神のバグで棄てられた俺、異世界の裏で文明チート国家を築く

かくろう

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第1章

第1話「神のミスで荒野へ」

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「……うわ、マジでポイされた……」

 熱風。砂。地平線。
 オレンジ色の空の下、赤茶けた大地がどこまでも続いている。
 空には、二つの月が薄く浮かんでいた。

「いやいやいや……ここどこだよ……。地図アプリ、絶対圏外だろこれ」

 反射的に制服のポケットを探る。スマホ――ない。
 リュックの重みも消えている。

「装備、初期化。神様……まさかテスト環境で本番デプロイした?」

 軽口が出る。でも、喉は笑えないくらい乾いてた。

 俺は今、見渡す限りの砂漠のど真ん中にいる。
 わりかしどこにでもいる高校生である俺が、なんでこんな事になっているのか?

 まずはそこから語らなくてはならないだろう。




 それはほんの数分前のことだ。


 ――白。

 視界のすべてが、まぶしいほどの白だった。
 上下の感覚も、重力さえも曖昧。
 気づいたときには――俺は“立っていた”。立っている“つもり”なのに、足の裏に何も感じない。

 そんな無音の世界に、声が落ちてきた。

「……転送、完了っと。あれ? 勇者は三人のはずじゃなかったかしら」

 耳で聞くというより、脳に直接“響く”感じ。
 女の声だった。けど、その響き方は人間離れしていた。水晶の中で反響するみたいに、やけに透明だ。

 思わず顔を上げると――そこに“光”があった。

 人の形をしているようで、していない。輪郭がゆらゆらと揺れて、まるで焚き火の炎を人型に固めたような存在。
 髪も衣も、光の粒になって風に溶けていく。

 見惚れる、というより思考が止まった。
 脳が勝手にラベリングを始める。

「……え、天使? いや……神様?」

 その瞬間、“それ”が振り返った。
 顔立ちは確かに人間の女性。だけど、目の奥にある光は――明らかに“人のものじゃない”。
 思わず喉が鳴る。

「うん? 一人多いわね。誰?」

 まるで出席確認みたいな口調だった。
 聖なる存在っていうより、なんか……事務的。

 混乱の中、やっと声が出る。

「えっ、あ、俺っすか? 風間悠人って言います。えっと、その――」

「ふーん? 誰?」

「いや、そっちが呼んだんじゃないの!? 俺、いま教室で――」

「……風間悠人、適合値……マイナス1? あら、表示バグね」
「マイナス!? マイナスってありえる!?」
「ええ、つまり“存在しない”ってこと。不要データ。削除、と」
「待て待て! 数字間違ってない!? マイナスって逆に特別じゃ――」

 光が弾け、足元が崩れ落ちた。

 そして光が爆ぜた。
 足元が抜け、世界がスライドする。
 胃が逆流するような浮遊感。次の瞬間、焼けるような熱と乾きが全身を襲った。


     ◇

 というわけでこのザマである。

「とにかく落ち着け……。この熱さは現実だ。うだうだ言ってても現実は変わらない」

 まず、水。

 俺は腰を落とし、砂を一握り。指で潰す。湿り気ゼロ。
 細かくて、熱い。視界の端が揺れてるのは、蜃気楼か、それとも単に俺がフラついてるだけか。

「……落ち着け。焦っても水は出ない。――高校のキャンプん時みたいに考えろ。
 低い方、陰のある方……」

 太陽の位置。風の流れ。砂丘の形。
 頭の中で線を引く。
 すると、突然――

《スキル〈観測(オブザーブ)〉が起動しました》

「……は?」

 視界の前に、薄いレイヤーが重なった。
 砂丘の縁をなぞるように、細い線が走る。空気の流れが矢印で表示され、地中には淡い青の光――冷たさの分布――が見える。

「UI……出た。チュートリアルなしで。」

 思わず息を呑む。けど、笑いがこぼれた。

「オッケー。これが俺のスキルってわけか。“観測”ね。」

 試しに砂丘へフォーカスする。数字が揺れる。
 風向:東北東。表面温度:56.3℃。地中湿度:0.8%。
 ……ほぼ乾燥地獄。だが、遠くの沈降地では青がほんの少し濃い。

