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攻防
哀
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暗い世界を照らすこの城で、私は丸一日近く過ごしていた。午後五時を告げる時計の音がやたらと広い食堂に響き渡る。
合わせたい人がいると、プルトは出ていったきり二時間近く戻ってこない。それも仕方のないことなのは承知しているが、やけに遅いなとちょうど思うった時、食堂のドアが開いてプルトがやってきた。
「ハァイ、元気してたかしら。やっと見つけたのよ。ホント苦労したわ。さっ入ってらっしゃい」
私は目を疑った。
そこにいたのはなんと、セルバン・イオーニア本人なのだから。
「どうして」
「どうしてもこうしてもないわよ。このおじいちゃんはね。心臓発作で去年死んだのよ」
心臓発作で死んだ。ということはとっくにこの世に存在しない人物。存在したはいけない人物。ならばなぜあの時私は彼と相対したのか、んー。
「もう。思考が追いつかない」
「落ち着きなさいよ。ああ、そうそうさっき地上の様子見て来んだけどね。そうしたら、なんか大変なことになってるみたいよ」
「大変なこと」
「ええ、このおじいちゃん・・・の体が世界征服宣言をしたのよ。しかも手始めにギリシャを津波で飲み込むって話らしいわ」
ギリシャは地中海に面している。そのため、地中海そのものが津波が起きにくいはずなのに津波が起こると、市民たちに警告してもいまいちイメージできないはずだ。
そうなれば全て向こう側の思惑通りに事が進むだろう。加えて、不意をついた災害による被害は甚大どころの話じゃない。
「何とかして止めないと」
「そうね。でもその前にこのおじいちゃんが言いたいことあるんだってさ」
「言いたいこと?」
おそらくこちらが本人なのだろう。冥界の外のセルバンより少し歳をとっているように見える。
そんな彼が私のそばまでやってくると、私の足にすがってきた。
「若い娘さん。どうか、どうか私の体をもう楽にしてやっとくれ。私は十分生きた。悔いはない、体が盗まれるまでは平和だったのだ。しかし何者かが、墓から私の体を掘り起こし掠め取ってしまった」
そういうことか。どうやら何事もなく埋葬された体を何者かが、掘り起こし利用しているのだな。それならば、あの異様な雰囲気と冷たい感覚には合点がいく。もうとっくに死んでいるのだから。
となると黒幕はあの天使・・・のような子なのかな。でも彼女は違う気がする。
「あらやだ。私ったらつい忘れてたわ」
「どうかしたの」
「その津波。どうにも体セルバンが操ってるわけじゃないみたいなのよ」
「じゃあ一体誰が」
「ダメね。ノイズがひどくて確認できなかったわ。自分の目で確かめろってことね」
いうが早いか私はプルトにガラス付きのドアのある空間に押し込まれる。
「ちょっと」
「こういうのは勢いよ」
空間は部屋ほど大きくない。言ってしまえばタンスに入っている感じだった。
するとなぜか揺れを感じる。そう思った矢先、プルトの微笑む顔がどんどん下に見える。
もしかしてこれ、
「ロケットー」
くそー。あのオカマ今度あったら絶対にって、
「ひゃあああああ」
激しく揺れる機内。押し潰されそうなほどのジー。現実離れもいいところ、冥界からロケットで帰還だなんてサイエンスもスピリチュアもどちらもド返しにしてしまいそうだ。
「ツっ、あれ」
「お目覚めですか姉様」
「流れ星が流れたかと思ったら、姉様がお目覚めになられたのです」
コイオスとクリオスが私の顔を覗き込む。それでようやく私は戻ってきたと実感できた。
もちろん体にだ。体を起こすとそこにはこの二人だけでなく懐かしい人物がいた。
「戻ってきたか。魂旅行は楽しかったかね」
「オケアノス。どうしてここに」
「君が未熟だからではダメかね」
なっ。口を開けたと思ったらこのオヤジは。
「おっと切ってはいけない袋の緒を切ってしまったようだ。まあそんな冗談はともかく、事態はかなり悪化しつつある。戦力として私とネプトゥヌス、コイオス、クリオス、そして君だ」
「正直言って、姉貴たちはよくわからん。だが何か手は打つと思うぜ」
オケアノスとネプトゥヌスが補足説明してくれる。状況についてはすでに冥界である程度聞かされていたが、これほどまでとは想像していなかった。彼女が、あの天使の子があと二人いる。
あの子はもともと人間だったそうだ。オケアノスたちの話を聞く限り、進んで何者かに協力しているわけではなく無理やりこのわけのわからない状況に巻き込まれたわけだ。
なら敵は彼女ではない。むしろその彼女やセルバンを利用し操っている人物こそ私たちが兼ねてから求める本当の敵。その人物が一体どんな存在なのかは全くわからない。
