地味スキル「ためて・放つ」が最強すぎた!~出来損ないはいらん!と追い出したくせに英雄に駆け上がってから戻れと言われても手遅れです~

かくろう

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感動の再会

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「セージ君っ! セージ君っ! セージ君っ!」
 必死に名を呼ぶ声が、空気を震わせる。
 その声を聞いた瞬間、胸の奥に絡みついていた冷たい鎖が断ち切られ、張り付いていた氷が一気に溶け落ちていくのを感じた。

「リンカ……よかった。無事で、本当に……よかった……」

 抱きしめた瞬間、彼女の温もりが全身を貫いた。
 ああ、この腕に戻ってきた――。それだけで、世界が音を取り戻した。
 ずっと願っていた。どれほど血を流すことになっても、たとえどんな地獄を歩むことになっても、必ずリンカを取り戻すと。
 それが今、現実となった。

「怪我はない? 酷いことはされなかった?」
「うん。大丈夫。服を脱がされたりはしたけど、体は触られてない。私、汚されていないよ」

 その言葉を聞いた瞬間、喉の奥から熱が込み上げ、視界がぐにゃりと滲む。
 よかった――本当に。胸を灼いていた罪悪感が、わずかに和らいでいく。もし間に合わなかったら、もしマハルの手に堕とされていたら……想像しただけで胃の奥が焼け爛れるようだった。

「無事でよかった。本当に……よかった」

 リンカは子どものように泣きじゃくり、僕の胸を濡らした。
 いい。泣いていい。どれだけでも泣けばいい。僕の胸は、そのためにある。
 彼女の涙の一粒一粒が、僕の決意をさらに固くする。

 ――マハル。
 あの男の顔が脳裏に浮かぶ。
 同じ血を分けたはずの腹違いの弟。だがその笑みには、人間らしい感情などひとかけらもなかった。整った顔立ちの奥に潜むのは、ただ他者を嘲り、踏みにじり、壊すことを楽しむ悪意だけ。
 吐き気を催すほどの邪悪さ。救いようのない腐敗。
 絶対に、許してはおかない。
 どんな報いを受けさせても足りない。リンカを売り物のように笑い、弄ぼうとした罪――必ず、償わせる。

 周囲に目を向けると、檻の中にいた仲間たち――ミレイユ、シャミー、レイシス、アーリアの姿があった。
「ミレイユ、皆……こんなところで再会するとは思わなかったけど……助けられてよかった」
「セージ様、私達も同じ気持ちです。でも……今はリンカ様を」
「ミレイユ……ありがとう」

 自然と感謝の言葉がこぼれた。どれほど酷い境遇にあっても、彼女たちの瞳は折れていなかった。その強さが僕の背を押し、奮い立たせる。

「エリス、彼女達を頼む。それから、残りの奴隷にされた少女達の保護を」
「畏まりました、セージ様」

 傍らに立つエリスへ視線を送る。
 彼女の協力がなければ、僕はこの場に立つことさえできなかった。命を張ってでも支えてくれた仲間。その存在の重みを改めて感じる。

 エリスには残ったお金で他に奴隷として売られようとしていた少女達全員を買い取り、保護するようにお願いしておいた。

 それも全部エリスからの申し出だ。あらかじめ準備していた金額にプラスして、更に別の手段も講じていた。流石のひと言だ。

「エリス様、本当ですか?」と驚くリンカに、僕はしっかりと言葉を贈った。
「彼女が力を貸してくれたおかげで、僕はオークションを戦えたんだ。リンカを取り戻すお金の半分は、エリスが準備してくれた」

