『ライフで受けてライフで殴る』これぞ私の必勝法

こまるん

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 手早く晩御飯を作って、食べる。今日はオムライスだ。
 お母さん直伝の、半熟卵で薄ーく包んだふわとろな自信作。
 よく奏も食べに来てくれるものだけど、今日は一人だけなんだよね。
 なので食事の時間はすぐに終わり、さっと片付け。
 てきぱきとお風呂洗いまで済ませちゃって、これで一通りの家事は済ませたことになる。

 こっちも終わった、という旨を奏に送れば、即座に電話がかかってきた。

「もしもし?」

『あ、もしもーし。ユキ?』

 耳に飛び込んでくる聞き慣れた声に、思わず顔が緩む。
 昼間が濃かったせいか、大して時間もたってないのに随分と久しぶりに声を聞いた気がした。

「はーい。聞こえてるよ」

『よし。 早速やけど…………インクリ、楽しめてるみたいやん?』

「うん!もしかして、配信観てくれた?」

『片手間に流してた程度やけどな。初配信、観ないわけにはいかんでしょ』

「えへへ、そっかぁー」

 忙しいって言ってたのに、配信流しててくれたんだ。
 どうしよう。にやけちゃうね。

『全てライフで受ける……だっけ?どうやったらそんな発想になるのよ』

「んー……ほら、奏って多分だけど、かなり攻撃重視に作るでしょ? それなら、私はタンクってやつになればバランスいいのかなぁって」

『はぁ……どうとでもなるから好きに作りって言ったのにアンタって人は……
 正直、考えてくれたのは凄く嬉しいけど』

「でしょでしょーー。良かったぁ」

 やっぱり、どうせなら長く楽しく遊びたいからね。
 親友との相性を考えるのは当然と言っても良いだろう。

『それにしても、どうよ?配信』

「すっっごく楽しい!!」

『そ。よかった』

「観られてるって思うとちょっと緊張するけど、それ以上にコメントを見るのが楽しいの」

『せやろー? 自分が楽しんでいる姿を共有していることで、何万人もの人が一緒に楽しんでくれる……あの感覚は、なかなか辞められないんよね』

「奏がずっと配信続けている理由を、ちょっとだけ実感できたような気がする」

『これからは、ちょくちょく一緒に配信とかもできるかもね?』

「やってみたい! 早速ログインしてみる?」

『それは構わんけど……あんた、デスペナは?』

 デスペナ……デスペナルティのこと。
 ゲーム内でうっかり死んじゃった時、即座に復活地点からリスポーンすることが出来る。その時に、一般的にはペナルティが課せられるんだ。

「あー……すっかり忘れてた」

『そんな気がしたわ……あんたらしいけど』

「インフォも見逃してたなぁ。何だっけ。確かこういうのってゲームごとに違うとか言ってたよね」

『せやね。えーと確かインクリは…………2時間の経験値所得不可と、全ステータス半減、かな』

「2時間、かぁ。んーステータス半減は無視できるような気もするけど」

 全ステータス半減ということは、HPも落ちるということ。でもまぁ、半分あれば軽く一緒に遊ぶくらいなら問題ない気がする。
 経験値が入らないのは残念だけど。

『半分でも本当になんとかなりそうなのが怖いところねぇ……けどまぁ、今日はやめとき?』

「そう?やれると思うけど」

『まだ街の中とか見てないやろ? 配信しながらそっち見てもええんちゃうかなって』

「あー……たしかに、全く見てないや」

『せっかくの綺麗な街やしね。もしかしたら、なにかイベントもあるかもしれん』

 言われてみれば、そうだ。
 ログイン早々に外に出ちゃったから、街の中は後で探索してみようってことにしていた。

「結局、ギルドで登録しただけだもんなぁ」

『せやろ。何だかんだで動ける時はフィールド探索とかにあててしまうもんやから、こういう機会にゆっくり見て回るのもええと思うで』

「たしかにー。でも、いいの? 約束してたのに」

『ええってええって。その代わり、ちゃんと配信してな? 後でちゃんと観るから』

「ん、わかった。ありがと」

『そんじゃ、今日はお互い別行動ってことで。また明日』

「起きたら連絡するね!」 

 そこで会話を打ち切って、通話を終了。
 スマートフォンを机に上に置いて、ぐいっと伸びをする。
 軽く腰を左右に何度か捻って、次は立ったまま前屈。そして今度は後ろに身体を逸らし……

