13 / 23
13
しおりを挟む「アレクシア様。お待ちしていました」
白を基調とした煌びやかな鎧に身を包んだ男性。
年齢は俺と同じくらいだろうか? 感じられる力はかなり強大なものだ。
彼も聖騎士……なのだろうか?
そして、その奥には――彼と同じかそれ以上の魔力を持つ女性が座っていた。
「大聖女様。お待たせしてしまって申し訳ありません」
大聖女。
英雄カインの時代にはなかった聖女たちを管理する立場の人だ。
すべての聖女たちをまとめる聖女たちのトップなのだから、その力が絶大な理由もわかる。
間違いなく、ゲームでは最高評価のSランクを獲得できる戦闘力だろうな。
「あなたが昔から時間にルーズなのは知っているから気にしなくていいわ」
両肘をつき、合わせた手の甲に顎をのせながらこちらを見る女性。
さっきの教会騎士と、恐らくは同い年くらいだろう。
恐らく、ほとんどの人が目を奪われるであろう美しい容姿を持った大聖女様が、こちらをじっと観察してくる。
「……その方が、あなたの聖騎士候補かしら?」
「はい、そうです。名前はスチルです……あっ」
アレクシアがそこで少し迷った様子を見せたあと、しまったという顔を作る。
おい。普通に本名を言うんじゃない、馬鹿。
「スチルベルトという名前だ。親しい人間はスチル、と呼んでいる」
「ということは、私もスチルって呼んでいいかしら?」
「親しくなった覚えはないんだが」
「よろしく、スチル」
にこっと微笑む大聖女。
聖女様ってのはどいつもこいつも距離の詰め方おかしくないか?
ミハエルはもっと奥ゆかしかったぞ?
現代の聖女たちはどうなってんだか。
とりあえず、誤魔化すことはできたのでよしとしよう。
「顔は見せてもらえないのかしら?」
大聖女からの問いかけに俺は反応せず、アレクシアを見る。
さっきの無茶振りされたのだから、ここからはアレクシアにお願いするつもりだ。
ちらと視線を向けると、彼女は任せてとばかりに胸を張り、ポニーテールを揺らす。
「彼は自分の正体を明かしたくはないんです。目立つことが嫌いで、少なくとも私生活まで聖騎士として関わられたくないということです」
アレクシアがそういうと、傍に立っていた騎士がじろりとこちらを睨んでくる。
「……聖騎士は国民の象徴だ。その場にいるだけで人々に安心感を与える存在とならなければならないんだぞ? それが正体を隠す? ……それはさすがに認められない」
「まあまあ、待ちなさいアクリル。別に正体を明かすことが義務付けられているわけでもないわ」
こいつ、アクリルっていうのか。見た目はかなり整った顔たちをしている。
だが、真面目そうな奴ってのは表情からも分かる。
大聖女様はそこで言葉を区切ってから、俺を見てきた。
「あなたの意向は理解したわ。けれど、私たちにだけ内緒で見せてくれることもできないのかしら」
「できない。それが条件でこの話は引き受けた。無理なら、断るだけだ。よし、交渉決裂、帰るぞ」
俺が振り返って逃げようとしたが、がしりとアレクシアに腕を掴まれる。
俺のそんな態度にアクリルが眉間を寄せる。不機嫌そうな様子とともに、口を開いた。
「……スチルベルト。育ちの問題もある。敬語を使えないというのは仕方ないかもしれないが、ここにいる方はこの国の聖女たちをまとめている大聖女様だ。もう少し、敬う気持ちをもって接することはできないのか?」
「悪いが、俺は聖女や聖騎士に対して敬いの気持ちはない。聖騎士だって、金がもらえるから引き受けたにすぎないからな」
「……貴様ッ!」
その瞬間だった。アクリルが咆哮をあげると同時、こちらへと掴みかかってきた。
素早く力強い一撃にはかなりの殺気が込められていて、俺は反射的にその手首を掴んだ。
アクリルは俺に攻撃を止められたことに僅かながらに驚いていたが、すぐに次の行動へと移る。
すかさず攻撃を仕掛けようとしてきたが、それより速くその体を蹴り飛ばした。
「がは!?」
「……へえ」
吹き飛んだアクリルは壁に叩きつけられて悲鳴をあげ、大聖女が俺を見て嬉しそうに呟いた。
今のアクリルは本気ではなかっただろうが、彼は驚いたようにこちらを見ていた。
125
あなたにおすすめの小説
宮廷から追放された聖女の回復魔法は最強でした。後から戻って来いと言われても今更遅いです
ダイナイ
ファンタジー
「お前が聖女だな、お前はいらないからクビだ」
宮廷に派遣されていた聖女メアリーは、お金の無駄だお前の代わりはいくらでもいるから、と宮廷を追放されてしまった。
聖国から王国に派遣されていた聖女は、この先どうしようか迷ってしまう。とりあえず、冒険者が集まる都市に行って仕事をしようと考えた。
しかし聖女は自分の回復魔法が異常であることを知らなかった。
冒険者都市に行った聖女は、自分の回復魔法が周囲に知られて大変なことになってしまう。
ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる
街風
ファンタジー
「お前を追放する!」
ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。
しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。
防御力を下げる魔法しか使えなかった俺は勇者パーティから追放されたけど俺の魔法に強制脱衣の追加効果が発現したので世界中で畏怖の対象になりました
かにくくり
ファンタジー
魔法使いクサナギは国王の命により勇者パーティの一員として魔獣討伐の任務を続けていた。
しかし相手の防御力を下げる魔法しか使う事ができないクサナギは仲間達からお荷物扱いをされてパーティから追放されてしまう。
しかし勇者達は今までクサナギの魔法で魔物の防御力が下がっていたおかげで楽に戦えていたという事実に全く気付いていなかった。
勇者パーティが没落していく中、クサナギは追放された地で彼の本当の力を知る新たな仲間を加えて一大勢力を築いていく。
そして防御力を下げるだけだったクサナギの魔法はいつしか次のステップに進化していた。
相手の身に着けている物を強制的に剥ぎ取るという究極の魔法を習得したクサナギの前に立ち向かえる者は誰ひとりいなかった。
※小説家になろうにも掲載しています。
【完結】転生したら最強の魔法使いでした~元ブラック企業OLの異世界無双~
きゅちゃん
ファンタジー
過労死寸前のブラック企業OL・田中美咲(28歳)が、残業中に倒れて異世界に転生。転生先では「セリア・アルクライト」という名前で、なんと世界最強クラスの魔法使いとして生まれ変わる。
前世で我慢し続けた鬱憤を晴らすかのように、理不尽な権力者たちを魔法でバッサバッサと成敗し、困っている人々を助けていく。持ち前の社会人経験と常識、そして圧倒的な魔法力で、この世界の様々な問題を解決していく痛快ストーリー。
収納魔法を極めた魔術師ですが、勇者パーティを追放されました。ところで俺の追放理由って “どれ” ですか?
木塚麻弥
ファンタジー
収納魔法を活かして勇者パーティーの荷物持ちをしていたケイトはある日、パーティーを追放されてしまった。
追放される理由はよく分からなかった。
彼はパーティーを追放されても文句の言えない理由を無数に抱えていたからだ。
結局どれが本当の追放理由なのかはよく分からなかったが、勇者から追放すると強く言われたのでケイトはそれに従う。
しかし彼は、追放されてもなお仲間たちのことが好きだった。
たった四人で強大な魔王軍に立ち向かおうとするかつての仲間たち。
ケイトは彼らを失いたくなかった。
勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。
しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。
「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」
これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。
地味な薬草師だった俺が、実は村の生命線でした
有賀冬馬
ファンタジー
恋人に裏切られ、村を追い出された青年エド。彼の地味な仕事は誰にも評価されず、ただの「役立たず」として切り捨てられた。だが、それは間違いだった。旅の魔術師エリーゼと出会った彼は、自分の能力が秘めていた真の価値を知る。魔術と薬草を組み合わせた彼の秘薬は、やがて王国を救うほどの力となり、エドは英雄として名を馳せていく。そして、彼が去った村は、彼がいた頃には気づかなかった「地味な薬」の恩恵を失い、静かに破滅へと向かっていくのだった。
没落ルートの悪役貴族に転生した俺が【鑑定】と【人心掌握】のWスキルで順風満帆な勝ち組ハーレムルートを歩むまで
六志麻あさ
ファンタジー
才能Sランクの逸材たちよ、俺のもとに集え――。
乙女ゲーム『花乙女の誓約』の悪役令息ディオンに転生した俺。
ゲーム内では必ず没落する運命のディオンだが、俺はゲーム知識に加え二つのスキル【鑑定】と【人心掌握】を駆使して領地改革に乗り出す。
有能な人材を発掘・登用し、ヒロインたちとの絆を深めてハーレムを築きつつ領主としても有能ムーブを連発して、領地をみるみる発展させていく。
前世ではロクな思い出がない俺だけど、これからは全てが報われる勝ち組人生が待っている――。
異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!
椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。
しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。
身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。
そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる