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第56話
しおりを挟む俺はライトニングバーストを放ち、彼の動きを封じる。
ゾルドラが即座にかわして殴りかかってきたが、その攻撃をかわしながらダブルライトニングバーストを放った。
見事に命中した。だが、雷を受けながらゾルドラが突っ込んでくる。
ダメージは通っているが、再生速度が速い。
さすが、負けイベのボスというところだ。
「死ね!」
その脅威的な肉体を活かすようにして、突っ込んでくる。
振り抜かれた拳に、俺は地霊刀を合わせる。
――筋力は互角か。まともにやりあっていたら、疲れるだけなので、攻撃を逸らしながらライトニングバーストで削りを入れる。
だが、ゾルドラはその見た目からは想像できないほどの速度で突っ込んでくる。
「舐めるなよ! 勇者の力がなければ、オレの体は永遠に再生する!」
「その再生が追いつかなくなったら、どうなるんだ?」
俺は冷静に言い放ち、ライトニングバーストをトリプル魔法で放つ。ゾルドラの片腕が吹き飛び、彼の顔には怒りと驚愕が浮かんでいた。
だが、すぐにゾルドラが地面を蹴り、こちらに蹴りを放ってくる。
攻撃をかわすと、すぐにまた次の攻撃が襲い掛かる。
それらをすべて、かわしていく。これまで、サーシャが訓練に付き合ってくれたおかげで、実戦での動きにもかなり慣れている。
ゾルドラの大振りの一撃をかわしながら、その腕と胸を斬りつける。
「ぐっ……!?」
動きを止めたそこへ、近距離でのトリプル魔法をぶっ放す。
トリプルライトニングバーストだ。もろに直撃したゾルドラの体が吹き飛ぶ。
起き上がるのを待つつもりはない。無限に再生しやがるのだから、その再生を上回るだけの連撃を叩き込む必要がある。
一気に距離を詰め、倒れていたゾルドラの体を斬りつける。
必死な様子でかわしたゾルドラへ、ライトニングバーストを放って吹き飛ばす。
連撃を叩き込む。
一方的に、俺がゾルドラを圧倒していく。
まさしく、俺の考えていた蹂躙がここにあった。
よろめいたゾルドラが呼吸を乱した。その表情に、わずかながらの焦りが見え始める。
「再生速度、間に合ってるのか?」
煽るように言ってから、トリプルライトニングバーストを放つ。
それでもまだゾルドラが突っ込んできて、拳を振りぬいてくる。
……ここまでやっても倒れないのかよ。
マジで、勇者の力がないと化け物じゃねぇか……!
「……て、てめぇ……っ! いいだろう……! 本気でやってやるよ……!」
そう咆哮を上げた次の瞬間、ゾルドラの体が変身を始めた。
ゾルドラは第二、第三形態へと変化する。
よくあるボスのように、何度か倒さないといけなかった。
だが、それはつまりHPが減ったという何よりの証拠でもあった。
俺は――この瞬間を待っていた。
変身は時間がかかる。だが、ゲームなどではお約束とばかりに、その変身を黙って見ているだけだ。
俺は悪いが、この世界のお約束を守るつもりはないんだよ。
彼の体が膨れ上がり、さらに強力な形態へと変わろうとしていたが、俺はそこへライトニングバーストを叩き込んだ。
「ぐあああ!?」
一撃ではない。
さらに連続で魔法を放つ。これまでに散々に練習してきた、最速で最強の一撃を休みなく、放っていく。
この世界の住民たちは、変身しようとしたゾルドラに驚いて動きを止めていたので、明らかに異常なのは俺なんだろう。
不完全な状態で攻撃を受け続けたゾルドラが、変身を中断して息を切らす。彼の再生能力が追いつかず、ダメージが蓄積していく。
「て、テメェ……! やめ、やめろ!」
ゾルドラがさらに変身をしようとしたのが分かった。
……だが、何度やったって同じだ。
「悪いな。遺言を聞くつもりもないんだよ」
俺が目指していた圧倒的な勝利。
卑怯だなんだと言われようとも関係ない。
俺はこの世界に、ハラハラドキドキの冒険など求めていない。
魔王たちを蹂躙し、圧倒的力で物語をねじ伏せる。
すべては、妹のために――。
負けイベだろうが関係ない。俺は勇者を救うために、物語を終わらせる必要があるんだよ。
ゾルドラは、まだ耐える。
負けイベだからって、化け物みたいなステータスと回復能力に設定しすぎだ。
「く、くそが!」
ゾルドラが叫び、跳び上がる。
不完全な状態で変身を終えたゾルドラは、見るも無惨な姿となっている。
完全体になられていたら、今の俺のステータスでは一人で戦うには少し厳しかったかもしれない。
卑怯だと言われようとも、関係ない。
俺は勇者ではない。勇者のお兄ちゃんなだけだ。
俺はそれをただただ実行したに過ぎない。
魔王ゾルドラの敗因は、簡単だ。
人間を舐め過ぎたんだ。
「死ね!」
ゾルドラが叫びながら、蹴りを放ってくる。
空中から襲いかかった彼の一撃に、俺はライトニングバーストを放った。
三発すべてが命中すると、ゾルドラの体は地面へと落ち、そしてその巨大な体が霧のようになって消えていった。
重い静寂が一瞬の間場を包む。
……戦いの終わりは、あっさりだ。
周りの人たちから見れば、俺が一方的に魔王を攻撃していただけに見えるかもしれない。
それでいい。
それくらいのほうが、分かりやすく絶望から解放されるだろう。
「勝った、のか……」
父の困惑した声が、静寂を破るように響く。
「はい。勝ちました。これで、魔王の脅威に怯える必要はありません」
俺が振り向きながら答えたその瞬間、割れんばかりの歓声が上がった。人々の間に広がった安堵と喜びの波が、まるで津波のように押し寄せてきた。
俺にとっては、まだ、始まりに過ぎなかったが……この世界の人々にとってはここがゴールだもんな。
ゾルドラによる恐怖がどれほどのものかは、この場に居合わせた人々の涙を見ていればよくわかる。
まだ信じられないという表情を浮かべながら喜びを顕にする人たち。
長い間、恐怖と絶望の中で過ごしてきた彼らにとって、ゾルドラの死は……それだけのイベントなんだろう。
「やったんだ、本当にやったんだ!」
「これで、もう……ゾルドラたちに怯える必要もないんだ……!」
人々の歓声が空に響き渡る。
そんな喜びの中で、父が真っ直ぐにやってきて俺の体を抱きしめた。
「ルーベスト……! よくやった……! よくやってくれた……!」
涙とともに、俺の体をぎゅっと抱きしめてくる。
……俺は小さく息を吐いてから、その体を抱きしめ返した。
母はもちろん、いまいち状況を分かっていないリアナもやってきて、俺たちは皆と喜びを分かち合っていった。
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