神のバグで棄てられた俺、異世界の裏で文明チート国家を築く

かくろう

文字の大きさ
15 / 90
第1章

第15話「代行使エリュシオン」

しおりを挟む
 ――聖都ルミナリア。
 陽が昇るたびに、神の加護を示す白い光が天蓋を満たす――はずだった。
 けれど今朝、その光は濁り、神殿の壁面に走る聖印が一つ、また一つと消えていった。

 祈りの鐘が鳴らない。
 代わりに、鋭い警報音が天井を震わせていた。

「……報告を繰り返せ! 神託システムに何が起きている!」
「上位命令群が――消えました! 神の声が、届きません!」

 祈祷師たちは走り回り、聖布の裾が乱れる。
 天井を覆う水晶管が明滅し、女神像の足元に設けられた《神託盤》が異常な速度で点滅していた。
 浮かび上がるのは、見たこともない赤文字の羅列。

《Error:命令階層崩壊》
《Error:削除命令=反転処理》
《Error:理の優先順位、更新》

「理の優先……更新?」
 その言葉を繰り返した神官の顔から、瞬時に血の気が引いた。

「まさか……“下界”から命令が入ったというのか!?」

 誰も信じようとはしなかった。
 神から人間へはあっても、人間から神への干渉など――あり得ない。
 だが、水晶盤の光は揺るぎない現実を示していた。

 そのとき。
 大聖堂の扉が、軋みを上げて開いた。
 背後から、強い逆光が流れ込み、白い光に縁取られた人影が現れる。

 代行使――エリュシオン。
 神に仕え、神の意志を伝える唯一の使徒。

「――静まれ。」

 たった一言で、喧噪が止む。
 その声は静かだったが、響きは鋭く、空気を貫いた。

「神の理にノイズが混入した。だが恐れるな。理は理であり続ける。」

 淡々とした口調。
 だが、その声にはかすかな“軋み”があった。
 まるで、自身の中枢にエラーを抱えた機械が、無理に動こうとしているような。

 彼の横顔を見て、祈祷師たちは息を呑む。
 いつも無表情な代行使の瞳に、初めて“人間らしいノイズ”が走ったからだ。

 その時、青い外套の青年――勇者レオンが一歩進み出た。
「……エリュシオン様。もしや、バル=アルドが――」
「修正された。」

 静かな答え。
 その瞬間、聖堂を満たしていた白光が揺らいだ。
 天井に走る光脈が一瞬、暗転する。

「修正……それは神の御業では?」
「いいや。」
 エリュシオンの瞳が淡く瞬き、揺らめくようにノイズを走らせた。
「“人間”によって、理が上書きされた。」

 沈黙。
 やがて、一人の祈祷師が震える声を上げた。
「そ、そんなはずが……! 神の命令に触れるなど――」
「存在した。」
 エリュシオンはその言葉を切るように言い放った。

 空気が一瞬で凍りつく。
 彼の言葉には、怒りでも嘆きでもない――“確信”があった。

「……風間悠人。」
 代行使が、その名をゆっくりと発する。
 その声は祈りでも詠唱でもなく、まるで“削除不可能なファイル名”を読み上げるように冷たい。
「放流者。観測者。修理屋。……理の外の存在。」

 レオンの拳が震えた。
「やはり……彼が。あの時の放流者が……!」
「彼の行為は、破壊と修復を同時に孕む。
 神の理が完全でないとすれば、それを証明したのは彼だ。」

 その瞬間、女神像の額に走る光が――ぱきりと音を立てて割れた。
 白い粉が降り注ぐ。
 聖堂の上空を流れる光脈が赤く染まり、次々に断線していく。

《警告:神託ネットワーク断裂。/本体接続――遮断》

「なっ……!」
 祈祷師の一人が叫び、祈りの杖を落とした。

 エリュシオンの体が一瞬ふらつく。
 レオンが駆け寄る。
「エリュシオン様!」
「問題はない……いや、ある。」
 その声が初めて濁った。
 そして、彼の瞳に一瞬――“人間の痛み”が走った。

「……神が、沈黙した。」

 その言葉が響いた瞬間、聖堂全体の光が消えた。
 白い柱も、祈りの炎も、音も、すべてが吸い込まれていく。

 祈りの国は、その夜――“神なき世界”となった。

     ◇

 ――暗闇の中。

 瓦礫の上に寝かされていた俺は、ぼんやりと空を見上げていた。
 空気はまだ焦げ臭い。
 焼けた砂の匂いと、乾いた血の匂いが混ざっている。

《主、生体信号安定。意識復帰を確認。》
「……おはよう、リィム。」
《主の睡眠時間:二三時間。/過労状態のため、強制休眠を実施。》
「強制って言葉、ほんと便利だよな……。」

