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瞬撃の魔将アルジーナ
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氷の霧が晴れた湿原の空。
静寂の中で――ひとつの音が、響いた。
「カチ……カチ……カチ……」
時計の音。
だが、それは懐中時計の針ではなく、世界の“心臓”が刻む音のようだった。
セレスが息を呑む。
「……魔素の流れが、止まっていきます……」
風が止まり、水滴が宙で固まる。
次の瞬間、空間そのものがきしんだ。
「来たか――」
僕は剣を握り、視界を探る。
そこに、彼女は立っていた。
黒のタイトドレスに銀の髪。
片手には古びた懐中時計、もう片手には黒曜の短剣。
妖艶で、どこか退屈そうな瞳。
「ふうん……あなたが、セージ・タブリンス?」
アルジーナ。
“瞬撃の魔将”――時間を操る最悪の敵。
「面白い。イグニス、ヴァルナ、ラミエル、ベロク、セレーネ……
あなた、本当に5人も倒したのね」
「次はお前か」
僕は構える。
「ええ。でも安心して。痛みは感じないわ。
だって――“止まる”から」
カチ、と指先の時計が鳴った。
世界が、凍った。
リンカが弓を引き絞った姿のまま止まり、
ルミナスの炎が空中で静止する。
セレスの祈りの声も、途中で途切れた。
動けるのは――僕だけだった。
「……時間停止……いや、違う」
身体が重い。意識は動いているが、空気が固体みたいだ。
時間そのものが圧縮されている。
「これが、“ため”の否定」
アルジーナがゆっくりと歩み寄る。
「あなたのスキルは、“時間を要する”でしょう?
だから、止まった世界じゃ何もできない」
彼女の指が、僕の頬を撫でた。
冷たい。だが、血が凍るような感触ではない。
むしろ、“現実感”そのものを奪われるような恐怖。
「ねえ。ためるって、何秒かかるの?」
「……お前に関係ない」
「ふふ。そう言うと思った。
でも、私はね――“ためる時間”ごと削除できるの」
言葉と同時に、懐中時計が逆回転する。
〈攻撃力ストック:消失〉
〈加速ストック:消失〉
「……な……!?」
体内の魔素が一瞬で空になる。
今まで溜めてきた全ての“結果”が、無かったことになった。
「ほらね?」
アルジーナが笑う。
「あなたの“ため”は、私の“停止”の中では意味を持たない。
時間を超えて“放つ”なんて行為は、存在しないのよ」
……理屈では勝てない。
彼女の“時間支配”は、僕の能力そのものを消してしまう。
それでも――足が勝手に前へ出た。
「それでも僕は、“ためる”」
「無駄な努力ね」
時計が再び鳴る。
空間がねじれ、世界が上下反転する。
何が起きているのか、視覚が追いつかない。
時間がねじれ、世界が多重に重なっていく。
「“ためる”という行為は、“時間を費やす”こと。
なら、私はその“時間”を全部凍らせる。
これが“瞬撃”の真髄」
彼女の短剣が、僕の喉元へ滑る。
だが――その瞬間、空気が震えた。
「……させませんっ!」
セレスの声が空間を割った。
祈りの光が、氷の時間を押し返す。
静止していた空間に、音が戻る。
アルジーナが眉をひそめる。
「ほう……動けたの?」
「祈りは、時間に縛られません。
“祈る”という行為は、“瞬間”ではなく“永続”です!」
その一言で、僕は理解した。
そうだ――“ためる”も“祈り”も、過去や未来じゃない。
今だ。
「……ありがと、セレス」
僕は息を整えた。
〈祈りストック:再構築〉
〈想念同期:安定〉
「おや? まだ立てるのね?」
アルジーナの声に、僕は笑った。
「立つさ。俺……いや、僕の“ためる”は、“時間”のためじゃない」
剣を構える。
「想いのためだ」
