20 / 57
第20話 次女レイン視点2
意識がゆっくりと覚醒していく。
遠くで、誰かが私の名前を呼んでいる気がした。
「レイン!」
私はその声を聞き、ゆっくりと目を開いた。
真っ先に飛び込んできたのは、天井だ。私の部屋の天井……。
ただ、顔の半分は何かで覆われているのか暗いままだ。
あれ? 私何をしていたんだろう。
ちらと視線を向けると、そちらには母がいた。
他には、もう一人医者のような服装をした人がその隣にいる。
「良かった! 良かったレイン!! あなたがもしも死んでしまったら、私の立場が危ういのよ……っ!」
母がぎゅっと私の体を抱きしめてきた。
私の母はルクスとは違う。
母の言っている言葉は良く理解できた。私が精霊術師として大成しなければ、母の立場も危うい。
母は中々子どもが出来ず、私以外に子どもを生めていないからだ。
そんなことを考えていた私は、ようやく理解した。
……あれ? どうして私の視界は半分しかないのだろうか?
そもそも、どうして私はここで眠っていて……母に心配されているのだろう?
記憶がごちゃごちゃとなっていて、いまいち思い出せない。
すると、医者がこちらの顔を覗きこんできた。
「まずは記憶の確認を行います。レイン様。どうしてここで横になっているのか理解できていますか?」
「……えーと、その」
ど、どうしてだったっけ? 確か私は学園の授業に参加していて……。
そこで、私はゆっくりと記憶が浮上していくのが分かった。
「あなたは精霊術師学園にて魔物狩りに参加していました。こちらは覚えていますか?」
「……っ!」
その言葉で私はすべてを思い出した。
そうだ。そうだった! 私はあの時、魔物狩りに参加して、それで!
ウルフに襲われたんだ。
腕が痛むのはそれが原因だろう。
恐怖で体が震えだす。
そんな私の肩を医者がとんと叩いてきた。
「落ち着いてください。もう大丈夫ですから」
医者の言葉に、こくこくと頷き私は脳裏に浮かんだウルフを追い出すように首を振った。
……こ、ここにはもう魔物はいない。
安全な、すべてに守られた私の部屋だ。
「あなたの悲鳴を聞き、駆け付けた騎士があなたを救出しました。応急処置を行ってはくれましたが……その傷は――」
そうだった。私はウルフに左腕を噛まれたんだ。
私がそう思って腕へと視線を向ける。そこには……まるで矢でも刺さったような傷跡が残っていた。
傷の箇所は手首の部分だった。これでは、隠すことも難しい。
「いや! いやよ! 私のせっかく綺麗な腕が! どうにかしてよ!」
「傷跡まではどうにもなりません。……それよりも、もっと酷いのは顔の傷です」
「え……?」
か、顔……? そんな私、顔にまで怪我を、したの?
顔に怪我をしたとなれば、そんなの――。
「も、もしかして今視界の半分がないのは……」
「……包帯を巻いています。傷自体はもう大丈夫ですが、その跡は残ってしまっています。確認、してみますか?」
怖かった。けれど、どうなっているのか見るしかない。
き、きっと大丈夫。ちょっとした擦り傷がついているだけ。
希望的思考とともに、しかし裏腹に私の手は焦るように包帯をはいでいく。
視界が確保された。視力は問題ない。
しかし、その両目で鏡を見た私は――絶句した。
「いやああああああ!」
私の顔、左頬の部分に鋭い傷が残っていた。
ウルフに引っかかれたような傷跡だ。わりと深く、肉が少しえぐれてしまっている。
こ、この顔ではもう結婚なんて無謀できない!
「……そちらも、もう戻すことは出来ません、申し訳ございませんが――」
私は医者の声など耳に入ってこない。ただただ、自分の傷を否定するように叫び続けることしかできなかった。
それから、一週間が経った。よろよろと私はゾンビ種の魔物のような足取りで食堂へと移動すると、明るい表情のヨルバがいた。
こちらを見てきた彼女は、ふっと笑った。
「醜い顔ね」
「黙れ……!」
私はこちらを小馬鹿にして笑ってきたヨルバを睨みつける。
ヨルバはくすくすと笑っていた。
この前まで、精霊魔法が使えなくて泣いていたとは思えない。
きっと、私が同じような状況になったから、復活したんだ。
なんて性格の悪い女なの!
