二次ヒーロー: 親友である女主人公が異世界に召喚され、私も一緒に異世界に引きずり込まれ「脇役勇者」にされてしまう。

Saskia

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冒険13: 何が起こっているのか分からない

第5X-2章: ルーンに刻まれたもの

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アズラスは嵐のように突き進み、その一撃ごとに地面を砕き、空気を震わせるほどの圧倒的な力を見せつけていた。アリア、EMI、セレナは全力で戦っていたが、黒獅子には疲れの兆しすらなかった。

「無駄よ!」セレナは辛うじて突進をかわしながら叫んだ。「どれだけ攻撃しても、こいつの耐久力は異常すぎる!」

「それだけじゃない…」EMIは眉をひそめた。「まるで…楽しんでいるみたい…」

アズラスが咆哮し、アリアに襲いかかった。疲れ果てた彼女は、迫りくる一撃をただ目を見開いて見つめることしかできなかった。

しかし、その瞬間、アレックスがそこにいた。

何も考えず、彼はアリアと黒獅子の間に立ちはだかった。計画もなく、こんな化け物に立ち向かう力もない。

だが彼には…ルーンがあった。

かつてアリアが彼に託した、魔法と戦闘のためのルーン。

迷わず、彼はそれを発動させた。

彼の腕から光が広がり、全身に魔力の紋様が浮かび上がった。その力は、彼女たちのようなものではない。微々たるものにすぎなかった。

それでもアレックスは動かなかった。

退かなかった。

恐れもしなかった。

アズラスは一瞬彼を見つめ…そして、爆笑した。

「ははは!まさか!そんな役立たずのルーンで、俺を止められるとでも?」

黒獅子は闇のエネルギーを前脚に凝縮させ、全力でアレックスに振り下ろした。

衝撃で粉塵が舞い上がり、岩の破片が周囲に飛び散った。

「アレックス!」アリアが手を伸ばし、叫んだ。

だが、粉塵が晴れた時――アレックスはそこに立っていた。

両足は震え、腕はルーンの余波で焼けるように痛んでいた。それでも、一歩も動かなかった。

アズラスは目を細めた。

「…なんだと?」

アレックスは荒い息をつきながら、まっすぐに黒獅子を見た。

「俺の力は足りないかもしれない…でも、お前が仲間を傷つけるのを黙って見ているわけにはいかない」

アズラスは舌打ちし、初めて真剣な表情になった。

「…どうやら、お前はとんだ馬鹿らしいな」

暗黒のオーラが彼を包み込んだ。

アズラスはじっとアレックスを見つめたまま、動かなかった。

荒々しく、傲慢に戦っていたはずの黒獅子が、一歩後ずさった。

空気の緊張がわずかに和らいだ。アリア、セレナ、EMIはすぐにそれを察知した。

「アズラス…?」セレナが信じられないというように呟いた。

黒獅子は不機嫌そうに低く唸り、その漆黒のたてがみを揺らした。

「…これ以上戦う理由はない」

闇の魔導士は眉をひそめ、苛立った表情を浮かべた。

「どういうことだ、アズラス? まさか、ただの人間がちょっと勇気を見せただけで降参するつもりか?」

アズラスは答えなかった。ただ、静かに座り込み、深い思案に満ちた目でアレックスを見つめ続けた。

魔導士は再び何か言おうとしたが、突然、地面の下から鈍い振動音が響いた。

「ヴゥゥゥゥゥン…!」

足元の大地がわずかに揺れた。

魔導士の表情が一変した。驚き、そして――笑みを浮かべた。

「…フフ」

次の瞬間、彼は高笑いを始めた。

「ハハハハハハハ!」

三人の英雄は即座に警戒を強めた。

「今度は何がおかしいのよ?」EMIが拳を握りしめ、低い声で言った。

魔導士は両腕を誇らしげに広げた。

「フフ…ついに…真の目的が果たされたのだ!」

アレックスは眉をひそめた。

「…何を言っている?」

魔導士は指を鳴らした。すると、地面が血のような赤い光に包まれた。

「お前たち、本当にこの戦いに意味があると思っていたのか? 我々がここで勝利することが目的だと?」

祭壇の光が激しく点滅し、地面に刻まれた魔法陣が回転し始めた。

アリアが目を細めた。

「…嫌な予感がする」

「当然だ」魔導士は芝居がかった仕草で手を広げた。「なぜなら、今この瞬間、お前たちが目にしているのは――反物質爆弾の起動だ」

静寂が落ちた。

「…なに?」セレナが震える声で呟いた。

「そうだ」魔導士は、彼らの恐怖を楽しむようににやりと笑った。「これは…この世界を理解の及ばぬ技術。存在そのものを消滅させる、究極の兵器」

アレックスの背筋に冷たいものが走った。

「お前たち…世界を滅ぼすつもりだったのか?」

「いやいやいや」魔導士は指を振りながら、さらに邪悪な笑みを浮かべた。「これは、ただの始まりに過ぎない」

祭壇の振動が激しさを増し、暗黒の渦が空中に形成され始めた。

「この爆弾は、単にこの世界を消すためのものではない! 次元の門を開く鍵なのだ!」

セレナ、EMI、アリアの血の気が引いた。

「…他の世界?」EMIが息を呑んだ。

魔導士の笑みが狂気を帯びる。

「そうだ。そして…我らが真の支配者が、今まさに到来しようとしている!」


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