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第2話・強くて可愛い小さな師匠
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モンスタースレイヤーの称号を得た者の役割は多岐にわたる。
その主な役割は世界共通の敵であるモンスターの排除だが、時にはそんな事とはまったく関係の無い事もやったりする。それは時に遺跡調査のお手伝いだったり、錬金素材の調達だったり、生まれた子供のベビーシッターだったりと、本当に様々だ。
こう言うと体のいい何でも屋の様に聞こえるかもしれないけど、モンスターによって一度は滅びかけた人類が再びこのエオスで繁栄していく為には、モンスターから人々を守ると同時にその手助けも必要になる。だからそれも立派なモンスタースレイヤーの仕事だ。
そんな沢山の役割を背負うが故にモンスタースレイヤーの称号を持つ者はエオス共通の勇者であり、人々の憧れと尊敬を一身に集める存在なのだ。しかし、モンスタースレイヤーの称号を持つ者が、全て人間的に立派なのかと言えばそうでもない。
実際に俺の師匠であるティアはまだまだお子様だし、人としての心の成長もこれからだ。そう言った意味ではティアのモンスタースレイヤーとしての伸び代はまだまだ底が知れない。そこは弟子であり、ティアの兄的存在でもある俺も楽しみなところだ。
「よしっ! 師匠! 今のはどうでしたか?」
「凄く良かったよ! 次も来てるからその調子で頑張って!」
「はいっ!」
今日は朝から大量のモンスターが出現していると言う平原へ2人で出向き、そこで俺はモンスターに的確な止めを刺す修行に励んでいた。
いつもの様に師匠であるティアが見守る中、俺はモンスタースレイヤーとしての実力を身に付ける為にモンスターとの戦いを繰り広げる。
ちなみにだが、今日からは槍を使っての戦闘をティアから命じられている。モンスタースレイヤーはあらゆる武器を使う事に長けていないと駄目なので、修行では一定の期間で使う武器を変えているのだ。
「くそっ! なんて堅いんだ!」
「そのモンスターはこの前のドラゴンと同じグリーンカラーだから、生半可な力の突きは通らないからねっ! お兄ちゃん!」
「は、はいっ!」
このエオスに存在するモンスターは、そのカラーによって大まかな特性が分類されている。例えばグリーンカラーのモンスターはとても打たれ強いとか、レッドカラーなら高い攻撃能力があるとか、パープルカラーなら特殊な攻撃方法を多く持っているとか、そんな感じだ。
もちろんそのカラー特性は複雑に絡み合ったりもするから、モンスターの特性全てを見た目のカラーだけで判断するのは難しい。だけど、俺達がモンスターと戦う上でそのカラーはとても重要な判断材料になる。
ちなみにだが、ホワイト、ブラック、メタルに属するカラーはかなりのレアカラーで、そのカラーを有するモンスターはあらゆる意味で恐ろしく手強い。
「モンスターだって殺されない為に必死なんだから、もっと考えて攻撃をしないとお兄ちゃんがやられちゃうよっ!」
「はいっ!」
グリーンカラーの人型ライドンリザードと戦っている俺は、その堅牢な鱗状の皮膚を前に有効な一撃を与えられず苦戦をしていた。そしてこのまま苦戦が続けば、その内に見かねたティアが問答無用で手を出すだろう。
だがそれでは、いつまで経っても俺が目指すモンスタースレイヤーになるのは無理だ。ここは何としてでも自力でライドンリザードを倒したい。
しかし、元々から強固な身体をしているライドンリザードがグリーンカラーである以上、俺の力でその身体を貫くのが難しいのも事実だ。
――今の俺の実力で対抗できる手段はそう多くない。だったら今までティアから習ってきた事の全てをぶつけるだけだっ!