「私、縁談が決まったわ。相手はまあ子爵家の男だけどね。これで、とりあえずまあ生活自体は問題なさそうだわ。それで、あなたはこれからどうするのかしら? そんな傷だらけの顔じゃ、もらってくれる人もいないんじゃない?」
「うる、っさいわよ! 精霊魔法が使えない落ちこぼれのあんたに言われたくないわ!」
「精霊魔法? ええそうね。使えないわ。でも、あなただってもう大した魔法は使えないみたいじゃない? それで、その顔の傷でしょ? あなたに何が出来るのかしら? あーあ、そのうち無能みたいに家を追放されるんじゃないかしら?」
「うるっさい!」
こいつ、こいつ! 私はヨルバを睨み返したが、言い返す言葉は思いつかない。
悠然とした足取りで去っていくヨルバに、私は悪感情をぶつけることしかできなかった。
あなたにおすすめの小説
婚約者を奪った妹と縁を切り、辺境領を継いだら勇者一行がついてきました
藤原遊
ファンタジー
婚約発表の場で、妹に婚約者を奪われた。
家族にも教会にも見放され、聖女である私・エリシアは “不要” と切り捨てられる。
その“褒賞”として押しつけられたのは――
魔物と瘴気に覆われた、滅びかけの辺境領だった。
けれど私は、絶望しなかった。
むしろ、生まれて初めて「自由」になれたのだ。
そして、予想外の出来事が起きる。
――かつて共に魔王を倒した“勇者一行”が、次々と押しかけてきた。
「君をひとりで行かせるわけがない」
そう言って微笑む勇者レオン。
村を守るため剣を抜く騎士。
魔導具を抱えて駆けつける天才魔法使い。
物陰から見守る斥候は、相変わらず不器用で優しい。
彼らと力を合わせ、私は土地を浄化し、村を癒し、辺境の地に息を吹き返す。
気づけば、魔物巣窟は制圧され、泉は澄み渡り、鉱山もダンジョンも豊かに開き――
いつの間にか領地は、“どの国よりも最強の地”になっていた。
もう、誰にも振り回されない。
ここが私の新しい居場所。
そして、隣には――かつての仲間たちがいる。
捨てられた聖女が、仲間と共に辺境を立て直す。
これは、そんな私の第二の人生の物語。
追放された私の代わりに入った女、三日で国を滅ぼしたらしいですよ?
タマ マコト
ファンタジー
王国直属の宮廷魔導師・セレス・アルトレイン。
白銀の髪に琥珀の瞳を持つ、稀代の天才。
しかし、その才能はあまりに“美しすぎた”。
王妃リディアの嫉妬。
王太子レオンの盲信。
そして、セレスを庇うはずだった上官の沈黙。
「あなたの魔法は冷たい。心がこもっていないわ」
そう言われ、セレスは**『無能』の烙印**を押され、王国から追放される。
彼女はただ一言だけ残した。
「――この国の炎は、三日で尽きるでしょう。」
誰もそれを脅しとは受け取らなかった。
だがそれは、彼女が未来を見通す“預言魔法”の言葉だったのだ。
現聖女ですが、王太子妃様が聖女になりたいというので、故郷に戻って結婚しようと思います。
和泉鷹央
恋愛
聖女は十年しか生きられない。
この悲しい運命を変えるため、ライラは聖女になるときに精霊王と二つの契約をした。
それは期間満了後に始まる約束だったけど――
一つ……一度、死んだあと蘇生し、王太子の側室として本来の寿命で死ぬまで尽くすこと。
二つ……王太子が国王となったとき、国民が苦しむ政治をしないように側で支えること。
ライラはこの契約を承諾する。
十年後。
あと半月でライラの寿命が尽きるという頃、王太子妃ハンナが聖女になりたいと言い出した。
そして、王太子は聖女が農民出身で王族に相応しくないから、婚約破棄をすると言う。
こんな王族の為に、死ぬのは嫌だな……王太子妃様にあとを任せて、村に戻り幼馴染の彼と結婚しよう。
