神のバグで棄てられた俺、異世界の裏で文明チート国家を築く

かくろう

文字の大きさ
31 / 90
第2章

第31話「再起動する神殿」

しおりを挟む
 ――朝。
 バル=アルドの市場が、いつもより静かだった。
 風車の羽根がゆっくり回り、粉を挽く音が止まる。
 ほんの一瞬だけ、世界が“遅れた”気がした。

《異常検出。/魔導機械の演算周期:一二%遅延。/外部干渉波を確認。》
「……またか。昨日より強いな。」

 俺は目を細め、〈観測〉を展開する。
 空気中に淡い光の粒が走り、地平線の向こうで“何か”が呼吸しているような波形が現れた。
《解析結果:神託網再起動率=二一%。/沈黙解除、進行中。》

「神の沈黙が……動いてるってことか。」

 胸の奥で、嫌な熱が広がる。

 リィムが肩の上で震えた。
《主の心拍上昇。/提案:深呼吸。/冷却モード起動可否?》
「いらねえよ。……冷やしても治らん種類の不安だ。」

 冗談で言ってるのか本気なのか……。コイツの場合わからねぇな。

 市場の奥で、ジルドの声が響いた。
「悠人、見たか? 風車が止まった。制御機構が誤作動してやがる。」
「うん。上層の干渉っぽい。……神の網がノードを掴み直してる。」
「ってことは……“あいつら”がまた動くのか。」
「ああ。沈黙が終われば、必ず命令が降りてくる。」

 ジルドは深く息をつき、砂を踏んだ。
「お前、あの時の水路みたいに、また“上書き”する気か?」
「……それしか方法がないならな。」
《警告:過負荷リスク高。/前回同等の演算負荷で主の体温上昇一三%。/再現時、生命維持率七三%。》
「リィム、縁起でもない計算出すな。」
《忠告です。/感情ではなく、確率です。》
「わかってるよ。……でもやる。」

 やるしかないなら、やってやる。ここで尻込みするなんざ御免被るからな。

     ◇

 昼下がり。
 俺は広場の端にある小さな屋根の下で、エレナと向かい合っていた。
 彼女の膝の上には報告書。
 筆跡は正確で、美しい。
 けど、ページの端が少し震えているのが見えた。

「報告書……神殿に送るのか。」
「ええ。観測記録の一部を。……あなたの行動を正確に伝えるために。」
「“正確に”か。……それ、命令でもあるんだろ。」

 エレナは静かに頷いた。
 その顔には迷いがあった。
「私は観測者です。判断ではなく、記録するのが役目。
 でも、最近は――記録が怖い。」
「どうして?」
「書けば、“神”が見ます。
 見られれば、“判断”されます。」

 言葉が詰まる。
 リィムが低く光を放つ。
《感情波:恐怖+矛盾。/主、応答を推奨。》
「……記録するだけでも、罪になるのか。」
「ええ。だから私は迷っているんです。」

