あなたが俺の番ですか?

ミルクルミ

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気持ちの矛先は⑩

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「いえ、大丈夫です。お気遣いありがとうございます」
「そう? ……なら一つ、アドバイスしようかな?」
「アドバイス、ですか?」
「うん。颯珠が君の事が大好き、っていうのは見て分かる通りなんだけど……彼は中々面倒な男だね。確信しないと動けない、臆病な男だ。だから……」

 ――君から動かないと、彼は手に入らないよ?

 男にしては長い髪を耳に掛け、琥陽の背を押すようにそんな事を言う。

(動く、って……どう動けば良いの?)

 そんな琥陽の心の内を悟ったのか「これ以上は自分で考えてね」と柔和な声を響かせると、彼はその場を去った。



 △▽



 ゆったりと歩いていた真帆は、廊下の曲がり角で案の定今のやり取りを聞いていた颯珠を見つけ、ふっと微笑んだ。

「いると思った」
「何話してたの?」
「ん? ただ君が面倒な男だって話だけど?」
「そんな話、わざわざ琥陽にする必要ある?」
「彼、相当混乱してるみたいだよ? 君を取るのか、番を取るのか……もしかしたら君は負けて、番を選んでしまいそうだね?」

 真帆の言葉に、むっと颯珠は唇を噛みしめた。

「そんな顔をするくらいなら、さっさと言ってしまえば良いのに。自分が番だよ、って。何をそんなに躊躇ってるんだか」
「ダメだよ、まだ早い。それを言うのは、今じゃない」
「そうやってのんびりしてると、手に入りそうだったものが遠くに離れていっちゃう、って事もあると思うんだけどね?」

 諭すようにそう言うと、颯珠は子供のようにそっぽを向いてしまった。
 颯珠という男は色んな顔を持っているが、それは自分の内面を知られてしまわないように、という理由もあった。
 内面を知られてがっかりされるよりは、心を開ける人なのか判断した後に徐々に見せていく方が良い。
 それが彼の考え方で、それは彼の傷つきやすい側面から出た行動だ。
 好きな人相手にもそれは作用するようで、琥陽の事を探り気持ちを確かめ、タイミングを見計らっている。

「それで? 検査、受けるの?」
「うん、もう大丈夫だから。情報は絶対に漏らさないよ」
「そんなに徹底することもないと思うんだけどね」

 検査を偽装する手はずは整ったらしい。
 そんな事をせずとも、本当の事を言ってしまえば全て丸く収まるだろうに、と心の中でだけ呟き、この不器用な男の頭にポンと手を置いた。
 アルファはオメガのヒートに多大な影響を受け、時にオメガを襲ってしまう。
 それでもかき集めた理性が働き、番とする事件は滅多に起きない。
 見ず知らずの人を番にしてしまう、それはそれほどその人のフェロモンに本能的に惹かれたからだ。そこに感情は伴っておらず、ただ『手に入れなければならない』と焦燥に駆られる。
 気持ちが追いやられ突き動かされるがまま好き勝手し我に返ると、目の前には傷ついた一人の男の子が倒れている。
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