと渡り歩く、生きた伝説というのが、大アルカナ帝国ではもっぱらの噂であった。しかしながら、吟遊詩人と出会えるのは一生に一度あるかないか。会えたならば、それだけで幸運なことだとされている。
吟遊詩人の語る異国の情景と、手ずから持ち帰った調度品の数々は価値が高く、王宮への献上品として捧げられるものが殆どだ。
彼らは詩を唄い、竪琴を片手に旅をするそうだ。
「そのカノンという娘は、竪琴を持っているのかしら」
「確か、修理に出していると言っていたぞ」
ジュリーネは少し黙って、それからまた、顔を上げるとそそくさと荷物をまとめ始めた。
「どうしたんだ。慌てて」
「ええ、まあ、善は急げというじゃない」
「直接、会いに行くのか」
ジュリーネは、奏音に会うべく荷物をまとめて鎧を武具保管庫にしまってしまう。アヤハはあたふたする。「私も・・・」と呟いたのはジュリーネが修練場から出て行ったあとだった。
奏音とヨハナは、ヨハナの実家を出て今は、大アルカナの門へと続く森の小道を進んでいた。
ヨハナが手にする一枚の紙切れを二人で覗いている。その紙の下の方を指して奏音が声を上げた。
「これ、私にもあるよ。『特異技能』っていうんだって。ほら」
そう言って、奏音は自分の傭人証明書を広げる。
「本当ね。導きの声とあるわ。コレはどういう効果があるの」
「わかんない」
ヨハナは目を丸くして沈黙する。
「えっ、ええと、聞き方が悪かったかな。奏音ちゃんのギフトはどういう力があるの」
「わかんない。全っ然、わかんないんだよねー。あはは、ギフトってなんなんだろうねぇ」
ヨハナは、絶句したまま奏音はこれでいいんだと思った。
ギフトが稀に見る突然変異のようなもので、自身の能力を上昇させるもの、自身を含めた全体に影響を与えるもの。環境に影響を与えるものなど様々あるとされるが、その発生確率は低いとされている。しかし、ギフト保持者は一定数存在するともされている。などという学術的なことをヨハナは頭の中で巡らせるが、奏音の笑顔を見ていると言い出しづらいことであった。
「そうね、不思議ね。でも二人とも声に由来する能力なんて、お揃いみたいで嬉しいわ」
そう言って、ヨハナは苦し紛れに話題を変えるのだった。
「本当だ。お揃いだね」
能天気な奏音は、「お揃いついでに一曲歌いますか」などと言ってギターを弾き出した。
ヨハナのキーボードは現在、絶賛改修作業中らしく、店のおじさんの職人魂に火がついたらしくまだ時間がかかるのだそうだ。完成後はヨハナの宿に届けてくれる手筈となっている。
その間は奏音の弾く、ギターに合わせて二人は歌いながら森を抜ける。
そして門を潜り、バルミロまで帰ってくると奏音は見慣れた人物と、見慣れない人物が店の看板を眺めているのを見つけた。
「アヤハさんだ。アヤハさーん」
看板からこちらを向いて見慣れた方の人影が奏音とヨハナのいる方に向かって手を振る。
「アヤハさん。どうしたんですか、ヴィクトルさんの武具でも買いに来たんですか。それとも修理ですか。どうぞどうぞ、コーデルさんにお茶を用意してもらいますね」
「ちょっと落ち着いたらどうだ。奏音」
捲し立てるように中へ勧められるが、その勢いがむしろ怖いと、アヤハは思う一方でジュリーネとヨハナは、奏音の頭に耳、お尻のあたりに尻尾が見えていた。
まさしく、いつもおやつをくれる近所の人に尻尾を振る犬のようだと二人は思った。
「持ち帰りたい」「抱きしめたい」
二人の口からポロッと願望がこぼれ落ちる。そして奏音が二人を見て、「二人も入って入って」というと、ジュリーネとヨハナは二人して咳払いをして、奏音から視線を逸らした。
「それにしても、急にどうしたんですかアヤハさん店の前でそれに」
三人を店内に案内し、母屋と離れの間にある中庭の切り株に腰を下ろして、奏音は話を切り出した。
「ああ、紹介がまだだったなこちらはジュリーネ・レオドル。鋭衛剣姫隊の隊長をしていて、私と同期なんだ」
