HP2のタンク ~最弱のハズレ職業【暗黒騎士】など不要と、追放された俺はタイムリープによって得た知識で無双する~

木嶋隆太

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 黒いホブゴブリンを中心に、その周りを駆けまわるようにして動き続ける。

 とてもではないがタンクとしての立ち回りではない。黒いホブゴブリンは、俺を狙って棍棒をたたきつけてくるが、それらは俺の影を捉えるばかりだ。
 俺は黒いホブゴブリンが隙を見せた瞬間に、腕や足を浅く斬りつけては、再び逃げるように走り出す。

 黒いホブゴブリンの肌は石のように頑丈で、少し傷をつけるのが関の山だ。
 剣がもっと鋭ければ、それらの攻撃も有効打となっていただろう。
 確実に、疲労が溜まっていく。

 呼吸を整えるために途中途中に足を緩めることはあっても、完全に止めることはできない。
 疲労が蓄積していき、呼吸が乱れ始める。

 常に全速力なのだから、当然か。

 あまり時間はかけられないな。
 それが分かっているから、俺は攻撃を黒いホブゴブリンのあちこちに分散し、弱い部位を探していた。
 ……だが、足や腕にそういった部位はなかった。

 ゴブリンたちの体は、基本的に人間と同じ構造をしている。しかし、皮膚などは魔物特有の頑丈さがある。
 ならば――。

 その時だった。
 膝ががくっと沈み、踏ん張りを利かせきれなかった。
 一瞬遅れて地面を踏みつけたが、黒いホブゴブリンの棍棒に体を打ち抜かれた。

「うぐ……っ!」

 必死に悲鳴を押さえ、俺は地面を転がる。
 それから、HPを確認すると、残り1で耐えていた。
 【根性】のスキルがなければ、今の一撃で俺は死んでいただろう。

 視線を向けると、黒いホブゴブリンはゲラゲラと笑っていた。
 悲痛めいた叫びが聞こえたのは、きっとミーナかルファンかのものだろう。
 HPの回復と傷の治療を行うため、俺は体にポーションをかける。

 完全な治療はできないが、それでも痛みをこらえることはできる。

「……次で、終わりにしないとだな」

 足の疲労も考えれば、次の攻撃で決める必要がある。
 俺は手に持っていた剣を改めて強く握りしめ、黒いホブゴブリンを睨んだ。
 

 黒いホブゴブリンがゆっくりと近づいてくる。
 俺の限界が近いことを、黒いホブゴブリンも察している様子だ。
 だから、俺の恐怖心を煽ってきているのだろう。

 ……だが、この程度の危機に俺は怯むつもりはない。
 これから先、さらに危険な戦いに身を投じなければならないのだ。
 この程度のことで俺は足を止めはしない。

 黒いホブゴブリンをぎりぎりまで引き付け、その間に呼吸を整え、地面を蹴った。

 黒いホブゴブリンへと迫り、剣を振り下ろす。
 それは棍棒に弾かれる。
 すぐに足を動かし、黒いホブゴブリンの側面へと回る。
 
 速度を活かした連撃は、しかし黒いホブゴブリンに防ぎ切られる。
 確かに俺は黒いホブゴブリンに速度で勝っている。
 だが、防御に徹されれば、俺の速度を持っても突破は困難だ。

 それを突破するには、多少無茶と言われようとも、攻撃をさらに加速させる必要がある。

「うおおお!」

 力任せに剣を振り回し、黒いホブゴブリンへと叩きつけてくる。
 力を込めれば、その分精度は下がっていく。
 だが、黒いホブゴブリンの顔も険しくなる。

 俺の連撃に、確実に怯んでいる。
 さらに押しこむため、より深く剣を引いた瞬間だった。

 黒いホブゴブリンの口角が吊り上がる。
 まるで、その隙を待っていたかのように――。

「ガアア!」

 その叫びは勝利を確信したかのような雄たけびだった。
 叫びが耳に届いた次の瞬間、俺の左腕に重い一撃がぶつかった。
 それは、棍棒だった。
 
 黒いホブゴブリンもまた、俺が大きな隙を作るのを待ち続けていたのだ。
 ――くしくも、俺と同じ作戦だったようだな。
 衝撃に吹き飛ばされそうになったが、俺は思い切り両足に力を込め、右手に持った剣を振りぬいた。

 その油断しきった顔が驚愕に染まり、俺の剣が黒いホブゴブリンの喉へと突き刺さる。

「ガ――」

 黒いホブゴブリンは先ほども俺を殴りつけた時に、油断していた。
 奴は、自慢の一撃を叩きこんだ後に、気を抜く習性があるようだった。

 そして、今もだ。
 黒いホブゴブリンは恐らく勝利を確信していただろう。
 俺を仕留めきれずとも、HPを削ったとは思っていたはずだ。
 
 だが、俺には【根性】がある。
 痛みはあれど、ステータスを失うことはない。

 しかし、黒いホブゴブリンは右手を動かし、俺の剣を握りしめる。
 命に対しての必死の抵抗――。

 足りない。あと、一撃が足りない!
 俺は痛む左腕を動かし、残っていたポーションを体にかける。

 同時に、【ブラッドスイング】を発動した。
 振りぬいた一撃は、黒いホブゴブリンの手首を切り裂き、その首を跳ね飛ばした。

 噴き出した血をかわすことはできず、俺は顔を覆う程度でどうにかやりすごす。
 体にかかる血が収まったところで手をどけ、眼前を見る。

 そこには首をが取れた死体だけが残っていた。やがて、ゆっくり溶けるようにして黒いホブゴブリンの体は消滅していった。
 
 後に残っていたのは魔石と、ネックレスだ。
 手に持ってみると、ホブゴブリンのネックレスと書かれていた。
 ユニーク化したとはいえ、ドロップアイテムの名前はそのままなのか。

 どのような効果があるかは、鑑定系のスキルを持つ者に調べてもらう必要がある。

 俺は剣を鞘にしまい、その戦利品を握りしめる。
 
 ――始まりだ。
 前世の俺では獲得できなかった勝利。
 それを、俺は初めて経験した。
 変えられる。変われるんだ。
 それなら、

「……未来だって、変えてやる」
 
 ネックレスを握りしめ、友の悲惨な未来を思い浮かべる。
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