16 / 57
第16話
ある者は洗濯籠を持って。
ある者は箒を持って。
ある者は食事を持って。
他にも様々な人々が忙しそうに歩いている。
下女たちは微妙に変わった服を着ているようだった。
確か、昔本で読んだかもしれない。
ここの仕事はいくつかに分けられる、と。もしかしたら、パッと見て分かりやすくするため、下女たちの衣服を変えているのかもしれない。
といっても、変わっているのはスカート部分の色くらいなものだったが。
その下女の五人に一人くらいは奴隷の首輪をつけている者がいた。
私はついそんな人を目で追ってしまう。
「あまり慣れないかしら?」
「奴隷とかは見たことある。……購入を検討したこともある」
私は旅を基本とした冒険者だった。
多くの冒険者は迷宮といった魔物たちが巣食う場所の攻略を主にしているため、中々私のような人間はパーティーを組みにくかった。
だから、奴隷ならばそういったのを気にしないとも思ったのだが、人一人の人生を買うと考えると、そう簡単に買えるものでもなかったため、結局は一人で行動するようになった。
実際、それでそこまで不自由することがなかったというのも、購入しなかった理由の一つだった。
それに、私独り言……というかティルガとの会話が多い。
私の旅の目的にしても、それに奴隷とはいえ一人の人間を巻き込みたくはなかった。
「ここにいる奴隷の多くは売り飛ばされた子たちね。仕事を頑張れば、奴隷から下女になることもできるわ。もちろん、この宮廷を出て仕事をしたいという子もいるし……もっと言えば、国王、あるいは王子たちに見初められるということもあるわね」
「それはまた凄い出世」
「出世なんて言葉じゃ温いくらいね。でも実際にいたこともあるわよ。……まあ、色々反感も買ってしまうみたいだけどね」
悪戯っぽく微笑んだファイランが前を歩いていく。
そんな風に歩いていると、すぐ近くを二名の女性が歩いていった。
彼女らは侍女と思われる女性を従えている。
ドレスに身を包んだ女性と、私の好きな和服で着飾った女性だ。
……彼女らはどう見ても、下女ではないだろう。となると、恐らくは、さらに奥にある後宮の住人たちだろう。
彼女らは談笑を楽しみながら後宮の方へと歩いていく。
「あちらの説明は必要ないかしら?」
「後宮と、そこに住む国王様の愛人?」
「そうね。正妻以外の方々にはそれぞれ立場、というか階級というのが色々あるんだけど……まあ、私もそこまで詳しくはないわ。対面したら、基本礼をしておけばまず問題はないわ」
「分かった」
会ったら、礼をする。それだけを胸に刻んでおいた。
「まあ、宮廷についてはまた後でゆっくり話すわ。今はこっちに来てちょうだい」
ファイランがにこりと微笑み、指さした。
そちらの建物の入口には、『精霊術師館』、と書かれていた。
ここが、私が試験に合格した場合の職場となる場所だろう。
中へと入り、通路を歩いていく。
途中いくつかの部屋があり、番号が割り振られていた。一階部分には、1、2の番号の部屋が並んでいる。
その通路を進んでいき階段を上がる。
「さ、こちらの部屋が私たちが利用している部屋よ」
「番号の意味は?」
「宮廷精霊術師団っていうのがあってね。現在、第七師団まであって、番号はそれだね。私たちの部隊は、第三師団だから、この三の番号がついた部屋が使えるってことよ。与えられた部屋だとここが一番大きいから、事務所として使っているわね」
そういってファイランが扉を開ける。
机がいくつか並んだそこは、まさに事務作業にうってつけといった造りをしていた。
しかし、そこに人の姿はない。
「あれ? 師団長、いないわね。まったく、呼びつけておいてどこに行ったのかしら」
「トイレとかじゃない?」
「それならいいんだけど。……さて、どこにいるのやら。探しに行くのも面倒だし、もう帰っちゃおうかしら?」
「置き手紙くらいは残す?」
「ええ、そうね。そうしちゃいましょうか」
「いやいやダメだろう」
ティルガがぼそっと呟くようにそう言った時だった。
「てめぇ、いい加減さっさと歩きやがれ!」
「ああ!?」
そんな怒鳴り声が廊下に響いていた。
そちらをちらと見ると、手錠と足枷がされた男がそちらにいた。
犯罪者、とかだろうか?
