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33回目 その1
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バスが止まった瞬間、外の世界が一変した。
白銀。空も地面も、世界そのものが雪で包まれている。
「うわぁ……すごっ!」
杏奈が歓声を上げ、窓の外を覗き込む。
「ほんとだ~♡ 屋根の上まで真っ白~♡」
ふわりが目を輝かせながら、ガラス越しに手を当てる。
「れーじくん、雪国の空気って……こう、キラキラしてるね~♡」
「ふわりちゃん、テンション高いね」
「うんっ♪ だって初めての“旅行”だもん♡」
雪を踏みしめる音を鳴らしながら、俺たちは温泉宿の玄関へ向かった。
“ようこそ秘境の温泉郷へ”の木札が掲げられた純和風の宿。
玄関前には湯気が立ち上る足湯。
外灯に照らされた湯気が、まるで雪と一緒に舞っているみたいだった。
「うわ~、広っ! 旅館って感じ!」
杏奈がくるくる回りながらロビーを見渡す。
天井が高く、梁の木目が温かい光を反射している。
「れーじくん、靴脱ぐところ間違えないでね~♡」
「お前、俺をどんだけ子供扱いしてんだ」
「だってほら~♡ 床、ピカピカだよ~? うっかり踏んだらピシーッて怒られちゃうかも~♡」
「そ、そんなことありませんよっ!」
鈴音が慌てて割って入る。
「靴を脱ぐタイミングは、土間から畳に上がる直前ですっ! ほら、書いてありますっ」
指差した先には「ここでお脱ぎください」の札。
「リンちゃん、細かいところまでよく見てるな」
「ぬ、抜かりありませんっ!」
――と、そんなやりとりをしていると、カウンターの奥から柔らかな声が響いた。
「いらっしゃいませ。ようこそお越しくださいました」
若女将だ。
落ち着いた笑顔でお辞儀をして、手帳を開きながら言う。
「土峰様、三名様でご宿泊ですね?」
「い、いえっ!」
鈴音が勢いよく前に出た。
「四名ですっ! こちらの方が代表で!」
そう言って俺を指差す。
「そ、そうだったのですね。では――」
「はいっ! 宿帳はこちらにっ!」
「……お、おい鈴音、落ち着け」
「すみませんっ、つい癖で……」
「ふふっ、れーじくんモテモテだね~♡」
「ねー、完全に“新婚旅行の奥さんたち”みたいになってるよ?」
「なっ、何を言ってるんですか杏奈ちゃんっ!?」
「えー? だってその慌てっぷり、完全に嫁ムーブだもん♪」
「杏奈、言い方」
「だって本当のことだもん~♡」
カウンター越しの若女将がくすっと笑っている。
「……仲の良い皆さまですね」
「ち、ちが……っ! その……!」
「ふふっ、お連れ様方、どうぞごゆっくりお過ごしくださいませ」
その瞬間、杏奈がニヤッと笑いながら囁いた。
「ほら~、“お連れ様”だって♡」
「やかましい」
荷物を受け取って、案内された廊下を歩く。
外の雪景色が窓に映り、足音が畳の上で心地よく響いた。
「ねぇれー君」
「ん?」
「こうやって4人で旅行するの、なんか不思議だね」
「確かにな。いつも一緒にいるけど、学校でも家でもない場所って、やっぱ違うな」
「れーじくん、今日くらいはリラックスしようね~♡」
「うんっ、明日からの王様ゲームに備えて、ですっ!」
「おい鈴音、もう宣言してるのかよ」
「当然ですっ!」
3人の笑い声が、宿の廊下に響く。
雪の香りと畳の匂いが混じって、胸の奥がふっと温かくなった。
(……やっぱ、こいつらと来てよかったな)
襖の向こうから、番頭さんの声。
「お部屋のご用意ができております」
「よし、じゃあ行くか」
――こうして、俺たちの“卒業旅行の夜”が始まった。
案内された客室は、広い和室だった。
大きな窓の外には雪見庭園。障子を通した光が白く反射して、室内までほんのり明るい。
「わぁ~♡ 広っ! めっちゃ旅館って感じ!」
杏奈が靴下のまま滑り込むように畳の上を歩く。
「おーい、滑るなよ。畳に傷つけたら怒られんぞ」
「へーきへーき♪ ほら、ふわりちゃんも!」
「ふわりも~♡ ふかふか~♡」
二人がぴょんぴょん跳ねる横で、鈴音が慌てて止めに入る。
「杏奈ちゃん! ふわりちゃん! そんなことしたら畳がっ!」
