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第1章
第12話 罠
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異空間収納から取り出して与えた『手まり』を転がして遊んでいるミケを見ながら理希は横になり時間をつぶしていた。
会話で少し分かったことがある。
僕から魔力の恩恵を常に受けているけど、時間当たりの供給量は一定で、満杯になるとそれ以上増えない。
実体化していなければ、ほとんど魔力を消費しない。逆に実体化すると激しく消耗するから、長い時間は姿を保てない。
再度実体化するには、霊体化(という表現が正しいのか知らないけど)して魔力を溜める必要がある。
まぁ要するに『疲れたら寝る』みたいなことだろう。
だから今、無駄に実体化させていて良いのか迷うところだけど、楽しそうに遊んでいるのに霊体に戻れというのは可哀そうな気もする。
存在を忘れていたという後ろめたい気持ちもあるし、最初だから良いか。ということにしておこう。
「あぁ、そうだ。なにか特技とか、能力とかあるの?」
魔法が使えるなら心強いし、特技や能力…、例えば、敵を威圧する咆哮や、気配を消して偵察する隠密なんてのが使えたらありがたい。
「うニャん? 身軽なのが自慢ニャ」
手まりを抱え、仰向けの状態でミケが答える。
「まぁ…、それはそうだろうね…」
「能力はご主人に依存するニャよ」
「……依存って?」
意味がよく分からない。
「ニャ?」
寝っ転がっていたミケが素早く身を起こした。毛が逆立っている。
「どうした?」
「下からニャにか来るニャ」
レイピアの柄に手をかけ、理希も身構えかけたが、途中で気が付いた。
「あぁ…、あれは…」
「凄まじい速さニャ! ご主人下がって!」
「大丈夫。問題な…って、ちょ、待っ…」
止めるのも聞かず、ミケは跳躍していた。
「ニャニャニャッ!!」
横を走り抜けようとしていた鳥のゴーレムに、強烈なネコパンチが炸裂した。
「!!!」
面食らった表情で吹き飛ぶゴーレムと途中で目が合う。
『いや…、なんかホント。ごめん』
あまりに理不尽な仕打ちに、理希は心の中で謝った。
鳥のゴーレムは、そのまま悪魔像と激しく衝突した。バキバキという音と共に、ゴーレムと悪魔の像が砕け散る。
「ま、まずい!」
直後、憎悪の塊のような気配が増大するのを感じた。白い光があふれ出す。
得意気にこちらを見上げているミケを拾い上げると、マントに包まるようにして屈み、女神像に対して背を向けた。
間を置かず一筋の光が放たれ、背中に衝撃が走る。
「や、やっぱり罠があったか」
悪魔像じゃなく女神像に攻撃させるとは、罠の製作者はひねくれ者に違いない。
理希は少しよろめいたが、片膝をついたまま振り返ると、レイピアを抜き女神像を斬り払った。そのままの勢いで剣を鞘に戻す。
半円の炎の軌跡を残し、わずかに遅れて像の首がポロリと落ちる。
残った胴体は燃え上がり、一握りの灰と化した。
「さすがご主人。目にも止まらない剣さばきニャ」
「いや…、レイピアの性能だよ」
苦笑して否定したが、自分自身驚いていた。転生前に剣術など習ったことはない。職業に関係するのか、レベルアップの影響なのか…。
薄っすらと明るかった階段が一瞬明滅した。
「ニャ?」
「ループが解けたか?」
身体に纏わりつくように停滞していた重い空気が、ゆっくりと流れ出したのが分かった。
なんか色々手順をすっ飛ばした気がするけど、結果オーライ…かな。
「怪我はない?」
ミケの両脇に手を入れて持ち上げ、確認しながら聞いた。
「ご主人がかばってくれたから、無傷ニャよ」
「二人とも運が良かったみたいだね」
ミケを床に降ろし、理希は立ち上がった。
マントを前に引っ張り確認したが、特にダメージを受けたような跡はない。
物理攻撃が混じっていたら、こうは上手く切り抜けられなかっただろう。
ため息を吐き、女神像の頭を拾い上げた。悪巧み中のフクの顔が浮かぶ。
「女神像に罠を仕掛けるってのは、あながち間違いではないか…」
狭間の空間を思い出し、理希は妙に納得していた。
「エクスティンギトル・イグネ」
焚火を消し、コップを回収しようとして気が付いた。
「石化の魔法か…。危なかったな」
木のコップが石のコップに変化していた。
今回はラタトスク・マントの『アンチマジック』に助けられたけど、あまり頼りにするのは危険かもしれない。
連続で攻撃を受けても大丈夫なのか、無効にできない魔法はないのかとか。詳しいことはなにも知らないし。
テフロン加工のフライパンみたいに、使い続けるとハゲて効果がなくなる。みたいな…
「うニャ~」
理希が考え込んでいると、突然ミケが悲し気な声を上げた。
「ど、どうしたの?」
「ご主人から貰った手まりがニャいニャ」
「あぁ…、この騒ぎで、階段下に落ちちゃったんじゃないかな」
紛らわしい。身体のどこかが石化しちゃったのかと思ったよ。
「それニャら取ってくるニャ!」
「うニャ?」
階段を駆け下りようとしていたミケの首の皮をつかみ、顔の高さに持ち上げた。
「回収するのはまたの機会にしよう」
脱力したが態度には出さず、諭すように言い聞かせた。
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