38 / 57
第38話
部屋で目を覚ました私は、用意してもらっていた制服に袖を通した。
部屋に置かれた姿見の前で自分の服装を確認してから、部屋を出た。
朝食の時間ということもあってか、隣の部屋からちょうどアレアが姿を見せた。
私の左右は、運がいいのか悪いのかアレアとラツィの二人だった。
「お、おはようございます」
ぺこりと慌てた様子で頭を下げてくるアレア。
その頭には派手な寝癖ができている。
「アレア、寝癖」
「うえ!? あっ、ほ、本当です!?」
彼女は慌てた様子で髪を整えていた。
共に歩いていこうとすると、アレアの隣の部屋からのそのそと一人の女性が部屋から出てきた。
眠たそうに目をこすっているのはラツィだ。
「……おはよう」
「おはよう。眠い?」
「……朝、苦手」
ラツィは昨日絡んできたときの元気がなかった。
いつもこれなら静かでいいかも。と思ったのは密かに胸に隠しておいた。
新人の私たちの部屋は五人とも同じフロアだ。
まだ私は残りの二人は見ていなかった。
朝食を食べるため食堂へと向かう。食堂が解放されるのは6時から8時までの間。
今は7時だけど。
「……人、多い」
「この時間は……次からはやめた方がいいかもですね」
「……うん。今度は六時にしようかな」
「ろ、六時。起きられないわよ……」
「まあ、別に一緒に食べるわけじゃないし」
「ちょっと待ちなさいよ……あたしも一緒に食べたいんだから。そういうこと言わないでよ」
くいくい、とラツィが服の裾を引っ張ってくる。
普段と違って随分と弱々しい。
まだ脳が眠っているのかもしれない。
それから、私たちは何とか席を確保し、朝食を終えた。
私たちは所属している師団が違うため、精霊術師棟に到着したところで別れることになった。
くるり、とアレアが振り返り笑顔を浮かべる。
「そ、それじゃあ、みんな、今日も一日頑張りましょう!」
「うん」
「ふん、負けないわよ!」
朝食を食べたところで元気を取り戻したラツィが、昨日と同じ調子で声をあげた。
別にライバル意識を燃やすわけではないけど、私も二人に負けないように頑張らないと。
階段を上がり、第三師団の事務室がある部屋へと向かう。
「おはようございます」
事務室の扉を開け、中へと入る。すでにファイランとベールド様が室内にはいて、ベールド様がこちらに気づいた。
「ああ、おはよう。ちょうど良かったよ」
ベールド様がにこりと微笑み、席を立つ。
こちらへと近づいてきた彼は、一枚の紙を差し出してきた。
「今朝、調査依頼が来たんだよ。キミに、初任務として任せようと思うんだ」
「……初任務?」
渡された紙へと視線を向ける。
『フィロッソの街にて、子どもが消える事件が発生している。その調査を行ってほしい』
内容はそれだった。
私はちらとベールド様を見る。
「それが任務の内容だよ。なんでも一ヵ月ほど前から行方不明者が増えているらしいんだよ。だから、その原因の調査を行ってほしいんだ。現地の騎士や精霊術師ではお手上げみたいなんだ」
「……それで、宮廷に依頼が来た、ということ?」
「そういうこと。任務はそれほど難しいものではないと思われるし、今回は別の新人の子と一緒に調査に当たってもらうことになっているんだ」
「分かった」
私は首肯し、その紙を折りたたんだ。
「それじゃあ、旅の準備をして一階のフロアに10時までに集合してね。ああ、宿とかは向こうで手配してくれているから、必要最低限の荷物があれば問題ないよ」
「食事とかも全部?」
「そうだよ。宮廷精霊術師の任務は衣食住すべて準備はしてくれているからね。ただ、不満がある場合は自分で別に用意する必要あるけどさ」
「滅茶苦茶豪華」
たぶん、私はだいたいの生活で満足できると思う。