アルジーナが目を細める。
「ふふ、興味深い。
じゃあ見せて。あなたの“想い”が、どれほどの速度を持つのか」
時計が再び鳴った瞬間――僕は動いた。
〈加速ストック:再起動〉
〈祈りストック:共鳴上昇〉
風が裂け、音が走る。
炎が弾け、光が交錯する。
そして――
僕とアルジーナの刃が、初めて真正面からぶつかり合った。
時間すら、悲鳴を上げる衝撃だった。
衝突の余波で湿原が割れた。
空間が軋み、光と闇が混ざり合う。
刃と刃が弾け、アルジーナの笑みが閃光の向こうに浮かぶ。
「おかしいわね……あなた、“時間が止まってる”はずなのに」
「止まってるのは“世界”だけだ。僕の心までは止められない」
呼吸をひとつ。
思考が、研ぎ澄まされていく。
〈加速ストック:4000/4000〉
〈思考加速:臨界〉
刃を交える一瞬――世界が、白く引き延ばされて見えた。
動きの全てがスローになる。
いや、違う。
僕の思考が、速すぎるのだ。
アルジーナが一歩踏み出す。
その軌跡が見える。
振り下ろされる前に、すでに次の動作を予測できた。
――これが、“思考のため”。
僕は剣を返し、迎撃する。
光と影のようにぶつかり合い、火花が散る。
「……おかしいわね」
アルジーナが短剣を受け流しながら、微かに笑う。
「この空間で、思考を動かせるなんて……そんな芸当、誰にもできないはず」
「“ためる”のは、力だけじゃない。
考え方も、感じ方も――全部、ためて放つ」
「ふふっ……理屈としては無茶苦茶。でも、嫌いじゃない」
アルジーナが時計を掲げた。
「なら、これはどう?」
針が逆回転する。
僕の視界が一瞬、真っ白に弾ける。
気づけば――剣を握る僕が二人いた。
「……反転?」
「過去のあなた。三秒前の“ため”を分離したの」
アルジーナが笑う。
なるほど、時間を遡るだけでなく、“過去の存在”を現実化させるのか。
これじゃあ、どんな反応も先読みされる。
しかし――僕は笑った。
「三秒前の僕か。悪くない」
「? 何がおかしいの?」
「そいつも、“僕”だろ」
次の瞬間、二人の僕が同時に動いた。
〈思考のため:連動起動〉
〈攻撃回数ストック:4000/4000〉
双剣のように、同一の動きで襲いかかる。
アルジーナの目が見開かれた。
「馬鹿な……! “同じ時間”の存在が、連携している……!?」
「思考は、共有できる」
僕と“過去の僕”が、同じタイミングで踏み込む。
刃が交錯し、時間の膜が裂けた。
その隙間に――リンカの声が飛び込む。
「セージ君っ! 分かった! アルジーナの“時間操作”の核、見えた!」
リンカが地面に膝をつき、矢を構える。
銀色の瞳が光を帯びる。
「【分析】発動――対象:アルジーナ。
“時間停止”の構造、解析開始!」
周囲の空間に幾何学模様が走る。
リンカの周囲で、情報の光が弾けた。
「やっぱり……彼女の時間停止は“祈祷式”じゃない。
外部干渉型の“自己基準”よ!
自分の時計が、“世界の基準時間”を上書きしてる!」
「つまり……その時計を壊せば!」
「ダメ! 直接壊したら、時間が崩壊する!」
アルジーナが微笑む。
「そう、その通り。だから、誰にも止められないの」
「なら、上書きするしかない」
セレスが祈りの書を掲げる。
「時間は祈りによっても紡がれる。
“永遠”という概念を“今”に結び直せば、止まらない!」
「祈りと分析の共鳴……面白いわね」
アルジーナが短剣を構える。
「でも、それを口にしている間に――時間はまた止まるの」
カチ、と針が鳴る。
しかし、その瞬間。
〈思考のため:再展開〉
〈祈りストック:6000/8000〉
〈想念同期:上昇〉
僕の中で、時間が“二層”に分かれた。
一方は止まり、一方は動く。
止まった世界で、思考だけが進み続ける。
(……動ける……!)