 風が吹き抜け、髪が揺れる。
 エレナの銀髪が光を反射し、まるで糸のように空気を縫っていた。
 その横顔を見ながら、俺はふと、口にした。

「リィム。」
《応答待機。》
「……この人、ログに残すな。」
《了解。/会話データ=非記録モード移行。》

 エレナの目がわずかに見開かれた。
「あなた、そんなことまでできるの?」
「神に全部見られるのは、俺も嫌だからな。」

 ほんの少し、彼女が笑った。
 その笑みが、砂の風よりも柔らかかった。

     ◇

 夕方。
 ノアが走ってきた。
「悠人、これを!」
 彼女の手には、聖印封書。
 勇者領の印章。

「……どこで?」
「エレナの随行員が、神託塔から通信を受け取っていました。
 “放流者を回収せよ”と……。」

 頭の奥が熱くなる。
 やっぱり、来たか。

《警告:通信波、バル=アルド外縁部に到達。/命令系統、再構築開始。》
「再構築……つまり、沈黙の解除が進んでる。」

 ノアが苦しそうに息を吐く。
「勇者領はもう、あなたを“異常値”として確定したのかもしれません。」
「俺、いつだって異常値だよ。」

 そう言いながら、空を見上げた。
 砂漠の空の高みで、淡い光の筋が交差している。
 それはまるで、神が世界に走らせた“コードの線”。

《観測更新。/神託網再起動率=四三%。/沈黙解除フェーズ:第二段階。》

 リィムが微かにノイズを発した。
 それは、どこか懐かしい声に聞こえた。

《……G-Λ-RM……管理コード……反応……》
「リィム? おい、どうした。」
《エラー発生。/記憶領域解放開始。》
 青い体が震え、光が乱反射する。

《ログ再生:G-Λ-RM基幹演算記録。/神託演算中枢より転送開始。》

 耳の奥に、誰かの声が流れ込む。
 それは女でも男でもない、無機質な祈り。

《……世界を観測せよ。修正は許されない。観測者は沈黙を保て。》

 そして――音が止んだ。
 リィムがゆっくりと光を収束させる。

《報告:記憶断片、再生完了。/自己定義の矛盾発生。》
「……お前、今のは……」
《確認不能。/しかし、“観測者は沈黙を保て”という命令が記録に存在。》

「皮肉だな。
 俺たちは“沈黙”を破るためにここまで来たのに。」

 リィムが静かに光を揺らした。
《主。/もし神が再起動するなら、我々はまた修理する。》
「……ああ。修理屋の仕事が、また増えた。」

 空に、薄い音が走った。
 砂を裂くような、高周波の鳴動。
 それはまるで――“世界が立ち上がる音”だった。

《警告:神託網の復旧率=五〇%突破。/沈黙、半解除状態。》

 俺は静かに息を吐く。
 そして、リィムの体を軽く撫でた。
「よし。……次のバグ、見つけに行くぞ。」

 砂の風が、少しだけ暖かかった。




しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~

志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」 この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。 父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。 ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。 今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。 その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。

無尽蔵の魔力で世界を救います~現実世界からやって来た俺は神より魔力が多いらしい~

甲賀流
ファンタジー
なんの特徴もない高校生の高橋 春陽はある時、異世界への繋がるダンジョンに迷い込んだ。なんだ……空気中に星屑みたいなのがキラキラしてるけど?これが全て魔力だって? そしてダンジョンを突破した先には広大な異世界があり、この世界全ての魔力を行使して神や魔族に挑んでいく。

老衰で死んだ僕は異世界に転生して仲間を探す旅に出ます。最初の武器は木の棒ですか!? 絶対にあきらめない心で剣と魔法を使いこなします!

菊池 快晴
ファンタジー
10代という若さで老衰により病気で死んでしまった主人公アイレは 「まだ、死にたくない」という願いの通り異世界転生に成功する。  同じ病気で亡くなった親友のヴェルネルとレムリもこの世界いるはずだと アイレは二人を探す旅に出るが、すぐに魔物に襲われてしまう  最初の武器は木の棒!?  そして謎の人物によって明かされるヴェネルとレムリの転生の真実。  何度も心が折れそうになりながらも、アイレは剣と魔法を使いこなしながら 困難に立ち向かっていく。  チート、ハーレムなしの王道ファンタジー物語!  異世界転生は2話目です! キャラクタ―の魅力を味わってもらえると嬉しいです。  話の終わりのヒキを重要視しているので、そこを注目して下さい! ****** 完結まで必ず続けます ***** ****** 毎日更新もします *****  他サイトへ重複投稿しています!

異世界転生した俺は、産まれながらに最強だった。

桜花龍炎舞
ファンタジー
主人公ミツルはある日、不慮の事故にあい死んでしまった。 だが目がさめると見知らぬ美形の男と見知らぬ美女が目の前にいて、ミツル自身の身体も見知らぬ美形の子供に変わっていた。 そして更に、恐らく転生したであろうこの場所は剣や魔法が行き交うゲームの世界とも思える異世界だったのである。 異世界転生 × 最強 × ギャグ × 仲間。 チートすぎる俺が、神様より自由に世界をぶっ壊す!? “真面目な展開ゼロ”の爽快異世界バカ旅、始動!

ガチャと異世界転生  システムの欠陥を偶然発見し成り上がる!