それでも私はその存在が近くにいる気がしてならなかった。
不意に携帯電話の着信音が鳴る。それを持っていたのはなぜかクリオスだった。
「ハイです。ななななんと。それはまずいことになりました。すぐに逃げてください。では」
どうやら穏やかな電話ではないらしい。
「皆さん落ち着いて聞いてください。かの天使が海上に現れました。バルカン半島を目標にクレタ島付近を北上中とのことです」
「クリオス誰と話してたの」
「ケレス様です。現在ユーノ様が足止めをしているそうなのですが、時間の問題だと」
予断を許さない状況である。今まさにこの地が強大な力に飲まれてしまうかもしれない。私たちが止めなければ、人々が抗うこともできずに、傷つく様をただ見ているしかできないだろう。
「姉様これを」
コイオスがおそるおそる取り出したのはイカロスだった。しかし以前よりコンパクトなサイズになっている気がする。外形は全くではないがどことなくイカロスの雰囲気が漂う。
「これは、イカロス」
「はい。申し訳ありません。姉様が翼を失ったことを若様にお伝えしていたのです」
コイオスはそう言って俯く。私はそんなコイオスの頭を撫でてやる。
「落ち込む必要はないわ。強がりもおしまい誰かの助けを求めなければ、神も人も生きてはいけないもの」
「姉様」
そうだ。初めから私は誰かに支えられていた。そのことを忘れていたんだ。ここにいるみんなも、姉さんたちも、真理亜も、若も。みんなに助けられて今の私がある。
「だから、私は支えてくれる誰かのために力を尽くしたい」
「ああ、もとより巻き込まれに来たのだから存分に私の力を使えばいい」
「俺もオレの海のためにひと肌脱ぐぜ」
オケアノスとネプトゥヌスが颯爽と飛び立っていった。あとは、
「わかりました。私としては姉様が万全になるまでと思っていましたが、かの天使を打倒しなければ、姉様に力が戻らないのなら私もどこまでもお供いたします」
「コイオス」
グイと差し出されたイカロスを受け取る。
「クリオス行きますよ」
「コイオス行きましょう」
二人は互いの手を握り合い、蒼静の空へ飛び立った。
イカロスをよく見ると小さく「Mk-2」と書いてあった。装着の仕方は体が覚えている。操縦もきっと大丈夫。以前ならば装着していたベルトは無いが私とイカロスの繋がりを体が直に感じとる。「イケる」と私は思った。
「ありがとう若。行こうイカロスMk-2。イグニッションフライアウェイ」
フワリと身体が宙に浮く。前回と同じ要領で、実行したい行動を脳内にイメージする。
だが、予想に反し前方へ急加速する。
「ウッ」
驚きと反動で声が出てしまう。するとなぜかおかしくなってきて、お腹を抱えて笑っていた。
「アハハ。ハァア、おかしい」
私はまた空を飛んでいる。やはり体を流れていく風は気持ちがいい。
「でもやらなきゃいけないことがあるものね」
津波の原因は彼女と見て間違いないなだろう。ならば上方からの奇襲が打つ手としては常套手段ではないだろうか。
速攻に賭ける。長引かせるとこちらが不利になるかもしれない。七人で迎え撃つわけだが、敵は津波そのものでありその規模はかなり巨大で広範囲だ。敵の武器が何かにもよる。
「見えた」
チカチカと閃光が見える。予想通り敵の武器は多数を相手にできるものらしい。
すかさず急上昇を開始し雲を抜ける。時折雲の隙間から目標を確認する。だいぶ近い距離、まだ直下ではないが声を上げれば気づけるほどの距離までやってきた。
「直上が死角だから、もう少しね」
さらに私は上昇していく。なるべく彼女の頭上へ向けて加速する。
「お願い。私に力を貸して」
囁くように聖剣に語りかける。ただの鉄だった聖剣は、私の声に応えるように鐔の宝玉が輝き始める。
「・・・・・うん。必ず助けてみせる。Candenti Salutem Gratiaッ」
聖剣の切っ先に収束した光が天使めがけて垂直に伸びていく。光は天使に直撃し爆発を起こす。
「まだだ」
下にいた誰かが叫ぶ。風に流されていく黒煙の中に怪しく光が灯る。青い瞳がこちらを捉え、藍色の髪をなびかせて一飛びで、目の前までやってきた。
「悲しいですがあなたを優先的に排除します」
彼女の手に握られているのは異形の銃剣。銃と呼ぶには少し実用性を感じさせないデザインで、弾が出るのかと怪しくおもうほどだ。
しかもそれを両手に持ち舞うように斬りつけてきた。それを避け、一度間合いを開ける。
「すみません。悲しいことに一撃であなたを仕留めて差し上げられなかった」
彼女の表情は別段狂気に染まっているわけでもなく、本当に悲しそうで申しなさげである。
そこで私は確信する。どう見ても彼女は天使では無いと、天使にしては表情に富見過ぎではないだろうか?
