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第3話
しおりを挟む「……どうして私なのでしょうか?」
私はグレイドル様の考えを読み取ろうとしながら、手始めにそのように質問した。
……出来れば、断りたい。
リア様の侍女というのは、私が知る限りこれまでも何人かいた。
……だが、その多くが数日、長くても一ヶ月以内にやめている。
理由は直接聞いたわけではないが、予想するのは簡単だ。
あのわがままなお嬢様と仲良くできるはずがない!
私だってそうだ。
「今日、ニャルがアリスト家の息女と遊んでいた場面に割りこんだと聞いてね」
げっ、あの時の光景を見られていたんだ。でも、それがどうして侍女という話につながったのだろうか。
だって、普通仕える主のお嬢様にあのような口答えをすれば、良くて降格、最悪クビだろう。メイドにも三段階の等級があるのだが、私は最低の三等級メイド。降格はないので、クビが妥当なところだろう。
「それで、どうして侍女という話になるのでしょうか?」
「リアのこと、どう思っているんだ?」
割り込むようにグレイドル様が口を挟んできた。私は返答に窮する。
わがままで、手に負えるような子じゃないですね。どんな教育をすればあんなのが育つんですかね? それが本心。でも、口が裂けても言えるはずがない。
「大変可愛らしいお嬢様だと思います」
「ああ、それはそうだ。世界で一番だと思う」
シスコンかい。いけない。口をついて出てきそうになった。
必死に抑え込んだ私は、苦笑だけを返した。
「だけど……少しだけわがままな部分もあるだろう?」
少しじゃないです。かなりです。ツッコミどころをいちいち用意するのはやめてほしい。
私が苦笑いで返していると、グレイドル様は私を指さしてきた。
「そこで、キミというわけだ。キミは、リアに対してきちんと注意を行ってくれた。ああいう風に接する身近な人が必要だと思ったんだよ」
……なるほど。
確かにそれは一理ある。だって、リア様に並ぶ権力者はそうはいない。
そして……本来であればリア様の指導を行う必要のある家族たちは、まあかなり甘い。
その理由も多少は理解できる。リア様の母は、リア様の出産の際になくなってしまった。そのため、皆はリア様がかわいそうだと思い、甘やかして育ててしまったのだ。その結果があのモンスターの誕生である。
「それは……無理です」
「どうしてだい?」
「私には権力はありません。本日、リア様に注意をしたのだって、私のストレスがたまりにたまった結果なのですから」
そう。すべてを失っても良いと思ったゆえの行動だった。だからもう一度同じことはできない。
そうグレイドル様に思わせれば、このこともなかったことになるのではないだろうか?
そう思っての私の言葉だったのだが、グレイドル様はにっこり笑顔。
「なるほど。それなら気にしなくても良いよ。キミには、リアに関してのみ俺と同じ程度の権限を与えるよ」
やめて!
「それはやめたほうがいいでしょう。その立場を利用して悪事を働くことも考えられます」
「平民とは思えないほどに頭の回転が速いね。確かにそうだ。だけど、わざわざそれを提案してくる子がそんなことするとは思えないね」
「で、ですが――」
「つまりキミは、リアの面倒を見たくはない、と……?」
「……正直な話をするのであれば、そのとおりでございます」
これ以上隠すのは難しいだろう。
私の自白に、グレイドル様は顎に手をやる。
慌てた様子で、メイド長が私の頭をがしりと掴み、下げてきた。
「申し訳ございませんグレイドル様!」
「いや、いいんだよ。正直な気持ちを話してもらえて助かった。……ふーむ。でも、俺は君にお願いしたいんだよね。なら、条件面の相談としようか。まず、給金は現在の月15万から50万ゴールドにあげようか。休日も週に二日。用意しよう」
「やります!」
その待遇はメイド長並みだった。何より確定した休日が二日もあるなんて最高だ。今は休みなくほぼ毎日仕事しているんだから。
「そうかそうか、やっぱり面白いねキミは」
苦笑していたグレイドル様と、額に手をやり小さく息を吐いていたメイド長を横目に、私はこれからの仕事に思いをはせていた。
――こうして、私はリア様の侍女という異例の出世を果たしたのだった。
あとがき
新作書きました! 良かったら見ていただけると嬉しいです!
薬屋の聖女 ~家族に虐げられていた薬屋の女の子、実は世界一のポーションを作れるそうですよ~
虐げられている女の子の大逆転ポーション物語!
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家族思いの兄の追放ファンタジーです。
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