よっしぃ
ファンタジー
偶然神のガチャシステムに欠陥がある事を発見したノーマルアイテムハンター(最底辺の冒険者)ランナル・エクヴァル・元日本人の転生者。 獲得したノーマルアイテムの売却時に、偶然発見したシステムの欠陥でとんでもない事になり、神に報告をするも再現できず否定され、しかも神が公認でそんな事が本当にあれば不正扱いしないからドンドンしていいと言われ、不正もとい欠陥を利用し最高ランクの装備を取得し成り上がり、無双するお話。 俺は西塔 徳仁(さいとう のりひと)、もうすぐ50過ぎのおっさんだ。 単身赴任で家族と離れ遠くで暮らしている。遠すぎて年に数回しか帰省できない。 ぶっちゃけ時間があるからと、ブラウザゲームをやっていたりする。 大抵ガチャがあるんだよな。 幾つかのゲームをしていたら、そのうちの一つのゲームで何やらハズレガチャを上位のアイテムにアップグレードしてくれるイベントがあって、それぞれ1から5までのランクがあり、それを15本投入すれば一度だけ例えばSRだったらSSRのアイテムに変えてくれるという有り難いイベントがあったっけ。 だが俺は運がなかった。 ゲームの話ではないぞ? 現実で、だ。 疲れて帰ってきた俺は体調が悪く、何とか自身が住んでいる社宅に到着したのだが・・・・俺は倒れたらしい。 そのまま救急搬送されたが、恐らく脳梗塞。 そのまま帰らぬ人となったようだ。 で、気が付けば俺は全く知らない場所にいた。 どうやら異世界だ。 魔物が闊歩する世界。魔法がある世界らしく、15歳になれば男は皆武器を手に魔物と祟罠くてはならないらしい。 しかも戦うにあたり、武器や防具は何故かガチャで手に入れるようだ。なんじゃそりゃ。 10歳の頃から生まれ育った村で魔物と戦う術や解体方法を身に着けたが、15になると村を出て、大きな街に向かった。 そこでダンジョンを知り、同じような境遇の面々とチームを組んでダンジョンで活動する。 5年、底辺から抜け出せないまま過ごしてしまった。 残念ながら日本の知識は持ち合わせていたが役に立たなかった。 そんなある日、変化がやってきた。 疲れていた俺は普段しない事をしてしまったのだ。 その結果、俺は信じられない出来事に遭遇、その後神との恐ろしい交渉を行い、最底辺の生活から脱出し、成り上がってく。

異世界に転生した社畜は調合師としてのんびりと生きていく。~ただの生産職だと思っていたら、結構ヤバい職でした~

夢宮
ファンタジー
台風が接近していて避難勧告が出されているにも関わらず出勤させられていた社畜──渡部与一《わたべよいち》。 雨で視界が悪いなか、信号無視をした車との接触事故で命を落としてしまう。 女神に即断即決で異世界転生を決められ、パパっと送り出されてしまうのだが、幸いなことに女神の気遣いによって職業とスキルを手に入れる──生産職の『調合師』という職業とそのスキルを。 異世界に転生してからふたりの少女に助けられ、港町へと向かい、物語は動き始める。 調合師としての立場を知り、それを利用しようとする者に悩まされながらも生きていく。 そんな与一ののんびりしたくてものんびりできない異世界生活が今、始まる。 ※2話から登場人物の描写に入りますので、のんびりと読んでいただけたらなと思います。 ※サブタイトル追加しました。

攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】

水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】 【一次選考通過作品】 ---  とある剣と魔法の世界で、  ある男女の間に赤ん坊が生まれた。  名をアスフィ・シーネット。  才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。  だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。  攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。 彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。  --------- もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります! #ヒラ俺 この度ついに完結しました。 1年以上書き続けた作品です。 途中迷走してました……。 今までありがとうございました! --- 追記:2025/09/20 再編、あるいは続編を書くか迷ってます。 もし気になる方は、 コメント頂けるとするかもしれないです。

S級冒険者の子どもが進む道

干支猫
ファンタジー
【12/26完結】 とある小さな村、元冒険者の両親の下に生まれた子、ヨハン。 父親譲りの剣の才能に母親譲りの魔法の才能は両親の想定の遥か上をいく。 そうして王都の冒険者学校に入学を決め、出会った仲間と様々な学生生活を送っていった。 その中で魔族の存在にエルフの歴史を知る。そして魔王の復活を聞いた。 魔王とはいったい? ※感想に盛大なネタバレがあるので閲覧の際はご注意ください。

処理中です...