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第2章 体育祭の思い出作り
第30話「アンカー勝負!」
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バトンがこちらへ向かってくる。
仲間が歯を食いしばり、必死に腕を伸ばして走ってくる姿がスローモーションのように映った。
「蒼真、頼んだぞっ!」
叫び声と共に差し出されたバトンを、俺はしっかりと掴む。
その瞬間――全身に電流が走ったような衝撃が広がった。
(来た……ここからが俺の戦いだ!)
トラックに飛び出す。
観客席から轟くような歓声が押し寄せてくる。
後方には白組のアンカーが迫ってきていた。
「負けるかよ……!」
必死に足を前へと運ぶ。
靴底が砂を蹴り、風が顔にぶつかる。
体中の血が沸騰するように熱い。
「蒼真君ーーっ!」
真白の声が、確かに耳に届いた。
その一言が、背中を強烈に押す。
(あの声を絶対に裏切らない!)
ゴールまで半周。
白組のアンカーがじわじわと距離を詰めてきていた。
汗が目に入り、視界が霞む。
だが、腕を振り、さらに加速する。
「蒼真、いけぇぇぇーーっ!」
クラスメイトたちの声援が重なり合う。
紗和の声も混じっていた。
「落ち着いて! リズム崩さないで!」
その冷静な指示が、不思議と頭をクリアにしてくれた。
(大丈夫だ……俺は一人じゃない。みんなが背中を押してくれている)
ゴールラインが視界に近づいてくる。
白組との距離は縮まらない――互角の勝負。
最後の直線。
全身の力を振り絞り、俺は叫んだ。
「うおおおおおおっ!!」
校庭全体が揺れるほどの歓声が響く中、俺はゴールへと駆け抜けていった。
最後の直線――。
白組のアンカーと並走する。肩がぶつかりそうなほどの距離。
観客席からは悲鳴のような歓声が飛び交い、校庭全体が震えていた。
(あと数メートル……ここで絶対に差をつける!)
肺は焼けるように痛い。足は鉛のように重い。
それでも、胸の奥の熱が全身を突き動かす。
「蒼真君、がんばってぇぇーーっ!」
真白の声が響いた。
涙混じりの必死な叫びが、耳ではなく心臓を直接打った。
(……守りたい。この声、この想いを。絶対に!)
握るバトンが熱を帯びる。
腕を大きく振り、全身の力をラストにぶち込んだ。
ゴールテープが目の前に迫る。
白組が横で食らいついてくる。
ほんの一瞬の差が勝敗を決める――!
「うおおおおおっ!!」
叫びと共に、全力で駆け抜けた。
手にしたバトンがゴールラインを越える。
次の瞬間、白いテープが胸の前で弾け飛んだ。
「ゴール! 赤組アンカー、新堂蒼真!!」
「赤組、勝利ーーーっ!!」
アナウンスが響いた瞬間、校庭は歓喜の渦に飲み込まれた。
仲間たちが一斉に駆け寄り、俺に飛びついてくる。
「やったぞ!」「蒼真、最高!」
汗まみれの体が押し潰される。
それでも、胸の中は熱くて誇らしくて――涙が滲むのを止められなかった。
「蒼真君!」
人混みをかき分けて、真白が飛び込んでくる。
次の瞬間、彼女は迷いなく俺に抱きついた。
「すごかった……! 本当にすごかったよ……!」
その声は震えていて、目元には涙が光っていた。
「……ありがとう、真白。お前の声が最後の力になった」
彼女は顔を上げ、涙の中で笑った。
その笑顔は、どんな勝利よりも大切にしたいものだった。
(これで証明できた。俺たちの絆が、本物だって)
歓声に包まれながら、俺はその事実を胸の奥で強く噛みしめた。
◇◇◇
【side真白】
校庭の空気が震えていた。
最後の直線、赤と白のアンカーが並んで走っている。
ゴールまで、ほんの数メートル。
(蒼真君……!)
心臓が痛いほど高鳴る。
両手を胸の前で握りしめ、声を張り上げるしかできなかった。
「蒼真君、がんばってぇぇーーっ!!」
声が喉を裂くように飛び出す。
涙で視界がにじんで、彼の背中が揺れる。
でも確かに、蒼真君が一瞬こちらを振り返ったように見えた。
彼は最後の力を振り絞り、全身でゴールへ飛び込んでいく。
そして――白いテープが、彼の胸で弾け飛んだ。
「ゴール! 赤組勝利!!」
アナウンスと同時に、周囲が歓声に包まれる。
私はもう、涙で前が見えなかった。
(勝った……蒼真君が、勝たせてくれたんだ……!)
