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招待
29.
しおりを挟む吹き飛んだと思っていた涙が溢れ出し、ポタポタと膝の上にシミになって落ちた。
しばらくお互い無言のまま。
先輩が何を考えているのかは言葉がなくても分かる。過去を思い出し、混乱しているのだろう。
すると一度俯いてから、息を吸うように顔を上げ真正面から私の目を見据えた先輩。
「何も言わなくても千春がいつも笑ってそばにいてくれたから、付き合ってると勝手に勘違いしてたんだな……ほんと馬鹿だよな」
頬に触れ、流れる涙を親指の腹で拭いながら優しく語りかけてくる。
「あの時も陵介と二股されてるって勘違いしてあんな形で千春を避けたのに、結局千春のことずっと忘れられなかったんだ」
「え……」
今になって心の内を語ってくれる先輩の目を、恐る恐る真っ直ぐ見つめ返した。
「本当はもっとちゃんと言い訳でも何でも聞いてやればよかったのに、ただ逃げることしか考えられなくて、お前に関すること全部シャットアウトしたのに断ち切ろうとすればする程、千春の顔が脳裏に浮かんで……苦しかった」
拭っていた手が離れ、悔しそうな顔つきで俯き加減に横を向いた先輩。その姿がとても痛々しくて、見てるだけでまた涙が浮かんできた。
「他の誰かと付き合えば忘れるかと思ったけど、それも無理だった。再会してからは会うたびに、やっぱり千春が好きなんだって自覚したよ」
先輩は困ったように苦笑いを浮かべた。
膝の上に乗せた手をギュッと握っていると、温かい手でさらに上から握りしめられ、視線が合わさった。
「千春……今さらだけど、やっぱり諦めきれないくらい好きなんだ。
俺と付き合おう」
『付き合って』じゃなく『付き合おう』という言葉が、なんとも先輩らしい。
私は顔を伏せギュッと目を瞑った。
心が震えて苦しい。
胸が張り裂けそうで思わず唇を噛み締めた。
これは夢だろうか。押し込めていた気持ちが溢れすぎて、自分の都合のいいように、また拒絶されて絶望する前に見る妄想かもしれない。
そうでなければ、こんなことはあり得ない。
先輩がずっと私を好きでいたなんて。
「返事は?」
顔を向けるのが恥ずかしくて俯いたままでいると、クイっと顎を持ち上げられた。
さっきまで情けない顔をしていたのに、いつのまにかまた余裕のある艶めかしい表情に変わっている。
私はやっぱり恥ずかしくて目を逸らした。
なのに、それでもまた顎を向き直され視線が重なった。
「千春好きだ」
そう言うと今度はきつく抱きしめられた。
腕の中にすっぽりと包み込まれ、言いようのない感情に満たされる。
このまま温かい腕の中にいつまでもいたい。そう思えるほど先輩の胸は安心してしまう。
けれど……
「……少し、時間をください」
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