「ジュリーネよ。ジュリーって呼んでね」
「私は五条奏音です。で、この娘がヨハナン」
「ヨハナ・パッフェ・ベルです。駆け出しの傭人ですが、どうぞよろしくお願いします」
ジュリーネは、二人を見比べると何かを納得したように微笑み、二人に語りかける。
「二人ともギフトを持っているのね」
奏音もヨハナも驚いてお互いの顔を見た。
「へぇー、二人ともギフトを持っているのか。よくわかったなジュリー」
「吟遊詩人は、何かしらのギフトを持っていたという言い伝えがあるのよ。だからなんとなくね、そして私もギフトを持っているのよ」
奏音とヨハナは目を輝かせる。加えてアヤハも感嘆を漏らしている。
「私の特異技能は、『流麗の声』よ。効果は知らないわ」
特異技能を持っていても、その効果を知らない者が殆どである。というのも、これらのギフトは自身では体感しにくいものが多く、ギフトを使用していると実感するには、かなりの頻度で発動しなくてはならない。そのために要する魔力は膨大であり、毎日能力を使うというのは現実的ではない。
また、この三人の中でも目に見えて効果がわかるのは、ヨハナの癒しの声だけである。しかし奏音は知っていた。ギフトの発動条件は歌うことだと。
「みんな声のギフトなんだな、なんとも奇遇だな」
アヤハは感慨深げにうむっと頷いている。
「じゃあ、歌いますか。ジュリーさんも」
突飛な言動は奏音の十八番である。意表を突かれたジュリーネは、「はぁ」と気のない生返事を咄嗟に返してしまう。
ランプ一つを囲んで、中庭で奏音が歌い出すとヨハナも続いて歌い出す。アヤハとジュリーネは最初は困惑していたが、雰囲気に呑まれ歌い出す。
「はあ、やっぱりみんなで歌うと楽しいね」
「そうね。私も楽しかった」
「ジュリーさんはどうでした」
ジュリーネは、少し視線を落としたあと奏音の瞳を見て答える。
「私も楽しかったです。初めて歌いましたが、これが歌の力なんですね。心の底から何かが溢れてくる感覚はとても新鮮でした」
「私も楽しかったぞ。それにしても、奏音のギターとやらは完成していたのだな」
奏音が「いいでしょ」とアヤハに見せびらかせながら、下部のレバーを引き魔力放出させる。ブワッと黄金の魔力の粒子が水を得たように、ギターの外部へと躍り出ていく。
「雅なものだな」
「ええ、そうね」
うっとりとその様子を眺めているジュリーネは、そうそうと何かを思い出したように立ち上がる。
「今思い出したのだけれど、私の祖父の家に曽祖父が生涯大切にしたという奏具があるの。盾琴と言ったかしら。あまり覚えていないのだけどね」
「どんな奏具なんですか」
「そのままの意味よ。盾と琴が合わさった奏具で、何でも神獣のたてがみを剣で弾くそうよ。実際に見た事は一度くらいね。それもまだ幼い頃だったから、どんな感じだったか曖昧でよく覚えていないわ。祖父の家も片付けに行かないとね。亡くなってから手付かずのままだもの」
「五年ほど前だったか」
「そうよ。祖父と両親はあまり仲が良くないみたいだったから、亡くなる頃には使用人たちにも暇を与えていたみたいだし。片付ける人がいなかったのよ」
「私たちもお手伝いしますよ。ね、奏音ちゃん」
「うん、ジュリーさん家の奏具も見てみたいし」
奏音とヨハナは後日ジュリーネの屋敷に招かれることになった。アヤハは定例会議があるという事で参加できないと肩を落とす。
ジュリーネはソードの国の出身で獣人族の令嬢である。大きな耳としなやかなボディラインは人目を引くのに十分である。腰に携えた細身の直剣は、最低限の装飾しか施されていないが、無駄のないその造りと彼女の佇まいが、見るものを圧倒する。
そうして彼女に連れられる事数日、奏音とヨハナはソードの国に入国した。
ソードの国は自立と自律の両立を打ち立てている国で法の下、小アルカナ連邦と大アルカナ帝国との間で中立の立場を貫く国である。他国からは、正義と自由の国と呼ばれている。
