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文化祭から一夜明けた月曜日。
教室のドアを開けると、視線の先にまず飛び込んできたのは、机に突っ伏した杏奈の姿だった。頬を腕に埋めて、上目づかいでこちらを見る。
「……れー君。昨日のキャンプファイヤーの余韻で、まだ寝不足♡」
わざとらしく目をこすってみせる。でも、その赤くなった縁は、泣いたのを誤魔化しきれていない。昨日の炎の揺らめきが、そのまま残像になって彼女の瞳の奥で光っているみたいだ。胸がきゅっと締めつけられる。
ふわりは自分の席で、背中をぐーっと伸ばしている。
「れーじくん~。夢の中でも火がゆらゆらしてたんだよぉ~。起きてもまだあったかいの、不思議だねぇ」
その言葉に、俺も焚き火の赤と橙の混じった匂いが一瞬蘇る。昨日の夜空の温度が、まだ肌の内側に残っている気がする。
鈴音は、分厚いファイルを両腕に抱えて教室に入ってきた。背筋は真っ直ぐで、足取りもきちんと揃っている。
「おはようございます。昨日の“王宮新聞・文化祭特別号”、きちんと保存してきました。これで後世まで残ります」
その真面目すぎる言葉に、思わず笑いそうになる。けれど、心の奥では「ありがとな」って呟いていた。
「……なぁ。文化祭、終わったからってそんな“全部終わり”みたいな顔すんなよ。俺たち、まだここで毎日会えるんだから」
軽口のつもりだった。けれど言いながら、妙に胸が高鳴っているのを自覚する。三人が同時に顔を見合わせ、笑って、うなずく。その瞬間、心臓が一拍強く打った。
廊下には、まだ取り残された飾りのリボンやテープがひらひら揺れている。ふわりがそのひとつを拾い上げ、唇に近づけて「お弁当に結んじゃおうかな~♡」と笑った。杏奈と鈴音が同時に反応する。
「ずるいっ、それ私の思い出にする予定だったのに!」
「証拠品は公平に分配すべきです!」
三人の小さな揉めごと。結局、俺のポケットにリボンは押し込まれた。
「れー君が持ってれば平等♡」杏奈の悪戯っぽい笑顔。
「保存庫の一部にしてください」鈴音の真顔。
ポケットの中で小さな布切れが熱を帯びているみたいに感じた。……なんでこんなにドキドキするんだ、俺。
昼休みになると、三人が次々に机に料理を並べる。
杏奈は「チョコバナナ♡」、ふわりは「たこ焼きっぽいオムレツ~」、鈴音は「りんご飴の簡易版」。机の上が一気に模擬店みたいな匂いと色で埋まる。
「どれから食べる?」
「王様の命令で!」
遊び半分の提案なのに、胸の奥で熱が跳ねた。――文化祭は終わった。でも、こいつらは絶対に“祭りの続き”を作り出す。そう思ったら、息が少しだけ熱くなる。
夕暮れの教室。カーテンの隙間から差し込む光が机の上を金色に染めていた。影と光が交互に揺れて、心臓の鼓動まで照らされているみたいだった。
杏奈がぽつりと呟く。
「れー君、最後の文化祭が終わったって考えると……ちょっと寂しいね」
視線を合わせた瞬間、心臓が小さく跳ねた。
ふわりも頷いて、机に頬を寄せながら微笑む。
「でも、これからもいっぱい一緒に遊べるよ~。だって、“王宮イベント”は終わらないもんねぇ」
その声が妙にやわらかくて、胸の奥にあたたかさと同時に焦燥感を残していく。
鈴音はきりっと背を伸ばし、真剣な声で言う。
「次の議題は“文化祭後夜祭”。王様、準備はよろしいですか?」
心臓がドクン、と鳴る。遊びのはずなのに、彼女の瞳がまっすぐ刺さってきて、息が浅くなる。
「おう。次も、楽しみにしてる」
笑って返した声が、自分でも驚くほど震えていた。