仲間たちが彼に飛びついていくのが見える。
けれど私は、気づけばもう走り出していた。
歓声も視線もどうでもいい。ただ蒼真君の元へ。
「蒼真君!」
人の波をかき分け、彼の胸に飛び込んだ。
熱くて、汗で濡れていて、それでも――一番安心できる場所だった。
「すごかった……! 本当にすごかったよ……!」
涙が止まらなくて、言葉もうまく出てこない。
でも、どうしても伝えたかった。
彼は少し驚いた顔をしたあと、優しく微笑んだ。
「……ありがとう、真白。お前の声が最後の力になった」
その言葉を聞いた瞬間、胸の奥で何かが弾けた。
(私の声が、蒼真君に届いたんだ……!)
嬉しくて、誇らしくて、ただ笑うしかなかった。
涙に濡れた頬のまま、私は彼を見上げて笑った。
(蒼真君……私、やっぱりあなたが大好きだよ)
歓声の渦の中で、心の声は誰にも届かない。
でも、彼の隣にいられるなら――それだけで十分だった。
◇◇◇
【side真白】
校庭は歓声で満ちていた。
赤組の仲間たちが抱き合い、肩を叩き合い、旗を振りかざして飛び跳ねている。
色とりどりの紙吹雪が舞うみたいに、赤いハチマキが空に掲げられ、熱気が渦を巻いていた。
けれど、私にとって一番の勝利は――ただ一つ。
ゴールを切った蒼真君の姿。
肩で大きく息をしながらも、視線は落とさず、まっすぐ前だけを見据えている。
汗に濡れた髪が光を反射し、その横顔があまりに眩しくて、胸がぎゅっと締め付けられる。
(あんなに必死な蒼真君、初めて見た……)
今までずっと一緒にいて、彼の頑張る姿を知っているはずなのに。
今日見た蒼真君は、それとは違う――誰よりも輝いていて、誰にも負けない強さを宿していた。
目が離せなくて、涙が止まらなくなる。
でもその涙は、悔しさじゃない。
ただただ誇らしさと、溢れるほどの嬉しさでいっぱいだった。
「結城ちゃん! 一緒に!」
クラスメイトが呼んでくれる。
私は笑って頷いて、みんなの輪に入ろうとする。
けれど、心の奥底はずっと落ち着かなかった。
なぜなら――視線はずっと蒼真君を追っていたから。
仲間に囲まれ、歓声を浴びる彼。
その背中を見ているだけで、胸の奥に灯った火が大きくなる。
さっきまで応援席で叫んでいたときよりも、今の方がずっと鼓動が速い。
(ねぇ、蒼真君……あなたがいるから、私はこんなに強くなれるんだよ)
そう思った瞬間、涙がまた溢れて、頬をつたった。
でも今度は拭わなかった。
だって、この涙こそが、私が彼に抱いている気持ちの証だから。
◇◇◇
歓声の波がようやく落ち着き始めていた。
仲間に肩を叩かれ、背中を押され、声をかけられる。
「新堂、最高だったな!」
「やっぱアンカーはお前しかいねぇ!」
「最後のスパート、鳥肌立ったぞ!」
嬉しい。心から誇らしい。
でも、その中で俺が探していたのは――ただ一人だけだった。
少し離れた場所。
真白がクラスメイトに囲まれている。
涙を拭おうともしないまま、笑顔で頷いている姿が、誰よりも美しく見えた。
そして、ふいに目が合った。
彼女は驚いたように瞬きをしたあと、涙をにじませたまま小さく手を振ってくれた。
その仕草に、胸の奥で何かが熱く弾ける。
(……やっぱり、俺はこの子を守りたいんだ)
大勢の歓声に包まれていても、彼女だけしか見えなかった。
汗まみれの体も、焼けつく肺も、今はどうでもいい。
真白が笑ってくれるなら、それが俺にとって一番の勝利だった。
バトンを握る手に、まだ熱が残っている。
けれどそれ以上に、胸の奥が熱くて仕方なかった。
体育祭で勝てたのは、チームの力だ。
でも――俺に最後の力をくれたのは、真白の声だった。
あの必死な叫びがなければ、俺はここまで走り抜けられなかった。
彼女の笑顔を胸に刻みながら、ゆっくりと歩みを進める。
クラスメイトの肩に背中を押されるようにして、自然と真白の元へ。
彼女はまだ涙を浮かべていた。
その涙を見て、俺の唇は自然と緩んだ。
(真白。お前と一緒なら、これからどんな未来だって越えていける)