それを引きずるように連れている男性は、とても容姿の整った顔をしていたのだが、その迫力のある様子に私は頬が引きつった。
ああいうヤバそうな人とは関わりたくないものだ。
そう思た時だった。
「あっ、師団長」
ファイランがぼそっとそんなことを言った。
……え!?
私は驚いてそちらを見る。と、その男性もこちらに気づいたようで、こちらを見た。
犯罪者と思われる男の首根っこを捕まえていた彼は、にこりと微笑んだ。
「やぁ、ファイラン。お帰り。それと、そちらのキミがもしかして、ルクスさんかな?」
先ほどまでの激怒の表情も、怒声もなかったかのようだった。
その一瞬の変化に驚きながら、私はぺこりと頭を下げた。
「初めまして」
すみません。さっき関わりたくない人とか思ってしまいました。
そんな感情は心の奥底に押しこみながら、私は挨拶をした。
あなたにおすすめの小説
婚約者を奪った妹と縁を切り、辺境領を継いだら勇者一行がついてきました
藤原遊
ファンタジー
婚約発表の場で、妹に婚約者を奪われた。
家族にも教会にも見放され、聖女である私・エリシアは “不要” と切り捨てられる。
その“褒賞”として押しつけられたのは――
魔物と瘴気に覆われた、滅びかけの辺境領だった。
けれど私は、絶望しなかった。
むしろ、生まれて初めて「自由」になれたのだ。
そして、予想外の出来事が起きる。
――かつて共に魔王を倒した“勇者一行”が、次々と押しかけてきた。
「君をひとりで行かせるわけがない」
そう言って微笑む勇者レオン。
村を守るため剣を抜く騎士。
魔導具を抱えて駆けつける天才魔法使い。
物陰から見守る斥候は、相変わらず不器用で優しい。
彼らと力を合わせ、私は土地を浄化し、村を癒し、辺境の地に息を吹き返す。
気づけば、魔物巣窟は制圧され、泉は澄み渡り、鉱山もダンジョンも豊かに開き――
いつの間にか領地は、“どの国よりも最強の地”になっていた。
もう、誰にも振り回されない。
ここが私の新しい居場所。
そして、隣には――かつての仲間たちがいる。
捨てられた聖女が、仲間と共に辺境を立て直す。
これは、そんな私の第二の人生の物語。
追放された私の代わりに入った女、三日で国を滅ぼしたらしいですよ?
タマ マコト
ファンタジー
王国直属の宮廷魔導師・セレス・アルトレイン。
白銀の髪に琥珀の瞳を持つ、稀代の天才。
しかし、その才能はあまりに“美しすぎた”。
王妃リディアの嫉妬。
王太子レオンの盲信。
そして、セレスを庇うはずだった上官の沈黙。
「あなたの魔法は冷たい。心がこもっていないわ」
そう言われ、セレスは**『無能』の烙印**を押され、王国から追放される。
彼女はただ一言だけ残した。
「――この国の炎は、三日で尽きるでしょう。」
誰もそれを脅しとは受け取らなかった。
だがそれは、彼女が未来を見通す“預言魔法”の言葉だったのだ。
現聖女ですが、王太子妃様が聖女になりたいというので、故郷に戻って結婚しようと思います。
和泉鷹央
恋愛
聖女は十年しか生きられない。
この悲しい運命を変えるため、ライラは聖女になるときに精霊王と二つの契約をした。
それは期間満了後に始まる約束だったけど――
一つ……一度、死んだあと蘇生し、王太子の側室として本来の寿命で死ぬまで尽くすこと。
二つ……王太子が国王となったとき、国民が苦しむ政治をしないように側で支えること。
ライラはこの契約を承諾する。
十年後。
あと半月でライラの寿命が尽きるという頃、王太子妃ハンナが聖女になりたいと言い出した。
そして、王太子は聖女が農民出身で王族に相応しくないから、婚約破棄をすると言う。
