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新たなる脅威
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母の墓前で誓いを立ててから、数日が過ぎた。
タブリンス領都は復興に沸き立っている。崩れた建物は再び組み直され、炊き出しの列からは湯気と笑い声が立ち昇る。
(……母上。少しずつだけど、この地は立ち直り始めてる)
胸の奥に、安堵がじんわりと広がっていた。
そんな折――王都から急使が駆け込んできた。埃まみれのマントを脱ぎ捨て、必死の形相で声を張り上げる。
「北方の森に、正体不明の魔物集団が出没! 派遣された軍勢は壊滅寸前です!」
広場にざわめきが走った。
ただの魔物ではない。異様な軍勢――背後に恐るべき存在が潜んでいるのは明らかだった。
僕はリンカ、ルミナス、セレスと視線を交わす。
「……僕たちが行こう」
「もちろんだよ、セージ君」
「そのとーり。ルミナスの出番」
「神よ……今度こそ、人々を守らせてください」
非戦闘組の仲間たちもすぐに集まり、口を揃えた。
エリスは毅然とした表情で「領地のことはお任せを」と告げ、アンナは冷静に治安維持を引き受ける。ミレイユやシャミーは炊き出しや子供の世話を続けると誓い、アーリアとレイシスもそれぞれ調査と兵の指揮を約束した。
――この地は、彼らに託せる。
僕は領民たちの前に立ち、はっきりと告げた。
「領地は信頼できる仲間に任せる。俺たちは北へ行き、この異形の脅威を討つ」
領民たちは涙を浮かべながら頷いた。
熱が広場を包み、胸が焼けるようだった。
「……必ず帰る。だから君たちも、この地を守ってくれ」
翌朝。
街門の前には見送りの群衆が押し寄せていた。市場の屋台の前で子供たちが手を振り、大人たちが保存食や薬草を差し出す。
リンカが矢筒を整え、ルミナスが胸を張り、セレスが祈りを捧げる。
僕は剣の柄に手を添え、仲間たちと共に息を合わせた。
「行こう。次なる試練へ」
門が軋みを上げて開かれる。朝の光が差し込み、旅路を照らした。
◇◇◇
街を発って三日目。
道は次第に荒れ、北へ進むごとに空気が重苦しくなっていった。
草木は枯れ、森の入口に近づくにつれて土の色までも濁っている。まるで大地そのものが病に侵されているようだった。
「……嫌な気配だね」
リンカが耳をぴくりと動かし、弓に手をかける。
「そのとーり。魔素の濃度が高すぎる。普通の森じゃない」
ルミナスが片手をかざし、空気を掬い取るように呟いた。指先に絡むのは黒ずんだ魔素の霧。
セレスは胸の前で印を結び、低く祈りを唱える。
「……これは、ただの魔物の群れではありません。何者かが意図的に集め、操っている」
僕は頷き、仲間たちの表情を見渡した。
「警戒を強めよう。……この先、きっとただの魔物相手じゃ済まない」
森に足を踏み入れた瞬間、異変はすぐに姿を現した。
木々の間から、赤黒く光る眼がいくつも浮かび上がる。獣とも人ともつかぬ、奇怪なシルエットが揺れる。
「来るぞ!」
弓弦が鳴り、リンカの矢が闇を裂いた。矢先が突き刺さった魔物は、骨のような音を立てて崩れる。だがその肉体はすぐに再生を始め、異様な呻き声を上げた。
「……自己修復⁉」
「しかも群れ、無限湧き。誰かの手、加わってる」ルミナスの声が鋭くなる。
セレスの光魔法が森を照らすと、無数の魔物の影がうごめいているのが見えた。狼のような獣、鎧をまとった兵士の骸、鳥のように空を舞うものまで――だがそのどれもが生き物の自然な姿ではなく、誰かが“作り出した”歪んだ兵隊だった。
僕は剣を握り直し、仲間に叫ぶ。
「まずは数を減らす! 一気に突破するぞ!」
剣閃と魔法、祈りの光が交錯し、森の入口は戦場と化した。
だが、戦いの中で、ただの前哨戦であることに気付く。
多分、この先に本当の脅威が待っている。
森の入口を突破しても、休む暇は与えられなかった。
切り裂いたはずの魔物が霧のように形を取り戻し、背後から迫ってくる。前へ進めば進むほど、同じような異形が次々と湧き上がってくるのだ。
「無限に出てくる……!?」
リンカが矢を放ちながら息を詰める。
矢が命中しても、骨と肉が絡み合い、すぐに動き出す。
「本体、いる。操ってる奴を見つけないと……!」
ルミナスが炎を迸らせ、黒い霧を焼き払った。
しかし霧は焼かれるそばから再び広がり、視界を遮る。
セレスが祈りの声を高める。
「聖光よ、道を照らして!」
光が霧を押しのけ、一瞬だけ開けた視界の先――。
森の奥に、巨大な木の根のようなものがうねっているのが見えた。だが、それは木ではなかった。無数の“眼”が表面に浮かび上がり、こちらをじっと見返している。
背筋が粟立つ。
(……やはり、ただの魔物じゃない。あれが……!)
