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9回目 その2
しおりを挟む「ふふっ。やっぱりれー君の部屋は落ち着くね。もう合宿みたいな気分になってきちゃったよ」
杏奈は俺のベッドに腰をかけ、青色のルームウェア姿でポテチをつまむ。水色の生地と彼女の快活さが見事にマッチしていて、妙に爽やかな雰囲気を作り出していた。
「なんだかねぇ、わたしも今日はわくわくしてるの。こうしてみんなで夜に集まって、王様ゲームするなんて、すっごく贅沢だよぉ。うちでやるのとはまた違った意味でワクワクするぅ」
ふわりはピンクのパジャマワンピース。いつもどおりゆったりとした調子で話すが、顔が少し赤いのは気のせいじゃない。彼女が座っているだけで、空気が柔らかく甘くなる。
そして、鈴音。
黄色のTシャツにショートパンツという軽装で現れた彼女は、開口一番にこれだ。
「はーいっ! 鈴音、今日も元気いっぱい! 夜の王様ゲーム、盛り上がってまいりますーっ!」
両手をぶんぶん振りながら、俺の正面にどっかり座り込む。その声量とテンションに、部屋の電気がさらに明るくなったんじゃないかと錯覚するくらいだ。
っていうか、全員お泊まりセット持ってきてるのかよ。始めからお泊まりする気満々だったなこいつら。
ちなみに、うちの母ちゃんはあまみさん(ふわりママ)に連れ出されて家にはいない。
つまり、それが意味するところは……。
(今夜……俺達の邪魔をする者は誰も、いない!)
ということだ。
そのことを意識してなのか、全員のテンションが大分高い。
今日は土曜日の休日。つまり、明日は日曜日であり、どれだけ夜更かししても憚られる事はない特別な日である。
(寝なくていい……)
そう考えるだけで否応なしに別のテンションがスタンドアップを始めてしまう。
まだだ、まだ早いぞ土峰零士ッ!
「おい鈴音……。なんか杏奈よりテンション高いぞ」
俺はおかしな方向に行きそうなテンションを誤魔化す意味でも、思わず苦笑いを漏らした。杏奈ですら目を丸くしている。
「れーじ君っ! 鈴音は気付いたのです! せっかくみんなと一緒なんですから、笑顔を届ける鈴音でいた方がいいに決まってますっ! なので今日は全力で楽しい鈴音なのですよーっ! うへへへっ!」
恥ずかしそうに頬を赤くしながらも、どこか誇らしげに胸を張る鈴音。その笑いに杏奈は吹き出し、ふわりも「ふふ、かわいいなぁ」なんて笑っていた。
「うわーお。これは鈴音に主役の座を取られるかもだね!」
「うん。杏奈ちゃんが一番ノリノリなのに、今日は鈴音ちゃんがもっとはしゃいでるよぉ」
……いやもう、完全に俺は三人の空気に呑まれている。こうして囲まれると、自然と笑顔になってしまうんだ。
この小さな部屋が、俺たち四人だけの無敵の世界になっていく。
そうだ……今夜起こる事を、全員が意識しているに違いない。
割り箸を手に取り、俺たちは円を作るように床に座った。もう「番号を決める」なんて手順も慣れたものだ。
「「「王様れーじ君♡♡♡」」」
赤い印を引き当てたのは鈴音。
「おぉぉぉっ! やりましたーっ! 鈴音が正室でございますーっ!」
立ち上がって両手を広げる鈴音。黄色いシャツがひらひら揺れて、なんだか本当にヒーローの登場シーンみたいだ。
杏奈が「リンちゃん嬉しそう~!」とツッコむが、それもまた愉快だ。
「さてさてーっ! では最初の命令でございますっ!」
鈴音はわざとらしく腕を組み、俺たちをじろりと見回す。期待と緊張が交錯する沈黙。杏奈は肩をすくめ、ふわりはにっこりと首をかしげ、俺は喉の奥で小さく唾を飲む。
「命令っ! 2番と王様が、お互いを全力で褒め合うことーっ!」
「は?」
「えっ?」
俺と杏奈の声がかぶった。予想外に健全なルールに、拍子抜けした俺たち。
だが鈴音はきらっきらの笑顔で言い切る。
「まずは気持ちを上げるのが大事なのですっ! 楽しい空気は褒め言葉からですっ! ね、れーじ君!」
……こいつ、ムダに理屈っぽいところがあるんだよな。だが確かに雰囲気はほぐれる。よーし。
「じゃ、じゃあれー君から先に言ってよ」
杏奈が腕を組んで少し挑発的に笑う。
俺は軽く咳払いして、真っ直ぐ彼女を見つめた。
「杏奈は……いつも場を明るくしてくれる。俺が黙ってても、勝手に引っ張ってくれるから助かってる」
言った瞬間、杏奈の顔が固まる。次いで、耳まで真っ赤になった。
「はぅ! 変に真面目に褒めないでよ! ボケづらいじゃない」
「いや、命令だし」
俺はボケのためにやってるわけじゃないぞ?