「この地域の国の中でワンドとソードには奴隷がいないんですよ。しかし、ここ最近では奴隷の意味合いも変わってきました。ふふっ、どこかの頑張り屋さんのおかげかしらね」
荷馬車の中でジュリーネは奏音とヨハナと世間話をしている。切長の眼は悪戯っぽく微笑む。
どこかで、くしゃみをしている人がいそうだと、奏音は想像する。
「今までは、確かに身分の差がありましたが、小アルカナ連邦は中央集権を撤廃し、君主民主主義を取りました。また、各四国は互いに監視し合い、権力の横行が起きないようなシステムを構築しています。そして四国が一つになり帝国を外から囲うことで、大アルカナ帝国の権力の暴走を抑えているのです。
そして、大アルカナ、カップ、ペンタクルにある奴隷制の名残は、人権を捨てる人権という法の下管理されている筈なのですが、いつの時代もズルをする人は少なからずいるのです」
奏音には、ちんぷんかんぷんな話であり。頭から蒸気が出てきそうだった。
法の下に経済的再起不能に陥った者が、自らを売り込み使用人として各家庭に従事する事は許されているが、誘拐や違法な人身売買は後を立たない。アヤハが長年かけて取り組んできた活動の障害は数多くある。
ジュリーネは荷馬車の後部から空を見上げて、アヤハのことを少し考える。本当によくやってきたと思うし、今もよくやっていると思う。けれど、決定打に欠けていて、簡単には行かない状況に、もどかしさを感じずにはいられないだろう。
使用人雇用に関しても、貴族は売り込みに来た者に対し、雇用していない場合は最低限二人雇うことになっている。しかし、どこもうまく行っているわけではない。もちろん、経済的な面でも、倫理観の面でも足りないことだらけで、体制に穴がたくさんある状況である。
ジュリーネは、コートの端を払い荷馬車から降りる。使用人雇用制度の問題はアヤハなしでは進まないと、巡る思考を一度停止させ門の錠に鍵を入れる。
「ようこそ、わがレオドルの邸宅へ」
邸宅の門を潜り玄関の前まで来ると、庭から慌てて走ってくる獣人族の男性が一人。
「お嬢様、お帰りになるなら一言言ってくださればよろしいのに」
「執事長。ごめんなさい、私も予定していた帰省ではなかったの。こちらの二人は祖父の別邸のお掃除をしてくださる傭人の方々よ」
「承知しました。お嬢様も別邸へ行かれるのですかな」
「ええ、私もお爺様に最後まで仕えた家具たちに感謝の気持ちで送り出さないと」
「左様でございますか。ではお二方、その格好ではお召し物が煤を被ってしまう。メイド長に服をお借りなさい。お嬢様はまず奥様にご挨拶を」
「そうですね。ということですから、お二人とも二階に上がって右の廊下の突き当たりの部屋は自由に使ってくださいな。お洋服をメイド長に用意しておいてもらいますね」
執事長と話していたジュリーネは、くるりと身を翻し奏音とヨハナに要件だけ告げると、邸宅の中へ入りそのままどこへともなく姿を消した。
残された二人は玄関を入ってすぐ目の前にある階段を上ると、言われた通りの部屋を目指した。右廊下の突き当たりの部屋のドアは鍵が開いており、奏音がおそるおそるドアを開けると、中はベッドが二つ、机が一つと椅子が二つあった。そして、それぞれのベッドの上に肌着とメイド服、それからエプロンと髪留め、ナプキン、ハンカチが丁寧に並べられていた。
「最近、楽しそうねアヤハ。何かいいことでもあったのかしら」
「そうだな。あったと言えばあったな」
「変な言い回しね」
「いやなに、いいことというよりは、最近面白い子に出会ったんだよ」
ジュリーネは、剣を鞘に納めて隊員を集めると、あれやこれやと指示を出し隊員を解散させた。
「今日は終わりか」
「厳しいだけでは、良い戦姫は育たない。たまにはアメが必要なのよ」
「なるほどね」
「それで、面白い子というのはどんな子なんだい」
アヤハは、ダイラ平原の合戦での出来事を、噛み砕いて説明した。ジュリーネはそれに相槌を打つ。