「クールウインド!!」
左手から放った冷風の魔法がライドンリザードを包み、その動きを鈍らせる。
そして相手が十分に冷えたと見定めた頃、俺はクールウインドの魔法を解除してから次の魔法を放った。
「ヒートウインド!!」
クールウインドによって冷やされたライドンリザードに向け、今度は凄まじい熱風を浴びせかける。
すると急激な温度変化によってライドンリザードの鱗が捲れ上がり始め、その堅牢な鱗の下にある無防備な部分を晒した。
「とりゃあああああああ――――っ!!」
ライドンリザードの身体の中央、急所部分に当たる鱗が捲れ上がったのを確認した俺は、すぐさま魔法を解除してから持っている槍を構えてその急所を狙った。
「くらえっ!!」
捲れ上がった皮膚の下にある無防備な部分に俺の突いた槍は見事に突き刺さり、その瞬間にライドンリザードは大きな叫び声を上げた。
それを見た俺は槍をグッと回転する様に力強く捻り、ライドンリザードの死を確実なものとする。
そして槍から伝わって来る手応えでライドンリザードが絶命した事を感じ取った俺は、捻っていた槍を元の位置に戻してからスッと引き抜いた。
「ふうっ……師匠、どうでしたか?」
「うん。良い戦いぶりだったよ、お兄ちゃん。『力が通じないなら、その力が通じる様に状況を変える』教えの一つを忠実に実行してたね」
「はいっ! 師匠の教えは着実に俺の中に刻み込まれています! ありがとうございます!」
「えへへ♪ お兄ちゃんにそう言ってもらえると、師匠になった甲斐があったなあ~♪」
いつもの様に表情をとろけさせるティア。こんなところは本当に昔から可愛らしい。
それにしても、俺とティアが居た孤児院のみんなを守り、その孤児院をずっと存続させられる金を得られる様にする為にモンスタースレイヤーになる道を選んだ俺だが、ティアが師匠になってくれて本当に良かったと思う。
まあ、人見知りの激しいティアも、モンスタースレイヤーの称号を持つからには最低一人の弟子を持たなければいけなかったし、そのへんはお互いに都合が良かったと言えるだろう。
「それにしても師匠。聞いていた話よりもモンスターの数が少なくないですか?」
「うん。確かにそうだね。まだどこかに潜んでいるのか、それともどこかへ移動したのか……まあどちらにしても、今は少し休憩を入れようよ」
「そうですね。それじゃあ、ちょっと準備をしますね」
「うん!」
俺は持って来ていたリュックからビニールのシートを取り出し、適当な木陰の下にそれを敷いた。
そして持って来ていた道具を近くにまとめて置き、そのまましばらくの休憩に入った。
「あの、師匠。これだと俺が横になれないんですが?」
「ん~? 私はお兄ちゃんの師匠として頑張って指導をしたから、とお――――っても疲れたのです。だからお兄ちゃんは、私の弟子として師匠の疲れを癒さないといけないのでーす♪」
そう言って俺の膝枕を堪能するティア。
その様はとても可愛らしいのだけど、少しは師匠としての威厳みたいなものを持ってほしいとは思う。
「師匠は巷では『ダークネス・ティア』の異名を持つ有名なモンスタースレイヤーなんですよ? もしもこんなところを誰かに見られたら幻滅されますよ?」
「別にいいもーん。私はお兄ちゃんが居ればそれでいいから。それよりもほら、師匠を癒す為に頭を撫で撫でしてよ」
「やれやれ」
とんだ甘やかしだとは思うけど、師匠の言う事を聞くのは弟子の勤め。しかも相手は世界の希望であるモンスタースレイヤーの称号を持つ者だから、無碍には扱えない。
こんな感じでここからしばらくの間、休憩と言う名のティアの甘やかし時間が続いた。