 リンカの瞳が潤み、震える声で「ありがとう」と漏らした。
 その瞬間、胸に燃える決意がさらに強くなる。

 ――もう二度と、彼女を泣かせはしない。
 もう二度と、彼女を奪わせはしない。
 リンカは、僕のすべてだ。
 だから、彼女の涙も、痛みも、絶望も、僕が全て背負う。

「リンカ……もう君を離さない」

 心の奥底から湧き上がる誓いが、言葉となって零れ落ちた。
 リンカは僕の胸に顔を埋め、震えながら小さく頷く。

 その瞬間、未来は決まった。
 僕はマハルを許さない。父ゴルドールも許さない。
 二人が作り上げた歪んだ世界を、必ず打ち砕く。
 ――この手で。

 ◇◇◇

 これまでの経緯を語る間、リンカの表情は何度も揺れ動いた。
 眉を寄せ、驚きに目を見開き、胸に手を当て、そして僕に視線を戻してくる。
 その度に、彼女の細い肩が小刻みに震え、緊張と安堵が入り混じった吐息が漏れた。
 やっと取り戻せた命の温もりを胸に感じながら、僕は彼女の反応を見つめ続けた。

 そんな空気の中で、唐突に、静かな声が割り込んできた。
 ルミナスだった。白銀の髪をゆるく垂らし、尖った耳の先がかすかに揺れている。
 瞳には暗い深淵のような光が宿り、しかし口元はどこか素朴な決意で引き結ばれていた。
 彼女は一歩前へ出ると、まるで儀式の宣言のように、いつもの調子で言葉を紡いだ。

「ルミナス、言う。セージ、ルミナスの恩人。魔族、強い力、服従する種族。だから、全部、捧げた」

 その言葉はたどたどしくも重く、ひとつひとつが胸に響いた。
 彼女の真剣なまなざしに射抜かれ、僕は胸の奥が熱くなるのを感じた。
 ――僕は、誰かを救えるほど強くなんてないと思っていたのに。
 それでも彼女は、僕に命を預けると言ってくれた。

 その瞬間、責任という言葉が頭に浮かぶ。
 守らなければならない命が、また増えたんだ――。

 だが、その真剣な言葉は、予期せぬ方向に誤解を生んだ。
 隣でリンカが、じろりと僕を見た。目尻がぴくりと引きつり、唇がわずかに膨らむ。

「全部……へぇ~。セージ君ってば私がいない間に新しい女の子引っかけたんだ~」

 声は柔らかいが、そこにこもる拗ねた色が刺さる。
 僕は慌てて手を振った。
「ち、違うんだリンカ! 彼女の能力は――」

 必死に説明する僕を、ルミナスは首をかしげて無表情に見つめる。
 リンカは腕を組み、じっと僕を見据え、ぷいと顔をそむけた。
 その仕草に胸が痛いほど温かくなる。
 ――信じてほしい。この状況でも、疑いではなく不安が先に立つ彼女を、もう絶対に傷つけたくない。

「本当に本当だ。僕はリンカに嘘はつかない」

 強く、まっすぐに言葉を返した。
 リンカはしばらく僕の目をじっと見つめ、その瞳の奥にあるものを探るようにしていた。
 やがて、肩の力が抜け、ほっとしたように微笑む。

「……そ、そうなんだ。あ~、ビックリした……」

 その声はかすれ、安堵に溶けていた。彼女は小さく息を吐き、膝が崩れそうになりながら僕の胸に寄りかかった。
 その姿を見て、胸の奥で静かに呟いた。
 ――どんな誤解だろうと、どんな不安だろうと、全部僕が受け止める。
 君を一人にしない。僕の全てを懸けて。

 ルミナスは二人のやり取りを無表情のまま眺めていたが、その耳がほんの少しだけ動いた。
 やがてぽつりと、先ほどより小さな声で呟く。

「ルミナス、言う。セージ、リンカ、大事な人。ルミナスも、捧げる。力も命も、全部、使う」

 その言葉に、リンカがはっと顔を上げ、驚いた目で彼女を見る。
 ルミナスは相変わらず硬い表情のまま、けれどその目の奥にはかすかな温度が宿っていた。
 不器用で、古風で、でも真っ直ぐな魔族の気持ちがそこにあった。