「どうしてこんなことを。だなんて今更なことは言わないわ。だからせめて、あなたの名前を教えて」
少女はほんの少しの間考える。
「悲しくなるのでそれはできません」
「悲しいなら言葉にしなけりゃわからない」
「言葉は見えない。悲しいことに見えないものは伝わらない」
言葉を交わしながら、彼女の見えない弾丸を切断していく。
「伝わらないから、悲しくても言葉にするんでしょうがッ」
鍔迫り合いになるかならないかの瞬間に彼女を蹴り落とす。
「ぐっ」
彼女が海面に背中から叩きつけられる体勢で飛沫をあげて入水した。しかしこれで終わるはずはない。彼女の動作は依然として静かで、素早い。
「あなたは私にとって眩しい。目が焼け爛れたようにあなたを見ることが痛く、辛い」
彼女はぬらりと寄ってきたかと思うと、すかさず引き金をためらうことなく弾く。不意打ちだが当たることはなく、弾は明後日の方向に飛んで行った。
彼女の後方を見ると他のみんなが次々とやってきた。ただしコイオスとクリオスそれからネプトゥヌスがいない。オヤっと思いながらも私は彼女との対峙に集中し直す。
「あなたはどうしてこんなに助けてくれる人がいるの悲しい。どうして私には助けてくれる人がいないの哀しい」
「確かに不運なことでした。ですがあなたは、本当のあなたは誰かに助けを求めたことがありますか」
ユーノが彼女に語りかける。
「先ほど彼女が言いました通り言葉にしなければ伝わらないのです。人も神も」
「それは・・・」
そうだ。だから彼女が今言葉にしなくてはならないのは、私たちを罵倒する言葉でも、打倒を宣言する言葉でもなく、
「・・・助けて・・・私を・・・私を助けてぐださい」
「よく言えましたね。今はお休みなさい。愛情を継承せしオリュンポスがユーノ。あなたを救うことを約束します」
ユーノは高らかに宣言する。私もホッと一息つく。剣を構えていたオケアノスが私に耳打ちする。
「先ほど、ネプトゥヌス、コイオス、クリオスは本土に戻った。あとの1人がどうやら街で破壊活動を始めたらしい」
「どこからの情報」
「若田氏だよ。クリオスが持っていたスマホという機械から、突然地震が起こったと知らせがあった。この辺りにはプレートは存在しない。それなのに津波が起こったなら津波が起こる原因は何か」
「・・・地震が先に起こった」
「ご名答」
なんということだ、こんなにも簡単なことをどうして見落としていたのだろう。
津波の前には必ず地震が起きることはわかっていたはずなのに。急いで向かわなきゃ。
「待ちたまえ」
飛ぼうとした私の足首をオケアノスが掴んで止める。
「ちょ、ちょっと何よ。早く行かなきゃ」
「ここは彼らに任せよう。私たちは後ろでほくそ笑む敵の顔を拝みに行くとしようじゃないか」
「はあ?」
後ろでほくそ笑む敵。いったい誰のことを指しているのか。
「まさか君、黒幕が誰かわからずに戦っているのか」
私はそう聞かれておし黙るしかなく、急に顔が熱くなり彼から目線を外した。
「はあ。猪突猛進も悪くはないが、君の悪い癖だな。彼だよ」
「誰よ」
「セルバン・イオーニアの体さ」
合わせたい人がいると、プルトは出ていったきり二時間近く戻ってこない。それも仕方のないことなのは承知しているが、やけに遅いなとちょうど思うった時、食堂のドアが開いてプルトがやってきた。
「ハァイ、元気してたかしら。やっと見つけたのよ。ホント苦労したわ。さっ入ってらっしゃい」
私は目を疑った。
そこにいたのはなんと、セルバン・イオーニア本人なのだから。
「どうして」
「どうしてもこうしてもないわよ。このおじいちゃんはね。心臓発作で去年死んだのよ」
心臓発作で死んだ。ということはとっくにこの世に存在しない人物。存在したはいけない人物。ならばなぜあの時私は彼と相対したのか、んー。
「もう。思考が追いつかない」
「落ち着きなさいよ。ああ、そうそうさっき地上の様子見て来んだけどね。そうしたら、なんか大変なことになってるみたいよ」
「大変なこと」
「ええ、このおじいちゃん・・・の体が世界征服宣言をしたのよ。しかも手始めにギリシャを津波で飲み込むって話らしいわ」