そして休憩を始めてから1時間ほどが過ぎた頃、膝枕で眠っていたティアが突然パッと目を覚まして起き上がった。
「どうしたんですか? 急に」
「嫌な気配がこっちに近付いて来る。それも沢山……」
「モンスターですか?」
「多分ね。お兄ちゃん、すぐに戦闘の準備をして!」
「はいっ!」
俺はすぐさま戦いの準備を始め、師匠が感じた嫌な気配の流れて来る方向を見据えた。
そして師匠が目を覚ましてから10分くらいが経った頃、草原の奥にある岩場地帯から向かって来る複数の馬車と砂煙が立ち上っているのが見え始めた。
「師匠、あれって」
「うん。旅人がモンスターに追われてるみたいだね。すぐに助けに行くよ! お兄ちゃん!」
「はいっ!」
俺とティアはそれぞれに武器を持ち、追われている旅人達を助けに向かった。
そして俺達と追われている旅人達の距離が縮まると、その背後に居るモンスター達の姿も徐々に見え始めた。その数はぱっと見ただけでも30匹は超えている。
「お兄ちゃん! モンスターの数が多いから、お兄ちゃんは旅人を守る事に専念して! モンスターは私が倒すからっ!」
「分かりました!」
「それじゃあ、いっくよーっ! ダークプリズン!」
ティアの放った闇のネットが、旅人に一番近かったモンスター達の前に張り巡らされる。
すると先頭側に居た多くのモンスター達が突然現れた闇のネットを避けられずに絡め取られ、その闇の牢獄へと囚われた。
「闇の牢獄に囚われし怪物達よ、我が闇の力の前に露と消えよ! フラッシング!!」
ダークプリズンに囚われたモンスター達に向かってティアが再び魔力を送ると、囚われていたモンスター達は静かにその闇に飲まれて消え去った。
「さすがは師匠。圧倒的だ……」
見た目は本当に普通の小さな少女だけど、いざ戦いになるとこれほど頼もしい存在は居ない。
「さあっ! 次々いくよー!」
モンスター集団の約3分の1を初手で倒したティアは、そのままの勢いでモンスターへと突っ込んで行く。
そしてそんなティアがモンスターの群れを全滅させるのに、時間は10分とかからなかった。
「――街まで送っていただいて、本当にありがとうございます。この御恩は決して忘れません」
「いえ。これからも旅の時はモンスターに気を付けて下さいね」
「はい。それでは失礼します」
「「「またねー! お兄ちゃーん!」」」
「またねー!」
モンスターの群れから旅人達を助けた俺達は、みんなからの申し出を受けて街までの護衛を行った。
俺達が助けた旅人達は女性ばかりの雑技集団だったらしく、小さな子供も沢山居た。そんな人達がなぜ護衛も付けずに旅をしていたのかと最初は疑問に思ったけど、雇っていた護衛はモンスターの集団からみんなを逃がす為に足止めとしてずっと奥の方で戦ってくれていたらしい。
だが、あれだけの群れが旅人を追いかけて来たという事は、おそらくその護衛の人達はもう生きていないだろう。残念には思うが、これがこのエオスにおける悲しい現実だ。
「さてと……護衛も終わったし、お兄ちゃん、ちょっとこっちに来てくれるかな?」
「えっ? あ、はい」
無事に旅人達の護衛を終えた後、俺はいきなりティアから街の外へと連れ出された。
「――お兄ちゃん、そこに正座して」
「えっ!?」
「いいから早くっ!」
「は、はいっ!」
そして街から少しだけ離れた平原地帯に着くと、ティアはおもむろに俺に対して正座を強要してきた。
「あ、あの、いったいどうしたんでしょうか? 師匠」
「さっきのアレは何? 私にあんな醜態を見せるなんて」
――アレ? アレって何だ? ……あっ! もしかして、さっきの戦闘で旅人を守る為にモンスターと戦った時の事か?