 体を起こすと、筋肉が一斉に悲鳴を上げた。
 腕はまだ痺れている。
 意識の底から引きずり上げられるような倦怠感。

 近くでは、焚き火の火が小さく揺れていた。
 その傍らでミラがうとうとしている。
 焦げた布を巻いた腕。土埃まみれの顔。
 それでも、彼女は眠りながら微笑んでいた。

 俺が動くと、彼女がぱちりと目を開けた。

「……あ、起きた! もうっ、バカ、どんだけ寝てんのよ!」
「二十三時間だって。リィムが強制したらしい。」
「スライムのくせに医者ぶりやがって……でも、ありがと。」

 ミラは焚き火の明かりに照らされながら、ゆっくり笑った。
 頬にまだ煤が残っているのに、その笑顔はあまりに綺麗で。
 胸の奥に、何か熱いものがこみ上げた。

「みんな、生きてる。
 あんたが直した町で、もう一度パンを焼いてる。
 ……匂い、してるでしょ?」

 確かに、焦げた匂いの中に混じって、懐かしい小麦の香りが漂っていた。

「……そっか。いい匂いだ。」

 息を吐きながら笑うと、リィムの体が小さく光った。

《追加報告:神域信号の観測、途絶。/神の干渉、停止中。》
「……神の沈黙か。」
《肯定。/主の行動により、神託系統の再起動不能。》
「つまり、俺たちの勝ちだな。」
《定義による。/ただし、“戦いの始まり”とも言える。》

「上等だ。」
 焚き火の音に重ねて、低く呟いた。
 痛みも、疲れも、まだ残っている。
 でも――それが、生きてる証だ。

「……修理屋は、神様が黙っても働くんだよ。」
《了解。/次の修理対象を探索中。》

 風が吹いた。
 砂を撫でて、夜明けの匂いが流れ込む。
 リィムの光が肩に落ち、ほんの一瞬、温もりのように感じた。

 沈黙の神殿。
 そして、目覚めた修理屋。

 この世界の“再構築”は、ここから始まる。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~

志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」 この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。 父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。 ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。 今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。 その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。

無尽蔵の魔力で世界を救います~現実世界からやって来た俺は神より魔力が多いらしい~

甲賀流
ファンタジー
なんの特徴もない高校生の高橋 春陽はある時、異世界への繋がるダンジョンに迷い込んだ。なんだ……空気中に星屑みたいなのがキラキラしてるけど?これが全て魔力だって? そしてダンジョンを突破した先には広大な異世界があり、この世界全ての魔力を行使して神や魔族に挑んでいく。

老衰で死んだ僕は異世界に転生して仲間を探す旅に出ます。最初の武器は木の棒ですか!? 絶対にあきらめない心で剣と魔法を使いこなします!

菊池 快晴
ファンタジー
10代という若さで老衰により病気で死んでしまった主人公アイレは 「まだ、死にたくない」という願いの通り異世界転生に成功する。  同じ病気で亡くなった親友のヴェルネルとレムリもこの世界いるはずだと アイレは二人を探す旅に出るが、すぐに魔物に襲われてしまう  最初の武器は木の棒!?  そして謎の人物によって明かされるヴェネルとレムリの転生の真実。  何度も心が折れそうになりながらも、アイレは剣と魔法を使いこなしながら 困難に立ち向かっていく。  チート、ハーレムなしの王道ファンタジー物語!  異世界転生は2話目です! キャラクタ―の魅力を味わってもらえると嬉しいです。  話の終わりのヒキを重要視しているので、そこを注目して下さい! ****** 完結まで必ず続けます ***** ****** 毎日更新もします *****  他サイトへ重複投稿しています!

異世界に転生したけど、頭打って記憶が・・・え?これってチート?

よっしぃ
ファンタジー
よう!俺の名はルドメロ・ララインサルって言うんだぜ! こう見えて高名な冒険者・・・・・になりたいんだが、何故か何やっても俺様の思うようにはいかないんだ! これもみんな小さい時に頭打って、記憶を無くしちまったからだぜ、きっと・・・・ どうやら俺は、転生?って言うので、神によって異世界に送られてきたらしいんだが、俺様にはその記憶がねえんだ。 周りの奴に聞くと、俺と一緒にやってきた連中もいるって話だし、スキルやらステータスたら、アイテムやら、色んなものをポイントと交換して、15の時にその、特別なポイントを取得し、冒険者として成功してるらしい。ポイントって何だ? 俺もあるのか?取得の仕方がわかんねえから、何にもないぜ?あ、そう言えば、消えないナイフとか持ってるが、あれがそうなのか?おい、記憶をなくす前の俺、何取得してたんだ? それに、俺様いつの間にかペット(フェンリルとドラゴン)2匹がいるんだぜ! よく分からんが何時の間にやら婚約者ができたんだよな・・・・ え?俺様チート持ちだって?チートって何だ? @@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@ 話を進めるうちに、少し内容を変えさせて頂きました。