そして彼女は、会話を中断させる。
「ちょっと、いいかい」
「ええ」
「その娘、カノンだったかしら。カノンが詩うのはわかったでも、なぜ詩人が傭人なんてやっているのか聞いたの」
「言われてみれば、少し変ね。あの若さで詩人なのに小金を稼ぐために傭人をやっている風でもなさそうだし」
「それに、吟遊詩人は私たちより稼ぎがいいはずよ。なるのには相応の技術と見識がなければならないから。一度、詩えばそれなりの稼ぎが得られるわ」
吟遊詩人とは国から国へと渡り歩く、生きた伝説というのが、大アルカナ帝国ではもっぱらの噂であった。しかしながら、吟遊詩人と出会えるのは一生に一度あるかないか。会えたならば、それだけで幸運なことだとされている。
吟遊詩人の語る異国の情景と、手ずから持ち帰った調度品の数々は価値が高く、王宮への献上品として捧げられるものが殆どだ。
彼らは詩を唄い、竪琴を片手に旅をするそうだ。
「そのカノンという娘は、竪琴を持っているのかしら」
「確か、修理に出していると言っていたぞ」
ジュリーネは少し黙って、それからまた、顔を上げるとそそくさと荷物をまとめ始めた。
「どうしたんだ。慌てて」
「ええ、まあ、善は急げというじゃない」
「直接、会いに行くのか」
ジュリーネは、奏音に会うべく荷物をまとめて鎧を武具保管庫にしまってしまう。アヤハはあたふたする。「私も・・・」と呟いたのはジュリーネが修練場から出て行ったあとだった。
奏音とヨハナは、ヨハナの実家を出て今は、大アルカナの門へと続く森の小道を進んでいた。
ヨハナが手にする一枚の紙切れを二人で覗いている。その紙の下の方を指して奏音が声を上げた。
「これ、私にもあるよ。『特異技能』っていうんだって。ほら」
そう言って、奏音は自分の傭人証明書を広げる。
「本当ね。導きの声とあるわ。コレはどういう効果があるの」
「わかんない」
ヨハナは目を丸くして沈黙する。
「えっ、ええと、聞き方が悪かったかな。奏音ちゃんのギフトはどういう力があるの」
「わかんない。全っ然、わかんないんだよねー。あはは、ギフトってなんなんだろうねぇ」
ヨハナは、絶句したまま奏音はこれでいいんだと思った。
ギフトが稀に見る突然変異のようなもので、自身の能力を上昇させるもの、自身を含めた全体に影響を与えるもの。環境に影響を与えるものなど様々あるとされるが、その発生確率は低いとされている。しかし、ギフト保持者は一定数存在するともされている。などという学術的なことをヨハナは頭の中で巡らせるが、奏音の笑顔を見ていると言い出しづらいことであった。
「そうね、不思議ね。でも二人とも声に由来する能力なんて、お揃いみたいで嬉しいわ」
そう言って、ヨハナは苦し紛れに話題を変えるのだった。
「本当だ。お揃いだね」
能天気な奏音は、「お揃いついでに一曲歌いますか」などと言ってギターを弾き出した。
ヨハナのキーボードは現在、絶賛改修作業中らしく、店のおじさんの職人魂に火がついたらしくまだ時間がかかるのだそうだ。完成後はヨハナの宿に届けてくれる手筈となっている。
その間は奏音の弾く、ギターに合わせて二人は歌いながら森を抜ける。
そして門を潜り、バルミロまで帰ってくると奏音は見慣れた人物と、見慣れない人物が店の看板を眺めているのを見つけた。
「アヤハさんだ。アヤハさーん」
看板からこちらを向いて見慣れた方の人影が奏音とヨハナのいる方に向かって手を振る。
「アヤハさん。どうしたんですか、ヴィクトルさんの武具でも買いに来たんですか。それとも修理ですか。どうぞどうぞ、コーデルさんにお茶を用意してもらいますね」
「ちょっと落ち着いたらどうだ。奏音」
捲し立てるように中へ勧められるが、その勢いがむしろ怖いと、アヤハは思う一方でジュリーネとヨハナは、奏音の頭に耳、お尻のあたりに尻尾が見えていた。