「セージ君!」
リンカが叫ぶ。
僕は頷き、剣を構え直した。
「……あれを叩く。そうしなければ、この森は抜けられない!」
仲間たちが応じ、それぞれの力を放とうとした瞬間――
呻き声にも似た囁きが、森全体を覆い尽くした。
『視えておる……すべて視えておるぞ……』
声はどこからともなく、だが確かにこちらを囲むように響いている。
声と同時に、地面から無数の眼がせり上がった。木の根や岩肌に浮かび上がり、瞬きもせずこちらを映し出す。
「ひっ……!」
セレスが思わず息を呑む。聖光で霧を払ったはずなのに、逆にその光景を露わにしてしまったかのようだ。
「……全部、こっちを監視してる……」
リンカの矢が素早く放たれる。一本、二本、三本――眼を射抜くように命中した。だが眼は潰れることなく、再びじわりと盛り上がり、別の場所に現れる。
「無駄。こちらの動き、読まれてる」
ルミナスが低く吐き捨てる。
その直後、足元の土が隆起し、無数の手のような枝が絡みつこうと伸びてきた。僕は咄嗟に剣を振り払い、切り払う。だが切ったそばから別の場所に“眼”が開き、そこから再び異形の枝が伸びてくる。
「セージ様……このままでは、力を削られるばかりです!」
セレスが必死に回復の祈りを重ねるが、仲間の消耗は目に見えていた。
(……すべて視えている。そう言ったな。なら――俺たちの行動を“先読み”しているということか?)
額に汗が滲む。剣を握り直し、仲間たちを振り返る。
「リンカ、ルミナス、セレス……無駄撃ちは避けろ。相手は未来を覗いてる。なら――想定外をぶつけるしかない!」
僕の声に三人が頷いた。
次の瞬間、闇の囁きが笑い声へと変わる。
『……無駄な足掻きぞ。貴様らの未来は、すでにこの眼に映っておる……』
視界の端で、また新たな眼が開き、こちらを睨みつけいた。
背筋にぞわりと寒気が走る。
「……セージ君!」
リンカの声に反応して振り返ると、背後から土壁がせり上がってくる。逃げ道を塞がれる――そう予測していたかのように。
「くっ!」
僕は即座に剣を叩きつけ、壁を断ち割った。だがその瞬間には、すでに別の位置から無数の枝が迫ってきている。
「わざと見せてる。こっちの反応、全部試されてる」
ルミナスが歯噛みしながら炎を放つ。だが燃え上がる前に、枝はまるで水に溶けるように地面へと消えていった。
「……攻撃の未来を先に潰されてる……!」
セレスが震える声で言った。彼女の祈りの光すら、眼に読まれて広がる前に遮られてしまう。
(……本当に厄介だ。これじゃ、ただ消耗させられるだけだ……)
僕は深く息を吸い込み、わざと剣を肩から下ろした。
仲間たちが驚いてこちらを振り返る。
「セージ様……?」
「――あえて、隙を作る」
その言葉に、リンカの耳がぴくりと動いた。すぐに彼女は理解したように頷き、弓を下ろす。
ルミナスとセレスも一瞬ためらったが、やがて僕の意図を察して構えを緩めた。
「未来を読むなら……読ませてやる。だが、その先を――俺たちで裏切る」
眼が一斉に瞬き、薄気味悪い笑い声が広間を満たした。
「……面白い。未来を欺けると……本気で思っているのか?」
声が重く響く中、僕は足を前に踏み出す。
剣先は下がったまま、あえて無防備に見せながら――
(読めるものなら読んでみろ。俺の“ため”は、そんなに単純じゃない……!)
