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馬鹿弟に借りを返す
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支配したセバスに案内され、マハルが待つタブリンス家の別邸に足を踏み入れた。
奴はどうせ、酒をあおりながら女を待っているに違いない。くだらない。
玄関の扉を開けた瞬間、胸の奥に重苦しいものがこみあげる。
――ここは、僕が追放された場所。
たった二ヶ月前のことなのに、昨日の悪夢のように鮮明に蘇る。
マハルの部屋は変わっていなかった。僕は淀みなくエントランスを抜け、階段を上がり、廊下を奥へ進む。
そして扉の前で立ち止まり、セバスを促した。
「マハル様。ただいま戻りましてございます」
「おお、戻ったかセバス! はやく銀狐の女を寄越せ」
やはり下卑た声だ。
「……入れ」
「失礼いたします。お初にお目にかかります」
部屋に入ったリンカを見て、マハルはいやらしく目を細めた。
「ほう……なるほど美しい。だが、その無骨な格好は気に入らんな。あの淫らなドレスはどうした?」
「申し訳ありません。ご主人様の言いつけで、冒険者を続けることになりましたので」
「……なんだと? 誰がそんなことを命じた。お前の主人はこの俺だ!」
リンカが涼しい声で返す。
「はて? 私はいつ、あなたの奴隷となりましたか?」
マハルの眉がぴくりと跳ねた。
「……ちぃっ! 奴隷魔術が施された後か。まあいい。前の主人はどうした。セバス、殺さなかったのか?」
「はい。既に命令は続行不可能でしたので」
「なに……? どういう意味だ、セバス!」
マハルが声を荒げる。
その横で、僕は口を開いた。
「彼女の主人は――俺だよ、マハル」
「なっ……! 誰だ貴様っ。勝手にこの屋敷に入りおって!」
仮面の下で、僕は冷笑した。
「タブリンス家の跡取り息子、傲慢で人を見下すことにかけては天才的な、あのマハル様のお屋敷でございましょう?」
「貴様……その仮面……銀狐の女を競り落とした男かっ!」
「その通り」
ここでようやく、奴は僕の存在に気づいたらしい。
「セバス! 俺は殺せと命じたはずだぞ!」
「分からんか、ボンクラ息子。こいつは俺が返り討ちにした。今は俺の支配下だ」
マハルは目を剥く。セバスの虚ろな瞳に気づくことなく。
――そうだ。セバスは自ら裏切ったのではない。ルミナスの魔力によって完全に操られている。人形のような従者。それすら分からないマハルは、哀れを通り越して愚かだ。
「貴様、一体何者だ……。タブリンス家に仇なす意味が分かっているのか!」
「ああ、よーく知っているよ。兄弟を崖から突き落とす外道の家は、いずれ滅びる」
「ま、まさか……貴様、セージっ!」
僕は仮面を外し、黒髪を揺らす。母上から受け継いだ純黒の瞳が、真っ直ぐマハルを射抜いた。
「久しぶりだな、マハル」
「ば、馬鹿な……生きて……!」
「ああ。お前に殺されかけたおかげで、本当の人生を歩む決意ができた。その点だけは感謝してやる」
「おのれぇ! ならばここで殺す!」
マハルが剣に手をかける。僕は低く息を吐いた。
「よせ。俺は戦いに来たんじゃない。警告に来た」
「……警告だと? いっちょ前に俺口調になりやがって。ふざけた事をほざくなよ」
僕は映像魔法に収めた証拠を突きつける。セバスの自白、そして先ほどの会話。
マハルの顔が青ざめる。
「こ、これは……ッ」
「この映像が公開されれば、タブリンス家が闇オークションに関わっていた証拠になる。お前が俺を殺そうとした証言もな」
「貴様……脅迫か!」
「違う。俺はもうお前達と関わりたくない。ただ――母を侮辱し、ミレイユ達を傷つけ、そして兄を殺そうとした。その借りを返すために来ただけだ」
奥歯を噛みしめる。頭の奥で、冷静と怒りがせめぎ合う。
今ここで斬り捨てたい。だが、僕の本当の敵はマハルではない。父だ。
母を泣かせた、あの男だ。
「何が望みだ」
「簡単だ。暴虐をやめろ。それだけだ」
「ふざけるな! 俺はオメガ貴族の跡取りだ! 下民は俺に命を捧げる義務がある!」
ああ、やはり何も変わっていない。
「昔の人は言ったんだ。【馬鹿に付ける薬はない】……とな」
「貴様ぁああっ!」
剣を抜こうとした瞬間、僕は【☆加速】を発動させ、一瞬で間合いを詰めた。
ショートソードの刃が、マハルの頸動脈に触れる。
「動けば死ぬぞ」
「な……動きが、見えなかった……!」
「お前達が『ゴミ』と罵ったギフトのおかげだ。俺はもうお前を恐れない。だが、同じ血を分けた兄弟として……見過ごすこともできない」
僕の言葉に、マハルの顔が憎悪に染まる。
「……いいだろう。だったら決闘だ! 庭に出ろ!」
挑発に乗ったか。
無意識に、僕自身も戦いを望んでいたのかもしれない。