そう強く思いながら、俺は彼女に手を伸ばした。
◇◇◇
午後の太陽が傾きかけた校庭に、整列の合図が響いた。
赤白それぞれの組が整列し、全校生徒が注目する中で表彰式が始まる。
「第1位、赤組ーーー!」
アナウンスの声が響いた瞬間、また歓声が巻き起こった。
俺たち赤組の列は一斉に沸き立ち、旗が大きく振られる。
優勝旗を受け取る代表者の隣で、俺はただ、胸の奥がじんわりと熱くなるのを感じていた。
勝てたんだ。みんなで力を合わせて。
――そして真白と共に。
閉会の言葉が終わり、校庭は一気に解散モードへ。
生徒たちはわいわいと写真を撮り合い、SNSに上げるためにポーズを決めている。
「新堂! 一緒に撮ろうぜ!」
「お前のおかげで勝ったんだし、主役はお前だからな!」
男子たちに肩を抱かれ、スマホのシャッターが何度も切られる。
女子たちからも「蒼真、すごかったよ!」「アンカーってかっこいいね」なんて声が飛ぶ。
けど――俺が探す視線の先は決まっていた。
カメラのフラッシュの向こう側で、真白が少し恥ずかしそうに笑っている。
彼女と一緒に撮った写真こそが、俺にとっての宝物になるはずだった。
そんな中、クラスのリーダー格が声を張り上げた。
「よーし! 優勝祝いだ! 打ち上げやろうぜ!」
「賛成ー!」
「カラオケ? それともファミレス?」
「どっちも行こう!」
みんなのテンションは最高潮だ。
その流れで、当然のように俺の方へ視線が集まった。
「新堂、もちろん来るよな?」
「アンカーがいないと盛り上がんねーって!」
どう答えるか、一瞬迷った。
でもすぐに真白の顔が浮かんだ。
彼女もクラスの輪の中で笑っていて、目が合った瞬間、小さく頷いてくれた。
(ああ……一緒に過ごす時間を、大切にしよう)
「もちろん行くさ。みんなで楽しもう!」
そう答えると、周囲から歓声が上がった。
校庭の空気は、勝利の余韻に包まれている。
夕陽に染まる真白の横顔を見ながら、俺は静かに思った。
(この先も、こうして笑い合える時間を守りたい――絶対に)
仲間が歯を食いしばり、必死に腕を伸ばして走ってくる姿がスローモーションのように映った。
「蒼真、頼んだぞっ!」
叫び声と共に差し出されたバトンを、俺はしっかりと掴む。
その瞬間――全身に電流が走ったような衝撃が広がった。
(来た……ここからが俺の戦いだ!)
トラックに飛び出す。
観客席から轟くような歓声が押し寄せてくる。
後方には白組のアンカーが迫ってきていた。
「負けるかよ……!」
必死に足を前へと運ぶ。
靴底が砂を蹴り、風が顔にぶつかる。
体中の血が沸騰するように熱い。
「蒼真君ーーっ!」
真白の声が、確かに耳に届いた。
その一言が、背中を強烈に押す。
(あの声を絶対に裏切らない!)
ゴールまで半周。
白組のアンカーがじわじわと距離を詰めてきていた。
汗が目に入り、視界が霞む。
だが、腕を振り、さらに加速する。
「蒼真、いけぇぇぇーーっ!」
クラスメイトたちの声援が重なり合う。
紗和の声も混じっていた。
「落ち着いて! リズム崩さないで!」
その冷静な指示が、不思議と頭をクリアにしてくれた。
(大丈夫だ……俺は一人じゃない。みんなが背中を押してくれている)
ゴールラインが視界に近づいてくる。
白組との距離は縮まらない――互角の勝負。
最後の直線。
全身の力を振り絞り、俺は叫んだ。
「うおおおおおおっ!!」
校庭全体が揺れるほどの歓声が響く中、俺はゴールへと駆け抜けていった。
最後の直線――。
白組のアンカーと並走する。肩がぶつかりそうなほどの距離。
観客席からは悲鳴のような歓声が飛び交い、校庭全体が震えていた。
(あと数メートル……ここで絶対に差をつける!)
肺は焼けるように痛い。足は鉛のように重い。
それでも、胸の奥の熱が全身を突き動かす。
「蒼真君、がんばってぇぇーーっ!」
真白の声が響いた。
涙混じりの必死な叫びが、耳ではなく心臓を直接打った。
(……守りたい。この声、この想いを。絶対に!)