止まった空間の中で、僕は剣を振るう。
光が、音もなく走る。
アルジーナがわずかに目を見開く。
「……あり得ない」
「“ためる”ってのは、“時間を貯金すること”じゃない。
“可能性を積み上げること”だ」
刃が届く。
アルジーナの時計がわずかに欠けた。
時間の膜が揺らぎ、音が戻る。
「セージ君、今っ!」
リンカの矢が放たれる。
それは光の筋となり、時計の針を正確に射抜いた。
針が停止し、空間が一瞬だけ“無”になった。
「――終わりじゃないわよ」
アルジーナが笑う。
割れた時計の中から、もう一つの針が浮かび上がる。
「これが、“真の時間”」
世界が――逆転した。
静寂の中で――ひとつの音が、響いた。
「カチ……カチ……カチ……」
時計の音。
だが、それは懐中時計の針ではなく、世界の“心臓”が刻む音のようだった。
セレスが息を呑む。
「……魔素の流れが、止まっていきます……」
風が止まり、水滴が宙で固まる。
次の瞬間、空間そのものがきしんだ。
「来たか――」
僕は剣を握り、視界を探る。
そこに、彼女は立っていた。
黒のタイトドレスに銀の髪。
片手には古びた懐中時計、もう片手には黒曜の短剣。
妖艶で、どこか退屈そうな瞳。
「ふうん……あなたが、セージ・タブリンス?」
アルジーナ。
“瞬撃の魔将”――時間を操る最悪の敵。
「面白い。イグニス、ヴァルナ、ラミエル、ベロク、セレーネ……
あなた、本当に5人も倒したのね」
「次はお前か」
僕は構える。
「ええ。でも安心して。痛みは感じないわ。
だって――“止まる”から」
カチ、と指先の時計が鳴った。
世界が、凍った。
リンカが弓を引き絞った姿のまま止まり、
ルミナスの炎が空中で静止する。
セレスの祈りの声も、途中で途切れた。
動けるのは――僕だけだった。
「……時間停止……いや、違う」
身体が重い。意識は動いているが、空気が固体みたいだ。
時間そのものが圧縮されている。
「これが、“ため”の否定」
アルジーナがゆっくりと歩み寄る。
「あなたのスキルは、“時間を要する”でしょう?
だから、止まった世界じゃ何もできない」
彼女の指が、僕の頬を撫でた。
冷たい。だが、血が凍るような感触ではない。
むしろ、“現実感”そのものを奪われるような恐怖。
「ねえ。ためるって、何秒かかるの?」
「……お前に関係ない」
「ふふ。そう言うと思った。
でも、私はね――“ためる時間”ごと削除できるの」
言葉と同時に、懐中時計が逆回転する。
〈攻撃力ストック:消失〉
〈加速ストック:消失〉
「……な……!?」
体内の魔素が一瞬で空になる。
今まで溜めてきた全ての“結果”が、無かったことになった。
「ほらね?」
アルジーナが笑う。
「あなたの“ため”は、私の“停止”の中では意味を持たない。
時間を超えて“放つ”なんて行為は、存在しないのよ」
……理屈では勝てない。
彼女の“時間支配”は、僕の能力そのものを消してしまう。
それでも――足が勝手に前へ出た。
「それでも僕は、“ためる”」
「無駄な努力ね」
時計が再び鳴る。
空間がねじれ、世界が上下反転する。
何が起きているのか、視覚が追いつかない。
時間がねじれ、世界が多重に重なっていく。
「“ためる”という行為は、“時間を費やす”こと。
なら、私はその“時間”を全部凍らせる。
これが“瞬撃”の真髄」
彼女の短剣が、僕の喉元へ滑る。
だが――その瞬間、空気が震えた。
「……させませんっ!」
セレスの声が空間を割った。
祈りの光が、氷の時間を押し返す。
静止していた空間に、音が戻る。
アルジーナが眉をひそめる。
「ほう……動けたの?」
「祈りは、時間に縛られません。
“祈る”という行為は、“瞬間”ではなく“永続”です!」
その一言で、僕は理解した。
そうだ――“ためる”も“祈り”も、過去や未来じゃない。
今だ。
「……ありがと、セレス」
僕は息を整えた。
〈祈りストック:再構築〉
〈想念同期:安定〉
「おや? まだ立てるのね?」
アルジーナの声に、僕は笑った。
「立つさ。俺……いや、僕の“ためる”は、“時間”のためじゃない」
剣を構える。
「想いのためだ」
アルジーナが目を細める。
「ふふ、興味深い。
じゃあ見せて。あなたの“想い”が、どれほどの速度を持つのか」
時計が再び鳴った瞬間――僕は動いた。
〈加速ストック:再起動〉
〈祈りストック:共鳴上昇〉