「よし!じゃーやりますかぁ」

 再びスマホを手に取って、自身のチャンネルを開く。
『予定変更で、これから一人で街探索する』という旨を発信。
 ヘッドギアを被り、私は再度インクリの世界にログオンした。




 ◇◇◇◇◇◇◇◇



 Infinite creation 初期リス地点である、噴水広場。
 初日ということで数多の新規プレイヤーが舞い降りたその場所に、一人の少女がまた同じように姿を現した。

「おー……やっぱり圧巻の光景やなぁ」

 紺野奏(こんのかなで)。プロのストリーマーである彼女は、当日の夜というやや遅めの時間でありながらも新規プレイヤーの1人としてこの世界にやってきた。
 慣れた手つきでウィンドウを操作し、配信を起動する。

「はいはい皆さんおおきに。カナちゃんねるから今日もやっていきますよーー」

 人気絶頂の配信者らしく、冒頭からかなりの同時接続数となっており、かなりの速度でコメントが流れていく。

「おや、今日はいつもより初見コメントも多いやん?  新ゲーム効果やろか。初見さんおおきにー。ゆっくりしてってな」

 関西人らしく会話の節々に交じる関西弁と、本人の愛嬌が醸し出す独特の雰囲気。それは今日も健在だった。
 常連含め、多くの視聴者が彼女の配信に惹き込まれていく。

「おー!! ユキの配信から知ってくれた人もおるんか! 初日からもうそんなところまで行くなんて、流石ウチの親友やで」

 一瞬だけ流れた『親友の配信から来た』という旨のコメントを、少女は見逃さなかったようだ。
 自分のこと以上に喜び、喜色満面と言った様子になる。

「SNS上ではいくらか呟いたけど。ちょくちょく話題に出したこともある親友のユキが、今日から配信始めてるんよ。リンク貼っとくから、よかったらそっちも見たってな。おもろいでー」

「ん? 身内びいき? いやーー違う違う。ホンマにおもろいねん。その気になったら、ウチらの予想なんて二つも三つも飛び越えていくような、そんな子やから。ま、観てくれればわかるわ」

 心から楽しそうに、親友の紹介をする。
 何人かが興味を持ったことを確認して、彼女はにししと笑った。

「さーて。じゃあユキに負けとるわけにもいかんし。出遅れた分チャチャッとレベリングしていきましょうか」

 そう話した奏は、どこか優雅ささえ感じさせるほどの自然体で街の外へと歩いていく。
 βテスターでもある彼女は、もう既に初心者用の長杖を携えていた。

「最初のターゲットは兎さんや。それはな、今日の夕方には確定されてしもうた未来なんや!」

 奏が突きつけた杖から紅蓮の炎が噴射され、草原を跳び回っていたホーンラビットに襲いかかる。

 剣と大盾を構えた少女に対しては五度も突進を当てるという大健闘を示して見せた兎であったが、此度の戦闘は呆気なく終わりを告げる。

「ん……まぁ、こんなもんやな」

 一撃、必殺。
 魔力に全てを振り切った彼女の攻撃は、レベル1とはいえ正にそう言うに相応しいものであった。

「さあて。こんなモンで満足しては当然追いつかへん。どんどんいくで?」

 柔和な笑みを浮かべ、少女は突き進む。
 この日、目に付く兎を片っ端から焼き払った彼女。最後にしっかりとワイルドボアにも勝利を収めると、満足したように配信を切り上げた。


 後に『歩く厄災』『紅蓮の大魔女』『大魔王』とまで呼ばれるようになる少女の第一日は、上々の滑り出しであったと言えよう──



◆◆◆◆◆◆◆◆
 名前:カナ
 職業:魔術師
 レベル:6
 HP:80 
 MP:625

 右手 初心者の大杖
 左手 なし
 頭 バンダナ
 胴 布の服
 脚 布のズボン
 靴 革のくつ


 物理攻撃:2
 物理防御:5
 魔法攻撃:491
 魔法防御:141

 VIT:0
 STR:0
 DEF:0
 INT:125
 DEX:0
 AGI:0
 MIN:0
 所持技能:魔力上昇 火属性魔法  詠唱短縮 火属性の心得
 称号:創造神の興味


◆◆◆◆◆◆◆◆




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