 僕は二人を見比べ、深く息を吐く。
 ――こんな風に、笑いと誤解と涙と決意が入り混じる時間が戻ってきた。
 守るべきものは増えた。だけど、その分、心に灯るものも増えた。
 そして決意は、ますます強くなる。

「さて、そろそろ行くとしようか」

「お待ちくださいお客様。まずはお買い上げ頂いた奴隷のお支払いを」

 オークション会場の係員がそんな事を告げる。
 それはそうだ。リンカをハーカル達から買ったという貴族に支払った金も回収しないといけないだろうし、買い物をしたら代価を支払うのは当たり前。

 リンカは「とある貴族」が買ったという話を聞いた。
 それはこの闇オークションのスポンサーとなっている貴族だ。

 リンカという希少種を出品する事でオークションは盛り上がり、大もうけができる。

 その利益の半分以上がその貴族の懐に入る訳だ。

 だから僕がお金を払わないと、そいつはハーカル達にお金を持ち逃げされたのと同じになってしまう。

 お金の払い損だ。買い物をしたら代金を支払うのが普通……。









 普通の買い物ならな。

「断る」

「なっ。いけませんねお客様。この闇のオークションでそのような発言は命取りになりますよ」

「心配するな。ここにはもうすぐ……」

 僕がそう言いかけた時、


「全員動くなっ! 違法奴隷売買の現行犯で逮捕するっ!」

「なにっ⁉ き、騎士団だとっ! クソッ」



 そこで会場は上を下への大騒ぎとなった。僕らがあらかじめ通報しておいた騎士団が突入してきたのだ。

「貴様ら、そこを……あ、あなたは」
「ご苦労様です。騎士団の皆様。通報した通り、ここにいる貴族達の逮捕に協力いたしますわ」
「ミルミハイド商会のっ。どうもっ! ご協力感謝いたしますっ!」

 エリスは仮面を外して騎士団員に話を通していた。

 これは一部僕も知らなかったので後で聞いた話も含まれているのだけど……。

 ここに来るにあたって僕らは騎士団の幹部と面会して大捕物の協力者として潜入するという形を取ったのである。

 エリスくらい経済力と社会的地位がなければ中枢に入りこむことは不可能なので、騎士団も非常に助かったという。

 古い文献でいうところの「渡りに船」というヤツだ。
 かねてからずっと内偵を進めていたが現場を押さえるのに苦労していたのだという。

 そんな場所をいち早く掴んでしまうトトルムさんの情報網は改めて凄いものだと思い知らされた。

 たぶんトトルムさん的には騎士団に通報はせずに単純にリンカを買い戻すだけと考えていたのだと思う。

 騎士団の協力を得るアイデアはエリスの発案だからだ。彼が敢えてその手段を提案しなかったのは、単純にリスクの高い方法を選んでエリスを危険な目に遭わせないための配慮だと、今になって分かる。

 そのおかげで僕らは彼女達のオークション代金を支払う事なくここを出ることができる。

 エリスの立ち回りの良さにはトトルムさんも肝を冷やすことだろう。

 僕らはその場を騎士団に任せ、リンカやミレイユ達を連れて会場を後にした。


 ◇◇◇

 エリスが用意してくれた馬車に乗り込み、ようやく安堵の空気が流れ出す。
 リンカが僕の腕を取って密着してくる。その温もりが、僕が「ここに戻ってきた」証のようで、胸がじんわりと熱くなる。

 だが、彼女の瞳がすぐに鋭さを帯びた。
「停めてっ。敵よ」

 その言葉に背筋が粟立つ。
 次の瞬間、ルミナスが馬を止め、ミレイユ達がよろけるのを僕が支える。

 ――守る。もう二度と、誰一人として奪わせはしない。

 ショートソードを抜き、気配を探る。
 まだ心臓は高鳴っている。けれど、恐怖よりも強いのは――仲間を守る決意。

「来いよ……僕はもう、逃げない」

 僕は静かに息を吸い、迫る敵を迎え撃つ覚悟を固めた。
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