まさしく、いつもおやつをくれる近所の人に尻尾を振る犬のようだと二人は思った。
「持ち帰りたい」「抱きしめたい」
二人の口からポロッと願望がこぼれ落ちる。そして奏音が二人を見て、「二人も入って入って」というと、ジュリーネとヨハナは二人して咳払いをして、奏音から視線を逸らした。
「それにしても、急にどうしたんですかアヤハさん店の前でそれに」
三人を店内に案内し、母屋と離れの間にある中庭の切り株に腰を下ろして、奏音は話を切り出した。
「ああ、紹介がまだだったなこちらはジュリーネ・レオドル。鋭衛剣姫隊の隊長をしていて、私と同期なんだ」
「ジュリーネよ。ジュリーって呼んでね」
「私は五条奏音です。で、この娘がヨハナン」
「ヨハナ・パッフェ・ベルです。駆け出しの傭人ですが、どうぞよろしくお願いします」
ジュリーネは、二人を見比べると何かを納得したように微笑み、二人に語りかける。
「二人ともギフトを持っているのね」
奏音もヨハナも驚いてお互いの顔を見た。
「へぇー、二人ともギフトを持っているのか。よくわかったなジュリー」
「吟遊詩人は、何かしらのギフトを持っていたという言い伝えがあるのよ。だからなんとなくね、そして私もギフトを持っているのよ」
奏音とヨハナは目を輝かせる。加えてアヤハも感嘆を漏らしている。
「私の特異技能は、『流麗の声』よ。効果は知らないわ」
特異技能を持っていても、その効果を知らない者が殆どである。というのも、これらのギフトは自身では体感しにくいものが多く、ギフトを使用していると実感するには、かなりの頻度で発動しなくてはならない。そのために要する魔力は膨大であり、毎日能力を使うというのは現実的ではない。
また、この三人の中でも目に見えて効果がわかるのは、ヨハナの癒しの声だけである。しかし奏音は知っていた。ギフトの発動条件は歌うことだと。
「みんな声のギフトなんだな、なんとも奇遇だな」
アヤハは感慨深げにうむっと頷いている。
「じゃあ、歌いますか。ジュリーさんも」
突飛な言動は奏音の十八番である。意表を突かれたジュリーネは、「はぁ」と気のない生返事を咄嗟に返してしまう。
ランプ一つを囲んで、中庭で奏音が歌い出すとヨハナも続いて歌い出す。アヤハとジュリーネは最初は困惑していたが、雰囲気に呑まれ歌い出す。
「はあ、やっぱりみんなで歌うと楽しいね」
「そうね。私も楽しかった」
「ジュリーさんはどうでした」
ジュリーネは、少し視線を落としたあと奏音の瞳を見て答える。
「私も楽しかったです。初めて歌いましたが、これが歌の力なんですね。心の底から何かが溢れてくる感覚はとても新鮮でした」
「私も楽しかったぞ。それにしても、奏音のギターとやらは完成していたのだな」
奏音が「いいでしょ」とアヤハに見せびらかせながら、下部のレバーを引き魔力放出させる。ブワッと黄金の魔力の粒子が水を得たように、ギターの外部へと躍り出ていく。
「雅なものだな」
「ええ、そうね」
うっとりとその様子を眺めているジュリーネは、そうそうと何かを思い出したように立ち上がる。
「今思い出したのだけれど、私の祖父の家に曽祖父が生涯大切にしたという奏具があるの。盾琴と言ったかしら。あまり覚えていないのだけどね」
「どんな奏具なんですか」
「そのままの意味よ。盾と琴が合わさった奏具で、何でも神獣のたてがみを剣で弾くそうよ。実際に見た事は一度くらいね。それもまだ幼い頃だったから、どんな感じだったか曖昧でよく覚えていないわ。祖父の家も片付けに行かないとね。亡くなってから手付かずのままだもの」
「五年ほど前だったか」
「そうよ。祖父と両親はあまり仲が良くないみたいだったから、亡くなる頃には使用人たちにも暇を与えていたみたいだし。片付ける人がいなかったのよ」
「私たちもお手伝いしますよ。ね、奏音ちゃん」
「うん、ジュリーさん家の奏具も見てみたいし」
奏音とヨハナは後日ジュリーネの屋敷に招かれることになった。アヤハは定例会議があるという事で参加できないと肩を落とす。