「はいはい、リンちゃん先生ストップ入りまーす」
「ほんと、変わらないな……」
俺が苦笑していると、杏奈が布団を見つけて声を上げた。
「ねぇ、これ! 布団四つ並んでる!」
「ほんとだ~♡ しかも並びがきれい~♡」
「ふわりちゃん、それは多分、好きな場所選んでいいってことですっ」
「ってことは……?」
「ジャンケンで決めよう!」
「出たー、杏奈のジャンケン大会!」
全員が正座して向き合う。
その光景だけで、もう既視感がすごい。
「……なあ、これ、なんか見覚えあるぞ」
「そりゃそうだよ、れー君がいつも真ん中になるんだもん♪」
「ふわりも~♡ 真ん中のれーじくん、あったかいんだもん~♡」
「ま、まぁ……配置的にそうなりますよね……」
「いや、そうなりますよねって言うな」
俺が頭を抱える間に、三人の掛け声が始まった。
「最初はグー!」
「じゃーんけーん――ぽんっ!」
……結果。
杏奈、ふわり、鈴音の三人が見事にバラバラの手を出し、判定不能。
「ちょ、どれも勝負つかないんだけど!」
「じゃあさ、もう固定でよくない? れー君真ん中、定位置♡」
「ふわりも~♡ れーじくんが真ん中にいないと落ち着かないもん♡」
「そ、そんな……前もそうでしたけど、またですか!?」
「“また”じゃない、“いつも通り”だよ♪」
「……お前ら、慣れすぎじゃね?」
「うん♡」
三人が同時に即答した。
俺はそのまま畳に倒れ込む。
「もうツッコむ気力もねぇ……」
「ほら、れー君、こっち♡」
杏奈が布団を整えてくれる。
「ふわりはお茶入れるね~♡」
「鈴音は……浴衣、畳みますっ!」
「いや、俺がやるから……」
結局、いつものように俺が真ん中、三人が囲む配置に落ち着いた。
けれど今回は、誰も照れず、誰も驚かない。
この“日常的非日常”が、すっかり当たり前になっていた。
「ね、れー君」
「ん?」
「こうして見ると、私たちってほんと仲良しだね」
「それは否定できねぇな」
ふわりが嬉しそうに笑い、鈴音が少し頬を赤らめる。
「……うるさいです。早く夕食の準備しましょう」
「リンちゃん、照れてる~♡」
「照れてませんっ!」
部屋には湯気のようにやわらかい笑い声が満ちていた。
白銀。空も地面も、世界そのものが雪で包まれている。
「うわぁ……すごっ!」
杏奈が歓声を上げ、窓の外を覗き込む。
「ほんとだ~♡ 屋根の上まで真っ白~♡」
ふわりが目を輝かせながら、ガラス越しに手を当てる。
「れーじくん、雪国の空気って……こう、キラキラしてるね~♡」
「ふわりちゃん、テンション高いね」
「うんっ♪ だって初めての“旅行”だもん♡」
雪を踏みしめる音を鳴らしながら、俺たちは温泉宿の玄関へ向かった。
“ようこそ秘境の温泉郷へ”の木札が掲げられた純和風の宿。
玄関前には湯気が立ち上る足湯。
外灯に照らされた湯気が、まるで雪と一緒に舞っているみたいだった。
「うわ~、広っ! 旅館って感じ!」
杏奈がくるくる回りながらロビーを見渡す。
天井が高く、梁の木目が温かい光を反射している。
「れーじくん、靴脱ぐところ間違えないでね~♡」
「お前、俺をどんだけ子供扱いしてんだ」
「だってほら~♡ 床、ピカピカだよ~? うっかり踏んだらピシーッて怒られちゃうかも~♡」
「そ、そんなことありませんよっ!」
鈴音が慌てて割って入る。
「靴を脱ぐタイミングは、土間から畳に上がる直前ですっ! ほら、書いてありますっ」
指差した先には「ここでお脱ぎください」の札。
「リンちゃん、細かいところまでよく見てるな」
「ぬ、抜かりありませんっ!」
――と、そんなやりとりをしていると、カウンターの奥から柔らかな声が響いた。
「いらっしゃいませ。ようこそお越しくださいました」
若女将だ。
落ち着いた笑顔でお辞儀をして、手帳を開きながら言う。
「土峰様、三名様でご宿泊ですね?」
「い、いえっ!」
鈴音が勢いよく前に出た。
「四名ですっ! こちらの方が代表で!」
そう言って俺を指差す。
「そ、そうだったのですね。では――」
「はいっ! 宿帳はこちらにっ!」
「……お、おい鈴音、落ち着け」
「すみませんっ、つい癖で……」
「ふふっ、れーじくんモテモテだね~♡」
「ねー、完全に“新婚旅行の奥さんたち”みたいになってるよ?」