ギリシャは地中海に面している。そのため、地中海そのものが津波が起きにくいはずなのに津波が起こると、市民たちに警告してもいまいちイメージできないはずだ。
そうなれば全て向こう側の思惑通りに事が進むだろう。加えて、不意をついた災害による被害は甚大どころの話じゃない。
「何とかして止めないと」
「そうね。でもその前にこのおじいちゃんが言いたいことあるんだってさ」
「言いたいこと?」
おそらくこちらが本人なのだろう。冥界の外のセルバンより少し歳をとっているように見える。
そんな彼が私のそばまでやってくると、私の足にすがってきた。
「若い娘さん。どうか、どうか私の体をもう楽にしてやっとくれ。私は十分生きた。悔いはない、体が盗まれるまでは平和だったのだ。しかし何者かが、墓から私の体を掘り起こし掠め取ってしまった」
そういうことか。どうやら何事もなく埋葬された体を何者かが、掘り起こし利用しているのだな。それならば、あの異様な雰囲気と冷たい感覚には合点がいく。もうとっくに死んでいるのだから。
となると黒幕はあの天使・・・のような子なのかな。でも彼女は違う気がする。
「あらやだ。私ったらつい忘れてたわ」
「どうかしたの」
「その津波。どうにも体セルバンが操ってるわけじゃないみたいなのよ」
「じゃあ一体誰が」
「ダメね。ノイズがひどくて確認できなかったわ。自分の目で確かめろってことね」
いうが早いか私はプルトにガラス付きのドアのある空間に押し込まれる。
「ちょっと」
「こういうのは勢いよ」
空間は部屋ほど大きくない。言ってしまえばタンスに入っている感じだった。
するとなぜか揺れを感じる。そう思った矢先、プルトの微笑む顔がどんどん下に見える。
もしかしてこれ、
「ロケットー」
くそー。あのオカマ今度あったら絶対にって、
「ひゃあああああ」
激しく揺れる機内。押し潰されそうなほどのジー。現実離れもいいところ、冥界からロケットで帰還だなんてサイエンスもスピリチュアもどちらもド返しにしてしまいそうだ。
「ツっ、あれ」
「お目覚めですか姉様」
「流れ星が流れたかと思ったら、姉様がお目覚めになられたのです」
コイオスとクリオスが私の顔を覗き込む。それでようやく私は戻ってきたと実感できた。
もちろん体にだ。体を起こすとそこにはこの二人だけでなく懐かしい人物がいた。
「戻ってきたか。魂旅行は楽しかったかね」
「オケアノス。どうしてここに」
「君が未熟だからではダメかね」
なっ。口を開けたと思ったらこのオヤジは。
「おっと切ってはいけない袋の緒を切ってしまったようだ。まあそんな冗談はともかく、事態はかなり悪化しつつある。戦力として私とネプトゥヌス、コイオス、クリオス、そして君だ」
「正直言って、姉貴たちはよくわからん。だが何か手は打つと思うぜ」
オケアノスとネプトゥヌスが補足説明してくれる。状況についてはすでに冥界である程度聞かされていたが、これほどまでとは想像していなかった。彼女が、あの天使の子があと二人いる。
あの子はもともと人間だったそうだ。オケアノスたちの話を聞く限り、進んで何者かに協力しているわけではなく無理やりこのわけのわからない状況に巻き込まれたわけだ。
なら敵は彼女ではない。むしろその彼女やセルバンを利用し操っている人物こそ私たちが兼ねてから求める本当の敵。その人物が一体どんな存在なのかは全くわからない。
それでも私はその存在が近くにいる気がしてならなかった。
不意に携帯電話の着信音が鳴る。それを持っていたのはなぜかクリオスだった。
「ハイです。ななななんと。それはまずいことになりました。すぐに逃げてください。では」
どうやら穏やかな電話ではないらしい。
「皆さん落ち着いて聞いてください。かの天使が海上に現れました。バルカン半島を目標にクレタ島付近を北上中とのことです」
「クリオス誰と話してたの」
「ケレス様です。現在ユーノ様が足止めをしているそうなのですが、時間の問題だと」
