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物語の主人公

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 須賀高校1年 桐谷恵(きりやめぐみ)。それが俺だ。そして俺は天才だ。これは自称ではなく、紛れもない事実だ。俺の周囲の人間だってこのことを認めている。だが、天才である故俺は物語の主人公にはなれない。
 物語の主人公になるのは大抵の場合馬鹿や無能だ。理由は単純明快。そういう人種は無駄に多く努力するし、挫折だってたくさんする。そういう人生を物語にすれば、起承転結も、あっと驚く逆転劇も簡単に書ける。それに対して天才だ。天才は、多くの努力をせずとも成果を出せるし、挫折なんてしない。つまり、天才に物語のような出来事の起伏はない。このことから言える結論は、物語の足がかりは全て、才能がない故に起こったものであるということだ。
 それなのに、現実世界の馬鹿や無能といったら、フィクションの世界を夢に見て、無駄な努力をしたり無様に足掻いたり。そういう奴を見ると虫唾が走る。実らない努力を続けて何が楽しいのか。どうせ最後はバッドエンドなのに、何故わざわざ努力をするのか。
 無駄な期待は、人を狂わせる。努力して、努力して、努力して。その後に待っているのがバッドエンドだと知っていたら、そんな努力するだろうか。足掻けば足掻くほど最後が辛いだけなのに。何故自分から傷つこうとするのか。全く理解できない。
 だから俺は、無能や馬鹿が嫌いだ。
 
 だから、教室でもそういう奴らが近づいてこないようにしている。まあまず、立場を弁えている奴は俺には近寄ってこない。俺との格の違いを思い知っているから、近寄りたくても近寄れない。ただ、極稀にそんなこともわからない身の程知らずの馬鹿がいる。そして、今俺の目の前にはその「希少価値の高い馬鹿」がいる。
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