「……ふ、ふふーん。ありがと。れー君にしてはいいチョイスだったよー」
拗ねたような声の奥で、彼女の笑みが少し照れ隠し気味に浮かんでいる。
「じゃあ今度は私の番ね! れー君は……なんだかんだ素直に褒めてくれるところが、結局一番好き!」
「お、おい、それはちょっと……」
「ふふん。王様の命令には逆らえないよー?」
満面の笑顔が眩しくて、俺は視線をそらした。
鈴音は「キャー! 青春! 鈴音、見てるだけでにやけちゃいますー!」と拍手喝采。ふわりは「ふふっ、いい雰囲気だねぇ」とにこにこ。
「「「王様れーじ君♡♡♡」」」
「っしゃぁあ、また鈴音でーすよー」
「引き強いなぁ今日のリンちゃん」
さらに鈴音のターンである。今日の鈴音は輝いてるな。
「では続きましてーっ! 次の命令でございますーっ!」
鈴音は満面の笑みで指を高く掲げる。
「側室2番と3番は、王様れーじ君に同時に甘えてくださいっ!」
「オッケー!」
「はーい♡」
杏奈とふわりが動いたのはほぼ同時であった。そこにコンマ一秒の迷いすらない。
内心は心臓が落ち着かない。杏奈とふわりが同時に甘えてくるなんて、想像するだけで頭が真っ白になりそうだ。学園三大巨乳の2人だぞ? 死ぬほど興奮するに決まってる。
これまで何度もされてきているはずなのに、いざ命令で指示をされると改めてドキドキしてしまう。
「れーじくぅん♡ 仕方ないよね~。命令なんだからね~」
ふわりが子供をあやすように呟きつつ、しかして手をワキワキさせながらにじり寄ってくる。
俺の隣にちょこんと座り直し、ピンクのワンピースから漂う柔らかい香りがふわりと鼻をくすぐる。
「れー君、甘えちゃうよー♡ 正室の命令だから逆らえないんだよー」
王様の立場ゼロである。
杏奈もニヘラニヘラと笑いながら俺のもう片方の隣に腰を下ろす。水色の袖が俺の腕に触れて、少し冷たい感触が伝わった。
そして――。
「れー君、今日は一緒に遊んでくれてありがとっ!」
杏奈が勢いよく俺の腕に抱きつく。
「れーじ君、わたしも……えへへ、こうして甘えるの、ちょっと幸せだよぉ」
ふわりも、ノリ良く、しかし恥ずかしそうにしながら、反対側の腕にそっと顔をうずめる。
両サイドから押し寄せる二人の温もり。柔らかさと甘い吐息が同時に押し寄せて、俺の脳が処理落ちを起こしそうになる。
「ちょっ……これ、想像以上に……やば……」
「れー君、なんか顔真っ赤だよー?」
「んふふっ、れーじ君、かわいい顔してるよぉ」
二人の笑顔に囲まれて、完全に逃げ場がない。
鈴音はその様子を見て、床をバンバン叩きながら爆笑していた。
「きゃーっ! やっぱり最高ですっ! 杏奈ちゃんもふわりちゃんも、攻めるときは本気なんですねっ! れーじ君、両手に花でにやけ顔全開じゃないですかーっ!」
「に、にやけてねぇ!」
必死に否定する俺だが、たぶん顔は完全に緩んでいる。
――まさか最初の命令からこんな破壊力とは。第9回、やっぱりとんでもないことになる予感しかしない。
「うーん……いいですねぇ……でも……」
鈴音は両腕を組んで、わざとらしく難しい顔をした。
「でも?」
杏奈が首をかしげる。
「やっぱり鈴音も混ざりたいですっ!」
「……は?」
「えぇぇ?」
勢いよく立ち上がった鈴音が、黄色いTシャツをばさっと翻して宣言した。
「次の命令! 全員でれーじ君をぎゅーってする! ですっ!」
「ばっ……!」
俺は叫ぶ前に、左右からの拘束が強まり、さらに正面から飛び込んでくる鈴音の体重を受け止める羽目になった。
王様ゲームどこへいった?
「わーいっ! 三人同時ハグですーっ!」
「きゃっ、ちょっとリンちゃん! 押しすぎ押しすぎ!」
「ふわぁぁ……なんだかすごいことになってるねぇ……」
俺の体は完全に三人の間に埋もれた。水色、ピンク、黄色――信号機みたいな色彩が目の前で交錯し、息が詰まるほどの甘い空気に包まれる。
「れーじ君っ、どうですかっ! 鈴音たちに囲まれて幸せですかーっ!?」
「お、落ち着け鈴音! 幸せどころか窒息する!」
「うへへへっ! じゃあもう少し優しくしますねっ!」
鈴音は慌てて抱きつく力を弱め、代わりに頬をすりすりと押し付けてきた。その表情は恥ずかしさと嬉しさが入り混じった、なんとも言えないものだ。
「れー君、これは……王様ゲームっていうより、ただの……」
「うん、恋人みたいだよねぇ……」
杏奈とふわりの声に、俺の顔はさらに熱くなる。
「れーじ君っ! このまま第9回も盛り上げていきましょうーっ!」
鈴音の明るい宣言で、部屋の空気はさらに加速していった。
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