窓の外では夕日が沈んでいく。文化祭の火は消えた。でも、俺たちの火はまだ燃え続けている。いや、むしろ強くなっている。
翌週。学校はもう完全に平常運転のはずなのに、教室の空気にはまだ祭りの余韻が漂っていた。
黒板には「王様れーじ君」の落書きが残ったまま。それを見るたび、三人がにやりと笑う。その視線を受け止めるたびに、胸が熱を帯びる。
「ねぇねぇ、れー君! 次は“文化祭のフォトアルバム編集会”やろ?♡」杏奈が机に乗り出してくる。
「えっ、それ家庭科室でやるの?」ふわりが首を傾げる。
「だって、わたし……お菓子焼きながら見返したいんだよねぇ~」
鈴音はすぐにノートを開き、真面目に書き込む。
「議題追加です。“王宮記録係”として、編集会の日程を決めます」
ああ――やっぱり、終わりなんて来ない。三人は日常を次々に行事へと変換していく。その中心に俺がいる。そう思うと、胸の奥がくすぐったくて、でも鼓動は加速していく。
帰り道。夕日が校舎を赤く染めていく。杏奈が俺を振り返って微笑む。
「ね、れー君。文化祭が終わってもさ……高校生活のイベントって、まだまだ作れると思うんだよ♡」
声が柔らかいのに、胸を直撃する。
「たとえば~、“王様のご褒美休憩”とか、“お姫様の主張タイム”とかねぇ~」
ふわりは両手を広げ、風を受けながら軽やかに歩く。その仕草が自由で、眩しくて、視線を奪われる。
「新たな日常議題、“創作イベント”を継続審議とします」
鈴音がきりっとまとめる。その真剣な声に、背中が熱くなる。
三人の視線が同時に俺に向く。
「れーじ君、王様命令で決めていいんだよ~」
「れー君、次の遊びは?」
「レージ君、方針表明をお願いします」
――心臓が跳ねる。息が苦しい。こんな真剣な瞳を向けられて、逃げられるわけがない。
「次の“王宮日常”、楽しみにしとけ」
三人が同時に笑う。胸の奥で、ドクドクと脈打つ音が響く。文化祭は終わった。でも俺たちの日々は、これからもっと熱を帯びていく。
教室のドアを開けると、視線の先にまず飛び込んできたのは、机に突っ伏した杏奈の姿だった。頬を腕に埋めて、上目づかいでこちらを見る。
「……れー君。昨日のキャンプファイヤーの余韻で、まだ寝不足♡」
わざとらしく目をこすってみせる。でも、その赤くなった縁は、泣いたのを誤魔化しきれていない。昨日の炎の揺らめきが、そのまま残像になって彼女の瞳の奥で光っているみたいだ。胸がきゅっと締めつけられる。
ふわりは自分の席で、背中をぐーっと伸ばしている。
「れーじくん~。夢の中でも火がゆらゆらしてたんだよぉ~。起きてもまだあったかいの、不思議だねぇ」
その言葉に、俺も焚き火の赤と橙の混じった匂いが一瞬蘇る。昨日の夜空の温度が、まだ肌の内側に残っている気がする。
鈴音は、分厚いファイルを両腕に抱えて教室に入ってきた。背筋は真っ直ぐで、足取りもきちんと揃っている。
「おはようございます。昨日の“王宮新聞・文化祭特別号”、きちんと保存してきました。これで後世まで残ります」
その真面目すぎる言葉に、思わず笑いそうになる。けれど、心の奥では「ありがとな」って呟いていた。
「……なぁ。文化祭、終わったからってそんな“全部終わり”みたいな顔すんなよ。俺たち、まだここで毎日会えるんだから」
軽口のつもりだった。けれど言いながら、妙に胸が高鳴っているのを自覚する。三人が同時に顔を見合わせ、笑って、うなずく。その瞬間、心臓が一拍強く打った。
廊下には、まだ取り残された飾りのリボンやテープがひらひら揺れている。ふわりがそのひとつを拾い上げ、唇に近づけて「お弁当に結んじゃおうかな~♡」と笑った。杏奈と鈴音が同時に反応する。
「ずるいっ、それ私の思い出にする予定だったのに!」
