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第57話
なにいってんのこの人?
ガルスは私にウインクをすると、それから肩を組んできた。耳もとでそっと、言葉を残す。
「ここを落ち着かせるために、少し演技した方がいいと思ってな」
「いや、彼女とか嫌なんですけど……」
「はは、そういうなって。あくまで仮だからな」
そう言った後、ガルスは皆に目を向けた。
「彼女は先日宮廷精霊術師になったばかりだが、魔人を見事討伐した。……双子の妹? そんなものが関係あるのか? 彼女は十分に力を持っている。宮廷精霊術師にとっては、それだけで十分のはずだが?」
ガルス様の言い分に、周囲の貴族たちは何も言わない。
「魔人を倒したって……まさか、本当か?」
「それなら、全然問題ないというか……むしろいいよな?」
「そ、そうだな。魔人とまともに戦える人自体が少ないとも聞くし……」
双子に反対している人たちは、色々思うところはあるようだったが、誰も何も言わない。
相手が、第六王子のガルス様というのも発言の強みを増しているのだろう。
「それじゃあ、この話はここで終わりってこどで。それで文句はないだろう?」
ちら、とガルス様はゴーシュへと視線を向けた。
ゴーシュはこくりと頷いた。
ガルス様はにこっと微笑み、それから私の肩を掴んできた。
「それじゃあ、戻ろうか」
ちょっと待って。私、本当に彼女のままの振りをするの?
それについての誤解もどうにか解けないかと思っていると、ガルスの肩をベールド様が掴んだ。
「ガルス。ルクスは別にキミの彼女になったことはないと思うけど?」
微笑を浮かべながらも、少し怒っているようにも感じられた。
「やあやあお兄様。お久しぶりです」
「久しぶりだね。それで、ルクスはうちの大事な精霊術師なんだ。勝手に連れていかないでくれるかな?」
ベールド様のナイス援護だ。
「なあ、ルクス。少し一緒に付き合ってくれないか?」
「あの、大事な用事があるので無理です」
私はまだ食べていないものがたくさんある。ここでガルス様に付き合っていたら、きっと好きなものを自由に食べることはできないだろう。
私はそっと彼の手をどけ、一礼の後にこの場を立ち去った。
ベールド様とファイランの方へと向かい、ほっと息を吐いた。
「色々助かった……」
「……そうね。そういえば、ゴーシュが参加していたのを伝え忘れていたわ」
「ファイラン。キミはゴーシュとルクスの関係を知っていたのかい? 知っていたのなら、事前に教えてほしかったね」
「まあ、知っていたけどまさかあんな風に発狂するとは思っていなかったわ……」
「とにかくだ。詳しいことはまたあとで聞くよ、ルクス」
ベールド様にこくりと頷いて、私はようやくこの場から解放された。
色々あったせいで注目は集めてしまっているけど、とりあえずこれで食事を再開できるだろう。
そう思っていると、ラツィがやってきて私の肩を叩いた。
「ちょっとルクス……! あんたなんで王子様とあんなに交友関係持ってるのよ!」
「勝手に絡まれているだけ」
代わられるのなら、代わってあげたいと本気で思っている。
私が宮廷精霊術師になったのは、強い相手と戦うため、ティルガ、微精霊を守るためなんだから。
こんな風に絡まれたって、いいことなんて一つもないんだから。
「で、でも……ルクスさん。元々貴族だったんですね?」
「……まあ、一応。双子の妹っていうことで、捨てられたけど」
ちょっとこれについては話すのにためらってしまった。
仲良くなった二人に拒絶されないか不安だったからだ。
「あっ、そうなのね。なんか貴族って双子だからってだけで嫌う人もいるのよね。いいじゃない、姉妹とか兄弟なんてたくさんいたほうが楽しいのにね」
「そうですね。私も長女ですから、やっぱり妹や弟がいると楽しいですね」
……二人は特に気にした様子もなく、普段通りの会話をしていた。
それを聞いていた私は、少しだけ胸が軽くなった。
「二人とも、色々食べに行こう」
「そうね! たらふく食べてやるんだから! ……残った料理とかお弁当箱に入れて持ち帰るとかできるのかな?」
「ラツィ、それはちょっと意地汚いからやめた方がいいですよ」
「い、いいじゃない! 残したらもったいないんだから!」
二人の、他愛のない会話を聞きながら。
私はこれからの宮廷精霊術師の生活も、楽しく、明るいものになってくれればいいなと思うばかりだった。
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