こんな王族の為に、死ぬのは嫌だな……王太子妃様にあとを任せて、村に戻り幼馴染の彼と結婚しよう。
そう思い、ライラは聖女をやめることにした。
他の投稿サイトでも掲載しています。
私を棄てて選んだその妹ですが、継母の私生児なので持参金ないんです。今更ぐだぐだ言われても、私、他人なので。
百谷シカ
恋愛
「やったわ! 私がお姉様に勝てるなんて奇跡よ!!」
妹のパンジーに悪気はない。この子は継母の連れ子。父親が誰かはわからない。
でも、父はそれでいいと思っていた。
母は早くに病死してしまったし、今ここに愛があれば、パンジーの出自は問わないと。
同等の教育、平等の愛。私たちは、血は繋がらずとも、まあ悪くない姉妹だった。
この日までは。
「すまないね、ラモーナ。僕はパンジーを愛してしまったんだ」
婚約者ジェフリーに棄てられた。
父はパンジーの結婚を許した。但し、心を凍らせて。
「どういう事だい!? なぜ持参金が出ないんだよ!!」
「その子はお父様の実子ではないと、あなたも承知の上でしょう?」
「なんて無礼なんだ! 君たち親子は破滅だ!!」
2ヶ月後、私は王立図書館でひとりの男性と出会った。
王様より科学の研究を任された侯爵令息シオドリック・ダッシュウッド博士。
「ラモーナ・スコールズ。私の妻になってほしい」
運命の恋だった。
=================================
(他エブリスタ様に投稿・エブリスタ様にて佳作受賞作品)
ボロボロになるまで働いたのに見た目が不快だと追放された聖女は隣国の皇子に溺愛される。……ちょっと待って、皇子が三つ子だなんて聞いてません!
沙寺絃
恋愛
ルイン王国の神殿で働く聖女アリーシャは、早朝から深夜まで一人で激務をこなしていた。
それなのに聖女の力を理解しない王太子コリンから理不尽に追放を言い渡されてしまう。
失意のアリーシャを迎えに来たのは、隣国アストラ帝国からの使者だった。
アリーシャはポーション作りの才能を買われ、アストラ帝国に招かれて病に臥せった皇帝を助ける。
帝国の皇子は感謝して、アリーシャに深い愛情と敬意を示すようになる。
そして帝国の皇子は十年前にアリーシャと出会った事のある初恋の男の子だった。
再会に胸を弾ませるアリーシャ。しかし、衝撃の事実が発覚する。
なんと、皇子は三つ子だった!
アリーシャの幼馴染の男の子も、三人の皇子が入れ替わって接していたと判明。
しかも病から復活した皇帝は、アリーシャを皇子の妃に迎えると言い出す。アリーシャと結婚した皇子に、次の皇帝の座を譲ると宣言した。
アリーシャは個性的な三つ子の皇子に愛されながら、誰と結婚するか決める事になってしまう。
一方、アリーシャを追放したルイン王国では暗雲が立ち込め始めていた……。
【完結】次期聖女として育てられてきましたが、異父妹の出現で全てが終わりました。史上最高の聖女を追放した代償は高くつきます!
林 真帆
恋愛
マリアは聖女の血を受け継ぐ家系に生まれ、次期聖女として大切に育てられてきた。
マリア自身も、自分が聖女になり、全てを国と民に捧げるものと信じて疑わなかった。
そんなマリアの前に、異父妹のカタリナが突然現れる。
そして、カタリナが現れたことで、マリアの生活は一変する。
どうやら現聖女である母親のエリザベートが、マリアを追い出し、カタリナを次期聖女にしようと企んでいるようで……。
2022.6.22 第一章完結しました。
2022.7.5 第二章完結しました。
第一章は、主人公が理不尽な目に遭い、追放されるまでのお話です。
第二章は、主人公が国を追放された後の生活。まだまだ不幸は続きます。
第三章から徐々に主人公が報われる展開となる予定です。