「証拠品は公平に分配すべきです!」
三人の小さな揉めごと。結局、俺のポケットにリボンは押し込まれた。
「れー君が持ってれば平等♡」杏奈の悪戯っぽい笑顔。
「保存庫の一部にしてください」鈴音の真顔。
ポケットの中で小さな布切れが熱を帯びているみたいに感じた。……なんでこんなにドキドキするんだ、俺。
昼休みになると、三人が次々に机に料理を並べる。
杏奈は「チョコバナナ♡」、ふわりは「たこ焼きっぽいオムレツ~」、鈴音は「りんご飴の簡易版」。机の上が一気に模擬店みたいな匂いと色で埋まる。
「どれから食べる?」
「王様の命令で!」
遊び半分の提案なのに、胸の奥で熱が跳ねた。――文化祭は終わった。でも、こいつらは絶対に“祭りの続き”を作り出す。そう思ったら、息が少しだけ熱くなる。
夕暮れの教室。カーテンの隙間から差し込む光が机の上を金色に染めていた。影と光が交互に揺れて、心臓の鼓動まで照らされているみたいだった。
杏奈がぽつりと呟く。
「れー君、最後の文化祭が終わったって考えると……ちょっと寂しいね」
視線を合わせた瞬間、心臓が小さく跳ねた。
ふわりも頷いて、机に頬を寄せながら微笑む。
「でも、これからもいっぱい一緒に遊べるよ~。だって、“王宮イベント”は終わらないもんねぇ」
その声が妙にやわらかくて、胸の奥にあたたかさと同時に焦燥感を残していく。
鈴音はきりっと背を伸ばし、真剣な声で言う。
「次の議題は“文化祭後夜祭”。王様、準備はよろしいですか?」
心臓がドクン、と鳴る。遊びのはずなのに、彼女の瞳がまっすぐ刺さってきて、息が浅くなる。
「おう。次も、楽しみにしてる」
笑って返した声が、自分でも驚くほど震えていた。
窓の外では夕日が沈んでいく。文化祭の火は消えた。でも、俺たちの火はまだ燃え続けている。いや、むしろ強くなっている。
翌週。学校はもう完全に平常運転のはずなのに、教室の空気にはまだ祭りの余韻が漂っていた。
黒板には「王様れーじ君」の落書きが残ったまま。それを見るたび、三人がにやりと笑う。その視線を受け止めるたびに、胸が熱を帯びる。
「ねぇねぇ、れー君! 次は“文化祭のフォトアルバム編集会”やろ?♡」杏奈が机に乗り出してくる。
「えっ、それ家庭科室でやるの?」ふわりが首を傾げる。
「だって、わたし……お菓子焼きながら見返したいんだよねぇ~」
鈴音はすぐにノートを開き、真面目に書き込む。
「議題追加です。“王宮記録係”として、編集会の日程を決めます」
ああ――やっぱり、終わりなんて来ない。三人は日常を次々に行事へと変換していく。その中心に俺がいる。そう思うと、胸の奥がくすぐったくて、でも鼓動は加速していく。
帰り道。夕日が校舎を赤く染めていく。杏奈が俺を振り返って微笑む。
「ね、れー君。文化祭が終わってもさ……高校生活のイベントって、まだまだ作れると思うんだよ♡」
声が柔らかいのに、胸を直撃する。
「たとえば~、“王様のご褒美休憩”とか、“お姫様の主張タイム”とかねぇ~」
ふわりは両手を広げ、風を受けながら軽やかに歩く。その仕草が自由で、眩しくて、視線を奪われる。
「新たな日常議題、“創作イベント”を継続審議とします」
鈴音がきりっとまとめる。その真剣な声に、背中が熱くなる。
三人の視線が同時に俺に向く。
「れーじ君、王様命令で決めていいんだよ~」
「れー君、次の遊びは?」
「レージ君、方針表明をお願いします」
――心臓が跳ねる。息が苦しい。こんな真剣な瞳を向けられて、逃げられるわけがない。
「次の“王宮日常”、楽しみにしとけ」
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