タブリンス領都は復興に沸き立っている。崩れた建物は再び組み直され、炊き出しの列からは湯気と笑い声が立ち昇る。
(……母上。少しずつだけど、この地は立ち直り始めてる)
胸の奥に、安堵がじんわりと広がっていた。
そんな折――王都から急使が駆け込んできた。埃まみれのマントを脱ぎ捨て、必死の形相で声を張り上げる。
「北方の森に、正体不明の魔物集団が出没! 派遣された軍勢は壊滅寸前です!」
広場にざわめきが走った。
ただの魔物ではない。異様な軍勢――背後に恐るべき存在が潜んでいるのは明らかだった。
僕はリンカ、ルミナス、セレスと視線を交わす。
「……僕たちが行こう」
「もちろんだよ、セージ君」
「そのとーり。ルミナスの出番」
「神よ……今度こそ、人々を守らせてください」
非戦闘組の仲間たちもすぐに集まり、口を揃えた。
エリスは毅然とした表情で「領地のことはお任せを」と告げ、アンナは冷静に治安維持を引き受ける。ミレイユやシャミーは炊き出しや子供の世話を続けると誓い、アーリアとレイシスもそれぞれ調査と兵の指揮を約束した。
――この地は、彼らに託せる。
僕は領民たちの前に立ち、はっきりと告げた。
「領地は信頼できる仲間に任せる。俺たちは北へ行き、この異形の脅威を討つ」
領民たちは涙を浮かべながら頷いた。
熱が広場を包み、胸が焼けるようだった。
「……必ず帰る。だから君たちも、この地を守ってくれ」
翌朝。
街門の前には見送りの群衆が押し寄せていた。市場の屋台の前で子供たちが手を振り、大人たちが保存食や薬草を差し出す。
リンカが矢筒を整え、ルミナスが胸を張り、セレスが祈りを捧げる。
僕は剣の柄に手を添え、仲間たちと共に息を合わせた。
「行こう。次なる試練へ」
門が軋みを上げて開かれる。朝の光が差し込み、旅路を照らした。
◇◇◇
街を発って三日目。
道は次第に荒れ、北へ進むごとに空気が重苦しくなっていった。
草木は枯れ、森の入口に近づくにつれて土の色までも濁っている。まるで大地そのものが病に侵されているようだった。
「……嫌な気配だね」
リンカが耳をぴくりと動かし、弓に手をかける。
「そのとーり。魔素の濃度が高すぎる。普通の森じゃない」
ルミナスが片手をかざし、空気を掬い取るように呟いた。指先に絡むのは黒ずんだ魔素の霧。
セレスは胸の前で印を結び、低く祈りを唱える。
「……これは、ただの魔物の群れではありません。何者かが意図的に集め、操っている」
僕は頷き、仲間たちの表情を見渡した。
「警戒を強めよう。……この先、きっとただの魔物相手じゃ済まない」
森に足を踏み入れた瞬間、異変はすぐに姿を現した。
木々の間から、赤黒く光る眼がいくつも浮かび上がる。獣とも人ともつかぬ、奇怪なシルエットが揺れる。
「来るぞ!」
弓弦が鳴り、リンカの矢が闇を裂いた。矢先が突き刺さった魔物は、骨のような音を立てて崩れる。だがその肉体はすぐに再生を始め、異様な呻き声を上げた。
「……自己修復⁉」
「しかも群れ、無限湧き。誰かの手、加わってる」ルミナスの声が鋭くなる。
セレスの光魔法が森を照らすと、無数の魔物の影がうごめいているのが見えた。狼のような獣、鎧をまとった兵士の骸、鳥のように空を舞うものまで――だがそのどれもが生き物の自然な姿ではなく、誰かが“作り出した”歪んだ兵隊だった。
僕は剣を握り直し、仲間に叫ぶ。
「まずは数を減らす! 一気に突破するぞ!」
剣閃と魔法、祈りの光が交錯し、森の入口は戦場と化した。
だが、戦いの中で、ただの前哨戦であることに気付く。
多分、この先に本当の脅威が待っている。
森の入口を突破しても、休む暇は与えられなかった。
切り裂いたはずの魔物が霧のように形を取り戻し、背後から迫ってくる。前へ進めば進むほど、同じような異形が次々と湧き上がってくるのだ。
「無限に出てくる……!?」
リンカが矢を放ちながら息を詰める。
矢が命中しても、骨と肉が絡み合い、すぐに動き出す。
「本体、いる。操ってる奴を見つけないと……!」
ルミナスが炎を迸らせ、黒い霧を焼き払った。
しかし霧は焼かれるそばから再び広がり、視界を遮る。
セレスが祈りの声を高める。
「聖光よ、道を照らして!」
光が霧を押しのけ、一瞬だけ開けた視界の先――。
森の奥に、巨大な木の根のようなものがうねっているのが見えた。だが、それは木ではなかった。無数の“眼”が表面に浮かび上がり、こちらをじっと見返している。
背筋が粟立つ。
(……やはり、ただの魔物じゃない。あれが……!)