握るバトンが熱を帯びる。
腕を大きく振り、全身の力をラストにぶち込んだ。
ゴールテープが目の前に迫る。
白組が横で食らいついてくる。
ほんの一瞬の差が勝敗を決める――!
「うおおおおおっ!!」
叫びと共に、全力で駆け抜けた。
手にしたバトンがゴールラインを越える。
次の瞬間、白いテープが胸の前で弾け飛んだ。
「ゴール! 赤組アンカー、新堂蒼真!!」
「赤組、勝利ーーーっ!!」
アナウンスが響いた瞬間、校庭は歓喜の渦に飲み込まれた。
仲間たちが一斉に駆け寄り、俺に飛びついてくる。
「やったぞ!」「蒼真、最高!」
汗まみれの体が押し潰される。
それでも、胸の中は熱くて誇らしくて――涙が滲むのを止められなかった。
「蒼真君!」
人混みをかき分けて、真白が飛び込んでくる。
次の瞬間、彼女は迷いなく俺に抱きついた。
「すごかった……! 本当にすごかったよ……!」
その声は震えていて、目元には涙が光っていた。
「……ありがとう、真白。お前の声が最後の力になった」
彼女は顔を上げ、涙の中で笑った。
その笑顔は、どんな勝利よりも大切にしたいものだった。
(これで証明できた。俺たちの絆が、本物だって)
歓声に包まれながら、俺はその事実を胸の奥で強く噛みしめた。
◇◇◇
【side真白】
校庭の空気が震えていた。
最後の直線、赤と白のアンカーが並んで走っている。
ゴールまで、ほんの数メートル。
(蒼真君……!)
心臓が痛いほど高鳴る。
両手を胸の前で握りしめ、声を張り上げるしかできなかった。
「蒼真君、がんばってぇぇーーっ!!」
声が喉を裂くように飛び出す。
涙で視界がにじんで、彼の背中が揺れる。
でも確かに、蒼真君が一瞬こちらを振り返ったように見えた。
彼は最後の力を振り絞り、全身でゴールへ飛び込んでいく。
そして――白いテープが、彼の胸で弾け飛んだ。
「ゴール! 赤組勝利!!」
アナウンスと同時に、周囲が歓声に包まれる。
私はもう、涙で前が見えなかった。
(勝った……蒼真君が、勝たせてくれたんだ……!)
仲間たちが彼に飛びついていくのが見える。
けれど私は、気づけばもう走り出していた。
歓声も視線もどうでもいい。ただ蒼真君の元へ。
「蒼真君!」
人の波をかき分け、彼の胸に飛び込んだ。
熱くて、汗で濡れていて、それでも――一番安心できる場所だった。
「すごかった……! 本当にすごかったよ……!」
涙が止まらなくて、言葉もうまく出てこない。
でも、どうしても伝えたかった。
彼は少し驚いた顔をしたあと、優しく微笑んだ。
「……ありがとう、真白。お前の声が最後の力になった」
その言葉を聞いた瞬間、胸の奥で何かが弾けた。
(私の声が、蒼真君に届いたんだ……!)
嬉しくて、誇らしくて、ただ笑うしかなかった。
涙に濡れた頬のまま、私は彼を見上げて笑った。
(蒼真君……私、やっぱりあなたが大好きだよ)
歓声の渦の中で、心の声は誰にも届かない。
でも、彼の隣にいられるなら――それだけで十分だった。
◇◇◇
【side真白】
校庭は歓声で満ちていた。
赤組の仲間たちが抱き合い、肩を叩き合い、旗を振りかざして飛び跳ねている。
色とりどりの紙吹雪が舞うみたいに、赤いハチマキが空に掲げられ、熱気が渦を巻いていた。
けれど、私にとって一番の勝利は――ただ一つ。
ゴールを切った蒼真君の姿。
肩で大きく息をしながらも、視線は落とさず、まっすぐ前だけを見据えている。
汗に濡れた髪が光を反射し、その横顔があまりに眩しくて、胸がぎゅっと締め付けられる。
(あんなに必死な蒼真君、初めて見た……)
今までずっと一緒にいて、彼の頑張る姿を知っているはずなのに。
今日見た蒼真君は、それとは違う――誰よりも輝いていて、誰にも負けない強さを宿していた。
目が離せなくて、涙が止まらなくなる。
でもその涙は、悔しさじゃない。
ただただ誇らしさと、溢れるほどの嬉しさでいっぱいだった。
「結城ちゃん! 一緒に!」
クラスメイトが呼んでくれる。
私は笑って頷いて、みんなの輪に入ろうとする。