先の戦闘で俺は別の場所から襲いかかって来たモンスターと交戦したんだけど、そのモンスターを倒した際に止めの刺し方が甘かったらしく、俺は危うく反撃を許してしまうところだった。
しかし、それにいち早く気が付いたティアが素早く助けてくれたおかげで難を逃れたのだ。
――俺がちゃんとモンスターに止めを刺せてなかったから怒ってるのかな……。
「いやあの……あれは俺の油断が生んだ結果なので反省してます。すみません……」
「もうっ! お兄ちゃんはいつも油断し過ぎだよ! そんなんじゃ私の身がもたないじゃない!」
珍しく真面目に怒るティアだが、これは師匠として当然の物言いだろう。
言葉は厳しいが、これも俺を一人前のモンスタースレイヤーに育てようとしてくれているからだ。そう考えるとティアも師匠らしくなってきたなと、思わず感慨深くなる。
「すみません、師匠」
「まったくもう……。で? どうだったの? 嬉しかったの?」
「はっ?」
「助けた女の子達にちやほやされて嬉しかったのかって聞いてるのっ!」
「えっ!? いやあの……師匠が言ってた『アレ』って何だったんですか?」
「そんなの、お兄ちゃんが助けた女の子達に囲まれてデレデレしてた事に決まってるじゃないっ!!」
「ええっ!?」
てっきりモンスターとの戦いの事で怒っていると思っていたから、ティアのこの発言には心底驚いた。
「どうなのお兄ちゃん! 実際どうだったのっ!? 嬉しかったわけ!?」
「いやあの、ちょっと待って下さい。師匠はさっきの戦いの事で怒ってたんじゃないんですか?」
「そんな事はどうだっていいのっ! 今重要なのは、お兄ちゃんが女の子達に囲まれて嬉しかったのかどうかなんだからっ!」
「…………」
せっかく少しは師匠らしくなってきたかなと思ってさっきは感動していたのに、今の発言で全てが台無しだ。
「お兄ちゃん! ちゃんと聞いてるの!? お兄ちゃんが本当の事を喋らないなら、私が作った特製自白剤を飲ませちゃうんだからねっ!!」
「そ、それは勘弁して下さいっ!」
「それじゃあ本当の事をちゃんと話してっ!!」
どこまでも広がる平原にティアの怒号が響く。
そしてここから約2時間くらいの間、俺は正座のままでティアからの責めを受け続けた。
その主な役割は世界共通の敵であるモンスターの排除だが、時にはそんな事とはまったく関係の無い事もやったりする。それは時に遺跡調査のお手伝いだったり、錬金素材の調達だったり、生まれた子供のベビーシッターだったりと、本当に様々だ。
こう言うと体のいい何でも屋の様に聞こえるかもしれないけど、モンスターによって一度は滅びかけた人類が再びこのエオスで繁栄していく為には、モンスターから人々を守ると同時にその手助けも必要になる。だからそれも立派なモンスタースレイヤーの仕事だ。
そんな沢山の役割を背負うが故にモンスタースレイヤーの称号を持つ者はエオス共通の勇者であり、人々の憧れと尊敬を一身に集める存在なのだ。しかし、モンスタースレイヤーの称号を持つ者が、全て人間的に立派なのかと言えばそうでもない。
実際に俺の師匠であるティアはまだまだお子様だし、人としての心の成長もこれからだ。そう言った意味ではティアのモンスタースレイヤーとしての伸び代はまだまだ底が知れない。そこは弟子であり、ティアの兄的存在でもある俺も楽しみなところだ。
「よしっ! 師匠! 今のはどうでしたか?」
「凄く良かったよ! 次も来てるからその調子で頑張って!」
「はいっ!」
今日は朝から大量のモンスターが出現していると言う平原へ2人で出向き、そこで俺はモンスターに的確な止めを刺す修行に励んでいた。
いつもの様に師匠であるティアが見守る中、俺はモンスタースレイヤーとしての実力を身に付ける為にモンスターとの戦いを繰り広げる。