「セージ君!」
リンカが叫ぶ。
僕は頷き、剣を構え直した。
「……あれを叩く。そうしなければ、この森は抜けられない!」
仲間たちが応じ、それぞれの力を放とうとした瞬間――
呻き声にも似た囁きが、森全体を覆い尽くした。
『視えておる……すべて視えておるぞ……』
声はどこからともなく、だが確かにこちらを囲むように響いている。
声と同時に、地面から無数の眼がせり上がった。木の根や岩肌に浮かび上がり、瞬きもせずこちらを映し出す。
「ひっ……!」
セレスが思わず息を呑む。聖光で霧を払ったはずなのに、逆にその光景を露わにしてしまったかのようだ。
「……全部、こっちを監視してる……」
リンカの矢が素早く放たれる。一本、二本、三本――眼を射抜くように命中した。だが眼は潰れることなく、再びじわりと盛り上がり、別の場所に現れる。
「無駄。こちらの動き、読まれてる」
ルミナスが低く吐き捨てる。
その直後、足元の土が隆起し、無数の手のような枝が絡みつこうと伸びてきた。僕は咄嗟に剣を振り払い、切り払う。だが切ったそばから別の場所に“眼”が開き、そこから再び異形の枝が伸びてくる。
「セージ様……このままでは、力を削られるばかりです!」
セレスが必死に回復の祈りを重ねるが、仲間の消耗は目に見えていた。
(……すべて視えている。そう言ったな。なら――俺たちの行動を“先読み”しているということか?)
額に汗が滲む。剣を握り直し、仲間たちを振り返る。
「リンカ、ルミナス、セレス……無駄撃ちは避けろ。相手は未来を覗いてる。なら――想定外をぶつけるしかない!」
僕の声に三人が頷いた。
次の瞬間、闇の囁きが笑い声へと変わる。
『……無駄な足掻きぞ。貴様らの未来は、すでにこの眼に映っておる……』
視界の端で、また新たな眼が開き、こちらを睨みつけいた。
背筋にぞわりと寒気が走る。
「……セージ君!」
リンカの声に反応して振り返ると、背後から土壁がせり上がってくる。逃げ道を塞がれる――そう予測していたかのように。
「くっ!」
僕は即座に剣を叩きつけ、壁を断ち割った。だがその瞬間には、すでに別の位置から無数の枝が迫ってきている。
「わざと見せてる。こっちの反応、全部試されてる」
ルミナスが歯噛みしながら炎を放つ。だが燃え上がる前に、枝はまるで水に溶けるように地面へと消えていった。
「……攻撃の未来を先に潰されてる……!」
セレスが震える声で言った。彼女の祈りの光すら、眼に読まれて広がる前に遮られてしまう。
(……本当に厄介だ。これじゃ、ただ消耗させられるだけだ……)
僕は深く息を吸い込み、わざと剣を肩から下ろした。
仲間たちが驚いてこちらを振り返る。
「セージ様……?」
「――あえて、隙を作る」
その言葉に、リンカの耳がぴくりと動いた。すぐに彼女は理解したように頷き、弓を下ろす。
ルミナスとセレスも一瞬ためらったが、やがて僕の意図を察して構えを緩めた。
「未来を読むなら……読ませてやる。だが、その先を――俺たちで裏切る」
眼が一斉に瞬き、薄気味悪い笑い声が広間を満たした。
「……面白い。未来を欺けると……本気で思っているのか?」
声が重く響く中、僕は足を前に踏み出す。
剣先は下がったまま、あえて無防備に見せながら――
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