予断を許さない状況である。今まさにこの地が強大な力に飲まれてしまうかもしれない。私たちが止めなければ、人々が抗うこともできずに、傷つく様をただ見ているしかできないだろう。
「姉様これを」
コイオスがおそるおそる取り出したのはイカロスだった。しかし以前よりコンパクトなサイズになっている気がする。外形は全くではないがどことなくイカロスの雰囲気が漂う。
「これは、イカロス」
「はい。申し訳ありません。姉様が翼を失ったことを若様にお伝えしていたのです」
コイオスはそう言って俯く。私はそんなコイオスの頭を撫でてやる。
「落ち込む必要はないわ。強がりもおしまい誰かの助けを求めなければ、神も人も生きてはいけないもの」
「姉様」
そうだ。初めから私は誰かに支えられていた。そのことを忘れていたんだ。ここにいるみんなも、姉さんたちも、真理亜も、若も。みんなに助けられて今の私がある。
「だから、私は支えてくれる誰かのために力を尽くしたい」
「ああ、もとより巻き込まれに来たのだから存分に私の力を使えばいい」
「俺もオレの海のためにひと肌脱ぐぜ」
オケアノスとネプトゥヌスが颯爽と飛び立っていった。あとは、
「わかりました。私としては姉様が万全になるまでと思っていましたが、かの天使を打倒しなければ、姉様に力が戻らないのなら私もどこまでもお供いたします」
「コイオス」
グイと差し出されたイカロスを受け取る。
「クリオス行きますよ」
「コイオス行きましょう」
二人は互いの手を握り合い、蒼静の空へ飛び立った。
イカロスをよく見ると小さく「Mk-2」と書いてあった。装着の仕方は体が覚えている。操縦もきっと大丈夫。以前ならば装着していたベルトは無いが私とイカロスの繋がりを体が直に感じとる。「イケる」と私は思った。
「ありがとう若。行こうイカロスMk-2。イグニッションフライアウェイ」
フワリと身体が宙に浮く。前回と同じ要領で、実行したい行動を脳内にイメージする。
だが、予想に反し前方へ急加速する。
「ウッ」
驚きと反動で声が出てしまう。するとなぜかおかしくなってきて、お腹を抱えて笑っていた。
「アハハ。ハァア、おかしい」
私はまた空を飛んでいる。やはり体を流れていく風は気持ちがいい。
「でもやらなきゃいけないことがあるものね」
津波の原因は彼女と見て間違いないなだろう。ならば上方からの奇襲が打つ手としては常套手段ではないだろうか。
速攻に賭ける。長引かせるとこちらが不利になるかもしれない。七人で迎え撃つわけだが、敵は津波そのものでありその規模はかなり巨大で広範囲だ。敵の武器が何かにもよる。
「見えた」
チカチカと閃光が見える。予想通り敵の武器は多数を相手にできるものらしい。
すかさず急上昇を開始し雲を抜ける。時折雲の隙間から目標を確認する。だいぶ近い距離、まだ直下ではないが声を上げれば気づけるほどの距離までやってきた。
「直上が死角だから、もう少しね」
さらに私は上昇していく。なるべく彼女の頭上へ向けて加速する。
「お願い。私に力を貸して」
囁くように聖剣に語りかける。ただの鉄だった聖剣は、私の声に応えるように鐔の宝玉が輝き始める。
「・・・・・うん。必ず助けてみせる。Candenti Salutem Gratiaッ」
聖剣の切っ先に収束した光が天使めがけて垂直に伸びていく。光は天使に直撃し爆発を起こす。
「まだだ」
下にいた誰かが叫ぶ。風に流されていく黒煙の中に怪しく光が灯る。青い瞳がこちらを捉え、藍色の髪をなびかせて一飛びで、目の前までやってきた。
「悲しいですがあなたを優先的に排除します」
彼女の手に握られているのは異形の銃剣。銃と呼ぶには少し実用性を感じさせないデザインで、弾が出るのかと怪しくおもうほどだ。
しかもそれを両手に持ち舞うように斬りつけてきた。それを避け、一度間合いを開ける。
「すみません。悲しいことに一撃であなたを仕留めて差し上げられなかった」
彼女の表情は別段狂気に染まっているわけでもなく、本当に悲しそうで申しなさげである。
そこで私は確信する。どう見ても彼女は天使では無いと、天使にしては表情に富見過ぎではないだろうか?
