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第30話
しおりを挟む「護衛は一人?」
「副総師団長が三人いるわ。この四人は正式な師団はないけれど、第零師団と呼ばれているわね」
「……そうなんだ」
みんなきっとかなりの実力者たちなんだろう。
……いつか戦ってみたい、と思ってしまったのは胸に秘めておく。
「それじゃあ、私たちの寝泊まりができる寮に行きましょうか」
「分かった」
宮廷内を歩き、精霊術師館から少し離れた建物へと向かう。
下女の出入りが盛んなその建物は、どうやら宮廷精霊術師たちが使える寮のようた。
「まず一階は食堂があるわね。ここでは毎日決まった時間に料理が並ぶからセルフサービスで食べて大丈夫よ」
「……そうなんだ」
それは魅力的だ。時間にだけは気をつけないとね。
次に案内されたのは風呂場だ。
男女はしっかりと別れている。
「ここも自由に利用して大丈夫よ。深夜以外はいつでも使えるわね」
「それは便利」
訓練とかの後、汗を流したいという場面は山のようにある。
今は利用者がいなかったので軽く中を見せてもらったが、非常に大きい。
「他の師団の子も利用するし、私たちも使うわ。他の女性師団長も使うけど、変な絡まれ方しないようにね?」
「そんなことあるの?」
「あるわよ。抱き着いて来ようとしたりすることが多いわ。ここで何かやられそうになったときは反抗していいからね。私は一度蹴り飛ばしたことがあるわ」
どうやらファイランも経験があるようだ。
こくこくと頷き、次に案内されたのは自室だ。
「ここが、あなたの部屋になるわね」
ファイランが扉を開け、部屋へと入る。
それほど大きくはない部屋だ。大人が問題なく寝れるようなサイズのベッドが備え付けられているが、部屋の大きさはそのベッド三つ分程度だ。
狭くはないが大きくはない。ここが宿ならば、少し大きいといった部屋だ。
簡素ながらも生活に必要なものはそろっている。
「ここが嫌なら別にどこか借りて生活するといいわね。宮廷精霊術師の中には、ここはあくまで荷物置き場として使っている人もいるわ。宮廷内にいると休めないって人もいるみたいなのよ」
「ううん、私はここで大丈夫」
「それならよかったわ。とりあえず、これがこの部屋の鍵になるわ。一応、一つは第三師団で管理しておくわね」
ファイランから部屋の鍵を受け取り、私はこくりと頷いた。
寮を案内してもらったあと、宮廷内を歩いていく。
それから、ファイランに簡単にではあるが説明をしてもらう。
下女が暮らしている場所や、他の部署の建物などなど……。
「宮廷で犯罪を犯すのだけはやめたほうがいいわよ。宮廷の人間に対して、特に参事会はうるさいわ」
参事会。確か犯罪に対しての判決などが行える機関だったはず。
「そんなことしない」
「ええ。でも、たまに魔が差しちゃう人もいるみたいなの。だから、気をつけてね?」
そんな話をしながら、私たちは宮廷の門についた。
「それじゃあ、宮廷内の紹介は以上ね。これから宮廷精霊術師の仕事の一つである巡回を行っていくわ」
「巡回……? 街をみてまわるの?」
「そうね。犯罪を抑止のための巡回よ。巡回中にもしも何か事件が起きたら犯罪者の捕縛も行うわ」
「分かった」
「それじゃあ、これが今週の私たちの巡回箇所になるわ」
そういって、彼女は王都の地図を渡してきた。
丸がつけられている場所が巡回する場所なんだろう。
「今週、ということは来週は変わるの?」
「ええ。同じ師団の人が巡回を続けると、慣れが出てきて雑になってしまうものなのよ。だから、こうして週ごとに変えているの。とりあえず、貴族街から見ていきましょうか」
私は受け取った地図を食い入るように見ながら、ファイランの後をついていく。
……これから巡回を行う道順の中にリースト家の屋敷もあった。
貴族街をしばらく歩いていき、私はその屋敷で足を止めた。
見慣れては……いない。ほとんどこの屋敷を見ることはなかった。
それでも、家を追放された後に何度も見た。
もしかしたら、誰かが迎えにきてくれるかもしれないって。貴族街を出るまでの間、何度もこの通路は見返した。
私がその屋敷をじっと見ていた時だった。
一人の男性と一人の子どもが屋敷の玄関から出てきた。執事を連れて外へと出た男性と子どもは――私の知らない人だった。
「どうしたの、ルクス?」
足を止めた私の隣にファイランが並ぶ。
「ファイラン。私は双子の妹って言った」
「ええ、そうね」
「……ここが、私が暮らしていた屋敷」
私がそう言った時、ファイランは驚いたようにその名前を言った。
「……レベリス家の出身、なの?」
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