「はは、宮廷精霊術師になって良かったかい?」
「うん。美味しい物がタダで食べられるなんて嬉しい」
「素直でよろしい。その代わり、しっかりと任務を達成するようにね。それが、宮廷精霊術師の仕事だよ」
「分かってる」
私がこくこくと頷いていると、ベールド様は少しだけ真剣な目になった。
それまでとは違う雰囲気。大事な話、だと思う。
「一つだけ、気を付けてね。……たぶんだけど、この事件。魔人が関わっていると思うよ」
「魔人……!」
「なんでそこで嬉しそうな声になるんだいキミは?」
「だって、強い相手と戦える……!」
「まったく……。まあ、そうだね。無茶はしないようにね。五人で連携して、魔人を討伐すること。いいね?」
「頑張る」
私が拳を固めると、ベールド様は首を縦に振る。
「それじゃあ、十時に一階のフロアに集合だからね。旅の準備をしておいで」
「分かった」
ベールド様に返事をした私は、準備のために寮へと戻っていった。
あなたにおすすめの小説
婚約者を奪った妹と縁を切り、辺境領を継いだら勇者一行がついてきました
藤原遊
ファンタジー
婚約発表の場で、妹に婚約者を奪われた。
家族にも教会にも見放され、聖女である私・エリシアは “不要” と切り捨てられる。
その“褒賞”として押しつけられたのは――
魔物と瘴気に覆われた、滅びかけの辺境領だった。
けれど私は、絶望しなかった。
むしろ、生まれて初めて「自由」になれたのだ。
そして、予想外の出来事が起きる。
――かつて共に魔王を倒した“勇者一行”が、次々と押しかけてきた。
「君をひとりで行かせるわけがない」
そう言って微笑む勇者レオン。
村を守るため剣を抜く騎士。
魔導具を抱えて駆けつける天才魔法使い。
物陰から見守る斥候は、相変わらず不器用で優しい。
彼らと力を合わせ、私は土地を浄化し、村を癒し、辺境の地に息を吹き返す。
気づけば、魔物巣窟は制圧され、泉は澄み渡り、鉱山もダンジョンも豊かに開き――
いつの間にか領地は、“どの国よりも最強の地”になっていた。
もう、誰にも振り回されない。
ここが私の新しい居場所。
そして、隣には――かつての仲間たちがいる。
捨てられた聖女が、仲間と共に辺境を立て直す。
これは、そんな私の第二の人生の物語。
追放された私の代わりに入った女、三日で国を滅ぼしたらしいですよ?
タマ マコト
ファンタジー
王国直属の宮廷魔導師・セレス・アルトレイン。
白銀の髪に琥珀の瞳を持つ、稀代の天才。
しかし、その才能はあまりに“美しすぎた”。
王妃リディアの嫉妬。
王太子レオンの盲信。
そして、セレスを庇うはずだった上官の沈黙。
「あなたの魔法は冷たい。心がこもっていないわ」
そう言われ、セレスは**『無能』の烙印**を押され、王国から追放される。
彼女はただ一言だけ残した。
「――この国の炎は、三日で尽きるでしょう。」
誰もそれを脅しとは受け取らなかった。
だがそれは、彼女が未来を見通す“預言魔法”の言葉だったのだ。
現聖女ですが、王太子妃様が聖女になりたいというので、故郷に戻って結婚しようと思います。
和泉鷹央
恋愛
聖女は十年しか生きられない。
この悲しい運命を変えるため、ライラは聖女になるときに精霊王と二つの契約をした。
それは期間満了後に始まる約束だったけど――
一つ……一度、死んだあと蘇生し、王太子の側室として本来の寿命で死ぬまで尽くすこと。
二つ……王太子が国王となったとき、国民が苦しむ政治をしないように側で支えること。
ライラはこの契約を承諾する。
十年後。
あと半月でライラの寿命が尽きるという頃、王太子妃ハンナが聖女になりたいと言い出した。
そして、王太子は聖女が農民出身で王族に相応しくないから、婚約破棄をすると言う。
