神のバグで棄てられた俺、異世界の裏で文明チート国家を築く

かくろう

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第1章

第3話「砂の町の影」

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 ――乾いた風が、砂を削っていた。
 世界が音を失い、ただ「風の擦過音」だけが支配している。

 俺は、砂に半ば埋もれた岩の上を歩いていた。
 先頭には、さっき助けた男――名も告げない棄却者が黙々と進んでいる。
 歩いたそばから足跡が風に消えていく。

「ずいぶん歩くな……どこまで続くんだ、この砂漠。」

「……もうすぐだ。あんたが見てる方向、その岩山の向こうだ。」

 掠れた声。けど、そこに“絶望”よりも“慣れ”の響きがあった。
 この世界じゃ、生きることさえ“ルーティン作業”なのかもしれない。

 俺は小さく息を吐き、肩の上のリィムを見る。
 淡い青の光が体表で断続的に脈動している。
 〈観測〉との同期サインだ。

《環境スキャン:砂粒密度・高。風速:時速四二キロ。生命反応:近距離に一点。》

「一点……この案内人か。」

《肯定。周囲、他反応ナシ。》

「……なるほど。ほんとに“世界の果て”って感じだな。」

 砂の向こうに、黒い影がぼんやり浮かんだ。
 最初は岩山だと思った。
 でも、近づくにつれて分かった。――“人の造った壁”だ。

 岩と鉄を組み合わせ、何層にも重ねた防壁。
 まるで砂漠に沈んだ要塞のようだ。

 近づくにつれ、空気が変わる。
 焼けた砂の匂いの中に、微かに油と煙の匂いが混じる。
 ――人の生活の匂い。

「これが……町か。」

《推定:居住構造物。名称データ:未登録。》

「いいね。じゃあ俺たちの世界で言う“街っぽい何か”ってことにしよう。」

 リィムがぷるん、と震えた。
 その小さな振動が肩を通して伝わってくる。
 無機質なはずなのに……どこか嬉しそうに感じた。

 扉の前に立つと、錆びた鉄が鈍い音を立てた。
 見張りが二人。どちらも手製の銃を構えている。
 銃身は歪み、照準器は砕けているけど、視線だけは真っ直ぐだ。

「止まれ。見慣れねぇ顔だな。」

 先に立っていた案内人が口を開く。
「拾ったんだ。外で倒れてた。――放流者だとよ。」

 見張りは顔をしかめ、俺を上から下まで値踏みするように見た。
 薄汚れた制服、異質な靴、妙に整った布地。
 どれもこの世界じゃ“異常値”なんだろう。

「……放流者、ね。最近また神が“掃除”を始めたって噂だ。」

 俺は肩をすくめた。
「掃除、ねぇ。俺、ゴミ扱いってことか。」

 皮肉混じりに笑ってみせる。
 たぶんその余裕が逆に気に障ったのか、見張りの一人が低く唸った。

「冗談言えるうちは運がいい。……入れ。長老が話を聞きたがってる。」

 扉が開く。
 途端に、熱風とともに“生活の音”が流れ込んできた。
 木を削る音、遠くの笑い声、油が焦げる匂い。
 荒野とは別の世界だ。

 中は思った以上に“生きていた”。
 風除けの布がひらめき、崩れた建物の隙間に、小さな畑。
 子どもたちが金属片で作ったおもちゃを転がして笑っている。
 その光景に、一瞬だけ胸が温かくなった。

《観測ログ:魔力濃度=低/水分量=不足/温度=高温。
 生存環境評価:限界維持状態。》

「……つまり、ギリギリで生きてるってことか。」

《肯定。追加補足:それでも“維持中”。》

「維持、ね。……それだけで十分立派だよ。」

 リィムの体が、ほんの一瞬だけ明るく光った気がした。

 案内されたのは、岩壁をくり抜いた作業小屋のような場所だった。
 壁際には分解された機械の残骸、天井から垂れたケーブル。
 奥の椅子には、白髪まじりの男が座っていた。
 深い皺と油の染みた手。――でも、その瞳は、まだ光を失っていなかった。

「お前が、放流者か。」

「……そんな呼び方があるんですね。」

「女神の気まぐれで降ってきた人間を、そう呼ぶ。ここじゃ珍しくもねぇ。」

 男は立ち上がり、手を差し出した。

「ジルドだ。この町の修理屋――いや、壊れた世界の端っこを繕ってるだけの爺さんさ。」

「風間悠人です。……助けてくれて、ありがとうございます。」

「礼はいらん。……あんた、観測者だろ?」

「……観測者?」

 眉を寄せる俺の肩で、リィムの光が点滅した。

《通信:外部端末よりスキャン検知。照合結果=一致率74%。情報交換プロトコル起動。》

「おい、勝手に繋ぐなって!」

《弁明:接続要求、相手側より発信。防御処理、間に合わず。》

「おいおい……お前、どっちの味方だよ。」

 ジルドはその様子を見て、くつくつと笑った。

「安心しろ。俺も“かつては神のコードを触ってた”側の人間だ。
 だから分かる――この世界の理はもう壊れてる。
 神の秩序なんざ、ただのバグだ。」

 その言葉に、胸の奥がざわついた。
 肩の上のリィムが、わずかに光を波打たせる。

《主の脈拍上昇。推定感情:警戒+好奇心。》

「……バグ、ね。俺の世界でも、嫌ってほど聞いた単語だよ。」

「だろう? 神ってのは、完璧を装ってるだけのシステムさ。
 だが――“修正不能エラー”を抱えてる。」

 ジルドは机の上に置かれた古い歯車を指先で弾いた。
 カラン、と鈍い金属音が響く。

「これを見ろ。勇者領の供給機構から外れたパーツだ。
 神託コードの一部を記録してる。……が、ここには“修正不能”って刻まれてる。
 つまり――神でも直せねぇ部分がある。」

「修正不能、か……。」

「だが“観測できる”なら、もしかしたら直せる。
 ――そう思わねぇか、放流者。」

 俺は、ほんの少し笑った。

「……放り出された理由が、ちょっと分かった気がしますよ。
 俺、修理好きなんで。」

 ジルドが静かに目を細めた。

「違う。頼んでるわけじゃねぇ。――期待してるだけだ。」

 その言葉が、不思議と温かかった。
 救世主としてじゃなく、“直す人間”として見られている。
 それだけで、胸の奥の重さが少し軽くなる。

 夜。
 外では砂嵐が唸り、街全体が布の鳴る音に包まれていた。

 借りた寝台の上で、俺は肩の上のリィムを見下ろす。
 スライムの体表に淡い青光がゆっくりと脈動していた。

「……直せるかな、この世界。」

《推定回答:可能性=低。/ただし、主の行動傾向=修正志向。》

「評価、厳しいな。」

《補足:観測対象“ジルド”→信頼値上昇。主、安定状態維持に寄与。》

「分析結果まで添えるのかよ……やっぱり頼もしいな、お前。」

 軽く笑った。
 その瞬間、リィムの光が一瞬だけ強く明滅した。

《主の発話:笑顔反応検出。状態タグ更新→静的安定。》

「ドクター診断まで完璧か。上等だな。」

 俺は目を閉じ、荒れた風の音を聞いた。
 ――その音は、まるで世界が泣いているように聞こえた。

 でも、もう怖くなかった。

 壊れてるなら、直せばいい。
 ただ、それだけの話だ。



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