異世界転生した俺は、産まれながらに最強だった。

桜花龍炎舞
ファンタジー
主人公ミツルはある日、不慮の事故にあい死んでしまった。 だが目がさめると見知らぬ美形の男と見知らぬ美女が目の前にいて、ミツル自身の身体も見知らぬ美形の子供に変わっていた。 そして更に、恐らく転生したであろうこの場所は剣や魔法が行き交うゲームの世界とも思える異世界だったのである。 異世界転生 × 最強 × ギャグ × 仲間。 チートすぎる俺が、神様より自由に世界をぶっ壊す!? “真面目な展開ゼロ”の爽快異世界バカ旅、始動!

ガチャと異世界転生  システムの欠陥を偶然発見し成り上がる!

よっしぃ
ファンタジー
偶然神のガチャシステムに欠陥がある事を発見したノーマルアイテムハンター(最底辺の冒険者)ランナル・エクヴァル・元日本人の転生者。 獲得したノーマルアイテムの売却時に、偶然発見したシステムの欠陥でとんでもない事になり、神に報告をするも再現できず否定され、しかも神が公認でそんな事が本当にあれば不正扱いしないからドンドンしていいと言われ、不正もとい欠陥を利用し最高ランクの装備を取得し成り上がり、無双するお話。 俺は西塔 徳仁(さいとう のりひと)、もうすぐ50過ぎのおっさんだ。 単身赴任で家族と離れ遠くで暮らしている。遠すぎて年に数回しか帰省できない。 ぶっちゃけ時間があるからと、ブラウザゲームをやっていたりする。 大抵ガチャがあるんだよな。 幾つかのゲームをしていたら、そのうちの一つのゲームで何やらハズレガチャを上位のアイテムにアップグレードしてくれるイベントがあって、それぞれ1から5までのランクがあり、それを15本投入すれば一度だけ例えばSRだったらSSRのアイテムに変えてくれるという有り難いイベントがあったっけ。 だが俺は運がなかった。 ゲームの話ではないぞ? 現実で、だ。 疲れて帰ってきた俺は体調が悪く、何とか自身が住んでいる社宅に到着したのだが・・・・俺は倒れたらしい。 そのまま救急搬送されたが、恐らく脳梗塞。 そのまま帰らぬ人となったようだ。 で、気が付けば俺は全く知らない場所にいた。 どうやら異世界だ。 魔物が闊歩する世界。魔法がある世界らしく、15歳になれば男は皆武器を手に魔物と祟罠くてはならないらしい。 しかも戦うにあたり、武器や防具は何故かガチャで手に入れるようだ。なんじゃそりゃ。 10歳の頃から生まれ育った村で魔物と戦う術や解体方法を身に着けたが、15になると村を出て、大きな街に向かった。 そこでダンジョンを知り、同じような境遇の面々とチームを組んでダンジョンで活動する。 5年、底辺から抜け出せないまま過ごしてしまった。 残念ながら日本の知識は持ち合わせていたが役に立たなかった。 そんなある日、変化がやってきた。 疲れていた俺は普段しない事をしてしまったのだ。 その結果、俺は信じられない出来事に遭遇、その後神との恐ろしい交渉を行い、最底辺の生活から脱出し、成り上がってく。

異世界に転生した社畜は調合師としてのんびりと生きていく。~ただの生産職だと思っていたら、結構ヤバい職でした~

夢宮
ファンタジー
台風が接近していて避難勧告が出されているにも関わらず出勤させられていた社畜──渡部与一《わたべよいち》。 雨で視界が悪いなか、信号無視をした車との接触事故で命を落としてしまう。 女神に即断即決で異世界転生を決められ、パパっと送り出されてしまうのだが、幸いなことに女神の気遣いによって職業とスキルを手に入れる──生産職の『調合師』という職業とそのスキルを。 異世界に転生してからふたりの少女に助けられ、港町へと向かい、物語は動き始める。 調合師としての立場を知り、それを利用しようとする者に悩まされながらも生きていく。 そんな与一ののんびりしたくてものんびりできない異世界生活が今、始まる。 ※2話から登場人物の描写に入りますので、のんびりと読んでいただけたらなと思います。 ※サブタイトル追加しました。

攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】

水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】 【一次選考通過作品】 ---  とある剣と魔法の世界で、  ある男女の間に赤ん坊が生まれた。  名をアスフィ・シーネット。  才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。  だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。  攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。 彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。  --------- もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります! #ヒラ俺 この度ついに完結しました。 1年以上書き続けた作品です。 途中迷走してました……。 今までありがとうございました! --- 追記:2025/09/20 再編、あるいは続編を書くか迷ってます。 もし気になる方は、 コメント頂けるとするかもしれないです。

処理中です...