ちなみにだが、今日からは槍を使っての戦闘をティアから命じられている。モンスタースレイヤーはあらゆる武器を使う事に長けていないと駄目なので、修行では一定の期間で使う武器を変えているのだ。
「くそっ! なんて堅いんだ!」
「そのモンスターはこの前のドラゴンと同じグリーンカラーだから、生半可な力の突きは通らないからねっ! お兄ちゃん!」
「は、はいっ!」
このエオスに存在するモンスターは、そのカラーによって大まかな特性が分類されている。例えばグリーンカラーのモンスターはとても打たれ強いとか、レッドカラーなら高い攻撃能力があるとか、パープルカラーなら特殊な攻撃方法を多く持っているとか、そんな感じだ。
もちろんそのカラー特性は複雑に絡み合ったりもするから、モンスターの特性全てを見た目のカラーだけで判断するのは難しい。だけど、俺達がモンスターと戦う上でそのカラーはとても重要な判断材料になる。
ちなみにだが、ホワイト、ブラック、メタルに属するカラーはかなりのレアカラーで、そのカラーを有するモンスターはあらゆる意味で恐ろしく手強い。
「モンスターだって殺されない為に必死なんだから、もっと考えて攻撃をしないとお兄ちゃんがやられちゃうよっ!」
「はいっ!」
グリーンカラーの人型ライドンリザードと戦っている俺は、その堅牢な鱗状の皮膚を前に有効な一撃を与えられず苦戦をしていた。そしてこのまま苦戦が続けば、その内に見かねたティアが問答無用で手を出すだろう。
だがそれでは、いつまで経っても俺が目指すモンスタースレイヤーになるのは無理だ。ここは何としてでも自力でライドンリザードを倒したい。
しかし、元々から強固な身体をしているライドンリザードがグリーンカラーである以上、俺の力でその身体を貫くのが難しいのも事実だ。
――今の俺の実力で対抗できる手段はそう多くない。だったら今までティアから習ってきた事の全てをぶつけるだけだっ!
「クールウインド!!」
左手から放った冷風の魔法がライドンリザードを包み、その動きを鈍らせる。
そして相手が十分に冷えたと見定めた頃、俺はクールウインドの魔法を解除してから次の魔法を放った。
「ヒートウインド!!」
クールウインドによって冷やされたライドンリザードに向け、今度は凄まじい熱風を浴びせかける。
すると急激な温度変化によってライドンリザードの鱗が捲れ上がり始め、その堅牢な鱗の下にある無防備な部分を晒した。
「とりゃあああああああ――――っ!!」
ライドンリザードの身体の中央、急所部分に当たる鱗が捲れ上がったのを確認した俺は、すぐさま魔法を解除してから持っている槍を構えてその急所を狙った。
「くらえっ!!」
捲れ上がった皮膚の下にある無防備な部分に俺の突いた槍は見事に突き刺さり、その瞬間にライドンリザードは大きな叫び声を上げた。
それを見た俺は槍をグッと回転する様に力強く捻り、ライドンリザードの死を確実なものとする。
そして槍から伝わって来る手応えでライドンリザードが絶命した事を感じ取った俺は、捻っていた槍を元の位置に戻してからスッと引き抜いた。
「ふうっ……師匠、どうでしたか?」
「うん。良い戦いぶりだったよ、お兄ちゃん。『力が通じないなら、その力が通じる様に状況を変える』教えの一つを忠実に実行してたね」
「はいっ! 師匠の教えは着実に俺の中に刻み込まれています! ありがとうございます!」
「えへへ♪ お兄ちゃんにそう言ってもらえると、師匠になった甲斐があったなあ~♪」
いつもの様に表情をとろけさせるティア。こんなところは本当に昔から可愛らしい。
それにしても、俺とティアが居た孤児院のみんなを守り、その孤児院をずっと存続させられる金を得られる様にする為にモンスタースレイヤーになる道を選んだ俺だが、ティアが師匠になってくれて本当に良かったと思う。
