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第五章 歴史
第52話 北アイルランド国 1486年 商人
しおりを挟む魔王にまつわる経緯は、もっと複雑なエピソードがあったはずだ。だが今回の話を聞いて、一つ気になったことをバレリアに尋ねてみた。
召喚者と魔王の血の関係で、平気な者と障害が出る者がいるのは遺伝が関係しているのか。あるいは、高性能な魔法増幅器を使えば、遺伝に関係なく障害が出ないのか――そういう問いに、バレリアは答えた。
「魔王の遺伝との関係性は大きいです。もう少し検査しないと断言できませんが……エラやアンナも同じく、身体の障害は出ませんでした。魔道具を改良して、オリハルコン製の増幅機器を作れば、普通の魔力でも高出力の魔法が可能だと思われます。簡単な図面をダウンロードしておきます」
図面を見ると、そこまで複雑な構造ではなく、時間をかけずに作れそうだった。地下の工作機で部品を大まかに製作し、パーツを組み立てるだけなので簡単だ。
私はバレリアに「これの逆パターンも作れるか」と聞いてみたところ、可能らしく、その図面もダウンロードしてもらった。ただ、完成予想図を見ると大きさが巨大すぎて、外に設置するか、大きな施設内か、地下空間で稼働させる必要があるのがネックだ。小型化のため、距離と方向の問題をバレリアの電脳に計算してもらっている。
私たちは次の目的地、北アイルランドの教会へ向かう準備をしていた。ウェールズの鍛冶屋で数日かけて剣を作っていたポピーが、出来上がった剣を見せに来た。二日で一本のペースらしい。この中から出来の良い数本を選び、さらに仕上げるという。
私はポピーに魔力の込め方を教えながら見てもらい、実際にやらせて技術のすり合わせをしている。大変だが、ぜひ身につけてもらいたい。
翌日から、北アイルランドの首都近くの国境付近まで飛び、そこから徒歩で首都ベルファストを目指した。ゆっくり数日かけて進むうち、ベルファストに近づくと聖職者とすれ違う頻度が増え、着くころには一般人の方が珍しいほどで、私たちはかなり目立つ存在になっていた。
とりあえず宿を取り、冒険者ギルドへ向かった。ギルドは見つけたものの、ほとんど機能しておらず依頼もない。唯一いた職員に尋ねると、
「教会と冒険者ギルドのつなぎとして存在しているだけでして、仕事が欲しいなら教会か商業ギルドに相談してください」
と言われ、仕方なく商業ギルドへ向かった。
商業ギルドはそこそこ大きな建物で、中も活気があった。適当な職員に、冒険者ギルドでの出来事を愚痴りつつ、仕事や噂話を聞いてみた。
「アイルランドで不穏な動きがあって、商人には向かうのを規制しているんです。もし護衛の仕事をするなら……自己責任で」
その言葉にマシューが反応した。
「不穏な動き? 戦争でもあるのか?」
「不穏な動き以外の情報は入っていません。こちらも迷惑しているんです。原因が分からないと手の打ちようがない」
最後はかなりご立腹だった。
私たちはギルドを後にし、宿屋で話し合いを始めた。バレリアに頼み、空からアイルランドの重要地点や魔力エネルギーを監視してもらい、警戒することにした。今は北アイルランドに集中するつもりだ。
翌日、本命の教会へ向かった。宿から三十分以上かかるが、遠くからでも目標が見えるので迷わない。大通りを歩いていると、商人風の温和な中年に声をかけられた。
「ちょっと伺いますが、お嬢さんたち、冒険者ですか? そうでしたら、あちらの店でお話を聞いてもらえませんか?」
オープンカフェを指している。どうやら仕事の依頼らしい。
「私はメイソン、教会関係の商人です。実はあなた方のことは以前から知っています。スコットランド、ウェールズ、イングランドから情報が上がってきています。我ら教会の商人にとって情報は金ですから、常に収集しているのです。そんなに警戒しないでください。困っているのは私どもで、今回の事案を何とか解決したいと思い、あなた方に接触しました」
エラが言った。
「教会の特殊諜報員か!」
「その通りです、エラ様。マシュー王子、勇者バレリア、聖女イザベル。国難を解決するため、各国の英雄が揃うあなた方に依頼したいのは当然のこと。依頼が解決した暁には、教会からあなた方の望む情報を提供します」
私は思った。メイソンは、私が何を求めているか知った上で条件を付けてきている。
「具体的な依頼内容を教えてください」
「アイルランドで“不穏なモノ”を召喚した形跡があり、教会の精鋭と老聖女様が向かいましたが、音信不通で手詰まりです。どうか調査してください。出来る限り協力します。不穏な地域に近寄ることすら出来ないのです。これが現状です」
「分かりました。あなた方の諜報員は今どこに待機していますか。そこへ向かい、現地の情報を収集します」
話によれば、首都から二十キロ離れた南西の森林地区で潜伏しているらしい。紹介状と、メイソンの特殊なコインを受け取り、現場へ向かうことにした。
翌日、アイルランドの首都は奇妙な魔力に覆われ、異様な状態になっているとの報告を受けた。潜伏地点の近くまで飛び、諜報員に接触するため、生体反応が五つある地点で声をかけた。
「メイソンの依頼で来た。諜報員の方、出てきてくれ」
マシューが呼びかけると、一人の女性が姿を現した。
「あなた方でしたか。何か預かっていますか?」
紹介状とコインを渡すと、彼女は目を通し、キャンプ地へ案内してくれた。
状況を確認し、対策会議を開く。ここから三キロ首都に近づくと気分が悪くなり、ダブリンへ向かった者は戻ってこないという。何か魔法の結界があり、精神と身体に異常をきたす魔力を発しているらしい。
エラに「そんな魔法はあるのか」と聞くと、広範囲の魔法など聞いたことがないと言う。バレリアによれば、等間隔に精神阻害の発信装置を設置すれば可能だが、この世界の科学では無理だろうとのこと。
いずれにしても未知の能力が使われている。私は不安になり、ラシーヤに相談したくて、バレリアに連絡を取ってもらった。
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