ジュリーネはソードの国の出身で獣人族の令嬢である。大きな耳としなやかなボディラインは人目を引くのに十分である。腰に携えた細身の直剣は、最低限の装飾しか施されていないが、無駄のないその造りと彼女の佇まいが、見るものを圧倒する。
そうして彼女に連れられる事数日、奏音とヨハナはソードの国に入国した。
ソードの国は自立と自律の両立を打ち立てている国で法の下、小アルカナ連邦と大アルカナ帝国との間で中立の立場を貫く国である。他国からは、正義と自由の国と呼ばれている。
「この地域の国の中でワンドとソードには奴隷がいないんですよ。しかし、ここ最近では奴隷の意味合いも変わってきました。ふふっ、どこかの頑張り屋さんのおかげかしらね」
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そして、大アルカナ、カップ、ペンタクルにある奴隷制の名残は、人権を捨てる人権という法の下管理されている筈なのですが、いつの時代もズルをする人は少なからずいるのです」
奏音には、ちんぷんかんぷんな話であり。頭から蒸気が出てきそうだった。
法の下に経済的再起不能に陥った者が、自らを売り込み使用人として各家庭に従事する事は許されているが、誘拐や違法な人身売買は後を立たない。アヤハが長年かけて取り組んできた活動の障害は数多くある。
ジュリーネは荷馬車の後部から空を見上げて、アヤハのことを少し考える。本当によくやってきたと思うし、今もよくやっていると思う。けれど、決定打に欠けていて、簡単には行かない状況に、もどかしさを感じずにはいられないだろう。
使用人雇用に関しても、貴族は売り込みに来た者に対し、雇用していない場合は最低限二人雇うことになっている。しかし、どこもうまく行っているわけではない。もちろん、経済的な面でも、倫理観の面でも足りないことだらけで、体制に穴がたくさんある状況である。
ジュリーネは、コートの端を払い荷馬車から降りる。使用人雇用制度の問題はアヤハなしでは進まないと、巡る思考を一度停止させ門の錠に鍵を入れる。
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「お嬢様、お帰りになるなら一言言ってくださればよろしいのに」
「執事長。ごめんなさい、私も予定していた帰省ではなかったの。こちらの二人は祖父の別邸のお掃除をしてくださる傭人の方々よ」
「承知しました。お嬢様も別邸へ行かれるのですかな」
「ええ、私もお爺様に最後まで仕えた家具たちに感謝の気持ちで送り出さないと」
「左様でございますか。ではお二方、その格好ではお召し物が煤を被ってしまう。メイド長に服をお借りなさい。お嬢様はまず奥様にご挨拶を」
「そうですね。ということですから、お二人とも二階に上がって右の廊下の突き当たりの部屋は自由に使ってくださいな。お洋服をメイド長に用意しておいてもらいますね」
執事長と話していたジュリーネは、くるりと身を翻し奏音とヨハナに要件だけ告げると、邸宅の中へ入りそのままどこへともなく姿を消した。
残された二人は玄関を入ってすぐ目の前にある階段を上ると、言われた通りの部屋を目指した。右廊下の突き当たりの部屋のドアは鍵が開いており、奏音がおそるおそるドアを開けると、中はベッドが二つ、机が一つと椅子が二つあった。そして、それぞれのベッドの上に肌着とメイド服、それからエプロンと髪留め、ナプキン、ハンカチが丁寧に並べられていた。
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洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
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