まあ、人見知りの激しいティアも、モンスタースレイヤーの称号を持つからには最低一人の弟子を持たなければいけなかったし、そのへんはお互いに都合が良かったと言えるだろう。
「それにしても師匠。聞いていた話よりもモンスターの数が少なくないですか?」
「うん。確かにそうだね。まだどこかに潜んでいるのか、それともどこかへ移動したのか……まあどちらにしても、今は少し休憩を入れようよ」
「そうですね。それじゃあ、ちょっと準備をしますね」
「うん!」
俺は持って来ていたリュックからビニールのシートを取り出し、適当な木陰の下にそれを敷いた。
そして持って来ていた道具を近くにまとめて置き、そのまましばらくの休憩に入った。
「あの、師匠。これだと俺が横になれないんですが?」
「ん~? 私はお兄ちゃんの師匠として頑張って指導をしたから、とお――――っても疲れたのです。だからお兄ちゃんは、私の弟子として師匠の疲れを癒さないといけないのでーす♪」
そう言って俺の膝枕を堪能するティア。
その様はとても可愛らしいのだけど、少しは師匠としての威厳みたいなものを持ってほしいとは思う。
「師匠は巷では『ダークネス・ティア』の異名を持つ有名なモンスタースレイヤーなんですよ? もしもこんなところを誰かに見られたら幻滅されますよ?」
「別にいいもーん。私はお兄ちゃんが居ればそれでいいから。それよりもほら、師匠を癒す為に頭を撫で撫でしてよ」
「やれやれ」
とんだ甘やかしだとは思うけど、師匠の言う事を聞くのは弟子の勤め。しかも相手は世界の希望であるモンスタースレイヤーの称号を持つ者だから、無碍には扱えない。
こんな感じでここからしばらくの間、休憩と言う名のティアの甘やかし時間が続いた。
そして休憩を始めてから1時間ほどが過ぎた頃、膝枕で眠っていたティアが突然パッと目を覚まして起き上がった。
「どうしたんですか? 急に」
「嫌な気配がこっちに近付いて来る。それも沢山……」
「モンスターですか?」
「多分ね。お兄ちゃん、すぐに戦闘の準備をして!」
「はいっ!」
俺はすぐさま戦いの準備を始め、師匠が感じた嫌な気配の流れて来る方向を見据えた。
そして師匠が目を覚ましてから10分くらいが経った頃、草原の奥にある岩場地帯から向かって来る複数の馬車と砂煙が立ち上っているのが見え始めた。
「師匠、あれって」
「うん。旅人がモンスターに追われてるみたいだね。すぐに助けに行くよ! お兄ちゃん!」
「はいっ!」
俺とティアはそれぞれに武器を持ち、追われている旅人達を助けに向かった。
そして俺達と追われている旅人達の距離が縮まると、その背後に居るモンスター達の姿も徐々に見え始めた。その数はぱっと見ただけでも30匹は超えている。
「お兄ちゃん! モンスターの数が多いから、お兄ちゃんは旅人を守る事に専念して! モンスターは私が倒すからっ!」
「分かりました!」
「それじゃあ、いっくよーっ! ダークプリズン!」
ティアの放った闇のネットが、旅人に一番近かったモンスター達の前に張り巡らされる。
すると先頭側に居た多くのモンスター達が突然現れた闇のネットを避けられずに絡め取られ、その闇の牢獄へと囚われた。
「闇の牢獄に囚われし怪物達よ、我が闇の力の前に露と消えよ! フラッシング!!」
ダークプリズンに囚われたモンスター達に向かってティアが再び魔力を送ると、囚われていたモンスター達は静かにその闇に飲まれて消え去った。
「さすがは師匠。圧倒的だ……」
見た目は本当に普通の小さな少女だけど、いざ戦いになるとこれほど頼もしい存在は居ない。
「さあっ! 次々いくよー!」
モンスター集団の約3分の1を初手で倒したティアは、そのままの勢いでモンスターへと突っ込んで行く。
そしてそんなティアがモンスターの群れを全滅させるのに、時間は10分とかからなかった。
「――街まで送っていただいて、本当にありがとうございます。この御恩は決して忘れません」