「――なら、あっちだな」

 砂を踏みしめる。ズブズブと足首まで沈むけど、意外と安定する。
 歩幅を狭く、重心を低く。高校のキャンプで教わった“熱中症にならない歩き方”を機械的に再現する。

「……にしても、女神。“放流”って言葉、忘れねーぞ。魚扱いかよ。」

 口は軽くても、心臓は早い。
 理不尽に笑うしかない。俺は、俺なりに冷静に歩いた。

     ◇

 どれくらい歩いたかわからない。太陽が傾き、影が長く伸びていく。
 砂の色が、赤から焦げ茶に変わるころ、地平線に黒い点が見えた。
 岩だ。

「……助かった。日陰、確保。」

 焦らず、最後まで歩く。
 岩陰に滑り込むと、全身から汗が噴き出す。
 熱が抜けていくのがわかる。

「さて……次は水。――〈観測〉」

 青い光が、岩の基部に集まっている。
 夜間の冷却で凝結した湿り気。掘れば、少しは湿ってるかもしれない。

「シャベルはないけど、手はある。行こう。」

 砂をかき分け、拳で土を崩す。
 指が焼ける。爪の下に砂が入る。
 けど、十数分も掘ると、指先がぬるっと冷えた。

「……来た。」

 極細の水脈。泥混じり。
 そのまま飲むのは危険だ。
 石を二枚拾い、片方を地面に置き、もう片方を斜めに立てかける。
 滴が伝って、下の石の縁に小さな溝を作る。

「理科室式ろ過。これでいける……たぶん。」

 喉は焼ける。けど、待つ。
 五分、十分――。
 透明な点がひとつ、ふたつ。

 舌で濡らすだけ。それでも、喉の痛みがすっと消えた。

「……生き延びた。やっぱ水はチートだな。」

 息を整え、岩の上の景色を〈観測〉する。
 北の地平に、うっすら縦線。
 崩れかけた塔――人工物。

「……よし。目的地、決定だ。」

 さて、いきますか……。

「文明、あるな……距離は相当。往復は無理そうだ。夜に歩く手もあるけど……初夜はここで休むのが正解だな。」

 そう独りごちた瞬間、砂を蹴る音がした。
 低い唸り。石の影から、黄緑の鱗がヌルリと現れる。

「え、ちょっ――いきなり夜警必要な世界!?」

 リザードマン。人型、槍持ち。
 〈観測〉のオーバーレイが自動で展開された。

《対象:リザードマン(下級種)
 攻撃:E 防御:F 知性:低
 感覚器:頭部両側(温度感知)
 弱点:急激な温度差、目》

「情報ありがと。UIくん、君だけは優秀だよ。」

 俺はゆっくり立ち上がり、足元の小石を拾う。
 ――投擲。
 運動神経は凡人。体育のソフトボールで平均点ギリギリ。
 でも、距離は近い。狙うのは温度感知器の“縁”。

「……いけ!」

 石が空気を裂く。
 ガンッ、と乾いた音。リザードマンが呻き、槍を取り落とした。
 次の石。今度は目だ。

 ズブッ――。
 沈む感触が指先まで伝わってきて、胃がひっくり返りそうになる。けど、足は止めない。
 間合いを詰めて、落ちた槍の柄を踏み、相手のくるぶしを蹴り飛ばす。

「――倒れてくれ!」

 体重を乗せ、肩から押し倒す。砂が爆ぜ、鱗が軋む。
 リザードマンが暴れる。腕力では負ける。
 だから――脇腹、肋の隙間。そこを狙って槍の石突で突く。

 一拍、二拍。
 そして――静寂。

「っ、ふぅ……!」

 全身を冷や汗が伝う。視界の隅が白く霞む。
 手が震えているのに気づいて、苦笑いが漏れた。

「命の取り合いなんて初めてだ。……怖くないわけ、ないよな。」

 膝をつき、しばらく呼吸を整える。
 胸のざわめきが、少しずつ沈んでいく。
 怖さは残る。でも、飲み込める。

「生き延びた。ありがとな、俺の手。ありがとな、キャンプの先生。……あと、UI。」

 軽口を挟んで、自分を現実に戻す。
 リザードマンの槍を拾い、〈観測〉で材質を調べた。骨に硬化樹脂っぽいものが塗られてる。研げば使える。

「借りる。いや、ありがたく“いただく”。」

 槍を岩に立てかけ、制服の上着を裂く。布紐を作って、岩の窪みに張る。
 夜露を受ける簡易の“受け皿”だ。
 さらに、上着の袖を使って“投石ひも(スリング)”を作る。
 石を入れて軽く振る。――バランス、悪くない。

「現代っ子、検索なし手芸。評価してくれてもいいだろ。」

 ひとり笑い、岩壁に背中を預ける。
 空の色は群青に沈み、二つの月がくっきりと輪郭を増した。
 熱はすでに逃げ、砂の冷たさが足裏を刺す。

《注意:夜間温度低下。低体温リスク:中》

「了解。――やっぱUIは優秀だな。」

 拾った鱗を火打ち代わりにしてみたが、火は起きなかった。
 仕方なく、岩陰の窪みに身を丸めて風を防ぐ。
 喉はまだ渇いてる。でも、さっきよりずっとマシだ。

「女神。もし聞こえてたら、一言だけ言っとく。――“放流”後の安全マニュアル、置いとけよ。あとでレビュー入れるから。」

 夜風が、返事の代わりに髪を揺らした。
 目を閉じる。耳だけが働く。砂のざわめき、遠くの鳴き声、岩の軋み。
 眠気が、薄い膜みたいに降りてくる――そのとき。

 カラン、と乾いた音。
 岩陰の向こうで、小さな影が弾んだ。
 月明かりに透ける、ゼリーの塊。

「……スライム?」

 半透明の球体が、警戒するように小さく震える。
 〈観測〉が自動で解析を出す。

《対象:デザートスライム(幼生)
 攻撃:F 防御:E 興味:水/体温》

「敵意なし……かわいいな、お前。」

 俺は、さっき集めた数滴の水を指に乗せて、そっと差し出す。
 スライムはためらい――それから、ぺたっと指先に貼りついた。
 冷たくて、やわらかい。
 その感触に、思わず笑みがこぼれた。

「初めての異世界の、初めての友達がゼリー。悪くない。」

 スライムは、一度だけぴょんと跳ねて、岩陰の窪みに丸く収まった。
 俺も槍を抱えて体を丸める。
 二つの月が、見知らぬ地上に静かな光を落としていた。

「――よし。サバイバル、二日目につなげよう。生きて、歩いて、修理していく。」

 まぶたが落ちる。
 心臓はまだ速く打ってるのに、眠りは容赦なくやってくる。
 それでも俺は、微笑んでいた。

 根拠なんてない。ただ、そうするしかないから。
 ――世界がバグだらけなら、直せばいい。直せるまで、生きればいい。
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