地味スキル「ためて・放つ」が最強すぎた!~出来損ないはいらん!と追い出したくせに英雄に駆け上がってから戻れと言われても手遅れです~

かくろう

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支えてくれたメイド達

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 領都がようやく落ち着きを取り戻しつつある頃。
 喧騒から離れた屋敷の一室で、僕はミレイユと二人きりになっていた。

「セージ様、今日は一緒に台所を整えてしまいましょうか」
 白いエプロン姿のミレイユは、柔らかい微笑みを浮かべていた。
 彼女の横顔を見ると、どんな戦場に立っていた時よりも安心感が胸に広がる。

「領主館を使えるようになったのはいいけど、まだ散らかってるな」
「ええ。でも、こうして一つ一つ片づけていけば……きっと、温かい家に戻せます」

 彼女は迷いなく動き、散らかった食器を整えていく。
 それを見て、思わず僕も袖をまくった。
「なら僕も手伝うよ。昔は母さんの料理を横で見てるだけだったけど……少しは役に立てるかもな」

 冗談めかして言うと、ミレイユは驚いたように振り向き――そして小さく笑った。
「……そういうところ、昔から変わりませんね。セージ様はいつだって“隣に立とう”としてくださる」

 僕は戸棚から鍋を下ろし、彼女の隣に並ぶ。
 ふと目が合い、心臓が跳ねた。戦場では決して感じない種類の緊張だ。

「僕は、君がいたからここまで来られたんだと思う。領民を守れたのも、仲間を信じられたのも」
 言葉が自然に口を突いて出た。
「君がずっと、僕を支えてくれていたからだ」

 ミレイユの手が止まり、少しの沈黙が流れる。
 やがて彼女は顔を赤らめて、目を伏せた。
「……本当は、逆なんです。私こそ、セージ様に支えられてばかりで」
 絞り出すような声が、静かな部屋に響いた。
「だから……せめて今だけは、妻として、隣でお役に立ちたいんです」

 その言葉に胸が熱くなる。
 気がつけば僕は彼女の手を取っていた。
「ありがとう、ミレイユ。僕にとって、君がいることが一番の力なんだ」

 その瞬間、彼女の瞳に涙が浮かんだ。
 だがそれは悲しみではなく、幸福の光だった。

「……はい。ずっと、隣におります」

 戦場では見られない、静かで甘やかな時間。
 僕は彼女の温もりを確かめながら、この日常を守り抜こうと心から願った。




 屋敷の中庭。
 木剣を握りしめたシャミーが、元気いっぱいに僕へ飛びかかってきた。

「セージ様ぁっ! 今日こそ一本取りますからねっ!」

 その声に苦笑しながら、僕は軽く剣を構える。
 木剣と木剣が打ち合わされ、カン、と乾いた音が響いた。

 けれど――。

「きゃっ!」
 数合で彼女の剣を軽く弾き飛ばす。
 木剣はくるくると宙を舞い、芝生の上に突き刺さった。

「また簡単に……セージ様、手加減しすぎです!」
 頬をふくらませ、悔しそうに睨んでくるシャミー。

「いや、手加減してなかったら危ないだろ。大怪我するぞ」
「むーっ……。でも、これじゃあ奥さん失格じゃないですか。隣に立てるくらい強くなりたいのに!」

 涙目で叫ぶ彼女に、僕は苦笑して頭を撫でた。
「シャミーは強いさ。誰よりも元気で、明るくて、笑顔でみんなを支えてくれてる。……それだけで、十分に僕の力になってる」

「……本当、ですか?」
 不安げに見上げるその目を、真剣に見返す。
「本当だ。シャミーの笑顔があるから、僕たちは前に進める」

 その言葉に彼女の頬が真っ赤に染まり、照れ隠しのように抱きついてきた。
「えへへ……セージ様、大好きっ!」

 中庭に弾むような笑い声が広がり、日差しの下で僕は彼女の温もりを受け止めた。


 夕暮れ時、屋敷の書庫。
 棚に並んだ古びた本の匂いと、窓から差し込む柔らかな光が重なり、静謐な空気を作り出していた。

 机に向かうアーリアは、分厚い古文書を抱え込むようにして読みふけっていた。
 銀糸のような髪がさらりと垂れ、真剣な眼差しが文字を追っている。

「また難しそうな本を読んでるな」
 僕が声をかけると、アーリアはぱたりと本を閉じて顔を上げた。

「……セージ様」
 声は小さいが、そこに安堵の色が混じっている。

「何か役に立ちそうなことは?」
「まだ断片ですが……七魔将の起源に関わる記述が散見されます。けれど、それよりも――」

 アーリアは言葉を切り、視線を伏せた。
 長い睫毛が影を落とし、頬がほんのりと赤く染まっている。

「セージ様が隣にいてくださると……不思議と、安心できるのです」
 小さな声でそう呟くと、彼女はそっと僕の袖を握った。

 その仕草に胸が温かくなる。
「僕も同じだよ。アーリアが隣にいてくれると、どんな難しい道でも前に進める気がする」

 しばし沈黙。
 彼女は迷ったように視線を揺らした後、ゆっくりと身を寄せてきた。
 本のページを閉じ、肩を重ねるようにして寄り添ってくる。

 言葉はなくとも、心が交わる感覚。
 静かな書庫に、二人の呼吸だけが重なった。

「……一緒に夢を見たいのです。セージ様と歩む未来を」
 かすかな囁きに、僕はそっと彼女の手を握り返した。

「必ず実現しよう。僕たちで」

 そう約束すると、アーリアの瞳が安心に緩み、微笑みが花開いた。


 夜の帳が下り、屋敷の中庭には整列した兵たちの影が揺れていた。
 レイシスはその中央に立ち、姿勢を正したまま規律を確認している。
 鎧の隙間からのぞく白い指が、書き付けた軍規の紙をしっかりと握り締めていた。

「……点呼完了。配置異常なし。交代勤務に滞りはない」
 彼女の声は凛としていて、兵たちの緊張を保ちながらも不思議と安心を与える。

 僕はその様子をしばらく眺め、やがて近づいて声をかけた。
「レイシス。もう遅いんだ。少しは休んだほうがいい」

 振り返った彼女は、眉をわずかに寄せた。
「……私は完璧でなければなりません。気を抜けば、すぐに隙を突かれるでしょう」

 その硬さに、僕は苦笑を浮かべる。
「でも、無理をして倒れたら意味がないだろう。仲間の前に立つなら、まず自分が無事でいないと」

 しばし沈黙の後、彼女は紙を胸に抱え、目を伏せた。
「……私は、誰よりも未熟です。完璧を装わなければ、心が揺らいでしまう」

 その言葉には、いつもの毅然とした声とは違う、少女のような脆さが滲んでいた。
 僕はゆっくりと近づき、そっと彼女の肩に手を置いた。

「未熟でいい。僕たちは仲間だ。一人で背負う必要なんてない」

 レイシスの肩が小さく震えた。
 彼女は視線を逸らしながら、頬を赤らめて言葉を零す。
「……セージ様の隣であるなら、不完全でも……構いません」

 その告白に胸が熱くなる。
 僕は彼女の手を取って、しっかりと握り返した。
「隣で支えてくれるだけで十分だよ。レイシス」

 彼女は驚いたように目を瞬かせ、やがて緊張を解いた微笑みを浮かべた。
 夜風が吹き抜ける中庭で、二人はただ静かに手を取り合っていた。












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