「いいだろう。お前が納得するまで相手してやる」
マハルの運命を決する時が来た。
奴はどうせ、酒をあおりながら女を待っているに違いない。くだらない。
玄関の扉を開けた瞬間、胸の奥に重苦しいものがこみあげる。
――ここは、僕が追放された場所。
たった二ヶ月前のことなのに、昨日の悪夢のように鮮明に蘇る。
マハルの部屋は変わっていなかった。僕は淀みなくエントランスを抜け、階段を上がり、廊下を奥へ進む。
そして扉の前で立ち止まり、セバスを促した。
「マハル様。ただいま戻りましてございます」
「おお、戻ったかセバス! はやく銀狐の女を寄越せ」
やはり下卑た声だ。
「……入れ」
「失礼いたします。お初にお目にかかります」
部屋に入ったリンカを見て、マハルはいやらしく目を細めた。
「ほう……なるほど美しい。だが、その無骨な格好は気に入らんな。あの淫らなドレスはどうした?」
「申し訳ありません。ご主人様の言いつけで、冒険者を続けることになりましたので」
「……なんだと? 誰がそんなことを命じた。お前の主人はこの俺だ!」
リンカが涼しい声で返す。
「はて? 私はいつ、あなたの奴隷となりましたか?」
マハルの眉がぴくりと跳ねた。
「……ちぃっ! 奴隷魔術が施された後か。まあいい。前の主人はどうした。セバス、殺さなかったのか?」
「はい。既に命令は続行不可能でしたので」
「なに……? どういう意味だ、セバス!」
マハルが声を荒げる。
その横で、僕は口を開いた。
「彼女の主人は――俺だよ、マハル」
「なっ……! 誰だ貴様っ。勝手にこの屋敷に入りおって!」
仮面の下で、僕は冷笑した。
「タブリンス家の跡取り息子、傲慢で人を見下すことにかけては天才的な、あのマハル様のお屋敷でございましょう?」
「貴様……その仮面……銀狐の女を競り落とした男かっ!」
「その通り」
ここでようやく、奴は僕の存在に気づいたらしい。
「セバス! 俺は殺せと命じたはずだぞ!」
「分からんか、ボンクラ息子。こいつは俺が返り討ちにした。今は俺の支配下だ」
マハルは目を剥く。セバスの虚ろな瞳に気づくことなく。
――そうだ。セバスは自ら裏切ったのではない。ルミナスの魔力によって完全に操られている。人形のような従者。それすら分からないマハルは、哀れを通り越して愚かだ。
「貴様、一体何者だ……。タブリンス家に仇なす意味が分かっているのか!」
「ああ、よーく知っているよ。兄弟を崖から突き落とす外道の家は、いずれ滅びる」
「ま、まさか……貴様、セージっ!」
僕は仮面を外し、黒髪を揺らす。母上から受け継いだ純黒の瞳が、真っ直ぐマハルを射抜いた。
「久しぶりだな、マハル」
「ば、馬鹿な……生きて……!」
「ああ。お前に殺されかけたおかげで、本当の人生を歩む決意ができた。その点だけは感謝してやる」
「おのれぇ! ならばここで殺す!」
マハルが剣に手をかける。僕は低く息を吐いた。
「よせ。俺は戦いに来たんじゃない。警告に来た」
「……警告だと? いっちょ前に俺口調になりやがって。ふざけた事をほざくなよ」
僕は映像魔法に収めた証拠を突きつける。セバスの自白、そして先ほどの会話。
マハルの顔が青ざめる。
「こ、これは……ッ」
「この映像が公開されれば、タブリンス家が闇オークションに関わっていた証拠になる。お前が俺を殺そうとした証言もな」
「貴様……脅迫か!」
「違う。俺はもうお前達と関わりたくない。ただ――母を侮辱し、ミレイユ達を傷つけ、そして兄を殺そうとした。その借りを返すために来ただけだ」
奥歯を噛みしめる。頭の奥で、冷静と怒りがせめぎ合う。
今ここで斬り捨てたい。だが、僕の本当の敵はマハルではない。父だ。
母を泣かせた、あの男だ。
「何が望みだ」
「簡単だ。暴虐をやめろ。それだけだ」
「ふざけるな! 俺はオメガ貴族の跡取りだ! 下民は俺に命を捧げる義務がある!」
ああ、やはり何も変わっていない。
「昔の人は言ったんだ。【馬鹿に付ける薬はない】……とな」
「貴様ぁああっ!」
剣を抜こうとした瞬間、僕は【☆加速】を発動させ、一瞬で間合いを詰めた。
ショートソードの刃が、マハルの頸動脈に触れる。
「動けば死ぬぞ」
「な……動きが、見えなかった……!」
「お前達が『ゴミ』と罵ったギフトのおかげだ。俺はもうお前を恐れない。だが、同じ血を分けた兄弟として……見過ごすこともできない」
僕の言葉に、マハルの顔が憎悪に染まる。
「……いいだろう。だったら決闘だ! 庭に出ろ!」
挑発に乗ったか。
無意識に、僕自身も戦いを望んでいたのかもしれない。
「いいだろう。お前が納得するまで相手してやる」
マハルの運命を決する時が来た。
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