風が裂け、音が走る。
炎が弾け、光が交錯する。
そして――
僕とアルジーナの刃が、初めて真正面からぶつかり合った。
時間すら、悲鳴を上げる衝撃だった。
衝突の余波で湿原が割れた。
空間が軋み、光と闇が混ざり合う。
刃と刃が弾け、アルジーナの笑みが閃光の向こうに浮かぶ。
「おかしいわね……あなた、“時間が止まってる”はずなのに」
「止まってるのは“世界”だけだ。僕の心までは止められない」
呼吸をひとつ。
思考が、研ぎ澄まされていく。
〈加速ストック:4000/4000〉
〈思考加速:臨界〉
刃を交える一瞬――世界が、白く引き延ばされて見えた。
動きの全てがスローになる。
いや、違う。
僕の思考が、速すぎるのだ。
アルジーナが一歩踏み出す。
その軌跡が見える。
振り下ろされる前に、すでに次の動作を予測できた。
――これが、“思考のため”。
僕は剣を返し、迎撃する。
光と影のようにぶつかり合い、火花が散る。
「……おかしいわね」
アルジーナが短剣を受け流しながら、微かに笑う。
「この空間で、思考を動かせるなんて……そんな芸当、誰にもできないはず」
「“ためる”のは、力だけじゃない。
考え方も、感じ方も――全部、ためて放つ」
「ふふっ……理屈としては無茶苦茶。でも、嫌いじゃない」
アルジーナが時計を掲げた。
「なら、これはどう?」
針が逆回転する。
僕の視界が一瞬、真っ白に弾ける。
気づけば――剣を握る僕が二人いた。
「……反転?」
「過去のあなた。三秒前の“ため”を分離したの」
アルジーナが笑う。
なるほど、時間を遡るだけでなく、“過去の存在”を現実化させるのか。
これじゃあ、どんな反応も先読みされる。
しかし――僕は笑った。
「三秒前の僕か。悪くない」
「? 何がおかしいの?」
「そいつも、“僕”だろ」
次の瞬間、二人の僕が同時に動いた。
〈思考のため:連動起動〉
〈攻撃回数ストック:4000/4000〉
双剣のように、同一の動きで襲いかかる。
アルジーナの目が見開かれた。
「馬鹿な……! “同じ時間”の存在が、連携している……!?」
「思考は、共有できる」
僕と“過去の僕”が、同じタイミングで踏み込む。
刃が交錯し、時間の膜が裂けた。
その隙間に――リンカの声が飛び込む。
「セージ君っ! 分かった! アルジーナの“時間操作”の核、見えた!」
リンカが地面に膝をつき、矢を構える。
銀色の瞳が光を帯びる。
「【分析】発動――対象:アルジーナ。
“時間停止”の構造、解析開始!」
周囲の空間に幾何学模様が走る。
リンカの周囲で、情報の光が弾けた。
「やっぱり……彼女の時間停止は“祈祷式”じゃない。
外部干渉型の“自己基準”よ!
自分の時計が、“世界の基準時間”を上書きしてる!」
「つまり……その時計を壊せば!」
「ダメ! 直接壊したら、時間が崩壊する!」
アルジーナが微笑む。
「そう、その通り。だから、誰にも止められないの」
「なら、上書きするしかない」
セレスが祈りの書を掲げる。
「時間は祈りによっても紡がれる。
“永遠”という概念を“今”に結び直せば、止まらない!」
「祈りと分析の共鳴……面白いわね」
アルジーナが短剣を構える。
「でも、それを口にしている間に――時間はまた止まるの」
カチ、と針が鳴る。
しかし、その瞬間。
〈思考のため:再展開〉
〈祈りストック:6000/8000〉
〈想念同期:上昇〉
僕の中で、時間が“二層”に分かれた。
一方は止まり、一方は動く。
止まった世界で、思考だけが進み続ける。
(……動ける……!)
止まった空間の中で、僕は剣を振るう。
光が、音もなく走る。
アルジーナがわずかに目を見開く。
「……あり得ない」
「“ためる”ってのは、“時間を貯金すること”じゃない。
“可能性を積み上げること”だ」
刃が届く。
アルジーナの時計がわずかに欠けた。
時間の膜が揺らぎ、音が戻る。
「セージ君、今っ!」
リンカの矢が放たれる。
それは光の筋となり、時計の針を正確に射抜いた。
針が停止し、空間が一瞬だけ“無”になった。
「――終わりじゃないわよ」
アルジーナが笑う。
割れた時計の中から、もう一つの針が浮かび上がる。
「これが、“真の時間”」
世界が――逆転した。
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