けれど、心の奥底はずっと落ち着かなかった。
なぜなら――視線はずっと蒼真君を追っていたから。
仲間に囲まれ、歓声を浴びる彼。
その背中を見ているだけで、胸の奥に灯った火が大きくなる。
さっきまで応援席で叫んでいたときよりも、今の方がずっと鼓動が速い。
(ねぇ、蒼真君……あなたがいるから、私はこんなに強くなれるんだよ)
そう思った瞬間、涙がまた溢れて、頬をつたった。
でも今度は拭わなかった。
だって、この涙こそが、私が彼に抱いている気持ちの証だから。
◇◇◇
歓声の波がようやく落ち着き始めていた。
仲間に肩を叩かれ、背中を押され、声をかけられる。
「新堂、最高だったな!」
「やっぱアンカーはお前しかいねぇ!」
「最後のスパート、鳥肌立ったぞ!」
嬉しい。心から誇らしい。
でも、その中で俺が探していたのは――ただ一人だけだった。
少し離れた場所。
真白がクラスメイトに囲まれている。
涙を拭おうともしないまま、笑顔で頷いている姿が、誰よりも美しく見えた。
そして、ふいに目が合った。
彼女は驚いたように瞬きをしたあと、涙をにじませたまま小さく手を振ってくれた。
その仕草に、胸の奥で何かが熱く弾ける。
(……やっぱり、俺はこの子を守りたいんだ)
大勢の歓声に包まれていても、彼女だけしか見えなかった。
汗まみれの体も、焼けつく肺も、今はどうでもいい。
真白が笑ってくれるなら、それが俺にとって一番の勝利だった。
バトンを握る手に、まだ熱が残っている。
けれどそれ以上に、胸の奥が熱くて仕方なかった。
体育祭で勝てたのは、チームの力だ。
でも――俺に最後の力をくれたのは、真白の声だった。
あの必死な叫びがなければ、俺はここまで走り抜けられなかった。
彼女の笑顔を胸に刻みながら、ゆっくりと歩みを進める。
クラスメイトの肩に背中を押されるようにして、自然と真白の元へ。
彼女はまだ涙を浮かべていた。
その涙を見て、俺の唇は自然と緩んだ。
(真白。お前と一緒なら、これからどんな未来だって越えていける)
そう強く思いながら、俺は彼女に手を伸ばした。
◇◇◇
午後の太陽が傾きかけた校庭に、整列の合図が響いた。
赤白それぞれの組が整列し、全校生徒が注目する中で表彰式が始まる。
「第1位、赤組ーーー!」
アナウンスの声が響いた瞬間、また歓声が巻き起こった。
俺たち赤組の列は一斉に沸き立ち、旗が大きく振られる。
優勝旗を受け取る代表者の隣で、俺はただ、胸の奥がじんわりと熱くなるのを感じていた。
勝てたんだ。みんなで力を合わせて。
――そして真白と共に。
閉会の言葉が終わり、校庭は一気に解散モードへ。
生徒たちはわいわいと写真を撮り合い、SNSに上げるためにポーズを決めている。
「新堂! 一緒に撮ろうぜ!」
「お前のおかげで勝ったんだし、主役はお前だからな!」
男子たちに肩を抱かれ、スマホのシャッターが何度も切られる。
女子たちからも「蒼真、すごかったよ!」「アンカーってかっこいいね」なんて声が飛ぶ。
けど――俺が探す視線の先は決まっていた。
カメラのフラッシュの向こう側で、真白が少し恥ずかしそうに笑っている。
彼女と一緒に撮った写真こそが、俺にとっての宝物になるはずだった。
そんな中、クラスのリーダー格が声を張り上げた。
「よーし! 優勝祝いだ! 打ち上げやろうぜ!」
「賛成ー!」
「カラオケ? それともファミレス?」
「どっちも行こう!」
みんなのテンションは最高潮だ。
その流れで、当然のように俺の方へ視線が集まった。
「新堂、もちろん来るよな?」
「アンカーがいないと盛り上がんねーって!」
どう答えるか、一瞬迷った。
でもすぐに真白の顔が浮かんだ。
彼女もクラスの輪の中で笑っていて、目が合った瞬間、小さく頷いてくれた。
(ああ……一緒に過ごす時間を、大切にしよう)
「もちろん行くさ。みんなで楽しもう!」
そう答えると、周囲から歓声が上がった。
校庭の空気は、勝利の余韻に包まれている。
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