「どうしてこんなことを。だなんて今更なことは言わないわ。だからせめて、あなたの名前を教えて」
少女はほんの少しの間考える。
「悲しくなるのでそれはできません」
「悲しいなら言葉にしなけりゃわからない」
「言葉は見えない。悲しいことに見えないものは伝わらない」
言葉を交わしながら、彼女の見えない弾丸を切断していく。
「伝わらないから、悲しくても言葉にするんでしょうがッ」
鍔迫り合いになるかならないかの瞬間に彼女を蹴り落とす。
「ぐっ」
彼女が海面に背中から叩きつけられる体勢で飛沫をあげて入水した。しかしこれで終わるはずはない。彼女の動作は依然として静かで、素早い。
「あなたは私にとって眩しい。目が焼け爛れたようにあなたを見ることが痛く、辛い」
彼女はぬらりと寄ってきたかと思うと、すかさず引き金をためらうことなく弾く。不意打ちだが当たることはなく、弾は明後日の方向に飛んで行った。
彼女の後方を見ると他のみんなが次々とやってきた。ただしコイオスとクリオスそれからネプトゥヌスがいない。オヤっと思いながらも私は彼女との対峙に集中し直す。
「あなたはどうしてこんなに助けてくれる人がいるの悲しい。どうして私には助けてくれる人がいないの哀しい」
「確かに不運なことでした。ですがあなたは、本当のあなたは誰かに助けを求めたことがありますか」
ユーノが彼女に語りかける。
「先ほど彼女が言いました通り言葉にしなければ伝わらないのです。人も神も」
「それは・・・」
そうだ。だから彼女が今言葉にしなくてはならないのは、私たちを罵倒する言葉でも、打倒を宣言する言葉でもなく、
「・・・助けて・・・私を・・・私を助けてぐださい」
「よく言えましたね。今はお休みなさい。愛情を継承せしオリュンポスがユーノ。あなたを救うことを約束します」
ユーノは高らかに宣言する。私もホッと一息つく。剣を構えていたオケアノスが私に耳打ちする。
「先ほど、ネプトゥヌス、コイオス、クリオスは本土に戻った。あとの1人がどうやら街で破壊活動を始めたらしい」
「どこからの情報」
「若田氏だよ。クリオスが持っていたスマホという機械から、突然地震が起こったと知らせがあった。この辺りにはプレートは存在しない。それなのに津波が起こったなら津波が起こる原因は何か」
「・・・地震が先に起こった」
「ご名答」
なんということだ、こんなにも簡単なことをどうして見落としていたのだろう。
津波の前には必ず地震が起きることはわかっていたはずなのに。急いで向かわなきゃ。
「待ちたまえ」
飛ぼうとした私の足首をオケアノスが掴んで止める。
「ちょ、ちょっと何よ。早く行かなきゃ」
「ここは彼らに任せよう。私たちは後ろでほくそ笑む敵の顔を拝みに行くとしようじゃないか」
「はあ?」
後ろでほくそ笑む敵。いったい誰のことを指しているのか。
「まさか君、黒幕が誰かわからずに戦っているのか」
私はそう聞かれておし黙るしかなく、急に顔が熱くなり彼から目線を外した。
「はあ。猪突猛進も悪くはないが、君の悪い癖だな。彼だよ」
「誰よ」
「セルバン・イオーニアの体さ」
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