そう思い、ライラは聖女をやめることにした。
他の投稿サイトでも掲載しています。
私を棄てて選んだその妹ですが、継母の私生児なので持参金ないんです。今更ぐだぐだ言われても、私、他人なので。
百谷シカ
恋愛
「やったわ! 私がお姉様に勝てるなんて奇跡よ!!」
妹のパンジーに悪気はない。この子は継母の連れ子。父親が誰かはわからない。
でも、父はそれでいいと思っていた。
母は早くに病死してしまったし、今ここに愛があれば、パンジーの出自は問わないと。
同等の教育、平等の愛。私たちは、血は繋がらずとも、まあ悪くない姉妹だった。
この日までは。
「すまないね、ラモーナ。僕はパンジーを愛してしまったんだ」
婚約者ジェフリーに棄てられた。
父はパンジーの結婚を許した。但し、心を凍らせて。
「どういう事だい!? なぜ持参金が出ないんだよ!!」
「その子はお父様の実子ではないと、あなたも承知の上でしょう?」
「なんて無礼なんだ! 君たち親子は破滅だ!!」
2ヶ月後、私は王立図書館でひとりの男性と出会った。
王様より科学の研究を任された侯爵令息シオドリック・ダッシュウッド博士。
「ラモーナ・スコールズ。私の妻になってほしい」
運命の恋だった。
=================================
(他エブリスタ様に投稿・エブリスタ様にて佳作受賞作品)
ボロボロになるまで働いたのに見た目が不快だと追放された聖女は隣国の皇子に溺愛される。……ちょっと待って、皇子が三つ子だなんて聞いてません!
沙寺絃
恋愛
ルイン王国の神殿で働く聖女アリーシャは、早朝から深夜まで一人で激務をこなしていた。
それなのに聖女の力を理解しない王太子コリンから理不尽に追放を言い渡されてしまう。
失意のアリーシャを迎えに来たのは、隣国アストラ帝国からの使者だった。
アリーシャはポーション作りの才能を買われ、アストラ帝国に招かれて病に臥せった皇帝を助ける。
帝国の皇子は感謝して、アリーシャに深い愛情と敬意を示すようになる。
そして帝国の皇子は十年前にアリーシャと出会った事のある初恋の男の子だった。
再会に胸を弾ませるアリーシャ。しかし、衝撃の事実が発覚する。
なんと、皇子は三つ子だった!
アリーシャの幼馴染の男の子も、三人の皇子が入れ替わって接していたと判明。
しかも病から復活した皇帝は、アリーシャを皇子の妃に迎えると言い出す。アリーシャと結婚した皇子に、次の皇帝の座を譲ると宣言した。
アリーシャは個性的な三つ子の皇子に愛されながら、誰と結婚するか決める事になってしまう。
一方、アリーシャを追放したルイン王国では暗雲が立ち込め始めていた……。
【完結】次期聖女として育てられてきましたが、異父妹の出現で全てが終わりました。史上最高の聖女を追放した代償は高くつきます!
林 真帆
恋愛
マリアは聖女の血を受け継ぐ家系に生まれ、次期聖女として大切に育てられてきた。
マリア自身も、自分が聖女になり、全てを国と民に捧げるものと信じて疑わなかった。
そんなマリアの前に、異父妹のカタリナが突然現れる。
そして、カタリナが現れたことで、マリアの生活は一変する。
どうやら現聖女である母親のエリザベートが、マリアを追い出し、カタリナを次期聖女にしようと企んでいるようで……。
2022.6.22 第一章完結しました。
2022.7.5 第二章完結しました。
第一章は、主人公が理不尽な目に遭い、追放されるまでのお話です。
第二章は、主人公が国を追放された後の生活。まだまだ不幸は続きます。
第三章から徐々に主人公が報われる展開となる予定です。