こんな王族の為に、死ぬのは嫌だな……王太子妃様にあとを任せて、村に戻り幼馴染の彼と結婚しよう。
そう思い、ライラは聖女をやめることにした。
他の投稿サイトでも掲載しています。
私を棄てて選んだその妹ですが、継母の私生児なので持参金ないんです。今更ぐだぐだ言われても、私、他人なので。
百谷シカ
恋愛
「やったわ! 私がお姉様に勝てるなんて奇跡よ!!」
妹のパンジーに悪気はない。この子は継母の連れ子。父親が誰かはわからない。
でも、父はそれでいいと思っていた。
母は早くに病死してしまったし、今ここに愛があれば、パンジーの出自は問わないと。
同等の教育、平等の愛。私たちは、血は繋がらずとも、まあ悪くない姉妹だった。
この日までは。
「すまないね、ラモーナ。僕はパンジーを愛してしまったんだ」
婚約者ジェフリーに棄てられた。
父はパンジーの結婚を許した。但し、心を凍らせて。
「どういう事だい!? なぜ持参金が出ないんだよ!!」
「その子はお父様の実子ではないと、あなたも承知の上でしょう?」
「なんて無礼なんだ! 君たち親子は破滅だ!!」
2ヶ月後、私は王立図書館でひとりの男性と出会った。
王様より科学の研究を任された侯爵令息シオドリック・ダッシュウッド博士。
「ラモーナ・スコールズ。私の妻になってほしい」
運命の恋だった。
=================================
(他エブリスタ様に投稿・エブリスタ様にて佳作受賞作品)
ボロボロになるまで働いたのに見た目が不快だと追放された聖女は隣国の皇子に溺愛される。……ちょっと待って、皇子が三つ子だなんて聞いてません!
沙寺絃
恋愛
ルイン王国の神殿で働く聖女アリーシャは、早朝から深夜まで一人で激務をこなしていた。
それなのに聖女の力を理解しない王太子コリンから理不尽に追放を言い渡されてしまう。
失意のアリーシャを迎えに来たのは、隣国アストラ帝国からの使者だった。
アリーシャはポーション作りの才能を買われ、アストラ帝国に招かれて病に臥せった皇帝を助ける。
帝国の皇子は感謝して、アリーシャに深い愛情と敬意を示すようになる。
そして帝国の皇子は十年前にアリーシャと出会った事のある初恋の男の子だった。
再会に胸を弾ませるアリーシャ。しかし、衝撃の事実が発覚する。
なんと、皇子は三つ子だった!
アリーシャの幼馴染の男の子も、三人の皇子が入れ替わって接していたと判明。
しかも病から復活した皇帝は、アリーシャを皇子の妃に迎えると言い出す。アリーシャと結婚した皇子に、次の皇帝の座を譲ると宣言した。
アリーシャは個性的な三つ子の皇子に愛されながら、誰と結婚するか決める事になってしまう。
一方、アリーシャを追放したルイン王国では暗雲が立ち込め始めていた……。
【完結】次期聖女として育てられてきましたが、異父妹の出現で全てが終わりました。史上最高の聖女を追放した代償は高くつきます!
林 真帆
恋愛
マリアは聖女の血を受け継ぐ家系に生まれ、次期聖女として大切に育てられてきた。
マリア自身も、自分が聖女になり、全てを国と民に捧げるものと信じて疑わなかった。
そんなマリアの前に、異父妹のカタリナが突然現れる。
そして、カタリナが現れたことで、マリアの生活は一変する。
どうやら現聖女である母親のエリザベートが、マリアを追い出し、カタリナを次期聖女にしようと企んでいるようで……。
2022.6.22 第一章完結しました。
2022.7.5 第二章完結しました。
第一章は、主人公が理不尽な目に遭い、追放されるまでのお話です。
第二章は、主人公が国を追放された後の生活。まだまだ不幸は続きます。
第三章から徐々に主人公が報われる展開となる予定です。