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第31話
しおりを挟む知らない名前だ。首を横に振る。
「……違う。もう、屋敷の持ち主は変わっているみたい」
そこでファイランは驚いたように目を見開いた。
それから彼女の目はどこか真剣なものへと変わった。
「……あなた、元の苗字は分かるかしら?」
「リースト。当時の当主、私の父はゴーシュ・リースト」
「……ゴーシュ・リースト」
ファイランはその名前を呟くように言った。
それから彼女は額へ手をやり、小さく息を吐いた。
「知っているの?」
問いかけると彼女はこくこくと首を縦に振った。
「その人は……爵位を取り上げられたわ。伯爵は爵位を取り上げられたあと、別の貴族に拾われて子爵になったと聞いたわ。今は地方で雇われ領主をやっているはずだわ」
「雇われ領主?」
「まあ、別の貴族に頼まれて領主をやっている感じね」
「……そうなんだ」
それなら、ティーナ姉さんもそこにいるのかな?
「ルクスがいたあの村。あそこはゴーシュの管轄のようなのよ。今騎士を配置していない理由をレベリス家に問い詰めたら、管理はゴーシュに任せているという返答があってその返事を待っている状況なの。もちろん、領主はレベリス様だから知らない人も多いだろうけどね」
「……そっか」
結構近かったんだ。
もう少し旅を続けていればゴーシュが暮らす街についたのかもしれない。
そうしたら、ティーナ姉さんにも会えたのかも。
また後で村に訪れたときは、そのままゴーシュが管理を務める街に向かうのもありなのかもしれない。
ゴーシュには会いたくないけど、ティーナ姉さんがいるなら姉さんにだけは会いたいし。
「リースト家は色々といわくがあってね。呪いによって、家族たちが満足に精霊魔法が使えなくなったとかなんとか……あったのよ」
「え? そうなの?」
私が首を傾げたとき、近くにいた微精霊が話しかけてきた。
『そうだよ! ルクスのこと受け入れてもらえるようにって家族の人たちに協力していたのに捨てるんだもん!』
……そ、そういうことなのね。
微精霊の言葉に、私は苦笑した。
よほど信頼関係のない精霊術師ならば、私の微精霊たちで精霊魔法を封じることが可能だ。
私に付き従う微精霊たちは、わりと偉い立場らしいから。
私がファイランの微精霊を止めようとしても無理だけど、多少の精霊術師ならば魔法を封じるのは簡単だ。
微精霊たちは、それを私の家族にもしたんだろう。
逆に、好まれない魔力を持っている子でも、微精霊たちが微精霊を斡旋することも可能だ。
私が親しかった孤児院の子たちは、このおかげで全員精霊魔法が使える。
中には、美味しくない魔力の子もいたみたいだけど、「このまずさがたまらん!」という微精霊もいる。
ゲテモノが好き、というのは人間問わず微精霊にもあるみたい。
私は改めて元リースト家を見上げた。
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