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しおりを挟む……腹をくくるべきだろうか?
アレクシアの能力が高いのは、こうして対面しているだけで分かる。
これまでに出会ってきた誰よりも、アレクシアは強い。
ラスボス、のはずなんだからそりゃあアレクシアが強いのは当然だ。
聖騎士という職業自体は……ぶっちゃけ美味しい。
俺は今までどおり執事のような仕事をしているだけで、聖騎士としての給料が手に入り、さらに衣食住も与えられる。
そう考えれば、悪くない仕事だ。
聖騎士として、ちょろっと金を稼いでおいて、嫌になったらやめる。
……こうなれば生活基盤も整えられるな。
問題があるとすれば、目立つこと。
聖騎士は良い意味でも悪い意味でも人目につく。聖女の隣に常にいるため、市民たちにも知れ渡ることになるだろう。
それは嫌だ。
聖騎士でそこそこ稼いで転職するためには、俺の顔まではバレてはいけない。
「……そっちがそれだけ無茶を言うなら、こっちも提案させてもらっていいか?」
「なんでしょうか? 善処しますよ」
「俺は自分の正体をバレたくないんだよ。だから、人前ではフードと仮面をつけさせてもらうってのはどうだ? 試用期間ってわけだし、もしも辞める場合は姿も隠しておきたいんだよ」
「別にそのくらいであれば構いませんよ」
……俺の要求はあっさりと通った。
これならば、周りに俺の存在がバレることもない。
魔力がないモスクリア家の次男、として俺はそこそこ顔が知られてしまっている。
だからこそ、正体を隠しておきたいというわけだ。
「それでは、契約成立ですね。早速、あなたを教会に連れて行って紹介したいのですが……」
「まず服や仮面を買わせろ」
「それでは、近くのお店に行きましょうか」
「おまえと行ったら目立つだろうが……」
「大丈夫ですよ。このお面をつければ」
そういって彼女はひょっとこのお面をつけた。
「……なんだそれは」
「以前、お祭りのときに購入したものを持ってきました。あなたに、街中でフードを剝がされましたからね」
「そんなこともあったな」
「懐かしむほどの時は流れていませんよ? そういうわけでして、怒りもまだ残っていますよ?」
「落ち着け。怒ると皺が増えるぞ?」
「皺を増やしてでも怒りたいときというものはあるのですよ」
俺は彼女の怒りから逃げるように歩き出すと、アレクシアも隣に並んだ。
アレクシアとともにフードと仮面を購入した俺は、早速それを身に着けていった。
外套のような服だが、動きづらさはない。
なんなら、フードだけでもそれなりに顔は隠れるな。
仮面をつけてみて、様子を見る。
視界も問題ないな。これなら、口を開かなければ性別さえも分からないかもしれない。
裾などを軽く調整してから、俺はアレクシアとともに歩いていく。
ここでの代金はアレクシアの奢りだ。あまりお世話になりたくはないので、このときの代金に関しては脳の記憶から抹消して処理。
「さて……それでは早速教会へ行きましょうか」
「今から行っても大丈夫なのか?」
「ええ。すでに教会には私の聖騎士を連れてくると伝えてありますから」
「……勝手すぎやしないか?」
「おかげで、私が嘘つきにならずに済みました。行きましょう」
アレクシアはかなり強引な聖女様だ。さすが、ラスボス。
俺が知る聖女たちとはずいぶんと違うな。
聖女も聖騎士も、誰かのために自分の身を削るようなお人好しばかりだからな。俺には信じられない奴らだ。
教会にはすぐに着いた。到着したところでアレクシアがフードを外し、入口を守る騎士へと挨拶を行う。
……教会所属の教会騎士か。年齢は随分と若く、中性的な顔たちをしている。
まだ、教会騎士になったばかりの子だろうな。
「お疲れ様です」
「聖女様……っ! 夜遅くまでお疲れ様です……。そちらの方は……聖女様のお知り合いでしょうか?」
「ええ。私の聖騎士となる人です。ただ、人に姿を見せるのは好きではないそうですので、このままとなりますが」
「……そ、そうでしたか……かしこまりました!」
教会騎士は俺にも丁寧に敬礼を返してきたが、アレクシアの聖騎士となればそれ以上の追及もできないのだろう。
アレクシアとともに教会内を進んでいき、一つの部屋の前で足を止める。
凄まじいな。
扉の外からでも感じるほどの威圧感があった。
アレクシアに聞かなくても、この先に待つ人がなんとなく分かってしまう。
……面倒なことを聞かれなければいいんだがな。
アレクシアがノックすると、ゆっくりと扉が開いた。
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