「いえ。これからも旅の時はモンスターに気を付けて下さいね」
「はい。それでは失礼します」
「「「またねー! お兄ちゃーん!」」」
「またねー!」
モンスターの群れから旅人達を助けた俺達は、みんなからの申し出を受けて街までの護衛を行った。
俺達が助けた旅人達は女性ばかりの雑技集団だったらしく、小さな子供も沢山居た。そんな人達がなぜ護衛も付けずに旅をしていたのかと最初は疑問に思ったけど、雇っていた護衛はモンスターの集団からみんなを逃がす為に足止めとしてずっと奥の方で戦ってくれていたらしい。
だが、あれだけの群れが旅人を追いかけて来たという事は、おそらくその護衛の人達はもう生きていないだろう。残念には思うが、これがこのエオスにおける悲しい現実だ。
「さてと……護衛も終わったし、お兄ちゃん、ちょっとこっちに来てくれるかな?」
「えっ? あ、はい」
無事に旅人達の護衛を終えた後、俺はいきなりティアから街の外へと連れ出された。
「――お兄ちゃん、そこに正座して」
「えっ!?」
「いいから早くっ!」
「は、はいっ!」
そして街から少しだけ離れた平原地帯に着くと、ティアはおもむろに俺に対して正座を強要してきた。
「あ、あの、いったいどうしたんでしょうか? 師匠」
「さっきのアレは何? 私にあんな醜態を見せるなんて」
――アレ? アレって何だ? ……あっ! もしかして、さっきの戦闘で旅人を守る為にモンスターと戦った時の事か?
先の戦闘で俺は別の場所から襲いかかって来たモンスターと交戦したんだけど、そのモンスターを倒した際に止めの刺し方が甘かったらしく、俺は危うく反撃を許してしまうところだった。
しかし、それにいち早く気が付いたティアが素早く助けてくれたおかげで難を逃れたのだ。
――俺がちゃんとモンスターに止めを刺せてなかったから怒ってるのかな……。
「いやあの……あれは俺の油断が生んだ結果なので反省してます。すみません……」
「もうっ! お兄ちゃんはいつも油断し過ぎだよ! そんなんじゃ私の身がもたないじゃない!」
珍しく真面目に怒るティアだが、これは師匠として当然の物言いだろう。
言葉は厳しいが、これも俺を一人前のモンスタースレイヤーに育てようとしてくれているからだ。そう考えるとティアも師匠らしくなってきたなと、思わず感慨深くなる。
「すみません、師匠」
「まったくもう……。で? どうだったの? 嬉しかったの?」
「はっ?」
「助けた女の子達にちやほやされて嬉しかったのかって聞いてるのっ!」
「えっ!? いやあの……師匠が言ってた『アレ』って何だったんですか?」
「そんなの、お兄ちゃんが助けた女の子達に囲まれてデレデレしてた事に決まってるじゃないっ!!」
「ええっ!?」
てっきりモンスターとの戦いの事で怒っていると思っていたから、ティアのこの発言には心底驚いた。
「どうなのお兄ちゃん! 実際どうだったのっ!? 嬉しかったわけ!?」
「いやあの、ちょっと待って下さい。師匠はさっきの戦いの事で怒ってたんじゃないんですか?」
「そんな事はどうだっていいのっ! 今重要なのは、お兄ちゃんが女の子達に囲まれて嬉しかったのかどうかなんだからっ!」
「…………」
せっかく少しは師匠らしくなってきたかなと思ってさっきは感動していたのに、今の発言で全てが台無しだ。
「お兄ちゃん! ちゃんと聞いてるの!? お兄ちゃんが本当の事を喋らないなら、私が作った特製自白剤を飲ませちゃうんだからねっ!!」
「そ、それは勘弁して下さいっ!」
「それじゃあ本当の事をちゃんと話してっ!!」
どこまでも広がる平原にティアの怒号が響く。
そしてここから約2時間くらいの間、俺は正座のままでティアからの責めを受け続けた。
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