「なっ、何を言ってるんですか杏奈ちゃんっ!?」
「えー? だってその慌てっぷり、完全に嫁ムーブだもん♪」
「杏奈、言い方」
「だって本当のことだもん~♡」
カウンター越しの若女将がくすっと笑っている。
「……仲の良い皆さまですね」
「ち、ちが……っ! その……!」
「ふふっ、お連れ様方、どうぞごゆっくりお過ごしくださいませ」
その瞬間、杏奈がニヤッと笑いながら囁いた。
「ほら~、“お連れ様”だって♡」
「やかましい」
荷物を受け取って、案内された廊下を歩く。
外の雪景色が窓に映り、足音が畳の上で心地よく響いた。
「ねぇれー君」
「ん?」
「こうやって4人で旅行するの、なんか不思議だね」
「確かにな。いつも一緒にいるけど、学校でも家でもない場所って、やっぱ違うな」
「れーじくん、今日くらいはリラックスしようね~♡」
「うんっ、明日からの王様ゲームに備えて、ですっ!」
「おい鈴音、もう宣言してるのかよ」
「当然ですっ!」
3人の笑い声が、宿の廊下に響く。
雪の香りと畳の匂いが混じって、胸の奥がふっと温かくなった。
(……やっぱ、こいつらと来てよかったな)
襖の向こうから、番頭さんの声。
「お部屋のご用意ができております」
「よし、じゃあ行くか」
――こうして、俺たちの“卒業旅行の夜”が始まった。
案内された客室は、広い和室だった。
大きな窓の外には雪見庭園。障子を通した光が白く反射して、室内までほんのり明るい。
「わぁ~♡ 広っ! めっちゃ旅館って感じ!」
杏奈が靴下のまま滑り込むように畳の上を歩く。
「おーい、滑るなよ。畳に傷つけたら怒られんぞ」
「へーきへーき♪ ほら、ふわりちゃんも!」
「ふわりも~♡ ふかふか~♡」
二人がぴょんぴょん跳ねる横で、鈴音が慌てて止めに入る。
「杏奈ちゃん! ふわりちゃん! そんなことしたら畳がっ!」
「はいはい、リンちゃん先生ストップ入りまーす」
「ほんと、変わらないな……」
俺が苦笑していると、杏奈が布団を見つけて声を上げた。
「ねぇ、これ! 布団四つ並んでる!」
「ほんとだ~♡ しかも並びがきれい~♡」
「ふわりちゃん、それは多分、好きな場所選んでいいってことですっ」
「ってことは……?」
「ジャンケンで決めよう!」
「出たー、杏奈のジャンケン大会!」
全員が正座して向き合う。
その光景だけで、もう既視感がすごい。
「……なあ、これ、なんか見覚えあるぞ」
「そりゃそうだよ、れー君がいつも真ん中になるんだもん♪」
「ふわりも~♡ 真ん中のれーじくん、あったかいんだもん~♡」
「ま、まぁ……配置的にそうなりますよね……」
「いや、そうなりますよねって言うな」
俺が頭を抱える間に、三人の掛け声が始まった。
「最初はグー!」
「じゃーんけーん――ぽんっ!」
……結果。
杏奈、ふわり、鈴音の三人が見事にバラバラの手を出し、判定不能。
「ちょ、どれも勝負つかないんだけど!」
「じゃあさ、もう固定でよくない? れー君真ん中、定位置♡」
「ふわりも~♡ れーじくんが真ん中にいないと落ち着かないもん♡」
「そ、そんな……前もそうでしたけど、またですか!?」
「“また”じゃない、“いつも通り”だよ♪」
「……お前ら、慣れすぎじゃね?」
「うん♡」
三人が同時に即答した。
俺はそのまま畳に倒れ込む。
「もうツッコむ気力もねぇ……」
「ほら、れー君、こっち♡」
杏奈が布団を整えてくれる。
「ふわりはお茶入れるね~♡」
「鈴音は……浴衣、畳みますっ!」
「いや、俺がやるから……」
結局、いつものように俺が真ん中、三人が囲む配置に落ち着いた。
けれど今回は、誰も照れず、誰も驚かない。
この“日常的非日常”が、すっかり当たり前になっていた。
「ね、れー君」
「ん?」
「こうして見ると、私たちってほんと仲良しだね」
「それは否定できねぇな」
ふわりが嬉しそうに笑い、鈴音が少し頬を赤らめる。
「……うるさいです。早く夕食の準備しましょう」
「リンちゃん、照れてる~♡」
「照れてませんっ!」
部屋には湯気のようにやわらかい笑い声が満ちていた。
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