あなたが俺の番ですか?

ミルクルミ

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理由③

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「ギリギリまでは待つ、けど限界だと思ったら迷わず言うからな」
「それで良いよ……時間がもらえるなら、十分だ」

 一朔に反してか弱く囁くと、その声を聞き一朔は去っていった。
 全身から力が抜けそうになるのをこらえ、一朔とは反対方向に足を向けようとした所でタイミングよく振動したスマホを、顔が引きつりそうになりながらも颯珠はポケットから取り出す。

「はい」

 こんな時にかかってくる相手なんて一人しかいない。
 なので名前の確認もせずに取ると、聞こえた声は案の定母親のものだった。

『最近連絡ないじゃない、番とはどうなってるの?』
「相変わらずだよ。何かあったらこっちから連絡するから、あんまり掛けてこないで」
『とか言って、都合の良い事しか報告しないじゃない。今だって声が沈んでるの、バレバレなのよ』

 できるだけ早く会話を終わらせようとする颯珠と、颯珠から長く話を聞き出そうとする母。
 と言ってもそれは母親だからではない。ただ単に颯珠の現状をあざけ笑い、番を諦めさせるためだ。
 現に颯珠が暗い気持ちでいる事を指摘され息を短く切ったのを聞き、クスクスと面白そうに笑う。

『あんたは私と同様愛されないの。愛情なんて贅沢なもの、望んでも無駄なのよ。どうしてそれが分からないのかしら?』
「オレはあんたとは違う。琥陽はオレを、大切にしてくれてる」
『嘘おっしゃい! オメガなんて子を産むための道具、それ以外で愛される理由なんてないのよ!』

 金切り声を上げる母の声をスマホから耳を離すことで遠ざけ、はぁと長く息を吐いた。
 颯珠は母親とある賭けをしていた。
 己が番と言わずに、番に『好き』と言わせる事。
 琥陽の母との約束とは正反対だ。あちらは颯珠を見つけたらゲームクリア、こちらは見つかったらゲームオーバー。
 その上、颯珠は自分の母親に本当のバースを話していない。
 中学の時に受けた検査結果をそのまま渡し、思春期には変動しやすいからと先生に促されるまま個人で受けた検査の結果は誰にも見せなかった。
 母は未だ颯珠をオメガだと誤解し、番ができたと話した時も相手をアルファだと自然と認識した。
 そして颯珠が番だとか関係なく相手から愛されれば、颯珠を解放してくれると約束してくれた。
 もう颯珠の人生に、とやかく口を出さないと約束してくれた。

『そうだ、用件を忘れてたわ。あんたのとこの学園祭、もうすぐよね? その時本当はどうなのか、確かめさせてもらうから。隠し事はできないと思いなさい』

 返事を待たず、通話が切れる。
 相変わらず自分勝手な母親に、ため息が零れるのを抑えられない。ただでさえ沈んでいた気持ちが、母との会話でもっと沈んでいく。
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